M B K 48

もし貧乏人が経済学を学んだら

2015年10月

ギボンズ(Gibbons) 『ゲーム理論』、練習問題 2.14

 練習問題2.13の結果を使います。2.13の解答は、sugiさんが用意してくださっています(他の問題の解答もあります。助かります)。
http://blog.livedoor.jp/sugi5_4/archives/36901819.html

(1)
 需要は $q=a-p$ です。1企業だけが存在し、独占的に生産すると、利潤は $pq-cq$ です。

$pq-cq=(p-c)q$
$=(p-c)(a-p)$
$=-p^{2}+(a+c)p-ac$   (1)

 この利潤を最大にする価格は

$p=\displaystyle \frac{a+c}{2}$  (2)

 です。この価格をつけたときの利潤は、$\displaystyle \frac{(a-c)^{2}}{4}$ です。2企業が協調してこの独占的価格をつける場合は、この利潤を二分するので、1つの企業の利潤はその1/2、つまり、

$\displaystyle \frac{(a-c)^{2}}{8}$   (3)

 となります。

 この問題では、需要関数の切片 $a$ が需要が高いとき ($a_{i}=a_{H}$) と需要が低いとき ($a_{i}=a_{L}$) で変化するので、それぞれの場合の価格は、需要が高いときの価格を $p_{H}$,需要が低いときの価格を $p_{L}$ とすれば、

$p_{H}=\displaystyle \frac{a_{H}+c}{2}, \hspace{5pt}p_{L}=\frac{a_{L}+c}{2}$   (4)

 となります ( (2)式の $a$ をそれぞれ $a_{H}$,$a_{L}$ に変えればいい)。そして、お互いに協調し、独占価格をつけた場合の利潤は、需要が高いときの利潤を $\pi_{m}^{H}$,需要が低いときの利潤を $\pi_{m}^{L}$ とすれば、

$\displaystyle \pi_{m}^{ H}=\frac{(a_{H}-c)^{2}}{8}, \hspace{5pt}\pi_{m}^{ L}=\frac{(a_{L}-c)^{2}}{8}$   (5)

 となります ( (3)式の $a$ をそれぞれ $a_{H}$,$a_{L}$ に変えればいい)。

 この協調から逸脱し、わずかに価格を下げれば、需要をすべて奪うことができます。その場合の利潤は2倍になります (厳密には2倍よりわずかに少ないですが、以下の問題の条件を求めるには、2倍として問題ありません)。したがって、逸脱した場合の利潤は、(5)式の2倍になり、需要が高かった場合を $\pi_{d}^{L}$,需要が低かった場合を $\pi_{d}^{L}$ とすれば (添え字の $d$ は逸脱を表します)、

$\displaystyle \pi_{d}^{ H}=\frac{(a_{H}-c)^{2}}{4}, \hspace{5pt}\pi_{d}^{ L}=\frac{(a_{L}-c)^{2}}{4}$   (6)

 となります。逸脱が起こった後の期間は、両企業がベルトランの複占モデルでのナッシュ均衡となる価格、$p=c$ をつけるので、利潤は0になります。

 そこで、この切り替え戦略がサブゲーム完全なナッシュ均衡になるための条件 (逸脱が行われないための条件)を求めると、需要が高い場合 ($i=H$) では、

$\displaystyle \pi_{m}^{ H}+\sum_{t=1}^{\infty}\delta^{t}[\pi\cdot\pi_{m}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]\geq\pi_{d}^{ H}$   (7)

 となります ($\pi$ は需要が高い状態が発生する確率です)。ここで、左辺は協調を続けた場合の利潤の流列、第1項は今期の利潤 (今期は需要が高い状態、$i=H$)、第2項は協調を続けた場合の来期以降の期待利潤の流列です。右辺は逸脱した場合の利潤の流列です。逸脱した場合、来期からは利潤がゼロになるので、今期の利潤だけになります。

