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もし貧乏人が経済学を学んだら

2014年11月

メンジー・チン、「世界的な停滞を防ぐために」(消費増税とリカードの等価定理)

"Preventing a Global Slowdown"  Menzie Chinn
Econbrowser (Menzie Chinn) からの翻訳です。
(それぞれのグラフの出所、説明は、原文を見てください。)

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世界的な停滞を防ぐために
"Preventing a Global Slowdown"  Menzie Chinn


アメリカ財務省によると、ユーロ圏と日本はもっと刺激策を行う必要があるようだ。

ルー長官の最近のスピーチから

手短に言って、ヨーロッパの現状は、強い維持可能なバランスのとれた成長というG20共通の目標を達成していません。ECBは適応的な金融政策によって経済をサポートする強力な政策に踏み出しましたが、最近の経済指標が示しているように、健全な成長を回復するにはこれだけでは十分ではありません。ヨーロッパ全体が大きな不況に陥るリスクを避けるためには、国家当局による、そして他のヨーロッパの機関による、より強力な行動が必要です。世界には、ヨーロッパの失われた10年を受け入れる余裕はありません。

日本では、安倍首相の経済政策の「三本の矢」がデフレと闘うために、そして、持続的な経済成長に勢いを与えるために導入されました。最初の二本の矢――金融政策と財政政策――は、2013年の強力な成長に貢献しました。しかし、日本の成長は今年に入ってから弱まっています。財政面での懸念から経済政策の努力を緩めたためです。三本目の矢――構造改革――は、まだ完全に導入されていません。今年初め、安倍政権はコーポレートガバナンスと他の構造改革を進めました。それでも、この三本目の矢が日本経済を変化させるのに十分かどうかまだわかりません。陪審員はまだ協議中です。

日本とユーロ圏の成長の重要性は、世界のGDPに占めるそれらの国の割合を見てみればよくわかるだろう。図1は、World Economic Outlook が10月に試算したそれぞれの国の寄与度を10億ドル単位で示したものだ。(訳注1)

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ユーロ圏の苦悩はよく知られている。ヨーロッパは第三四半期に前期比0.2%の成長をなんとか達成したが、安堵の溜息が出ていることから考えると、ECBの金融政策においても、政府による財政政策においても、もっと拡大することが必要である。

対照的に、日本の発展はあまり知られていない。日本は2014年の世界のGDPにあまり寄与していないが、2013年はマイナスの寄与だったのだから、大きく増加に転じたことになる。日本がこのまま2016年までプラスの寄与を続けるためには、成長を維持し続けなければならない。そして、これが難しい課題であることは確かである。

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(アメリカは、ヨーロッパや日本より(そしてイギリスより)より拡張的な財政政策と金融政策を行ってきたが、やはり、それらの国より急速に成長している。) 

日本のGDPの最近の低下は、大部分、消費税の増税によるものである。5%から8%への第一段階の増税が今年4月に行われた。8%から10%への第二段階の増税は、延期されるようである(こちらの記事クルーグマンは延期の妥当性について述べている(景気回復が弱いときに、増税すること、あるいは/かつ、財政支出を減らすことは、逆効果になるからである)。安倍にとって重要なアドバイザーである浜田宏一の立場は、次のFT(financial times)の記事に述べられている。

浜田宏一(前イエール大学教授)は、アベノミクスとして知られる安倍氏の成長加速政策の中心的人物の一人である。浜田氏は、経済成長の強い回復がないので、増税を2017年まで延期するように強調した。

安倍氏は、税制についてさまざまな意見をもっていると思われる合計45人の専門家から意見を聞く有識者会議を2週間にわたって開く予定である。

多くの専門家は、景気回復を遅らせるリスクがあっても、増税を行うべきだと考えている。火曜日にそのような考えを主張した専門家として、連合の会長の古賀伸明がいる。彼は、「消費税は予定通り10%に引き上げるべきだ」と会議で語った。「社会福祉を維持する負担は、納税者全員で負担すべきだ。」

このような議論は、国の財政を健全化するための増税は、経済が弱いときではなく、プラスのGDPギャップがあるときに行うべきだ、という政策的議論だけではなく、現実の世界にどのようなマクロモデルを適用するのか、という議論とも関係がある。サイモン・レン=ルイスは、1年ほど前に、日本の消費増税についてどのように考えるべきか、という問題について書いている。

