このモデルでは、75ページからのモデルに、労働者のライバルの労働者に対する妨害活動が加わります($s_{i}$, $s_{j}$が妨害活動)。(ただし、計算は75ページからとだいたい同じです。)

$y_{i}=e_{i}-\displaystyle \frac{1}{2}s_{j}+\varepsilon_{i}$   (1)
$y_{j}=e_{j}-\displaystyle \frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}$   (2)

 
 労働者は、努力と妨害活動の不効用を引いた期待賃金を最大化します。

$max_{e_{i},s_{i}}\hspace{5pt}(W_{H}-W_{L})Pr\{y_{i}\geq y_{j}\}+W_{L}-g(e_{i})-g(s_{i})$
 
 これは次のように書き換えることができます。

$max_{e_{i},s_{i}}\hspace{5pt}(W_{H}-W_{L})Pr\{y_{i}\geq y_{j}\}+W_{L}-g(e_{i})-g(s_{i})$

 $e_{i}$, $s_{i}$ で微分し、1階の条件を求めると、

$(W_{H}-W_{L})\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial e_{i}}=g^{\prime}(e_{i})$   (3)

$(W_{H}-W_{L})\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial s_{i}}=g^{\prime}(s_{i})$   (4)

 となります。


 まず$P_{r}\displaystyle \{y_{i}>y_{j}\}$を計算します(これは76ページと同じです)。

$P_{r}\displaystyle \{y_{i}>y_{j}\}=Pr\{e_{i}-\frac{1}{2}s_{j}^{*}+\varepsilon_{i}>e_{j}^{*}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}\}$

$=Pr\displaystyle \{\varepsilon_{i}>e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}\}$

$=\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}Pr\{\varepsilon_{i}>e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}\hspace{3pt}|\hspace{3pt}\varepsilon_{j}\}\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$

$=\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}[1-Pr\{\varepsilon_{i}\leq e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}\hspace{3pt}|\hspace{3pt}\varepsilon_{j}\}]\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$


$=\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}[1-F(e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j})]\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$

 したがって、$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial e_{i}}$, $\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial s_{i}}$ はそれぞれ、

$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial e_{i}}=\int_{\varepsilon_{j}}f(e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j})\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$

$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial s_{i}}=\frac{1}{2}\int_{\varepsilon_{j}}f(e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j})\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$

 と計算できます。対称的なナッシュ均衡では、$e_{i}=e_{j}=e^{*}$, $s_{i}=s_{j}=s^{*}$  となるので、

$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial e_{i}}=\int_{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}$

$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial s_{i}}=\frac{1}{2}\int_
{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}$

 となります。これを、(3)式、(4)式の1階の条件に代入すれば、

$(W_{H}-W_{L})\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}=g^{\prime}(e^{*})$   (5)

$\displaystyle \frac{W_{H}-W_{L}}{2}\int_{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}=g^{\prime}(s^{*})$   (6)

 となります。これは、労働者がこの(5)式と(6)式にしたがって、努力水準と妨害活動を調節することを表しています。

  ここで、労働者は、この契約が

$\displaystyle \frac{1}{2}W_{H}+\frac{1}{2}W_{L}-g(e^{*})-g(s^{*})\geq U_{a}$

 の条件を満たせば参加します。このような問題の場合、参加制約は等号制約で成立するので、

$\displaystyle \frac{1}{2}W_{H}+\frac{1}{2}W_{L}-g(e^{*})-g(s^{*})=U_{a}$   (7)

 です。

 一方、上司(企業)の目的は、2つのタイプの労働者の生産量の合計((1)式+(2)式)から賃金を引いた利得を最大化することです。

$\max_{W_{L},W_{H} }\hspace{5pt}2e^{*}-s^{*}-(W_{H}+W_{L})$

 (7)式を代入すれば、

$\max_{e^{*}, s^{*}}\hspace{5pt}2e^{*}-s^{*}-2g(e^{*})-2g(s^{*})-U_{a}$   (8)

