M B K 48

もし貧乏人が経済学を学んだら

6章

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(13)

**********
6章 名目値調整の不完全性に関するミクロ経済学的基礎
6.13 マンキュー=レイス・モデル(粘着情報モデル)
(378ページ)

モデルの解(380ページ)
 企業は、各期ごとに確率αで新たな価格を設定します。
 ここでは、t-i 期、つまり t 期より i 期だけ前の時点で、新たに入手された t 期の m(つまり m)に関する情報が与える影響を考えます( m は名目的総需要を表す変数)。
 t-i 期に入手された新たな情報によって、t 期の mに関する期待値が変化します。
13060701

 この期待値の変化の量を Δmとしておきます。
13060702
    (1)
 そして、この変化によって、t 期の一般物価水準 pと産出量 yがどれだけ変化するかを考えます。
 y と m と p には、次の関係が成り立ちます。
13060703
    (2)
 従って、それぞれの変化量についても、(2)式は成り立ちます。
13060704   (3)

 ここでは、t-i 期における mの期待値の変化、つまり、Δm= Et-i[m]-Et-(i+1)[m] のうち、t 期の価格 pに反映される割合を ai  としています。
 従って、その変化量、つまり、t-i 期における mの期待値の変化によるt 期の価格 pの変化を Δpt-i とすれば(Δpt-i は、t-i 期の価格の変化ではありません)、その変化は、次のようになります。
13060705
   
13060707
   (4)
 (3)式から、同様に、t-i 期における mの期待値の変化による t 期の産出量 yの変化を Δyt-i とすれば、(3)式から、
13060706

13060708
   (5)
 となります。

 「このモデルを解くには、aの値を求める必要が」あります。
 「t-i 期に新たに入手された mに関する情報に反応して(つまり、Et-i[m]-Et-(i+1)[m] に反応して)、t 期の価格を変更する機会を有する企業の割合をλで表すことにしよう。ある企業がこの情報に対応して t 期の価格を変更する機会がないのは、当該企業が、t-i、t-(i-1)、t-(i-2) ・・・ t-1、t のうちいずれの期でも価格経路を設定する機会がなかった場合である。そのような事態が生じる確率は、(1-α)i+1 である。したがって、
13060721
   (6.119)

 となる。」

 企業が設定する価格は、利潤最大化する価格なので、
13060722

 です(これはこの章をとおして同じ)。
 t-i 期における新たな情報に対応した価格の変化は、(4)式からΔp= aΔmです(上の(4)式と添え字が違っていますが、(4)式のΔpt-i がここではΔpです)。従って、企業は新たなに入手できた情報にもとづいて、次の量だけ価格を変更します。
13060723

13060724
   

 企業のうちのλの割合だけが価格を変更する機会を有するので、一般物価水準の変化分は、次のようになります。
13060725


13060726
   (9)
 (4)式から価格の変化は、Δp=aΔmとなるはずなので、(9)式は、aΔmと等しくなるはずです。従って、
13060728


 aを求めれば、
13060730

   

 となります。(6.119)式から、λ=1-(1-α)i+1なので、これを代入すれば、aは、次のように表されます。
13060731


   (6.121)

モデルのインプリケーション
 ここから時間の向きが変わります。ここまでは、t 期から過去に i 期だけさかのぼっていましたが、ここからは現在(= t 期)から i 期将来の時点を考えます。
 t 期に予期されない形で、mがΔm だけ1回限り、恒久的に増加したと想定します。
 この増加により、t 期における、t+i 期の m に関する期待値が変化することになります。つまり、E[mt+i ]-Et-1[mt+i ]=Δm となる、ということです。
 従って、pt+i は、aΔm だけ増加します。いっぽう、yt+i は、(1-a)Δm だけ増加します。

 aの変化は、(6.121)式で表されるので、パラメータを定めてやれば、pt+i と yt+i の変化を見ることができます。
 「マンキュー=レイスは、モデルの期が1四半期に相当するものと仮定したうえで、λ=0.25かつΦ=0.1であるケースを考察している。」
 ローマーは、λ=0.25と書いていますが、これはα=0.25 の間違いです(英語の原書も間違えていました。マンキュー=レイスの論文で、ローマーのモデルのαがλと表記されているからだと思われます)。α=0.25 でないと、次に書いてある a= 0.55 という数値になりません。

 そこで、同じパラメーター(α=0.25、Φ=0.1)で、pt+i の変化をグラフに描いてみます(表1)。pt+i の変化は、aΔm なので、aの変化がpt+i の変化になります(Δm=1にしています)。(6.121)式の aをグラフで描くと次のようになります。

0.1*(1-(1-a)^(x+1))/(1-0.9*(1-(1-a)^(x+1)))
13060740
 
 

 
  表1 


 このように物価水準の変化が遅れるのは、Φが0.1と小さく、実質値の硬直性があるからです。ローマーが書いているように、a=0.55 です(上のグラフで x=8 のときの y の値です)。これは8期目でも、まだ均衡値(=1)の 0.55 までしか到達していない、ということを意味しています。
 「ショックが生じてから8期まで考えると、企業は平均的には2回価格経路を調整できているはずだが、それでもまだまったく調整できていない企業が少数(7.5%)残ることになる。」
 λ=(1-α)=(1-0.25)=0.075 になる、ということです(λは一度も価格を変更していない企業の割合です)。