$\displaystyle \sum_{t=1}^{\infty}\delta^{t}=\frac{\delta}{1-\delta}$

 なので、これを代入すれば、

$\displaystyle \pi_{m}^{ H}+\frac{\delta}{1-\delta}[\pi\cdot\pi_{m}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]\geq\pi_{d}^{ H}$   (8)

 となります。逸脱した場合は、協調して独占価格をつけていた場合の2倍の利潤を得ることができます。つまり、$\pi_{d}^{ H}=2\pi_{m}^{ H}$ です。(8)式の右辺を $2\pi_{m}^{ H}$ に変えれば、

$\displaystyle \pi_{m}^{ H}+\frac{\delta}{1-\delta}[\pi\cdot\pi_{m}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]\geq 2\pi_{m}^{ H}$   (9)  

 (9)式を整理すれば、

$\displaystyle \pi_{m}^{ H}\leq\frac{\delta}{1-\delta}[\pi\cdot\pi_{m}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]$   (10)

 となります。ここで、右辺は、来期以降の期待利潤の流列です。これを

$\displaystyle \pi^{e}=\frac{\delta}{1-\delta}[\pi\cdot\pi_{m}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]$

 と表せば、(10)式の、逸脱が行われず切り替え戦略が成立する(サブゲーム完全なナッシュ均衡になる)ための条件は、

$\pi_{m}^{ H}\leq\pi^{e}$   (11)

 と表せます。右辺の $\pi^{e}$ は、需要の状態にかかわらず ($i=H$ か $i=L$ にかかわらず) 一定の値になります。そのため、需要が低かった場合 ($i=L$) の切り替え戦略が成立するための条件は、

$\pi_{m}^{ L}\leq\pi^{e}$   (12)

 となります(左辺が変わるだけ)。ここで、$a_{L}<a_{H}$ であり、(4)式から、$\pi_{m}^{ L}<\pi_{m}^{ H}$ です。したがって、(11)式と(12)式を比較すれば (右辺は同じ)、需要が高い場合 ($i=H$,(11)式) のほうが、切り替え戦略が成立する条件が厳しいとわかります。つまり、需要が高い場合に ( (11)式で) 成立していれば、需要が低い場合でも ( (12)式でも) 成立します (注1)。切り替え戦略を使える最小の $\delta^*$ を求めるには、需要が高い場合、(11)式だけで考えればいいことになります。
 そこで、(10)式 (これは需要が高い場合の条件) に戻り、(10)式を変形すれば、

$[1-\delta(1+\pi)]\pi_{m}^{ H}\leq\delta(1-\pi)\pi_{m}^{ L}$

 $\delta$ の条件を表す式に変形すれば、

$\displaystyle \delta\geq\frac{\pi_{m}^{ H}}{(1+\pi)\pi_{m}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}}$

 (5)式の $\pi_{m}^{H}$,$\pi_{m}^{L}$ を代入すれば、

$\displaystyle \delta\geq\frac{(a_{H}-c)^{2}}{(1+\pi)(a_{H}-c)^{2}+(1-\pi)(a_{L}-c)^{2}}$   (13)

 となります。これが、切り替え戦略が成立するための $\delta$ の条件です。「企業が独占価格を維持するために切り替え戦略を使える最小の $\delta^*$ 」は(13)式を満たす最小の値なので、

$\displaystyle \delta^{*}=\frac{(a_{H}-c)^{2}}{(1+\pi)(a_{H}-c)^{2}+(1-\pi)(a_{L}-c)^{2}}$   (14)

 です。ちなみに、

$\displaystyle \delta^{*}>\frac{1}{2}$   (15)