 となります(上司は賃金をうまく選んで、$2e^{*}-s^{*}-2g(e^{*})-2g(s^{*})$ を最大にするように行動することになる)。

 このモデルの場合、75ページのモデルと違い、労働者のライバルになる労働者に対する妨害活動が加わります。$g^{\prime\prime}(\cdot)>0$ なので、$g^{\prime}(\cdot)$ は増加関数です。したがって、(5)式、(6)式から、$W_{H}-W_{L}$が増加すると、労働者は努力水準 $e^{*}$と妨害活動 $s^{*}$の両方を増加させます。

 そのため、上司が賃金格差$W_{H}-W_{L}$を増加させ、労働者の努力水準を上げ、生産量を増やそうとすると、労働者に妨害活動を増やすインセンティブを与えてしまいます。そして、労働者の妨害活動が増加すれば、(1)式、(2)式から、生産量は減少します。つまり、$W_{H}-W_{L}$を増加させることで、努力水準を増加させても、$W_{H}-W_{L}$の増加によって同様に増加する妨害活動によって生産量は相殺されてしまうわけです(上司はトレードオフに直面する)。

 $W_{H}-W_{L}$に対して労働者が選択する努力水準と妨害活動の水準は、(5)式、(6)式によって決まります。(5)式、(6)式から、

$g^{\prime}(e^{*})=2g^{\prime}(s^{*})$   (9)

 の関係が得られます。したがって、上司の最大化問題には、(9)式の制約条件が加わります。ラグランジュ方程式を次のように設定します。

$L=\hspace{3pt}2e^{*}-s^{*}-2g(e^{*})-2g(s^{*})-U_{a}+\lambda(2g^{\prime}(s^{*})-g^{\prime}(e^{*}))$

 1階の条件は、

$\displaystyle \frac{\partial L}{\partial e^{*}}=2-2g^{\prime}(e^{*})-\lambda g^{\prime\prime}(e^{*})=0$   (9)

$\displaystyle \frac{\partial L}{\partial s^{*}}=-1-2g^{\prime}(s^{*})+2\lambda g^{\prime\prime}(s^{*})=0$   (10)

 となります(注1)。(10)式から$\lambda$を求め、(9)式に代入すれば、

$2-2g^{\prime}(e^{*})-\displaystyle \frac{1+2g^{\prime}(s^{*})}{2g^{\prime\prime}(s^{*})}g^{\prime\prime}(e^{*})=0$

 を得ます。整理すれば、

$g^{\prime}(e^{*})=1-\displaystyle \frac{1+2g^{\prime}(s^{*})}{4g^{\prime\prime}(s^{*})}g^{\prime\prime}(e^{*})$   (11)

 となります。$g^{\prime}(\cdot)>0,\hspace{2pt}g^{\prime\prime}(\cdot)>0$ なので、(11)式の右辺の第2項は、$\displaystyle \frac{1+2g^{\prime}(s^{*})}{4g^{\prime\prime}(s^{*})}g^{\prime\prime}(e^{*})>0$ です。したがって、(11)式から、$g^{\prime}(e^{*})<1$ です。

 妨害活動がない場合は、$g^{\prime}(e^{*})=1$ になります(77ページに示されています。あるいは上記の最大化問題で $s^{*}=0$, $g(s^{*})=0$ として解けば、$g^{\prime}(e^{*})=1$ が得られます)。賃金格差と$g^{\prime}(e^{*})$ の関係は、(5)式

$(W_{H}-W_{L})\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}=g^{\prime}(e^{*})$   (5)

 で決まるので、$g^{\prime}(e^{*})=1$(妨害活動がない場合)から、$g^{\prime}(e^{*})<1$(妨害活動がある場合)になれば、$W_{H}-W_{L}$は減少します。


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注1) $f(e^{*},s^{*})=\hspace{3pt}2e^{*}-s^{*}-2g(e^{*})-2g(s^{*})-U_{a}$ とすれば、$e^{*}>0$, $s^{*}>0$ に対して、
$\displaystyle \frac{\partial^{2}f}{\partial e^{*2}}+\frac{\partial^{2}f}{\partial s^{*2}}+\frac{\partial^{2}f}{\partial e^{*}\partial s^{*}}<0$.
 (9)式、(10)式は、$e^{*}>0$, $s^{*}>0$ の$e^{*}$, $s^{*}$で成立するので、(9)式、(10)式の解が最適解です。