  なぜ価格増加が遅れるのかは、ローマーの説明のとおりです。「Φ<1であれば、d/dλ>0 が成り立つことがわかる。」(aの2階微分の計算が面倒だったので、計算していません・・・)。
 d/dλ>0 なので、λが大きくなれば、aの増加率も増加していくことになります。いっぽう、λは、価格を変更する企業の割合なので、当初、i (t 期から将来に向かっての期間)が大きくなれば、増加していきます。しかし、i がある程度の大きさになると、すでに大半の企業は価格を変更してしまっているので、λの値の増加率は減少していきます。
 そのために、価格の増加率が最大になる時点は、ショックから遅れて現れ、その後は、価格の増加速度も減少するわけです。

 次に産出量 yt+i の変化は、次の表2のようになります。yt+の変化は、(1-a)Δm なので、(1-a) の変化に等しくなります。

1-(0.1*(1-(1-a)^(x+1))/(1-0.9*(1-(1-a)^(x+1))))
13060741




 表2


 産出量は、最初 0時点で一気に増加し、その後しだいに減少し、正常水準(=0)に近づいていきます。

 インフレ率の変化は、次の表3ようになります。これは、aを t で微分した関数を描いたものです。
-0.1*ln(1-a)*(1-a)^(x+1)/(0.1+0.9*(1-a)^(x+1))^2
13060742




 表3


 表1の物価水準の変化のグラフで、7期目当たりの変化が一番大きいので、そのときのインフレ率が大きくなっているわけです。これは、インフレ率の最大値が、ショックから7期(7四半期)遅れることを示しています。(ローマーは、8期目と書いています)。

 6.10節のテイラーモデル(その部分の補足はこちらと、物価水準の変化について比較してみました。
パラメーターの値をそろえるために、Φはどちらも 0.1にしています。テイラーモデルでは、各期に半数の企業が価格を変更するので、このマンキュー=レイスモデルでも、α=0.5 に変更しています。赤いラインがテイラー・モデルで、青いラインがマンキュー=レイス・モデルです。

13060743







 表3


 マンキュー=レイス・モデルのほうが物価水準の変化が遅れるということがわかります。また、テイラーモデルでは、インフレ率の最大値はショックが起こった当期(0期)です(上のグラフから、接線の傾きは、x=0 のときが一番大きい)。

 ディスインフレーション政策(382ページ)
 今度は、総需要の成長率が恒久的に下落する場合を考えます。
 「すべての企業が、0日まで、m は m=g t (g>0)で表される経路に従うと期待していたが、その時点(0日)以降、中央銀行が m をゼロに安定化させるものと想定しよう。したがって、t ≧ 0 について m= 0 である。
 この政策変更によって、t ≧ 0 以降のすべての時点で E[m]-E-1[m]=-g t となる。」
(0日と書いていますが、t はここでも四半期と想定されています)。

 yの変化は、(1-a)Δm なので
13060737

 aは、(6.121)式で表されるので、yは、
13060738

    (6.123)

 となります。
 一方、pは、a(-gt) なので、以下のように表されます。
13060739

 


 そこで、物価水準、産出量の時間変化をグラフで描くと、まず物価水準は、次の表4のようになります(パラメーターは、Φ=0.1、α=0.25です)。
 g=1 としています。この g=1 というのは大きすぎる値ですが、グラフの変化を見やすくするためです(小さい値だと、縦軸の数値や目盛りが表示されなくなってしまいます・・・)。
 10%の減少なら、四半期で2.5%なので、g=0.025になります(その場合は、以下のグラフを縦に1/40縮めればいいわけです)。

b*x*0.1*(1-(1-a)^(x+1))/(1-0.9*(1-(1-a)^(x+1)))
13060746









   表4


 当初、物価水準は変化せず、時間が経つにつれて p = -t (グラフ上では、y =-x )に近づいていきます。

 産出量は(6.123)式から、次の表5のようになります。
 b*x*(1-a)^(x+1)/(1-0.9*(1-(1-a)^(x+1)))
13060744





 
   表5


 産出量は、いったん低下し、その後、正常値に近づいていきます(景気後退の谷は、ローマーが書いているように、7期目あたりです)。これは、ディスインフレーション政策が景気後退を引き起こすことを示しています。
   
 インフレ率の変化は、次のようになります(上記の(10)式を時間 t で微分したものです)。
-0.1*b*x*ln(1-a)*(1-a)^(x+1)/(0.1+0.9*(1-a)^(x+1))^2+0.1*b*(1-(1-a)^(x+1))/(0.1+0.9*(1-a)^(x+1))
13060745





 表6


 インフレ率の最小値は、11期目あたりで現れることになります。そして、その時点は、表5の産出量の底(7期目)よりも遅れます。そしてその後、均衡値に近づいていきます(上のグラフでは-1)。
 また、インフレは目標値をオーバーシュートする、ということもわかります。例えば、-1%を目標にした場合、-1%よりも下回る期間がある(上のグラフだと、7期目から25期目ぐらいまで)、ということです(上のグラフの-1は、-1%ではありませんが、このモデルではgの大きさは縦の大きさを変えるだけなので、期間についてはそのまま当てはまります)。

 このような物価変動(インフレ率の変化)の原因については、ローマーの説明を参照。
「政策変更後の数期のうちは、ほとんどの企業がまだ古い価格経路に従っている。加えて、価格調整できる企業でも、最初の数期で自らの価格を大きく変えることはしない。なぜなら、最初のうちはmもまだ昔の経路から大きく外れて下方にあるわけではないし、(もしΦ<1なら)企業は他の企業から大きく外れた価格をつけることを望まないからである。したがって、インフレ率は、当初あまり低下しない。しかし、時が経つにつれ、これらの要素がより広範な価格調整を生み出す方向に働きはじめ、インフレ率は下落する。」