日本の安倍晋三首相は、2014年4月に消費税を5%から8%へ、さらにその後、10%へ増税することを決定した。これは非常に高いレベルの日本政府の債務(純債務で見ても、租債務で見ても先進国で一番高い)を減らすことになるのだろうか? それとも、それは回復を遅らせることになるだろうか? 多くの点で、答えは、あなたが新しい(state of the art)マクロモデルを好むか、古い(antique)マクロモデルを好むかで変わってくる。

最初に古いマクロを考えよう。消費税の増税は、日本人の消費者から実質的な購買力を奪う。これは明らかな財政緊縮、しかも大規模なものだ。回復の最初のサインが見え始めた時に、最もやってはいけないことだ。確かに、理論的には、この財政緊縮は金融緩和によって相殺できる。しかし、金融緩和を、これほどの大きさの財政緊縮を相殺するのに十分なほど大きくできるだろうか?古いマクロの人の中には、財政政策と比較して金融政策は、どんな状況であれ、あまり信用できない、と考える人がいる。しかし、流動性のわなの状態になると、金融政策の効果が疑わしくなるのは確実だ。中央銀行がインフレを上げることで実質金利を下げるのに成功したとしても、それは増税というより高いインフレがもたらした実質所得の減少を上回るほど強力なものになるだろうか?

では、どうして新しいマクロは消費税増税の影響に関してそれほど悲観的でないのだろうか? ひとつの理由としては、彼らは金融政策の力に関して楽観的になれるからだ。特に開放経済ではそうである。中央銀行が回復のためにあらゆることを試みるなら、インフレが2%以上に上がると期待できるだろう。しかし、増税の影響に関する、新しいマクロと古いマクロとの違いには、より重要なポイントがある。新しいマクロは、さらに二つのことを議論のそ上に乗せる。

最初のものは、リカードの等価定理である。消費税の増税が前もってある時間の間、計画されていたなら、消費者はすでにその影響を将来の消費計画に組み込んでいるはずだ。たとえ増税が延期されるかもしれないと思ったとしても、将来のある時点で増税が行われる、とわかるはずだ。だからリカードの等価定理に従えば、首相がはっきりと、増税は延期せず、予定通り早く行われると確約したほうが、消費支出への影響は微小なものになるだろう。

2番目のものは、これについては最近論じたが、消費増税がもたらすインセンティブの効果である。金融政策が消費増税によるインフレへの影響を打ち消さないなら、消費者は増税が始まるという予想のため、消費を前倒しするということである。これは実際、金融政策を疑似した財政政策になる。つまり、表現を変えれば、量的緩和をとおしての金融緩和の効果が疑わしいとしても、増税がそのような金融政策と同じことをするのである。[訳注 金融政策によってインフレ期待が高まれば、消費を前倒しにする。消費増税はそれと同じことをする]

この議論に関するよく言われる見方は、新しいマクロがかなり合理的な期待に重点を置いている、というものだ。しかし、あなたがこの考えに賛成するとしても、あまり強調されていない、もうひとつの重要な条件がある。消費者は、財政赤字の削減が政府の支出削減ではなくて、増税によって行われる、とあらかじめ知っていないかもしれない。もし消費者が、財政赤字は政府の支出削減によって行われると期待しているなら、彼らは増税によって実質所得が低下することを期待していないだろう。そうなると、そのような消費者にとって、首相の増税の知らせは予期せぬことであり、結果として、あわてて消費を減らすことになるだろう。

では、実際、消費増税後の日本の消費はどうなったのだろうか?

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消費増税が実施されるまで、消費の増加率がプラスだったことに注目しよう。このような消費の変化が起こった時点から考えれば、リカードの等価定理は日本には完全には当てはまらない、と思われる([レン=ルイスの2番目の条件の場合] レン=ルイスが指摘してるように、消費者が政府支出削減を期待していて、消費増税を期待していなかった場合でも、安倍が消費増税を告知した時点で、消費が低下するはずだ [したがって、リカードの等価定理は当てはまらないことになる])。

だから、僕は「古いマクロ」のグループに属することになるようだ。(ただし、消費税増税前に消費が突出[駆け込み需要]していることは、将来の増税を期待して、消費を前倒しした、という仮定と整合的だ。だから僕は、期待が重要であるとも考えている。)

