M B K 48

もし貧乏人が経済学を学んだら

消費税

マーシャル・I・スタインボーム、「アメリカが消費税を導入すべきでない4つの理由」

Marshall I.  Steinbaum, "The hottest tax idea in Washinton is actually terrible"
要約です。
ーーーーーーーーーー

消費税は、共和党も民主党も賛成する珍しい政策になっている。ビル・ゲイツも賛成している。彼らはみんなまちがっている。理由は主に次の4つ。

1.貯蓄をするのは金持ち
消費税が望ましいとされる理論的根拠は、貯蓄に課税するので(消費税なら、消費だけに課税されるので、貯蓄には課税されない)、倹約している人に不公平というものだ。しかし、貯蓄という道楽ができるのは、ほとんど金持だけだ。

納税しているアメリカ人の下位90%は、ネットで見て貯蓄0以下(貯蓄していても、住宅ローンなど、なんらかの債務をかかえている)。それに対して、所得上位1%の貯蓄率は37%。このような貯蓄の違いが、格差の原動力になっているのだから、貯蓄を課税から免除することになれば、金持ちに大きな減税をすることになる。だから、消費税導入は格差を広げる。

だったら、消費税に累進税率を導入すればいいじゃないか、という人がいる。ビル・ゲイツもそれに賛成している1人。これは非現実的な考えだ。そのビル・ゲイツを例にとってみよう。

ビル・ゲイツの2014年の資産は781億ドル(9.4兆円)。彼の年間所得は、その資産に対する4%のリターンだと想定してみよう。そして、消費額がわからないので、ワシントン州メダイナで資産価格1.475億ドル(177億円)の住宅(ビル・ゲイツの自宅のこと)を「毎年」買うことにする。それでも貯蓄率は96.2%になる。

ビル・ゲイツの所得税の限界税率が20%だと想定して(実際より低いが)、所得の3.7%に当たる消費に消費税で課税し、その所得税と同じ税額を得ようとすると、ビル・ゲイツの消費税率は430%(!!)でないといけない(←所得税率/3.7)。5ドルのビックマックを買うのに、26.47ドル(!!!)払わなければいないことになる

こんな高い消費税率は現実的に実施不能。だから、累進税率の消費税を採用しても、金持ちの税率を低くすれば、あるいは、累進税率を採用しなければ、消費税は、ビル・ゲイツのような金持ちに有利な税金になってしまう。

2.貯蓄を免税しても、社会全体の貯蓄は増えない
というデータがある。(こちらこちら(pdf))
そのように資本税や所得税を減税しても、結局、経済成長につながらず、政府から金持ちに所得移転することになるだけ。

3.資本蓄積は格差を広げる
消費税が経済成長にプラスの影響を与える根拠は、人々が貯蓄を増やすため、資本蓄積が進み、経済が成長し、労働者がより生産的になる(賃金も増える)、と想定されるから。しかし、ピケティの『21世紀の資本』が示しているように、資本ストックが増加すると、資本分配率(総資本所得の所得に対する割合)も増加する。そして、資本を所有している多くは金持ちなのだから、金持ちの所得が増え、格差が広がることになる。

資本が過剰になれば、追加の資本は無用になるので、資本所得は増加し続けない、と主張するなら、どうして消費税によって貯蓄を促し、資本が過剰(無用になる)になるまで資本を増やさなければいけないのか。そうではなくて、資本が不足している(現実はそうなっていないと思われるが)から、さらなる資本蓄積が必要だ、ということなら、資本所得は低下しないことになるから、格差が広がることになる。


4.経済は、実際、これ以上の貯蓄を欲していない
金融危機以後、多くの先進国の名目金利は、ゼロ付近になっている。この「ゼロ下限」と呼ばれる現象は、貯蓄が過剰であることを意味する。貯蓄が過剰で、行き場を失っている。これは、需要不足のためだ。需要のもっとも重要な構成要素は消費なのだから、消費により課税するのはまったく逆効果。


