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もし貧乏人が経済学を学んだら

自動車

テスラ・モデルSがアメリカ「コンシューマー・リポート」の2つのランキングで2年連続1位――世界の片隅で逆立ちしたがる日本のメディア


アメリカでの3月、4月の電気自動車販売台数。

4月(EV Newsより)
1 Tesla Model S (e)  1.650
2 Nissan Leaf       1.553
3 BMW i3              406
4 Ford C-Max Energi 1.237
5 Chevrolet Volt      905

3月(EV Newsより)
1 Tesla Model S (e)  2.400
2 Nissan Leaf       1.817
3 BMW i3              922
4 Chevrolet Volt      639
5 Ford Fusion Energi  837  ((e) は販売台数が推測であることを表しています。)

テスラモデルSがリーフを上回っています。今年は逆転するかもしれません。

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昨年2014年にすでに発表されていますが、アメリカのコンシューマー・リポート (Consumer Reports) の自動車の消費者満足度指数 (satisfaction rate) でテスラのモデルSが1位になっていますこちら)。2年連続で1位です。評価も非常に高く、98%です(購入者に、もう一度買うとしたら、同じ車を買うか? と質問して Yes と答えた人の割合)。すべての結果を見るには登録(有料)する必要があるので、全体の順位は確認していませんが、ベンツSクラスが82%、リーフが77%だそうです。

しかも、モデルSは、コンシューマー・リポートが行っているテストによる評価でも自動車部門の2015年の総合1位に選ばれています(こちら。99点。これも2年連続1位。2013年には、 Motor Trend の Car of the Yearにも選ばれています)。モデルSは、信頼度の評価ではあまり高い評価を得ていないので("average"「平均」)、他の部門で点数をかせいだようです。とはいえ、総合で1位ということは、調査機関から(言いかえると、性能の点で)高い評価を得たことに変わりはありません。その理由は、コンシューマー・リポートの短評からも理解できます(この評価は2014年のもの)。

Sure, you can talk about this electric luxury car’s blistering acceleration,
razor-sharp handling, compliant ride, and versatile cabin, which can fit
a small third-row seat. But that just scratches the surface of this 
technological tour de force. The Tesla is brimming with innovation. Its 
massive, easy-to-use 17-inch touch screen controls most functions.
And with its totally keyless operation, full Internet access, and
ultra-quiet, zero-emission driving experience, the Tesla is a glimpse into
a future where cars and computers coexist in seamless harmony. Its
225-mile driving range and 5-hour charges, using Tesla’s special 
connector, also make it the easiest, most practical, albeit pricey,
electric car to live with.


よくいわれる、電気自動車特有の「ものすごい加速」(ドラッグレースの出だしではスーパーカーより上です)、素早い反応という走行性能以上に、「イノベーションに満ちている」、タッチスクリーンでほとんどすべての操作を行う、スタートまでがほぼ全自動、購入後もワイヤレスでプログラムの変更がアップデートされる、というIT的な新しさが評価されているようです。「テスラは、車とコンピューターが融合した未来を垣間見させてくれる。」(IT化については「テスラは自動車の皮をかぶったソフトウェアだ!」や、このページの最後の動画が例を挙げています。)

コンシューマー・リポートがモデルSを高く評価しているのは、テスラがアメリカのメーカーだからではありません。コンシューマー・リポートは日本メーカーの車も非常に高く評価しています。コンシューマー・リポートの2014年の信頼度でのメーカー別ランキングでは、1位から4位までを日本メーカーが独占しています(1位レクサス、2位トヨタ、3位マツダ、4位ホンダ)。朝日新聞もこの結果を報道しています。また、コンシューマー・リポートのテストによる評価では、それぞれの部門で日本車が多数選ばれています。Compact car:スバル・インプレッサ(79点)、Midsize sedan: スバル・レガシィ(89点)、Small SUV: スバル・フォレスター(86点)、Minivan: ホンダ・オデッセイ(84点)、Green Car: トヨタ・プリウス(77点ーー green car部門で12年連続)。ただし、モデルSの点数よりは低いです――だからモデルSが総合1位になっている。