 です。


(2)
 $\displaystyle \frac{1}{2}<\delta<\delta^{*}$ の場合には、上記の結果から、(4)式の「独占価格」をつける切り替え戦略は成立しません。しかし、(4)式の独占価格よりも低い価格をつけることで、逸脱した企業の利潤を下げることができます。逸脱した企業は、協調している企業の独占価格よりもわずかに低い価格をつけることで需要をすべて奪い、「協調した場合の2倍」の利潤を得るので、協調しているときの独占価格を下げ、利潤を下げておけば、逸脱した企業の利潤もそれに応じて下がるからです(もうひとつのベルトラン・モデルのポイントは、逸脱する企業は他の企業より「低い価格」をつけることで需要を奪うことです)。したがって、2企業が協調するときに、(4)式の独占価格(協調して利潤最大化する価格)ではなくて、それより低い価格をつけることで、$\frac{1}{2}<\delta<\delta^{*}$ の場合にも、切り替え戦略を成立させることができるかもしれません。

 そこで、以下、協調する2企業が $p^{*}$ の価格をつけた場合に、切り替え戦略が成立するか、成立する場合には、その $p^{*}$ の値がどうなるかを調べます (問題文にあるように、価格 $p^{*}$ をつけるのは需要が高い場合です。需要が低い場合は、(4)式の需要が低いときの独占価格 $p_{L}$ をつけます)。

 (1)式から、1企業だけが存在し、価格 $p$ をつけた場合の利潤は、

$pq-cq=(p-c)q=(p-c)(a-p)$

 です。2企業がこの利潤を分け合うので、2企業が協調し、需要が高い場合に $p^{*}$ をつけた場合の利潤を $\pi_{c}^{ H}$ とすれば、

$\displaystyle \pi_{c}^{ H}=\frac{1}{2}(p^{*}-c)(a_{H}-p^{*})$   (16)

 となります。需要が低い場合は、(4)式の $p_{L}$ をつけるので、そのときの利潤は、(5)式の

$\displaystyle \pi_{m}^{ L}=\frac{(a_{L}-c)^{2}}{8}$   (5)

 です。

 逸脱した場合は、協調する場合の2倍の利潤を得ることができます。逸脱した場合の利潤(需要が高い場合)を $\pi_{d}^{ H}$ とすると、$\pi_{d}^{ H}=2\pi_{c}^{ H}$ です。

 そこで、需要が高い場合に $p^{*}$ をつける切り替え戦略が成立する条件を求めると、

$\displaystyle \pi_{c}^{ H}+\frac{\delta}{1-\delta}[\pi\cdot\pi_{c}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]\geq\pi_{d}^{ H}$   (17)

 となります。$\pi_{d}^{ H}=2\pi_{c}^{ H}$ を代入し整理すれば、

$\displaystyle \pi_{c}^{ H}\leq\frac{\delta}{1-\delta}[\pi\cdot\pi_{c}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]$

 となります。これは、(10)式の $\pi_{m}^{ H}$ が $\pi_{c}^{ H}$ に変わっただけです。整理すれば、

$[1-\delta(1+\pi)]\pi_{c}^{ H}\leq\delta(1-\pi)\pi_{m}^{ L}$   (18)

 となります。ここで、$1-\delta(1+\pi)<0$ ならば、(18)式は常に成り立ちます (右辺はプラス)。反対に、 $1-\delta(1+\pi)>0$ になるのは、$\displaystyle \delta<\frac{1}{1+\pi}$ となるときです。$\displaystyle \frac{1}{1+\pi}$ と $\delta^{*}$ を比較すると、

$\displaystyle \frac{1}{1+\pi}-\delta^{*}=\frac{(1-\pi)(a_{L}-c)^{2}}{(1+\pi)[(1+\pi)(a_{H}-c)^{2}+(1-\pi)(a_{L}-c)^{2}}>0$

 なので、$\displaystyle \delta^{*}<\frac{1}{1+\pi}$ です。したがって、今問題にしている $\displaystyle \frac{1}{2}<\delta<\delta^{*}$ の範囲では、$1-\delta(1+\pi)>0$ となります。そこで、(18)式に戻り、(18)式を変形すると、