 「Φ<1なら」の部分。企業が設定する利潤最大化価格は、
13060722
 
 ですので、Φが小さければ、1-Φは1に近くなるので、企業は、物価水準(他の企業の価格水準)pと同じぐらいの価格を設定する(そこから外れた価格は設定しない)、ということです。

 上のケースとは逆に、総需要成長を増加させた場合。上のグラフをプラス側に反転させれば、それぞれの変数の変化になります。

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 Mankiw and Reis の論文 "Sticky Information versus Sticky Prices" では、さらに予告されたディスインフレーションの例が検討されています。

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(12)

更新: 6月6日、グラフを2つ追加しました。

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6章 名目値調整の不完全性に関するミクロ経済学的基礎
6.10 固定価格(テイラーモデル)
(361ページ)

 前節のフィッシャーモデルは、企業が2期間に1回だけ、そこから続く2期間にわたる価格を設定する(企業は、2つの期間についてそれぞれ異なった価格を設定できる)というものです(357ページ)。

  本節のテイラーモデルでも企業は2期間分の価格を設定しますが、しかし、2つの期間に同一の価格を適用しなければならない、という仮定に変わっています。つまり、 t 期に価格変更する企業は、 t 期と t+1 期の2期間を通した価格を設定することになります。残りの企業は t+1期に、 t+1期と t+2期を通した価格を設定します。
 そして、その割合は、半分の企業がt 期に価格を設定して、残りの半分の企業が t+1期に価格を設定することになっています(これはフィッシャーモデルと同じ)。
 また、名目的な総需要を表す係数 m は、ランダムウォークに従うと仮定されています。
13060201
   (6.86)
 t 期に価格を設定する企業が選択する価格を x とすると、x は次のようになります。
13060204
   (6.87)

 ローマーは、(6.75)式から導くことができると書いていますが、正確には6.73式(あるいは6.72式)です(355ページ。その部分の補足はこちら)。
 355ページでは、代表的企業 i が現在(0期)に、将来までを見据えて価格を設定した場合の最適価格pを導出しています。0期に設定した価格を t 期まで変更しない確率を πすとすると、pは次のようになります。
13050726



   (1)

 ローマーが表記しているように、分母をω=/π∑πτと表記すれば、
13050727

   (6.72)

 となります。現在=0期 に対して t 期は将来なので、企業は t 期の利潤を最大化する価格 pに関しては、その期待値に基づいて価格設定するはずです。従って、(6.72)式は次のように変更されます。
13060237

   (6.73)


 そこで、本節のテイラーモデルでも企業は同様な価格設定をするはずです。
 このモデルでは、代表的企業は、t 期と t+1 期の連続する2期間を通した価格を設定するので、また、それぞれの期間に価格を変更する企業は、全体の半数と仮定されているので、π=πt+1 = 1/2 です。従って、x は、(1)式(あるいは6.73式)から、
13060202
 
 

13060203


 となります(上記の(6.87)式です)。

 次に、それぞれの期間の利潤を最大化する価格 pは、p=Φm+(1-Φ)p となるので(355ページ)、それを(6.87)式の pに代入すれば、
13060205
    (6.87)式

 となります。
 t 期には、半分の企業が価格を xに設定し、残りの半分の企業は前期、つまり t-1 期に設定した価格
 xt-1を維持しているので、t 期の平均的な一般物価水準 pは、pt = (x+xt-1)/2 です(pt+1についても同様)。m はランダムウォークに従うので、E[mt+1]=E[m+u]=mとなります。これらを(6.87)式に代入すれば、次の式が得られます。
13060206


 これを xについて解けば、
13060207 
     (6.89)
 ここで、
13060208


 です。
 このモデルを解くためには、E[xt+1]の期待値の項を消去する必要があります。未決定係数法とラグオペレーターを用いる方法があります。両者の計算については、ローマーが詳しく説明しているので省略します。

 (6.89)式から、E[xt+1]の項を消去すると次のようになります。
13060209
   (6.92)
 未決定係数法により、λは2次方程式の解となり、|λ|<1の場合だけが、発散的にならず、安定的になります。|λ|<1となるλは、次のものです。
13060210

   (6.98) 


 モデルのインプリケーションを見るために、xの式、(6.92)式を一般物価水準 pの式に変更します(ローマーの本書では、yの導出だけが説明されています)。
 (6.92)式は、t-1期においても成り立ちます。従って、
13060222
  。 (2)

 この(2)式と、上記の(6.92)式を足します。
13060223
   (3)

 pt = (x+xt-1)/2 なので、x+xt-1 = 2pt です。 同様に、xt-1 +xt-2 = 2pt -1です。また、(6.86)式から、m=mt-1 +uです。これらを(3)式に代入して整理すれば、(3)式は、pt の関係を表す次の式になります。
13060221

     (4)
 産出量 yの導出はローマーの本書で説明されているので省略しますが、yは次のようになります。
13060238

   (5)
 (この(5)式から、y= m-pと m= mt-1+uを使って、(4)式を導出することもできます。)

モデルのインプリケーション(365ページ)
 ある期間 (t 期)に m が u増加した(正のショック)、と想定します。
 まず(6.86)式、m= mt-1+uから、mは当期(t 期)に uだけ増加します(u=uになる、ということです)。

 次に産出量 yは、(5)式のuが u=uになるになるので(yt-1 は変化しません)、当期(t 期)に
(1/2)(1+λ)uだけ増加します。その増加分をΔy とすれば、
13060225