しかし、日本の中には、テスラ・モデルSが評価されていることを認めたくない、という人がかなりいるようです。いずれにせよ、日本の一部のメディアに評価させると、テスラの評価はまったく違ったものになります。ライブドアがニュースでこのような記事を載せています。

ところが、これはロケットニュース24からの転載で、しかもロケットニュースの記事を書いた記者は、価格.comの「一人の投稿者」のコメントだけを参考にして書いているのです。

書かれているのは、

1.インテリアや装備が日本車と比べ不便すぎる とか

2.車幅が2.2mもあり、重量も2.6トンあるので立体駐車場に入らない とか

3.充電に物凄く時間がかかり、放置しておくと電池が勝手に減る とか

ということですが、これはクジラがメダカより大きいから良くない、と言ってるようなもんです。モデルSの重さは、ベンツSクラスより軽いです。充電に時間がかかるのは電池の容量が大きいからです(そのおかげで一回の充電で長距離を走れる。400km以上)。批判したがる人は、逆に電池の容量が小さく、充電が速くすむなら、今度は、一回の充電で走れる距離が少ない、と批判するでしょう。また、電池が減ることが欠点なら、燃料電池車にも同じ欠点があります(水素を圧縮して高圧で入れなければならないのでかなり減る)。

しかし、実は、価格.comでも、評価をしている5人のうち4人の人は、高い評価を与えているのです。ところが、ロケットニュースの記者は、その中で1人だけ最低評価を与えている人を選んできて、それを代表的な意見であるかのように見せるわけです。

僕自身はモデルSを評価するつもりはありません(触ったことも見たこともない)。でも、買った人の多くが評価している。これは数字に表れている。また好意的なレビュー――というよりも、今までにない画期的な車だという非常に高い評価――がたくさん書かれている。それで話は終わりです。 どうして、それを疑ったり、強引に否定しなければいけないんでしょうか。

テスラが示したのは、電気自動車の登場によって、起業10年ぐらいの企業でも完成度の高い車をつくることができるようになった、ということです。

これは、社会全体にとってはプラスです。まず、新しい技術によって消費者に新しい選択を与えることができる。また、モデルSの満足度が示しているように、消費者に新しい満足や新しい面白さを与えることができる。そのように消費者の間で新しい需要が生まれているなら、生産者にとってもプラスです。進出できる新しい分野が開けたことになる。また、利用できる新たな技術が増えることになる、あるいは、既存の技術を利用できる新たな分野が開けたことになる、という点でもプラスです。

しかし、これは、現在の状況を維持したい既存の自動車メーカーにとってはうれしいことではないかもしれません。したがって、これに対してメディアがどのような報道をするかで、「メディアがどちらを向いて報道しているのか」という姿勢がわかるわけです。

ライブドアやロケットニュースの記事が、最初からテスラを否定的に取り上げる意図で(あるいは電気自動車を否定的に取り上げる意図で)書かれた一方的な記事であることは簡単にわかりますし、これは特殊な例かもしれません。しかし、日本の場合、他の大手メディアにも同様な傾向――公平な評価をせず、既存の日本の企業を持ち上げ、いっぽう外国の企業や新規企業(とりわけ外国の新規企業)を無視したり、悪いイメージを与えようとする――があるように感じられます。


テスラのモデルSが次世代の自動車のベンチマークになったことは確かなように思います。日本の中で、これが気に入らないからといって無視していると、変化に対応するのが遅れ、時代の流れから取り残されることになるかもしれません(前掲の「テスラは自動車の皮をかぶったソフトウェアだ!」が同じ心配をしている)。


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モデルS P85D の "insane mode" の加速に関しては、次の動画が参考になります。





またはこちら。最初の映像笑えます。(この記事とは関係ありませんが、ドッジ(ダッジ)を見ると『ブレインキングバッド』を思い出します。ただし、ドラマに出てくるのはチャレンジャー Challenger、ここで比較されてるのはチャージャー Charger)。