ABC 48 ―― "The ABCs of RBCs" Exercise 3.2  所得税 vs 資本税 vs 消費税



 The ABCs of RBCs の48ページに、所得税(賃金に課税されるので労働所得税)が導入されたときの定常状態の変化について、簡単なモデルを使った分析があります。演習問題3.2では資本税の場合と比較することになっています。面白そうなので計算してみました。途中の計算はどうでもよくて結果だけ見たいというかたは、それぞれのセクションABCの最後のほうを見てください。
 個人の格差を想定せず(現実との違いはこれが大きいと思います)、個人が無限に生きるモデルなので、これで現実をうまく説明できているのかどうかはわかりません。

A.労働所得税
 本書に詳しい説明があるのでここでは簡単に要点だけ書いていきます。政府は賃金に t の税率で課税し、Tの所得移転(給付金)を行います。
 目的関数は、
150204 (1)

     (1)
 

 です。予算制約式は、
150204 (2)

150204 (3)

150204 (4)

150204 (5)

 です。本書では、ラグランジュ方程式を設定し、2つの予算制約式で解いていますが、ひとつにまとめてしまっても同じです。
150204 (6)   (2)
 

 (2)式の制約で(1)式の目的関数の最大化問題を解きます。1階の条件から、
150204 (7)
   (3)


150204 (8)
   (4)


 が得られます。ここでは、すべての個人が同質であると想定しています。1人当たりの消費 c,労働量(労働時間) hを経済全体の消費 C,労働量 Hに変えても結論は変わりません。(3)式、(4)式の c,労働量(労働時間) hをそれぞれ C, Hに変えれば、
150204 (9)
   (5)


150204 (10)
   (6)


 となります。定常状態では、K= Kt+1 = K, H= Ht+1 = H, C= Ct+1 = C になります(このモデルでは技術進歩、人口増加を想定していません)。
 そこで、(5)式に K= Kt+1 = K, H= Ht+1 = H, C= Ct+1 = C を代入すれば
150204 (14)
   (7)


 となります。同様に(6)式に、K= Kt+1 = K, H= Ht+1= H, C= Ct+1 = C を代入すれば
150204 (15)   (8)
 

 となります。

 ここでは次のようなコブダグラス型の生産関数を想定しています。
150204 (16)
  
 (9)

 効用関数は対数型で、
150204 (17)   (10)
 

 です。
 (8)式の f(・) に(9)式を代入すれば、(8)式は、
150204 (18)
   (11)
 
 となります。これを変形すれば、
150204 (19)


 となります。この式から、H を K で表すと、
150204 (20)
   (12)

 となります。
150204 (21)
   (13)  

 とおけば、H = G K です。

 ところで、t+1 期の資本ストックは、
150204 (12)   (14)

 です。これに、K= Kt+1 = K, H= Ht+1 = H, C= Ct+1 = C を代入すれば
150204 (13)   (15)

 が得られます。書き換えれば、
150204 (23)

 となります。f(・) に(9)式の生産関数を代入すれば、
150204 (24)

 次に H に(12)式を代入すれば、
150204 (25)
   (16)
 

  となります。
150204 (26)
   (17)

 とおけば、C = J K です。

 次に(7)式に、(9)式の生産関数と(10)式の効用関数を代入すれば、
150204 (28)
   (18)

 最後の Kθ-θ を Kθ1-θ/H = F(K,H)/H に変えれば、
150204 (29)


 (15)式から f(K,H) = C+δK です。したがって、
150204 (30)


 これに、C = J K, H = G K を代入すれば、
150204 (31)
   (19)

 となります。K を求めれば、
150204 (32)
   (20)


 となります。ここでは、パラメーターを β=0.98,θ=0.36, A=0.5, δ=0.1 としています。K が求まれば、C = J K ,H = G K なので、C と H も求まります。税率を横軸にとり、税率の変化による K, C, H, u の変化を示すと次のようになります。
abc48w