 ということです。

 次に、t+1期の変化を考えます。産出量を表した(5)式は、t+1期にも成立します。
13060224


 t 期に yが (1/2)(1+λ)uだけ増加するので、t+1 期の産出量 yt +1 の増加分は(yt 
 (1/2)(1+λ)uを代入して)、
13060226


 となります (ut +1 はゼロです)。

 次に物価水準の変化を計算すると、物価水準は(4)式で決まります(もう一度掲載すると)。
13060221
   (4)

 まず t 期に、u=uになるになるので(pt-1、mt-1 は変化しません)、pの変化分は、
13060229


 です。次に、(4)式は、t+1期にも成立します。
13060228

 
 t 期に pt  が 1-(1/2)(1+λ)uだけ増加し、mは uだけ増加します(ut +1 はゼロです)。従って、
t+1 の変化分は、
13060230


13060231


 となります。

 以上をまとめると( t+2 期までの変化を計算すると)、次のようになります。
13060232

13060233


13060234


13060235   表1

   

 これがどのくらいの変化の大きさになるかは、λの値によって決まります。
 λは、上記の(6.98)式で決まります(もう一度掲載すると)。
13060210

   (6.98)

 本章(第6章)では、Φは、次の関係を表すパラメーターです(325ページ)。
13060236


 Φ=γ-1で、1/(γ-1)が労働供給の実質賃金に対する弾力性で、γ-1が実質賃金の実質産出量に対する弾力性です。従って、Φが小さくなれば、実質値の硬直性が高くなることを意味します。
 Φ>1の場合は、λ<0となり、上記の(4)式、(5)式から y と p は振動することになります。そこで、Φ<1の場合を考えます(Φ<0となると、(6.98)式からλは虚数をとるので、その場合も除外します)。

 (6.98)式から、いくつかのΦの値に対してλの値を求めると、次のようになります。

Φ= 0.8   λ= 0.055728
  = 0.5     = 0.171573
  = 0.2     = 0.381966

 この値に対して、上記の産出量と物価水準の変化(上記の表1)を計算したものが、以下の表です(u= 1 としています)。
13060201


   表2



 Φ=0.2のとき(λ= 0.381966)の Δy と Δp をグラフに描いてみました。

13060504





 



 表3 Δy
 Δy = a^x*((1+a)/2),   a =λ= 0.381966
 (このグラフの x = 0 が、上の表2の1期目に当たります)。


13060503









 表4 Δp
 Δp = 1-a^x*((1+a)/2)
 
 産出量はショックの後、0(正常水準)に近づいていきます。物価水準はショックの後、1に近づいていきます。
 Φ=0.8の場合、他の数値に比べて実質値の硬直性が低い場合には、3期目でほぼ産出量は正常水準に戻り、価格も、ショック後の均衡価格(=1)に近づいています。
 しかし、Φ=0.2の場合、実質値の硬直性が高い場合には、1期目では均衡価格(=1)までの距離の3割ほど(0.309)しか達成されていません。3期目でも、まだ価格水準は10%以上低い状態(0.899)です。

 なぜ物価水準の変動が遅れるのかは、ローマーの説明のとおりです。各期に半数の企業が価格を変更するわけですので、2期目までにはすべての企業が価格を変更しています。しかし、一般物価水準は均衡値に到達していません。
 その理由は、1期目の一般物価水準が均衡値(=1)の3割ほど(0.309)にしかなっておらず、そのためにこの期に価格を変更する企業の利潤最大化価格も、低いものになるからです。そして、さらに次の期に残り半数の企業が価格を利潤最大化価格に変更しますが、それでも、まだ均衡価格からは低い水準にとどまるわけです。

 このようにテーラーモデルは、総需要の変化に対する一般物価水準の変化の遅れ(価格水準の慣性)を示すものになっています(これについては、フィッシャーモデルも同じ)。
 従って、インフレーションの慣性も表しているように見えます。しかし、このテイラーモデルでインフレを表す式を導出して、その変動を検討すると、テイラーモデルは、インフレの慣性を示すものにはなっていません(これについては、376ページで検討されます)。

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ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(11)

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6章 名目値調整の不完全性に関するミクロ経済学的基礎
6.8 動学的ニュー・ケインジアンモデルの基礎
企業
 (353ページ)

 供給側(企業の価格設定)を検討しています。
 t 期における企業 i の実質利潤 Rは、次のようになります。
13050702

  

 Pit は、企業 i が生産する財の t 期の価格で、Qit は、その財に対する需要です。Pは、他の企業全体が生産する財の平均価格(つまり物価水準)です。従って、第1項は、企業の実質的な(相対的な)収入を表していて、第2項は費用です。
 ここでも前の部分と同様に、Qは Lに等しいと仮定されています。
13050703



 需要関数は、Q=Y(P/P)-η なので、
13050704

   (6.66)

 となります。

 もし企業が、0期に設定した価格Pを t 期まで維持していた場合、(6.66)式に対応する t 期の利潤は、次のようになります(Pit がPに変わるだけです。)。
13050732

   (1)

 そして、企業は0期において、次のVを最大化するようにPを設定します。
13050705

   (2)