アメリカ2014年電気自動車販売台数 ―― リーフ1位 + テスラの近況

 EV Obsessionから。プラグインハイブリッドも含まれています。Tesla の販売台数は推測らしいですが、信頼できる数字だそうです。
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 (プラグインハイブリッドを除く)電気自動車の販売台数は、201年の 44,089 台から、2014年は63,393 台へと 43。8% の増加。プラグインハイブリッドは、49,043(2013年)から 55,245 台へと12.6%の増加。

 車種別で見ると、リーフは、22,610 台(2013年)から、30,200 台(2014年)へと33.6%の増加、Tesla Model S は、15,585 台(2013年)から 18,480 台(2014年)へと18.6%の増加。Toyota Prius PHEV は、12,088 台(2013年)から 13,264 台(2014年)へと9.7%の増加。いっぽう、大きく下げているのは、Chevy Volt で(これはプラグインハイブリッド)、23,094 台(2013年)から 18,805 台(2014)年へと18.6%減少。

 全体の傾向で見ると、43.8%の増加という数字からわかるように、電気自動車の増加が目立ちます。

 リーフは2013年も電気自動車分野で1位でした。電気自動車でなければ、分野別であれ販売台数1位になれば、日本のメディアは伝えるでしょうが、電気自動車に関して沈黙するのはいつものこと。

 EV Obsession の記事は、テスラの近況についても書いています(近況といっても「2月14日」の記事なので少し古いですが。これはアメリカでの販売台数を推測する根拠にもなっています)。以下まとめると。

● Model S は、2014年に計画どおり35,000台生産された。そのうち、2015年1月の時点で、1,400台の納入が遅れている。

● 2014 年の第4四半期に9,834台出荷された。同じ四半期に生産されたのは、11,627台。

● 生産されたうち55%がアメリカ向け。

● テスラは、10,000台の Model S の注文と、約 20,000 台の Model X の予約を受けた状態で、2015年に入っている。

●  テスラは、2015 年に 55,000 台の生産を見込んでいる。そのうち、40%を上半期で生産する予定。

(2014年後半からの出荷の遅れは、9月に工場を停止し、刷新した影響だと思われます。今年から販売される、Modex X で400万円台から、2017年に販売される予定の Model 3 で300万円台とだんだん低価格のモデルが入手可能になります。



日産リーフ好調――にもかかわらずEVバッシングを続けるマスコミ

前に書いた記事の続編です。)

 以前、アメリカのEV市場(EVとプラグインハイブリッド)で日産リーフがずっと販売台数1位を維持していることを伝えましたが、10月現在でもまだ続いています。以下はアメリカでの今年の販売台数(10月まで)の累計(テスラは統計に入っていません。アメリカでの販売台数を発表していないようです)。

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アメリカ、EV販売台数
evobsessionの記事から)




 リーフの販売台数は、すでに昨年の販売台数(22,061 台)を超えています。月ごとの推移は以下のとおりです。

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(上記のevobsessionの記事から)




 7月にGoGoEV が、アメリカではリーフとプリウス・プラグインハイブリッドが売れている、と伝えていましたが、現在、プリウスPHEVは販売台数を大きく落としています(プリウスだけでなく、軒並みPHEVは販売台数を落としています)。
 その理由として、GoGoEVは、新しいもの好きのアメリカ人が、ハイブリッドの延長であるプラグインハイブリッドよりも、「より新しい」自動車である電気自動車を選ぶようになったのではないか、と推測しています。的確な指摘だと思います。

 いっぽう、ヨーロッパでは(今年9月までの累計)。

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ヨーロッパ、EV販売台数
evobsessionの記事から)


 ヨーロッパでは、三菱アウトランダー(プラグインハイブリッド)が好調です(プリウスPHEVの寂しいこと・・・)

 しかし、日本のマスコミはEV叩きに必死です。ライブドアの11月16日のトップページ。
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(アンダーラインは筆者)