 図1




 税率 0, 10%, 20%( t= 0, 0.1, 0.2 ) のときの K, C, H, u の値は次の通りです(これは49ページの Table3.1 と同じ)

t    0             0.1          0.2
K   3.5770     3.4417    3.2863
C   0.8387     0.8070    0.7705
H   0.6461     0.6217    0.5936
u  -0.6953   -0.7005   -0.7109


B.資本税

Exercise 3.2
政府が資本所得に課税し、その税収によって、一括所得移転を行う場合の定常状態における均衡を求めよ。課税を行わなかった場合と比較せよ。政府がこの資本課税を行い、労働所得課税と同じ税収を得る場合、両者の場合の効用を比較せよ。

 ここでやることは、fについていた (1-t) を fにつけかえるだけです。目的関数は同じです。
150204 (1)
   (1)


 予算制約式は、次のものになります(資本所得に対する税率を tとします)。 
150204 (33)   (21)

 (21)式の制約のもと、(1)式の最大化問題を解きます(途中の計算は省略します)。(7)式、(8)式が次のものにかわります。
150204 (34)
   (22)


150204 (35)   (23)

 まず、(23)式に(9)式の生産関数を代入すれば、
150204 (36)


 となります。労働所得税のときと同様に、H を K で表せば、
150204 (37)
   (24)

 となります。
150204 (38)



 とおけば、H = G’K です。
 (15)式から、
150204 (40)

 なので、H に(24)式を代入すれば、
150204 (41)
   (25)

 となります。
150204 (42)


 とおけば、C = J’K です。 
 次に、(22)式に(9)式の生産関数と(10)式の効用関数を代入すれば、
150204 (44)


 を得ます。前の労働所得税の場合と同様に、最後の Kθ-θ を変えれば、
150204 (45)
   (26)

 となります。 C に C = J’ K, H に H = G’ K を 代入し、K を求めれば、
150204 (46)
   (27)


 となります。
 この場合も、K が求まれば、C = J’ K, H = G’ K なので、C と H が求まります。税率の変化に対する K, C, H, u の変化を示せば次のようになります。

abc48r











   図2



 労働所得税の場合に比べて、資本ストックKが急激に減少することがわかります(左の図)。これは資本所得に課税しているからです。労働所得税の変化も書き込んだものが次の図です(労働所得税の場合が赤のラインです)。
abc48r2











 図3


  

 資本所得税の場合は、労働所得税と比べて、効用も低下する、ということがわかります(右の図)。これは、まず、定常状態での資本ストックが大きく低下するためです(左の図)。しかし、資本税の場合、消費 C は、労働所得税に比べて若干高くなっています(左から2番目の図)。したがって、消費から得られる効用は、労働所得税に比べて高くなることになります。いっぽう、資本税の場合、労働所得税の場合と比べて、労働時間が減少が少なくなっています(左から3番目の図)。つまり、効用の低下は、労働時間の減少が労働所得税の場合に比べて少ないから(そのために労働の不効用が高くなるから)です。

 税率 0, 10%, 20% ( t= 0, 0.1, 0.2 )のときの K, C, H, u の値は次の通りです。
 t          0             0.1         0.2
K    3.5770     2.9889    2.4501
C    0.8387     0.8119    0.7793
H    0.6461     0.6365    0.6272
u    -0.6953   -0.7144   -0.7427


 ただし、上記の演習問題で指摘されているように、資本所得は労働所得よりも少ないため、同じ税収を得ようとすると、資本税の税率のほうを高くしなければなりません。資本分配率と労働分配率を比較し、資本分配率のほうが低くなるので、その分、資本税の税率を高くすればいいことになります。資本税と労働所得税の税収が等しくなるのは、
150204 (64)

 となるときです。それぞれ限界生産物が賃金と資本からのリターンになっているとすると、
150204 (65)


 となります。この式から、tを tで表せば、
150204 (66)


 θ=0.36 なので、t=1.78 tです。そこで、労働所得税 10% と資本税 17.8% を比較すると、次のようになります。

  労働所得税        資本税
    t = 0.1     t = 0.178
K   3.4417      2.5644
C   0.8070      0.7870
H   0.6217      0.6292
u  -0.7005     -0.7356