 πは、0期に設定した価格Pが t 期まで変わらない確率です。
 本来、t 期の利潤の期待値は、t 期までに価格を変更した場合の利潤をR’とすると、π+(1-π)R’となります。しかし、(2)式には、価格を変更した場合の利潤 (1-π)R’が入っていません。
 その場合、企業は新たな価格を設定するので、その場合の利潤は、Pとは無関係になり、利潤を最大化するPを選ぶという問題にとって、無視できるからです。
 もうひとつの変数 λは、βU’(C)/U’(C)です。U(・)は家計の効用関数で、βは割引因子です。
 λは、t期の効用を、0期の効用に換算した場合(0期に移した場合)、どのくらいになるのかを表しています。t期の企業の利潤に、このλをかけるのは、「企業の利潤は家計に帰属する。したがって、企業はその利潤を自らが家計に提供できる効用水準によって評価する」からです。
 従って、(2)式の λは、 t 期の利潤を、0期の家計の効用に換算したものです。
 つまり、(2)式は、t 期の利潤を、0期の効用を基準とした割引現在価値に直し、その利潤の0期から将来までの総和を表しています。そして、企業は、その総和を最大化するPを設定します。

 (1)式のRを(2)式に代入すれば、Vは次のように表せます。
13050731

     (6.67)

 しかし、このままでは計算できないので、この(6.67)式を近似します。ローマーは、以下のように計算しています。
 まず、(6。67)式を次のように変えます。
13050707

   (6.68)

 「ここで、t期における利潤を最大化する価格であるPは、Wの定数倍であること(式(6.40)を参照せよ)、つまり同じことだが、WはPの定数倍であることに注目しよう。したがって、(6.68)の括弧内の部分はPとPだけの式で表せる」(354ページ)。具体的には、W=[(η-1)/η]Pです(325ページ)。
 
 ここで、ローマーは、変数を水準値から対数値に変えます(これは、(6.68)式の(・・・)の中だけです)。
 水準値から対数値への変更は、ここでの計算にとっては重要ではありません。以下の計算で、2次のテイラー展開で近似しますが、水準値でも対数値でも2次のテイラー展開で近似できます(これについては下記の注を参照)。
 対数値に変換するのは、このモデルの他の部分を対数値で表しているので、この部分も対数値で表したほうが都合がいいからだと思います。

 そこで、(6.68)式の(・・・)の中を、PとPの対数値、pとpで表し、(・・・)の部分を、関数F(p,p)とすれば、(6.68)式は、次のようになります。
13050708

   (6.69)

 ローマーは、議論を簡単にするために次のような仮定を置いています。「インフレ率が低く、経済は常に伸縮価格のもとで成立する均衡の近傍にあるというものである。もう1つの仮定は、家計の割引因子βが1に近いというものである」。
 インフレ率が低く、経済が均衡の近傍にあり、割引因子が1に近いので、(6.69)式のλの変動はわずかで、何らかの定数と仮定できます(ここでは1とします。他の数にしても結論は変わりません)。(6.69)式は、次のように単純化できます。
13050728

    (3)

 次に、この(3)式のF(p,p)を、p=pの近傍で、2次までのテイラー展開で近似します。
 F(・)は、利潤を表す関数で、最大値をもつ、つまり、上に凸の関数と想定できるので、上に凸の2次関数(変数pの2乗の係数がマイナス)で近似することは妥当です。
 F(p,p)を、p=pの近傍で、2次までのテイラー展開で近似すると、次のようになります(ここで求めようとしているのは、(1)式のVを最大化する価格pなので、F(・)をpの関数として考えています)。
13050709


13050710



13050711


   (4)   

 2番目の項の∂F(p)/∂pは、ゼロです。なぜなら、上に書いたように、F(・)は、利潤を表す関数で、p
がその利潤を最大化する価格なので、F(・)は、pで最大値をとります。従って、p=pでの1階微分の係数はゼロです。
 また、最後の項の∂F(p)/∂pは、マイナスになります。F(・)は、利潤を表す関数で、最大値をとるので、上に凸の関数です。その関数を2次関数で近似すれば、その2次関数は上に凸になり、2次の係数はマイナスです。従って、その係数を K(K>0)で表せば、(2)式は次のようになります。
13050712
   (6.70)

  (6.70)式を(3)式に代入すれば、Vは次のようになります。
13050729



13050730

   (5)

 企業は、この(5)式を最大化するpを選択するのですが、(5)式の最初の項にはpは含まれていません。従って、(5)式を最大化するということは、(5)式の2番目の項、 K∑π(p-p2  を最小化することと同じです。
 別の見方をすれば、pは、t 期の利潤を最大化する価格なので、(6.70)式の F(p) は、t 期の利潤の最大値です。
 2番目の項の-K(p-pはマイナスですから、K(p-pは、価格pがpからずれたときの、利潤の最大値からの減少分、つまり損失分になります。
 (5)式の利潤を最大化することは、K∑π(p-p2  を最小化することなのですが、それは、0期に設定した価格pが、それぞれの期の利潤を最大化する価格pからずれたときの損失分、K(p-pの総和、つまり、K∑π(p-pを最小にする(=損失分の総和 を最小にする)、ということを意味しているわけです。

 従って、Vを最大化するということは、次の最小化問題になります。
13050713

   (6.70)

 そこで、∑π(p-pを計算していきます。
13050714



13050715


13050716


13050717


13050718


13050719


13050720

   (6)

 (6)式は、pの2次関数になっています。この(6)式を最小化するpを求めればよいので(2次関数の最小値を求める)、次のように変形します。
13050721








 最小値をとるのは、(・・・)の中が0になるときです。従って、(6)式を最小化する(つまり、Vを最大化する)pが求まります。
13050722







 再び、総和記号の中を計算して整理します。
13050723



13050724



13050725



13050726





 ローマーが表記しているように、ω=/π∑πτと表記すれば、ローマーの(6.72)式になります。
13050727
 


**********
注)
 (6.68)式の(・・・)の中の関数をグラフに描いてみます。
13050733


13050734


 パラメーターを、330ページ、339ページの数値例と同じη=5とします。P=1とします。
13050735
   (7)