期待については、また無限に生きるのではない消費主体のモデルについては、この記事も参照してほしい。

訳注1) 2013年の日本のGDPの寄与度が大きくマイナスになっているのは、このグラフがドル換算であり、2013年に円安が進行したためだと思われます。

日本のGDP低下を喜ぶ人々

クルーグマンの11月17日のブログに対する読者 (Doug Rife さん) のコメントの翻訳です。

日本のGDPが低下したというニュースは、ケインズ的経済政策はうまくいかない、と主張する人々によって狂喜とともに歓迎されている。実際、今朝のブルームバーグTVのマット・ミラーがはっきりとこういう気持ちを表明していた。しかし、消費税はアベノミクスの一部じゃない。消費税が需要を押し下げると予想されるのは、それが消費に対する税金だからであって、それが所得に対する税金だからじゃない[訳注1]。それに、日本の消費税は、財政赤字をやかましく叫ぶ人々をなだめるために導入されたものだ。

ケインズに反対する人は、消費税を愛し、所得税を嫌う。彼らは、消費に課税することは成長を促し、所得に課税することは、雇用をつくりだす人々が仕事をつくりだすのを妨げてしまう、と主張する。彼らは、高額所得者の所得税を減税するために、アメリカでも消費税が導入されるのを望んでいる。しかし、完全雇用を達成しようとしても需要が低すぎることが問題になる現在の長期停滞 (secular stagnation) の時代には、これは非常にまちがった考えだ。

もし、日本が法人税の最高税率を上げるか[訳注2]、あるいは高額所得者の所得税率を上げて、景気後退を引き起こしたのなら、ケインズモデルを疑ってみるのもいいだろう。しかし、日本で起きたことはこういうことじゃない。日本で起きたことが示しているのは、緊縮財政の大きなマイナスの影響が、多くのケインジアンが想定したよりもはるかに大きかったということだ。

訳注1) 正確な表現ではないです。消費税も所得に課税しているので、ある種の「所得税」ですが、筆者が言いたいことは、日本が「所得税」――とくに高額所得者の所得税――を増税して、景気後退を引き起こしたわけではない。だから、これを所得税増税反対の根拠にすることはできない、ということでしょう。

訳注2) 日本の法人税率は一定。

日本にもGDP低下を喜ぶ人がいます。アベノミクスを止めさせたい人にとって、今回のGDP低下は、アベノミクスの失敗として印象づけることができるからです。(でもGDP低下の一番の原因は消費税増税)

クルーグマン、「緊縮政策をすれば経済が緊縮する」(日本の例からわかったでしょ?)

クルーグマンの11月17日のブログ(部分訳)。

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緊縮政策をすれば緊縮になる "Contractionary Policies are Contractionary"

日本から
悲惨な数字が届いている。ただし、数値の低下を悪く受け取りすぎているように思うけど――これに関して僕はより詳細なデータを知らないが、他の指標はそれほど悪くないようだ。しかし、まったく先を見ず何も考えずに行われた今年春の消費増税が、まだ大きなダメージを与えている、ということは疑問の余地がない。

安倍が消費増税第2ラウンドをするつもりがないのは濃厚なようだ。これはいいニュースだ。

つまり、緊縮政策をすれば、経済が緊縮するのは当たり前なんだ。僕はそのように言うことができたし、実際、何度も何度も口を酸っぱくして言ってきた。でも、ある人々には、そのメッセージがまったく理解できないんだな。ドイツでは・・・

[中略]

しかし、ヴォルフガング・ムンシャウ (Wolfgang Munchau) が今日のすばらしいコラムで言っているように、

ドイツの経済学者は、おおまかに二つのグループに分かれる。ケインズを読んだことがないグループと、ケインズを理解できないグループである。

僕もドイツにいたらこんなふうに書くだろうね。とはいえ、彼らが理解していないのは、ケインズではなくて、需要不足は大きな問題だ、ということなんだけど。ムンシャウは僕が知らなかったことを教えてくれた。ルードヴィヒ・エアハルト (Ludwig Erhard) は、かつて、大恐慌は企業カルテルのために起きたと説明したそうだ。ドイツの経済学者の頭の中には、ミクロ経済的ゆがみしかなく、マクロ経済的問題は、ヨーロッパの2番目の大恐慌の真っただ中にいるのに、存在していないんだ。(訳注


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(訳注)
日本でも同様です。しかし、「知らない」のではなくて、「ないことにしている」といったほうがいいでしょう。

明らかに 消費増税が原因なのに 「他の原因」にすりかえることが横行しています。

・アベノミクスの失敗だ
・異次元金融緩和のためにこうなった
・構造改革が進んでいないからだ、成長戦略が足りないからだ (この例が上のドイツの例に近い。ただし、私は、日本にはもっと規制緩和が必要だ(特に大企業を守るような規制の!)、と思っていますが)

日産リーフ好調――にもかかわらずEVバッシングを続けるマスコミ

前に書いた記事の続編です。)