 資本税で労働所得税と同じだけの税収を得た場合、労働所得税の場合に比べて、資本ストックが大きく減少します。効用も低下することになります。


C.消費税
 ここまでやると消費税についても同じモデルで見てみたい気になります。

 目的関数は、
150204 (1)
   (1)


 です。予算制約式は次のようになります。消費に tの税率で課税される場合、cの消費をするとき、(1+t)cの支出を行わなければなりません。したがって、これまでの予算制約式の c  を (1+t)cに変えればいいことになります。そして、政府は、tを税収として、Tの所得移転(給付金)を行います。
150205 (5)   (28)

 ラグランジュ方程式を次のように設定します。
150205 (18)


150205 (19)   (29)

 一階の条件は、次のようになります。
150205 (6)
  (30)

150205 (7)
   (31)

150205 (8)
   (32)

150205 (9)
   (33)

(30)式~(33)式から、次の条件が得られます。
150205 (10)   
   (34)

150205 (11)
   (35)



 (35)式は、前の労働所得税の場合と同じです。前の場合と同様に、定常状態を考えると、(34)式、(35)式はそれぞれ、
150205 (12)
   (36)


150204 (56)    (37)

 となります。(37)式から(これは前の労働所得税の場合と同じです)、
150204 (20)


となります。
150204 (21)
   (13)  

 とおけば、H = G K です(つまり、H は労働所得税の場合と同じです)。
 また、C も労働所得税の場合と同じになります。
150204 (23)

150204 (24)

150204 (25)
   (16)

 となります。
150204 (26)
   (17)

 とおけば、C = J K です。
 次に、(36)式に(9)式の生産関数と(10)式の効用関数を代入すれば、
150205 (13)



 を得ます。右辺を計算していくと、
150205 (14)


150205 (15)


 となります。 H = G K, C = J K を代入すれば、
150205 (16)


 となります。この式から K を求めれば、
150205 (17)
   (38)

 税率の変化に対する K, C, H, u の変化を示せば次のようになります(青のライン。赤は労働所得税の場合です)。
abc48c








図4





 消費税の場合、すべての変数において、税率を上げていった場合の減少が少ない、ということがわかります。左が資本ストック。消費も労働所得税に比べて減少が少なくなります(左から2番目。これは直感とは異なるでしょうが)。3番目の図から、税率を上げた場合の労働供給の減少も、労働所得税に比べて消費税のほうが少なくなる、ということがわかります。右の図から、消費税では、税率を上げた場合の効用の低下も労働所得税より少なくなる、ということがわかります。

 税率が10% と 20% の場合を比較すると次のようになります。
            t = 0.1                       t = 0.2
   消費税      労働所得税        消費税       労働所得税
K   3.4547  3.4417        3.3406    3.2863
C   0.8100  0.8070      
  0.7833    0.7705
H   0.6240  0.6217      
  0.6034    0.5963
u  -0.6998   -0.7005     
 -0.7067  -0.7109


 たしかに消費税のほうが歪みをもたらさず、効率的ということになりますが、上の図から、あるいは上の数値例からもわかりますが、税率が比較的低い範囲では、消費税と労働所得税に大きな差がない、とも言えます。

 このモデルは、すべての個人が同質で、格差を想定していないものです。格差を想定すると、累進税率をとれない消費税には欠陥があることになります。消費税にメリットがあるとして、その欠陥を補うことができるほどのものかどうか、ということが問題になると思われます。