 これをグラフで描けば、次のようになります(青い線)。
13050901












 均衡値(P=1)で、2次のテイラー展開で近似すれば、0.2-0.5(P-1)となります(赤い線)

 次に、すべての変数を対数値に変換すると、(7)式は次のようになります。
13050736


 グラフに描けば、次のようになります(青い線)。
13050902














 2次のテイラー展開で近似すると、-20p+ln0.2 になります(赤い線)。

 水準値でも、対数値でも、2次のテイラー展開で近似できるので、ここの計算にとって対数値に変換する意味は特にないと思われます。



ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(10)

6章 名目値調整の不完全性に関するミクロ経済学的基礎
6.6 実質値の硬直性
第2の数値例
 (338ページ)

 329-331ページで、代表的企業が価格を変更した場合と、価格を据え置いた場合の利潤の差を検討しました。その部分の補足は → こちら
 その分析では、価格を変更した場合の利潤が、変更しなかった場合よりもかなり大きくなり、現実的ではない結果が導出されました。その原因は、労働供給の弾力性が低く設定されていて(ν=0.1)、実質賃金の弾力性が非常に大きくなっていたからです。
**********
 そこで、ここ(338ページ)では、実質賃金の弾力性が低い場合を検討します。
 「なんらかの理由により、企業が市場均衡水準以上の賃金を払っているもの」とします。
 具体的には、329ページの分析での条件はそのまま維持し(η、νのパラメーターは、η=5、ν=0.1で同じ)、労働供給の弾力性は、低い値(ν=0.1)のままです。
 その代わりに(つまり、その労働供給の条件が実質賃金が決めるのではなくて)、「企業が市場均衡水準以上の賃金を払っている」ことを満たすような、次のような新たな実質賃金の関数を導入します。
13050601
   (6.52)

 もう1度、企業の利潤から見ていくと、企業 i の利潤 πは次のようになります(これは前の場合と同じ)。
13042810 

   

 Qは Lに等しいと仮定されています。
13042811 



 需要関数は、Q=Y(P/P)-η です。実質賃金W/Pは、上記の(1)式から決まるので(ここからが、前の場合とは違います)。
13050604



13050605

   

 となります。総需要の関係(Y=M/P )から、Y=M/P を代入すると、
13050606

   (6.53)

 この企業が価格変更を行わなかった場合、P=P となります(他の企業は価格を変更しないと仮定されているので)。従って、企業 i が価格を変更しなかった場合の利潤は、(6.53)式に P=P を代入して、
13050607
   
   (6.54)
 となります。

 企業 i が価格変更して、利潤 を最大化する価格は、実質賃金のη/(η-1)倍になります((6.53)式を最大化する価格Pを求めれば、こうなります。これは、前のケースでも同じです。η/(η-1)は、マークアップ率です)。
 つまり、利潤を最大化する価格は、η/(η-1)(AY)β です。従って、価格を変更した場合の利潤は、(6.53)式のPにη/(η-1)(AY)β を代入して、
13050608
 
      (6.55)
 となります。

 ここでも、前の分析と同様、価格を変更したときの利潤が、変更しなかったときの利潤に比べて、どのくらい大きくなるかを見たいわけです。そこで、(6.55)式から(6.54)式を引いた、両者の差を考えます。
13050609

13050610


13050611
   (1)


**********
 ローマーは、次のような数値例で検討しています。
 実質賃金の弾力性は(前のケースとは反対に)低い、と想定します。β=0.1です。需要の価格弾力性ηは、前のケースと同じ η=5 です。

 (1)式の実質賃金の関数のAについては、ローマーは、A=0.806 としています。
 この数値は、労働供給が労働需要を上回る条件から設定されています(これは、339ページの下の注21に記されています)。労働供給が労働需要を上回る条件は、
13050614

   (2)
 となります。
 労働供給と労働需要の均衡については、324-25ページで説明されています。「このモデルは対称形なので、均衡においてはすべての個人が同じ量だけ働き、同じ量だけを生産すること」になります(324ページ)。つまり、Y=L です。
 均衡においては、Y=[(η-1)/η ]1/(γ-1)(325ページ、6.46式)なので、L=[(η-1)/η ]1/(γ-1) になります。また、1/(γ-1)=ν  なので、L=[(η-1)/η ]ν となります((2)式の左辺)。
 
 一方、労働需要は、(6.52)式から、
13050612


 均衡において実質賃金は、(η-1)/η となるので(325ページ)、
13050613

   (3)

 となります。ここでも均衡においては、L=Y なので、(3)式が労働需要を表しています。従って、労働供給が労働需要を上回る条件は、(2)式になるわけです。

 そこで(2)式に戻って、ここで検討する数値例(η=5、ν=0.1、β=0.1)から、Aの値の条件を求めると、
13050615


13050616
   (4)

 A> 約0.8018 となります。ローマーは、この条件を満たすようにA=0.806と設定しているようです。

 (4)式の左辺の0.97793は、前回のケースでの均衡産出水準になります。今回のケースの均衡産出水準は、(4)式の右辺を計算して、{4/(5×0.806)}10=0.928となります。ローマーが書いているように、これは「ν=0.1で労働市場が均衡している場合の水準の約95%」となります。つまり、0.97793×0.95≒0.928ということです。