$\displaystyle \pi_{c}^{ H}\leq\frac{\delta(1-\pi)}{[1-\delta(1+\pi)]}\pi_{m}^{ L}$

 (16)式から、$\displaystyle \pi_{c}^{ H}=\frac{1}{2}(p^{*}-c)(a_{H}-p^{*})$ なので、左辺に代入すれば、

$\displaystyle \frac{1}{2}(p^{*}-c)(a_{H}-p^{*})\leq\frac{\delta(1-\pi)}{[1-\delta(1+\pi)]}\pi_{m}^{ L}$   (19)

 となります。右辺は、$p^{*}$ の値にかかわらず、一定の値です。これを $\pi_{s}$ と表せば、(19)式は、

$\displaystyle \frac{1}{2}(p^{*}-c)(a_{H}-p^{*})\leq\pi_{s}$   (20)

 と表わすことができます。左辺は $\pi_{c}^{ H}$ なので、

$\pi_{c}^{ H}\leq\pi_{s}$   (21)

 と表しても同じです。これが切り替え戦略が成立する条件です。これを図に表したものが次の図1です。

14_1








   図1





 (20)式から、 $\pi_{c}^{ H}$ ( (20)式の左辺)は、価格を横軸にとると、上に凸の2次関数です。(20)式、(21)式は、切り替え戦略が成立するためには、この $\pi_{c}^{ H}$ が、$\pi_{s}$ より低くならなければいけないことを示しています。そうなるのは、$\pi_{c}^{ H}$ がA点からB点になる範囲と、C点からD点になる範囲です。

 しかし、協調する企業が、C点からD点の範囲の価格を選んだ場合、逸脱する企業は、B点からC点の価格を選ぶことで、協調した場合の利潤 (C点からD点) の2倍より大きな利潤を得ることができます。逸脱した場合の利潤と協調した場合の利潤の差が大きくなるので、切り替え戦略は成立しません。

 したがって、協調する企業は、A点からB点の範囲の価格を選びます。その場合、逸脱する企業は、その価格より下げなければ、需要を奪うことができないので、逸脱したとしても、B点より低い価格を選ばざるをえません。その分利潤も低くなり、(20)式、(21)式の切り替え戦略が成立する条件が満たされることになります。

 したがって、「サブゲーム完全なナッシュ均衡で、企業が切り替え戦略を使って需要の大きときには $p(\delta)$ を、需要が少ないときには価格 $p_{L}$ を付けることができるような最高の $p(\delta)$」は、B点の価格になります。

 (20)式の不等式を解き、小さい方の解を求めると、

$p^{*}=p(\delta)=\displaystyle \frac{a_{H}+c-\sqrt{(a_{H}+c)^{2}-4(a_{H}c+2\pi_{s})}}{2}$

 となります。$\pi_{s}$ は(19)式の右辺なので、それを代入し、整理すれば、

$p(\delta)=\displaystyle \frac{a_{H}+c-\sqrt{(a_{H}-c)^{2}-\frac{\delta(1-\pi)}{1-\delta(1+\pi)}(a_{L}-c)^{2}}}{2}$

 となります。


注1) また、需要が高いときのほうが、逸脱するインセンティブが高まる、ということも言えます (このモデルが示す重要な結果)
 

ギボンズ(Gibbons) 『ゲーム理論』、練習問題 2.8

 このモデルでは、75ページからのモデルに、労働者のライバルの労働者に対する妨害活動が加わります($s_{i}$, $s_{j}$が妨害活動)。(ただし、計算は75ページからとだいたい同じです。)

$y_{i}=e_{i}-\displaystyle \frac{1}{2}s_{j}+\varepsilon_{i}$   (1)
$y_{j}=e_{j}-\displaystyle \frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}$   (2)

 
 労働者は、努力と妨害活動の不効用を引いた期待賃金を最大化します。

$max_{e_{i},s_{i}}\hspace{5pt}(W_{H}-W_{L})Pr\{y_{i}\geq y_{j}\}+W_{L}-g(e_{i})-g(s_{i})$
 