Maxima で計算する場合のプログラム

G:((1/theta)*(1/beta+delta-1))^(1/(1-theta));
J:1/theta*(1/beta+delta-1)-delta;
GG:((1/beta+delta-1)/(theta*(1-t)))^(1/(1-theta));
JJ:1/(theta*(1-t))*(1/beta+delta-1)-delta;

kw(t):=(1-t)*(1-theta)*(delta+J)/(G*(A*J+(1-theta)*(1-t)*(delta+J)));
kk(t):=(1-theta)*(delta+JJ)/(GG*(A*JJ+(1-theta)*(delta+JJ)));
kc(t):=(1-theta)*(delta+J)/(G*((1+t)*A*J+(1-theta)*(delta+J)));

cw(t):=J*kw(t);
ck(t):=JJ*kk(t);
cc(t):=J*kc(t);

hw(t):=G*kw(t);
hk(t):=GG*kk(t);
hc(t):=G*kc(t);

uw(t):=log(cw(t))+A*log(1-hw(t));
uk(t):=log(ck(t))+A*log(1-hk(t));
uc(t):=log(cc(t))+A*log(1-hc(t));

[beta:0.98,theta:0.36,delta:0.1,A:0.5];

plot2d([kw(t),kk(t), kc(t)],[t,0,1],[y,0,5],[legend, "wage tax", "capital tax","consumption tax"],[xlabel, "t"],[ylabel, "K"]);

plot2d([cw(t),ck(t),cc(t)],[t,0,1],[y,0,1],[legend, "wage tax", "capital tax", "consumption tax"],[xlabel, "t"],[ylabel, "C"]);

plot2d([hw(t),hk(t),hc(t)],[t,0,1],[y,0,1],[legend, "wage tax", "capital tax", "consumption tax"],[xlabel, "t"],[ylabel, "H"]);

plot2d([uw(t),uk(t),uc(t)],[t,0,1],[y,-3,0],[legend, "wage tax", "capital tax", "consumption tax"],[xlabel, "t"], [ylabel, "u"]);

abc49k















abc49c














abc49h















abc49u















メンジー・チン、「世界的な停滞を防ぐために」(消費増税とリカードの等価定理)

"Preventing a Global Slowdown"  Menzie Chinn
Econbrowser (Menzie Chinn) からの翻訳です。
(それぞれのグラフの出所、説明は、原文を見てください。)

**********
世界的な停滞を防ぐために
"Preventing a Global Slowdown"  Menzie Chinn


アメリカ財務省によると、ユーロ圏と日本はもっと刺激策を行う必要があるようだ。

ルー長官の最近のスピーチから

手短に言って、ヨーロッパの現状は、強い維持可能なバランスのとれた成長というG20共通の目標を達成していません。ECBは適応的な金融政策によって経済をサポートする強力な政策に踏み出しましたが、最近の経済指標が示しているように、健全な成長を回復するにはこれだけでは十分ではありません。ヨーロッパ全体が大きな不況に陥るリスクを避けるためには、国家当局による、そして他のヨーロッパの機関による、より強力な行動が必要です。世界には、ヨーロッパの失われた10年を受け入れる余裕はありません。

日本では、安倍首相の経済政策の「三本の矢」がデフレと闘うために、そして、持続的な経済成長に勢いを与えるために導入されました。最初の二本の矢――金融政策と財政政策――は、2013年の強力な成長に貢献しました。しかし、日本の成長は今年に入ってから弱まっています。財政面での懸念から経済政策の努力を緩めたためです。三本目の矢――構造改革――は、まだ完全に導入されていません。今年初め、安倍政権はコーポレートガバナンスと他の構造改革を進めました。それでも、この三本目の矢が日本経済を変化させるのに十分かどうかまだわかりません。陪審員はまだ協議中です。

日本とユーロ圏の成長の重要性は、世界のGDPに占めるそれらの国の割合を見てみればよくわかるだろう。図1は、World Economic Outlook が10月に試算したそれぞれの国の寄与度を10億ドル単位で示したものだ。(訳注1)

globalincrement02















ユーロ圏の苦悩はよく知られている。ヨーロッパは第三四半期に前期比0.2%の成長をなんとか達成したが、安堵の溜息が出ていることから考えると、ECBの金融政策においても、政府による財政政策においても、もっと拡大することが必要である。