**********
 そこで、前回のケースと同様に、総需要が3%低下したときに、価格を変更した場合と、変更しなかった場合で、どのくらい利潤の差が出るのかを計算します。
 前の補足と同様に、総需要M/P を変数と考え、利潤の差(上の(1)式)のグラフを描いてみます。パラメーターは、A=0.806、η=5、β=0.1です。

((0.806^(-4)))*0.25*((1.25)^(-5))*(x^0.6)-(x-0.806*(x^1.1))

13050718









   図1


   (yの値が非常に小さいので、縦に拡大しています。x=4 のとき、y=約0.15 です。)
 このグラフは、産出水準が0.928(上記の均衡値です)で、最小値0(このグラフの計算では、非常に小さい誤差が出ていますが)を持ちます。つまり、そのとき、価格を変更した場合の利潤と、変更しなかった場合の利潤は、等しくなる、ということです(だからその水準が均衡になっているわけです)。
 そこで、総需要が3%低下した場合を考えます。
 産出水準が均衡値から3%低下するので、0.928×0.97=約0.9 に低下します。そのときに、価格を変更した場合の利潤と、変更しなかった場合の利潤の差は、x=0.9 のときの y の値を計算すれば求まります。約0.00001695です(ローマーが示しているのは、約0.0000168です)。
 前回のケースとは異なり、価格を変更することで得られる利潤は、非常に小さくなります。その原因は、このケースで導入された実質賃金の低い弾力性です。

**********
 ローマーが挙げている、もうひとつの数値例も計算してみます。今度は、β=0.25。ローマーは、Yの均衡水準を同じ0.928に保つために、A=0.815 に変更しています。

((0.815^(-4)))*0.25*((1.25)^(-5))-(x-0.815*(x^1.25))

13050717









 
 そしてMが5%低下したと想定します。均衡産出量から5%低下するので、0.928×0.95=0.8816に低下します。
 この場合の、価格を変更した場合と変更しなかった場合の利潤の差は、x=0.8816のときのyの値から、約0.000299です。

**********
 確かに、今回のモデルでは、前回のモデルとは違って、価格を変更した場合の利潤の増加が非常に小さくなり、企業にとって価格を変更する魅力がなくなります。従って、価格の硬直性を説明できるモデルになっています。
 しかし、ローマーによれば、実質賃金の弾力性が0.1というのは、現実的とは言えない非常に低い値です。そのため、このモデルも、現実の価格の硬直性を説明できるものにはなっていません。

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(8)

5月3日:更新。分子と分母が反対になっているところがあったので修正しました。Y=[(η-1)/η]ν

 グラフ描画のソフトがあると、数式をグラフで理解できるので便利です。僕はVector にあった簡単なソフトをよく使っています(Mathematics Analyzer というもの。もっといいものがあるのかもしれませんが)。変数は1つだけ(xとyだけ)です。パラメーターを2つ設定できます。 以下の記事も、そのソフトで計算しています。
 コンピューターが古いので、ちゃんとしたソフトは使えません(実は、いくつかのブログも開けません。特に海外の blogspot はダメです)。

**********
6章 名目値調整の不完全性に関するミクロ経済学的基礎
6.5 小さな摩擦で十分なのか?
数値例
 (329-331ページ)

 ここでは、総需要が変化したときに、企業が価格を変更する要因について考察しています。企業は、価格を変更したときの利潤がある程度大きいなら、価格を変更し、一方、変更したときの利潤が大きくなったとしても、わずかの差なら、価格を変更しません。
 式の導出は難しくありません。以下では、ローマーの数値例を計算してみました。

 企業 i の利潤 πは次のようになります。
13042810 

   (1)

 Qは、この企業に対する需要(売り上げ数量)です。従って、第1項は、企業の実質的な(相対的な)収入を表していて、第2項は、費用です(労働量と実質賃金をかけているので)。
 ここでは、Qは Lに等しいと仮定されています(「このモデルは対称形なので、均衡においてはすべての個人が同じ量だけ働き、同じ量だけ生産することになる。」、324ページ)。
13042811 



 需要関数は、Q=Y(P/P)-η です。また、「労働市場の均衡から、実質賃金は Y1/ν に等しい」ので、
13042812
 
   (2)

 となります。ここで、ν=1/(γ-1)です。上記の労働市場の均衡は、325ページの(6.43)式になります。総需要の関係(Y=M/P )から、Y=M/P を代入すると、(2)式は次のようになります。
13042813

   (6.49)

 企業 i が価格変更して、この利潤 π(6.49式)を最大化したときの価格は、η/(η-1)(M/P)1/νです((6.49)式を最大化する価格 Pを求めれば、こうなります。また、すでに計算されています。325ページ、(6.44)式)。

 この企業が価格変更を行わなかった場合、P=P となります(他の企業は価格を変更しないと仮定されているので)。従って、企業 i が価格を変更しなかった場合の利潤は、(6.49)式に P=P を代入して、
13042814
   
   (6.50)
 となります。

 一方、価格を変更したときの利潤は、利潤を最大化する価格が η/(η-1)(M/P)1/ν になるので、それを(6.49)式に代入して、
13042815


13042816

   (6.51)