 これは次のように書き換えることができます。

$max_{e_{i},s_{i}}\hspace{5pt}(W_{H}-W_{L})Pr\{y_{i}\geq y_{j}\}+W_{L}-g(e_{i})-g(s_{i})$

 $e_{i}$, $s_{i}$ で微分し、1階の条件を求めると、

$(W_{H}-W_{L})\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial e_{i}}=g^{\prime}(e_{i})$   (3)

$(W_{H}-W_{L})\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial s_{i}}=g^{\prime}(s_{i})$   (4)

 となります。


 まず$P_{r}\displaystyle \{y_{i}>y_{j}\}$を計算します(これは76ページと同じです)。

$P_{r}\displaystyle \{y_{i}>y_{j}\}=Pr\{e_{i}-\frac{1}{2}s_{j}^{*}+\varepsilon_{i}>e_{j}^{*}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}\}$

$=Pr\displaystyle \{\varepsilon_{i}>e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}\}$

$=\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}Pr\{\varepsilon_{i}>e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}\hspace{3pt}|\hspace{3pt}\varepsilon_{j}\}\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$

$=\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}[1-Pr\{\varepsilon_{i}\leq e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}\hspace{3pt}|\hspace{3pt}\varepsilon_{j}\}]\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$


$=\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}[1-F(e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j})]\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$

 したがって、$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial e_{i}}$, $\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial s_{i}}$ はそれぞれ、

$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial e_{i}}=\int_{\varepsilon_{j}}f(e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j})\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$

$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial s_{i}}=\frac{1}{2}\int_{\varepsilon_{j}}f(e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j})\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$

 と計算できます。対称的なナッシュ均衡では、$e_{i}=e_{j}=e^{*}$, $s_{i}=s_{j}=s^{*}$  となるので、

$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial e_{i}}=\int_{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}$

$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial s_{i}}=\frac{1}{2}\int_
{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}$

 となります。これを、(3)式、(4)式の1階の条件に代入すれば、

$(W_{H}-W_{L})\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}=g^{\prime}(e^{*})$   (5)

$\displaystyle \frac{W_{H}-W_{L}}{2}\int_{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}=g^{\prime}(s^{*})$   (6)

 となります。これは、労働者がこの(5)式と(6)式にしたがって、努力水準と妨害活動を調節することを表しています。

  ここで、労働者は、この契約が

$\displaystyle \frac{1}{2}W_{H}+\frac{1}{2}W_{L}-g(e^{*})-g(s^{*})\geq U_{a}$

 の条件を満たせば参加します。このような問題の場合、参加制約は等号制約で成立するので、

$\displaystyle \frac{1}{2}W_{H}+\frac{1}{2}W_{L}-g(e^{*})-g(s^{*})=U_{a}$   (7)

 です。

 一方、上司(企業)の目的は、2つのタイプの労働者の生産量の合計((1)式+(2)式)から賃金を引いた利得を最大化することです。

$\max_{W_{L},W_{H} }\hspace{5pt}2e^{*}-s^{*}-(W_{H}+W_{L})$

 (7)式を代入すれば、

$\max_{e^{*}, s^{*}}\hspace{5pt}2e^{*}-s^{*}-2g(e^{*})-2g(s^{*})-U_{a}$   (8)

 となります(上司は賃金をうまく選んで、$2e^{*}-s^{*}-2g(e^{*})-2g(s^{*})$ を最大にするように行動することになる)。

 このモデルの場合、75ページのモデルと違い、労働者のライバルになる労働者に対する妨害活動が加わります。$g^{\prime\prime}(\cdot)>0$ なので、$g^{\prime}(\cdot)$ は増加関数です。したがって、(5)式、(6)式から、$W_{H}-W_{L}$が増加すると、労働者は努力水準 $e^{*}$と妨害活動 $s^{*}$の両方を増加させます。