対照的に、日本の発展はあまり知られていない。日本は2014年の世界のGDPにあまり寄与していないが、2013年はマイナスの寄与だったのだから、大きく増加に転じたことになる。日本がこのまま2016年までプラスの寄与を続けるためには、成長を維持し続けなければならない。そして、これが難しい課題であることは確かである。

usjpeupix1















(アメリカは、ヨーロッパや日本より(そしてイギリスより)より拡張的な財政政策と金融政策を行ってきたが、やはり、それらの国より急速に成長している。) 

日本のGDPの最近の低下は、大部分、消費税の増税によるものである。5%から8%への第一段階の増税が今年4月に行われた。8%から10%への第二段階の増税は、延期されるようである(こちらの記事クルーグマンは延期の妥当性について述べている(景気回復が弱いときに、増税すること、あるいは/かつ、財政支出を減らすことは、逆効果になるからである)。安倍にとって重要なアドバイザーである浜田宏一の立場は、次のFT(financial times)の記事に述べられている。

浜田宏一(前イエール大学教授)は、アベノミクスとして知られる安倍氏の成長加速政策の中心的人物の一人である。浜田氏は、経済成長の強い回復がないので、増税を2017年まで延期するように強調した。

安倍氏は、税制についてさまざまな意見をもっていると思われる合計45人の専門家から意見を聞く有識者会議を2週間にわたって開く予定である。

多くの専門家は、景気回復を遅らせるリスクがあっても、増税を行うべきだと考えている。火曜日にそのような考えを主張した専門家として、連合の会長の古賀伸明がいる。彼は、「消費税は予定通り10%に引き上げるべきだ」と会議で語った。「社会福祉を維持する負担は、納税者全員で負担すべきだ。」

このような議論は、国の財政を健全化するための増税は、経済が弱いときではなく、プラスのGDPギャップがあるときに行うべきだ、という政策的議論だけではなく、現実の世界にどのようなマクロモデルを適用するのか、という議論とも関係がある。サイモン・レン=ルイスは、1年ほど前に、日本の消費増税についてどのように考えるべきか、という問題について書いている。

日本の安倍晋三首相は、2014年4月に消費税を5%から8%へ、さらにその後、10%へ増税することを決定した。これは非常に高いレベルの日本政府の債務(純債務で見ても、租債務で見ても先進国で一番高い)を減らすことになるのだろうか? それとも、それは回復を遅らせることになるだろうか? 多くの点で、答えは、あなたが新しい(state of the art)マクロモデルを好むか、古い(antique)マクロモデルを好むかで変わってくる。

最初に古いマクロを考えよう。消費税の増税は、日本人の消費者から実質的な購買力を奪う。これは明らかな財政緊縮、しかも大規模なものだ。回復の最初のサインが見え始めた時に、最もやってはいけないことだ。確かに、理論的には、この財政緊縮は金融緩和によって相殺できる。しかし、金融緩和を、これほどの大きさの財政緊縮を相殺するのに十分なほど大きくできるだろうか?古いマクロの人の中には、財政政策と比較して金融政策は、どんな状況であれ、あまり信用できない、と考える人がいる。しかし、流動性のわなの状態になると、金融政策の効果が疑わしくなるのは確実だ。中央銀行がインフレを上げることで実質金利を下げるのに成功したとしても、それは増税というより高いインフレがもたらした実質所得の減少を上回るほど強力なものになるだろうか?

では、どうして新しいマクロは消費税増税の影響に関してそれほど悲観的でないのだろうか? ひとつの理由としては、彼らは金融政策の力に関して楽観的になれるからだ。特に開放経済ではそうである。中央銀行が回復のためにあらゆることを試みるなら、インフレが2%以上に上がると期待できるだろう。しかし、増税の影響に関する、新しいマクロと古いマクロとの違いには、より重要なポイントがある。新しいマクロは、さらに二つのことを議論のそ上に乗せる。

最初のものは、リカードの等価定理である。消費税の増税が前もってある時間の間、計画されていたなら、消費者はすでにその影響を将来の消費計画に組み込んでいるはずだ。たとえ増税が延期されるかもしれないと思ったとしても、将来のある時点で増税が行われる、とわかるはずだ。だからリカードの等価定理に従えば、首相がはっきりと、増税は延期せず、予定通り早く行われると確約したほうが、消費支出への影響は微小なものになるだろう。