 
[「電気自動車がダメな訳」といってますが、一番大きなメリットを無視しています。電気自動車になれば、ガソリン電気スタンドに行く必要がなくなります。自宅で充電できます(そのためには充電器を備える必要がありますが、部品代3500円+工事手数料でできるらしい)。従来機種の三倍バッテリーが持つが、特別な電気スタンドまで行って充電しなければ使うことができないノートパソコンや携帯電話を使う気になりますか? もうひとつの重要なメリットは、上の「新しいもの好きのアメリカ人」のところに現れていますが、「新しいもの」はなんかわくわくさせる、ということでしょう。]

 このような報道が出てくる理由は、前の記事に書きました。
 今後、「アウトランダー世界で好調」という報道はされるでしょうが、リーフ好調という報道はされないでしょう。

 「新しいもの」を支援していけば、消費者に新たな喜びを与えることになりますし、成長にもつながると思われるのですが、日本では、「古い考えの企業」に合わせようとするため、むしろ、そういう「新しいもの」をつぶそうとする力が働くようです。

 電気自動車は「創造的破壊」(日本語版ウィキペディアよりも英語版のほうが詳しいです)になる可能性があります。しかし、日本ではダメでしょう。新たな企業にチャンスが出てくるのですが、政府や経産省は、「新たな企業」(イノベーター)ではなく、「既存企業」の電気自動車事業を支援するでしょう。社会も既存企業を応援するでしょう(日本では新人よりも、名前を知られている人があらゆる分野で有利です)。イノベーションを後押しするのではなく、イノベーションを抑え込む土壌が日本にはあるわけです。


世界のEV市場で快進撃を続ける日産リーフ――なぜ日本のマスメディアはこれを伝えない

(こちらに続編[2014年10月の情報]があります)。

日産のリーフが世界のEV市場で快進撃を続けています。リーフの2013年の売り上げは4万7千台で、プラグインハイブリッドも含めたEV市場で世界1位。2位のシボレーVolt (プラグインハイブリッド)が2万8千台。3位のトヨタのプリウス・プラグインハイブリッドが2万3千台。

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(EV Obsession のこちらの記事から)

さらに、2014年になっても、リーフはアメリカでの月別の販売で1位を維持しています(2014年7月現在)。そのため今年も売り上げを大幅に伸ばしそうです。以下の図はアメリカでの7月の販売台数。

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(EV Obsession の
こちらの記事から)

2013年7月、アメリカ・エネルギー省は、アメリカでのEVの2013年上半期の売り上げが2012年の上半期に比べて倍増した、と発表しています 。EV Obsession によると、アメリカでのEVの押し上げに貢献したのが、リーフの躍進です(アメリカの工場が本格的に稼働し始め、6000ドル以上値下げした)

また、日本では電気自動車はダメだという意見が多いですが、世界では電気自動車がどんどん増加しています。2013年、完全なEV(プラグインハイブリッドを含まない)の世界での販売は11万台。EVの増加の割合は、ハイブリッド車が導入されたときよりも大きいそうです(EV Obsession の
この記事による)。

日本でもいくつかのメディアがリーフの成功を伝えています。2014年1月に、SankeiBizが 「日産リーフ、販売10万台へ 米で好調 「プリウス」上回るペース」を、MONOist が「日産「リーフ」がグローバル累計販売で10万台を達成、2013年の1年間で倍増」という記事を掲載している。また、EconomicNews が2013年9月に「日産のEV「リーフ」が米国で前年比3倍以上の売り上げを伸ばす理由」という記事を書いている。

しかし、多くの日本のメディア――特に大手のメディア――は、リーフの成功に関して積極的に伝えていないようです。また世界で電気自動車の販売が伸びていることも伝えていません。

2013年10月に、リーフはノルウェーでガソリン車も含めて販売台数1位になりました。これを伝えたのはロイター(だけ?)です。

これとは対照的に、リーフが販売不振だったときは、日本のメディアは「リーフ失敗」を盛んに伝えています。
東洋経済オンラインは、2012年に「日産のEV「リーフ」が売れないワケ」という記事を書いています。Business-Journal の「EV敗戦 日産のカルロス・ゴーンCEOが戦略を大転換」という記事(2013年1月10日)の中では、次のように書かれています。