 以前、アメリカのEV市場(EVとプラグインハイブリッド)で日産リーフがずっと販売台数1位を維持していることを伝えましたが、10月現在でもまだ続いています。以下はアメリカでの今年の販売台数(10月まで)の累計(テスラは統計に入っていません。アメリカでの販売台数を発表していないようです)。

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アメリカ、EV販売台数
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 リーフの販売台数は、すでに昨年の販売台数(22,061 台)を超えています。月ごとの推移は以下のとおりです。

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(上記のevobsessionの記事から)




 7月にGoGoEV が、アメリカではリーフとプリウス・プラグインハイブリッドが売れている、と伝えていましたが、現在、プリウスPHEVは販売台数を大きく落としています(プリウスだけでなく、軒並みPHEVは販売台数を落としています)。
 その理由として、GoGoEVは、新しいもの好きのアメリカ人が、ハイブリッドの延長であるプラグインハイブリッドよりも、「より新しい」自動車である電気自動車を選ぶようになったのではないか、と推測しています。的確な指摘だと思います。

 いっぽう、ヨーロッパでは(今年9月までの累計)。

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ヨーロッパ、EV販売台数
evobsessionの記事から)


 ヨーロッパでは、三菱アウトランダー(プラグインハイブリッド)が好調です(プリウスPHEVの寂しいこと・・・)

 しかし、日本のマスコミはEV叩きに必死です。ライブドアの11月16日のトップページ。
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(アンダーラインは筆者)

 
[「電気自動車がダメな訳」といってますが、一番大きなメリットを無視しています。電気自動車になれば、ガソリン電気スタンドに行く必要がなくなります。自宅で充電できます(そのためには充電器を備える必要がありますが、部品代3500円+工事手数料でできるらしい)。従来機種の三倍バッテリーが持つが、特別な電気スタンドまで行って充電しなければ使うことができないノートパソコンや携帯電話を使う気になりますか? もうひとつの重要なメリットは、上の「新しいもの好きのアメリカ人」のところに現れていますが、「新しいもの」はなんかわくわくさせる、ということでしょう。]

 このような報道が出てくる理由は、前の記事に書きました。
 今後、「アウトランダー世界で好調」という報道はされるでしょうが、リーフ好調という報道はされないでしょう。

 「新しいもの」を支援していけば、消費者に新たな喜びを与えることになりますし、成長にもつながると思われるのですが、日本では、「古い考えの企業」に合わせようとするため、むしろ、そういう「新しいもの」をつぶそうとする力が働くようです。

 電気自動車は「創造的破壊」(日本語版ウィキペディアよりも英語版のほうが詳しいです)になる可能性があります。しかし、日本ではダメでしょう。新たな企業にチャンスが出てくるのですが、政府や経産省は、「新たな企業」(イノベーター)ではなく、「既存企業」の電気自動車事業を支援するでしょう。社会も既存企業を応援するでしょう(日本では新人よりも、名前を知られている人があらゆる分野で有利です)。イノベーションを後押しするのではなく、イノベーションを抑え込む土壌が日本にはあるわけです。


マンキュー VS 日本人

マンキューの11月12日のブログから

(マンキューのブログには、以下の図しか掲載されていません。マンキューの意図はこの図から明らかですが、念のため、マンキューの主張を掲載しました。以下のマンキューの「せりふ」は、大川隆法氏がマンキューの霊と交信し、聞き取ったものです。)

Tax chart









(クリックすると拡大します)




マンキュー: アメリカは他のOECD諸国に比べて、所得税(一番左)の割合が特に高い。また、資産課税(右から3番目)の割合もかなり高く、法人税(右から2番目)の割合も高い。これでは生産性が高い富裕層や企業を高い税金で痛めつけることになってしまい、彼らのインセンティブ、次いでは経済への貢献を押さえつけることになってしまう。
 他のヨーロッパ諸国のように、消費税の割合を多くすれば、そのような富裕層や企業の負担を減らすことができるだろう。

日本人: アメリカは、新自由主義でリバータリアズムの国だ。小さな政府の国で、社会福祉が充実していない。そのアメリカでは、所得税や資産課税の割合が高く、消費税の割合が低い。だから消費税が社会福祉に向いているんだ。

(日本人=「~主義」という分類が得意で(特に人文科学系)、そういうグループ分けしただけで何か分析できたと思い込んでしまう。それでまちがったことを結び付けていても、それに気づかない前向き[ポジティブ]な性格をもっている。)


プロフィール

沢ひかる

貧乏人。

経済学「部」とは無縁です。

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