2番目のものは、これについては最近論じたが、消費増税がもたらすインセンティブの効果である。金融政策が消費増税によるインフレへの影響を打ち消さないなら、消費者は増税が始まるという予想のため、消費を前倒しするということである。これは実際、金融政策を疑似した財政政策になる。つまり、表現を変えれば、量的緩和をとおしての金融緩和の効果が疑わしいとしても、増税がそのような金融政策と同じことをするのである。[訳注 金融政策によってインフレ期待が高まれば、消費を前倒しにする。消費増税はそれと同じことをする]

この議論に関するよく言われる見方は、新しいマクロがかなり合理的な期待に重点を置いている、というものだ。しかし、あなたがこの考えに賛成するとしても、あまり強調されていない、もうひとつの重要な条件がある。消費者は、財政赤字の削減が政府の支出削減ではなくて、増税によって行われる、とあらかじめ知っていないかもしれない。もし消費者が、財政赤字は政府の支出削減によって行われると期待しているなら、彼らは増税によって実質所得が低下することを期待していないだろう。そうなると、そのような消費者にとって、首相の増税の知らせは予期せぬことであり、結果として、あわてて消費を減らすことになるだろう。

では、実際、消費増税後の日本の消費はどうなったのだろうか?

japanconspix














消費増税が実施されるまで、消費の増加率がプラスだったことに注目しよう。このような消費の変化が起こった時点から考えれば、リカードの等価定理は日本には完全には当てはまらない、と思われる([レン=ルイスの2番目の条件の場合] レン=ルイスが指摘してるように、消費者が政府支出削減を期待していて、消費増税を期待していなかった場合でも、安倍が消費増税を告知した時点で、消費が低下するはずだ [したがって、リカードの等価定理は当てはまらないことになる])。

だから、僕は「古いマクロ」のグループに属することになるようだ。(ただし、消費税増税前に消費が突出[駆け込み需要]していることは、将来の増税を期待して、消費を前倒しした、という仮定と整合的だ。だから僕は、期待が重要であるとも考えている。)

期待については、また無限に生きるのではない消費主体のモデルについては、この記事も参照してほしい。

訳注1) 2013年の日本のGDPの寄与度が大きくマイナスになっているのは、このグラフがドル換算であり、2013年に円安が進行したためだと思われます。

マンキュー VS 日本人

マンキューの11月12日のブログから

(マンキューのブログには、以下の図しか掲載されていません。マンキューの意図はこの図から明らかですが、念のため、マンキューの主張を掲載しました。以下のマンキューの「せりふ」は、大川隆法氏がマンキューの霊と交信し、聞き取ったものです。)

Tax chart









(クリックすると拡大します)




マンキュー: アメリカは他のOECD諸国に比べて、所得税(一番左)の割合が特に高い。また、資産課税(右から3番目)の割合もかなり高く、法人税(右から2番目)の割合も高い。これでは生産性が高い富裕層や企業を高い税金で痛めつけることになってしまい、彼らのインセンティブ、次いでは経済への貢献を押さえつけることになってしまう。
 他のヨーロッパ諸国のように、消費税の割合を多くすれば、そのような富裕層や企業の負担を減らすことができるだろう。

日本人: アメリカは、新自由主義でリバータリアズムの国だ。小さな政府の国で、社会福祉が充実していない。そのアメリカでは、所得税や資産課税の割合が高く、消費税の割合が低い。だから消費税が社会福祉に向いているんだ。

(日本人=「~主義」という分類が得意で(特に人文科学系)、そういうグループ分けしただけで何か分析できたと思い込んでしまう。それでまちがったことを結び付けていても、それに気づかない前向き[ポジティブ]な性格をもっている。)


クルーグマン、「消費税上げるな」

クルーグマンの11月4日のブログから。
「崖っぷちの日本」"Japan on the Brink"
後半部分だけの部分訳です。


増税しろという人びとは、もし日本が増税しなければ、財政に対する信認を失って、ただちに経済を危険にさらすと心配する。つまり、国債自警団(bond vigilantes)が攻撃するだろう、というやつだ(注1)。どうして僕がこういう考えに賛成しないのかだって?