日産は2017年3月期までの中期経営計画「パワー88」において、仏ルノーとともに世界市場で累計150万台のEVを販売する計画を立てている。13年同期は世界販売で4万台の目標を掲げているが、12年4~10月の販売実績は1万4800台にとどまり、目標を大きく下回った。これまでに世界で販売したリーフの累計台数は、わずか4万台。ゴーンCEOが掲げた世界累計150万台の目標に、早くも赤信号が点滅している格好だ。

著者は、「13年の世界販売で4万台」という目標に対して、「12年4~10月の販売実績は1万4800台にとどまり、目標を大きく下回った」と書いています。ところが、ふたを開けてみれば、リーフは、当の13年に「13年の世界販売で4万台」という目標を軽々とクリアしているのです。売り上げ不振がニュースになるなら、売り上げ増大もニュースになるはずです。しかし、これらのメディアは、そういう記事は書きません。

なぜ販売不振のときは大きくとりあげたのに、成功したときはとりあげないのでしょうか? (そのために、インターネット上では、今でもリーフ失敗の記事があふれている。)

おそらく理由のひとつは、やはり、これです。

日本のメディアが電気自動車を好意的に受け入れない――電気自動車バッシングをやりたがる――のは、日本の2大メーカー、トヨタとホンダがEVに積極的でないからでしょう。そして、メディアは、トヨタやホンダが「売りたいもの」を持ち上げ、そうでないものは無視する――あるいは叩く――のです。

もうひとつの理由は、日本のメディアや経産省のような省庁、あるいは多くの一般の人々の中にある「技術信奉」です。高度な技術をつかっているものは、「それだけでいいものだ」、と思い込む傾向です(特に企業側がこういう態度をもっていると、現在の市場では失敗する可能性がある。これについては、最後の部分)。

たしかに日本の消費者自身が電気自動車を評価していないという面もあります(ただし、そういう評価のつくられかたにも問題があるようです。こちらを参照)。しかし、だからと言って、失敗しているという情報を伝え続ける必要もないし、世界で売れていることを隠す必要もないはずです。

これにはもうひとつ問題があります。 

こういうメディアの態度は、まちがったマーケティングを助長するからです。
日本の企業が世界の他の企業よりも優位に立てる技術を持っているとする(この問題の場合、ハイブリッド技術や燃料電池車になる)。だから、そういう技術に特化したものをつくりたいと思う。それを消費者に売りたいと思う。そして、メディアは、そういう製品が優れている、という記事を書いたり報道したりする。

しかし、これは、「企業が売りたいものを売ろうとする」、という企業中心のマーケティングを助長することになります。企業の都合に合わせて――自分たちが優位になる分野で勝負できるものをつくって、それを消費者に押し付けようとするマーケティングです。日本の半導体と家電業界は、これをやり続けて失敗しました。
 
消費者はこういうものが欲しいという考えをもっています。そこから外れているならば、いくら高い技術を駆使したものでもまったく相手にされない。こんなすごい技術で、こんなものができました、というような企業目線で押し付けようとしてもうまくいかないのです。

ダンピング・ジャック・フラッシュ――どうしてアメリカのほうが自動車の価格は安いのか





 Yahoo 知恵袋からの引用です。


<質問> レクサス CT200h、米国価格は245万円からという話がありますが、確かゴルフも日本より3割くらい安いそうです。日本では、CT200hは、100万以上の差がありますがどういうことなのでしょうか。


<回答> くるまカテなので、仕向け地による国別装備や性能の違いを指摘して、価格差などが説明できれば一番スッキリするんでしょうけど…。

たぶんそういうことよりも、経済の原理や問題のほうが深い関わりがあると思います。よく言われる基本的なことは、売上と利益の関係です。企業にとってこの2つの数字はとても大切ですが、つねにどちらも最大を目指せるのかというとそうでもありません。売上を取ろうと思うと利益(儲け)がとれなかったり、利益を追い求めると売上が下がったり…。だいたいどこの国の企業であっても常にこのバランスには頭を悩ませていると思います。売上は企業の規模(大きさ)を表し、利益は企業の効率(体質)を表すと言われます。