 そのため、上司が賃金格差$W_{H}-W_{L}$を増加させ、労働者の努力水準を上げ、生産量を増やそうとすると、労働者に妨害活動を増やすインセンティブを与えてしまいます。そして、労働者の妨害活動が増加すれば、(1)式、(2)式から、生産量は減少します。つまり、$W_{H}-W_{L}$を増加させることで、努力水準を増加させても、$W_{H}-W_{L}$の増加によって同様に増加する妨害活動によって生産量は相殺されてしまうわけです(上司はトレードオフに直面する)。

 $W_{H}-W_{L}$に対して労働者が選択する努力水準と妨害活動の水準は、(5)式、(6)式によって決まります。(5)式、(6)式から、

$g^{\prime}(e^{*})=2g^{\prime}(s^{*})$   (9)

 の関係が得られます。したがって、上司の最大化問題には、(9)式の制約条件が加わります。ラグランジュ方程式を次のように設定します。

$L=\hspace{3pt}2e^{*}-s^{*}-2g(e^{*})-2g(s^{*})-U_{a}+\lambda(2g^{\prime}(s^{*})-g^{\prime}(e^{*}))$

 1階の条件は、

$\displaystyle \frac{\partial L}{\partial e^{*}}=2-2g^{\prime}(e^{*})-\lambda g^{\prime\prime}(e^{*})=0$   (9)

$\displaystyle \frac{\partial L}{\partial s^{*}}=-1-2g^{\prime}(s^{*})+2\lambda g^{\prime\prime}(s^{*})=0$   (10)

 となります(注1)。(10)式から$\lambda$を求め、(9)式に代入すれば、

$2-2g^{\prime}(e^{*})-\displaystyle \frac{1+2g^{\prime}(s^{*})}{2g^{\prime\prime}(s^{*})}g^{\prime\prime}(e^{*})=0$

 を得ます。整理すれば、

$g^{\prime}(e^{*})=1-\displaystyle \frac{1+2g^{\prime}(s^{*})}{4g^{\prime\prime}(s^{*})}g^{\prime\prime}(e^{*})$   (11)

 となります。$g^{\prime}(\cdot)>0,\hspace{2pt}g^{\prime\prime}(\cdot)>0$ なので、(11)式の右辺の第2項は、$\displaystyle \frac{1+2g^{\prime}(s^{*})}{4g^{\prime\prime}(s^{*})}g^{\prime\prime}(e^{*})>0$ です。したがって、(11)式から、$g^{\prime}(e^{*})<1$ です。

 妨害活動がない場合は、$g^{\prime}(e^{*})=1$ になります(77ページに示されています。あるいは上記の最大化問題で $s^{*}=0$, $g(s^{*})=0$ として解けば、$g^{\prime}(e^{*})=1$ が得られます)。賃金格差と$g^{\prime}(e^{*})$ の関係は、(5)式

$(W_{H}-W_{L})\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}=g^{\prime}(e^{*})$   (5)

 で決まるので、$g^{\prime}(e^{*})=1$(妨害活動がない場合)から、$g^{\prime}(e^{*})<1$(妨害活動がある場合)になれば、$W_{H}-W_{L}$は減少します。


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注1) $f(e^{*},s^{*})=\hspace{3pt}2e^{*}-s^{*}-2g(e^{*})-2g(s^{*})-U_{a}$ とすれば、$e^{*}>0$, $s^{*}>0$ に対して、
$\displaystyle \frac{\partial^{2}f}{\partial e^{*2}}+\frac{\partial^{2}f}{\partial s^{*2}}+\frac{\partial^{2}f}{\partial e^{*}\partial s^{*}}<0$.
 (9)式、(10)式は、$e^{*}>0$, $s^{*}>0$ の$e^{*}$, $s^{*}$で成立するので、(9)式、(10)式の解が最適解です。
 

プロフィール

沢ひかる

貧乏人。

経済学「部」とは無縁です。

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