ひとつの理由としては、そのように言われている信認の危機というものがどのようにして起こるのかが理解できないからだ。これについては昨年、IMFのマンデル-フレミングの講演で指摘した:自国の通貨で借金している国では、インフレ圧力に直面しない限り(今の日本は逆だ)、ギリシャ型の危機が起こるとは考えられないからだ。短期の金利は、日銀によってコントロールされていて、長期の金利は、将来期待される短期の金利によってだいたい決まってくる。確かに投資家が円を下げるかもしれない。しかし、それは日本にとっていいことだ。ポーゼンは、株が暴落するかもしれないと言うが、金利が低く、弱い円のおかげで日本の競争力が高まっているのに、どうして暴落するのかわからない。

こういうシナリオを想定している人に聞きたい。どうしてこういうことが起こるのか教えてほしい? そして、財政の信認が失われること――それは、言い換えれば、日本が借金をマネタイズするのではないかという不安が出てくることだ――これはむしろ日本にとっていいことだ、というのがどうしてまちがっているのか教えてほしい。

それに対して、僕は、日本はデフレ脱却の勢いを失うことをもっと心配するべきだ、と思っている。2回目の消費税増税で実質GDPが低下すると想定してみよう(当然そうなると僕は予想している)。そして、これまで築いてきたインフレ目標への前進が台無しになってしまったと想定してみよう(これは大きな問題だ)。そうなった場合に、日銀がその後やって来て、「今度は、本当に、2年以内に2%のインフレ目標を達成します。いや、いや、いや、本当に本当です」などと言って、再び信頼してもらえるとでも思っているのか? 僕は、現在の経済の勢いを止めてしまうことは、デフレとの闘いに対する信認を失わせることになる、と主張したい。それにそうなってしまえば、財政に対するダメージも大きくなる[のだから元も子もなくなる]。

これに関して僕がまちがっている可能性があるだろうか。もちろん。人生は複雑だし、僕が前に言ったように、僕が尊敬する人々は、僕とは反対の側にいる(とはいっても、彼らの論理はさっぱりわからない)。しかし、これはどちらのリスクを重視するかという問題だ。現在、反デフレに対する信認を失うリスクのほうが、財政に対する信認を失うリスクよりはるかに大きいんだ。

だから、どうか消費税は上げないでください。


[読者のコメントから二つ]

ザカリ―・バートン
私には、この日本の税金の問題はわかりません。アメリカでは、金持ちがより金持ちになることができるように、税金のシステムが破壊されています。だから、金持ちに対して増税されたり、資産税に大きな課税をすることは、とてもいいことです。そうすれば、もう一度、研究とインフラと教育――こういうものは共和党の政治によって破壊されました――が備わった近代国家になることができます。日本で議論されている税金がどのようなものか、私にはわかりません。しかし、金持ちに課税することはいいことです。(後は省略)

[前のコメントに対する返信]
ブライアン・セツラー
それは消費税なんです。だから、すべての人を直撃します。そして、おそらく逆進的です。私は経済学者ではありませんが、消費税は、総需要を減少させるという点で最悪の税金だ、ということはわかります。

**********
注1
vigilante:通常「自警団」という意味ですが、「(犯罪に対する報復など)私的制裁を加える人」という意味もあります。前者の場合、国債の暴落を監視する投資家たちという意味になりますが、後者の場合、国債の値段を下げた国に対して制裁を加える投資家たち、という意味になります。

デクスターのシーズン5で、女性が犯罪者に報復します。それを密かにデクスターが助けます。警察内部で、誰かわからないその女性と協力者は vigilante と呼ばれるようになります。

プロフィール

沢ひかる

貧乏人。

経済学「部」とは無縁です。

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