グローバル企業の場合は売上と利益を場所(どこの国でってことです)によって分けて考えて確保するのも一つの経営方針でしょう。売上は市場規模の大きな国で確保(薄利多売ってやつです。不当廉売・ダンピングなんて最悪の手段を取ることも。外国市場を確保するには非常に有効的な手段ですが、ダンピングは基本的に禁じ手です。)、利益は取り易い国(そこそこのお金持ち)から取るという具合に。アメリカは市場規模も大きく、国民も金持ちなので特別扱いは仕方が無いのでしょう。


 うーん、回答者のかたは「経済の原理」による説明と言っているけど・・・

 単純に、日本の市場のほうが大手メーカーによる「独占」が強く、アメリカのほうが「完全競争(自由)市場」に近い、というだけの話だと思いますが。

ダンピングの経済学
(以下はクルーグマンの『国際経済学』をもとにしています。)

 国内市場と海外市場の2つの市場を考えます。国内には数社のメーカーしかなく、国内市場を独占していると想定します。したがって、国内市場では生産量によって市場価格を変えることができます。しかし、海外市場に対しては独占力を行使することができず、海外市場は完全競争市場であると想定します。

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 完全競争市場では、企業は、限界費用( MC=Marginal Cost )が市場価格 P に等しくなるところまで生産を増やします。上の図で、海外市場(完全競争市場)での価格が PFOR だとすると、PFOR とMC曲線が交わるところまで生産量を増やします(図の1)。したがって、国内市場、海外市場あわせて QMONOPOLY だけの量を生産します。
 次に、PFOR と(国内の)限界収入曲線 MRDOM が交わる点の生産量( QDOM )を国内市場向けにします(図の2)。
 一般的に独占市場では、企業は限界費用曲線(MC)と限界収入曲線(MR=Marginal Rvenue)が交わるところまで生産量を増やします。なぜ上の図では、MC と MRDOM の交点で国内の生産量を決めないのか? この企業は国内市場、海外市場合わせて、すでに QFOR だけ生産すると決めています。したがって、その生産量での限界費用は PFORです。そのため、PFOR と国内の限界収入曲線MRの交点で国内市場向けの生産量を決めるのです。

 したがって、QDOM が国内市場向け、QMONOPOLY - QDOM が輸出分になります。

 国内市場(独占市場)での価格は、国内の需要曲線 DDOM によって決まるので、PDOM になります(図の3)。海外価格 PFOR よりも国内価格 PDOM のほうが高くなります。

 特に自動車の場合、日本では大手メーカーによる「系列」――大手メーカーによる、部品調達、生産から流通までの独占的な統合――が支配的で、海外からのメーカーや国内の新規参入メーカー(そんなん出てくるのか?)が入ってきにくい構造になっています。そのため、少数のメーカーによる独占が強く、お互いに協調的戦略をとること(相手の出かたをうかがいながら、価格設定すること)が可能になります。そのため、メーカーは価格を高いままにしておくことができます(注1)。

 いっぽう、アメリカではより自由な市場になっている(海外メーカーや新規参入メーカーが参加しやすい市場になっている)ので、価格は日本に比べて低くなるわけです。


(ただしアメリカでは、海外メーカーによるアメリカ市場向け製品のダンピングを法律で禁じているので、ダンピングをそのままやると引っかかるのですが、日本の自動車メーカーがひっかからないのはなぜなのでしょうか? たぶん「うまくやっている」からではないでしょうか? 内装や装備を「少し」変えて「違う」製品ということにしている。とすれば、その内装や整備の差がそのまま価格の差につながっている、と想定するのは難しいでしょうね。つまり、やっぱり同じ車がアメリカのほうが安い、ということになると思います。)


注1)いっぽう、メーカーの独占が強いということは、下請け企業の製品の価格はそれだけ低く抑えられ、また賃金も低く抑えられれることになります。よく、最終生産物の価格が高くなれば、下請け企業の製品の価格も高く買ってもらえることになり、賃金も高くなる、と思っている人がいるけど、独占市場だとそうならない可能性があります。

プロフィール

沢ひかる

貧乏人。

経済学「部」とは無縁です。

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