 となります。ここまでの計算は、ローマーの本書の330ページに書いてあります
 ローマーは、次のように書いています。「M/Pが伸縮的価格のもとでの均衡値に等しい場合、πADJ
と πFIXED は等しく、それ以外の場合は πADJ が πFIXED よりも大きくなることは容易にたしかめられる」。
 伸縮的価格のもとでの産出量の均衡値は、Y=[(η-1)/η]νです(325ページの(6.46)式です)。M/P がその均衡値に等しくなるときに、πADJとπFIXEDが等しくなることは、(6.50)式と(6.51)に M/P =[(η-1)/η]ν を代入して、両者が等しくなることを確認すれば確かめることができます。
 もうひとつの、「πADJ が πFIXED よりも大きくなることは」、πADJ-πFIXED が、M/P=[(η-1)/η]ν で最小値0を持つことを確認すれば確かめることができます。

**********
 ここで知りたいのは、価格を変更したときの利潤が、変更しなかったときの利潤よりもどのくらい大きくなるかです(ここでは、企業 i のみが価格変更し、他の企業は変更しないと仮定されています)。価格を変更したときの利潤と、価格を変更しなかったときの利潤の差は、(6.51)式から(6.50)式を引けば求まるので、
13042817

13042818

  (3)

 となります。
 そこで、総需要M/Pが変化したときに、価格を変更した場合と、変更しなかった場合とで利潤の差がどのように変化するかを見るために、(3)式をグラフで描いてみます。M/P を変数と考え、η(需要の価格弾力性)とν(労働供給の弾力性)をパラメーターとして、M/P=x、η=a、ν=b とすれば、(3)式は次のようになります。

(1/(a-1))*(((a/(a-1))^(-a)))*(x^((1+b-a)/b))-x+x^((1+b)/b)

13042819












 x=M/Pなのでx軸が産出水準です。y軸は上記の利潤の差です。パラメーターは、ローマーの数値例(331ページ)と同じです。a=η=5、b=ν=0.1です。ν=0.1なので、ローマーが書いているように、労働供給は非弾力的です。またη=5の場合、「価格は限界費用の1.25倍になる」。マークアップ率がη/(η-1)になるからです(324ページ)。このグラフから、yがゼロ以上になるとわかるので、先ほどの「 πADJ が πFIXED よりも大きくなる」が確認できます。

 そして、このグラフから、産出量の変動に対して、価格を変更した場合と、変更しなかった場合とで、利潤の差が非常に大きくなる、とわかります(変化の割合が大きく、縦長になっている)。つまり、均衡値(上のグラフの最小値)から総産出量がずれると、価格を変更したほうがより大きな利潤を得ることができる、ということです。
 その理由は、労働供給が非弾力的(ν=0.1)と仮定されているからです。産出量の変動に対して、労働供給が非弾力的なので、労働量の変化は少なくなります。しかし、逆に実質賃金の変動が大きくなります(実質賃金の弾力性が高い)。従って、わずかな産出量の変動で、実質賃金が大きく変動するので、企業にとっての費用も大きく変化します。そのためにそれに合わせた価格に変更することで、より大きな利潤を得ることができるようになるわけです。
 (マークアップ率を決めるη(需要の価格弾力性)の値も影響を与えますが、労働供給の弾力性ほどではありません。ηが小さくなると(マークアップ率が大きくなると)、上の関数の形は、横に少し広がります)。

 「これらのパラメーターに基づいて計算すれば、伸縮的価格のもとでの産出水準は、Y=[(η-1)/η]ν
≒0.978となる」(均衡産出水準がY=[(η-1)/η]ν となることは、325ページ(6.46)式)。ここでは、η=5、ν=0.1なので、[(5-1)/5]0.1= 約0.978 ということです。もう少し正確に書けば、0.97793です。
 そして、その均衡産出水準のときに、上のグラフの関数は最小値(=0)を持ちます。その値が0ということは、この均衡産出水準(このパラーメーターの場合では、0.97793)のときに、価格を変更した場合の利潤 πADJ と、変更しなかった場合の利潤 πFIXED とが等しくなる、ということです。

 「ここでMに3%の下落があったとして、他の企業の価格が一定に保たれる場合に代表的企業が価格を調整することの誘引の大きさを考えてみよう」。
 産出量水準が均衡水準から3%低下するので、Y= 0.97Yになります。ここでの数値例では、Y= 0.97Y= 0.97X0.97793 =0.9485921です。
 このときに、価格を変更した場合と、変更しない場合の利潤差は、上のグラフで、x=0.9485921として、yの値を求めれば計算できます。

13042820

 






 ローマーの計算では、0.253ですから、ほぼ同じです。
 「Yはおおよそ1であるから、この計算によれば、産出量の3%の変化に対応して代表的企業がメニュー・コストを支払おうとする[価格変更する]誘引の大きさは、収入の約4分の1[=0.25]に達することになる」。

 このように価格変更によって、大きな利潤の差が生まれるのは、上にすでに書いたように、労働供給の弾力性(ν)が低いからです(ν=0.1)。そのために、産出量が変化(この場合は減少)しても、労働供給量の減少の割合は少なくなり、一方、実質賃金の減少がより大きくなります。W/P=Yγ-1=Y1/ν(325ページの6.43式)なので、ν=0.1の場合、W/P=Y10 となります。そのために、Yの変化に対して、実質賃金 W/P が大きく変化するわけです(この場合は減少する)。
 つまり、総需要が減少し、産出量の減少を抑えるために価格を下げて、需要を維持しようとすれば、価格を下げるので収入が減少します。しかし、実質賃金がそれ以上に大幅に下落し、費用も減少するので、価格を下げたときの利潤は、価格を据え置いた場合よりもかなり大きくなるのです(これに関する説明は331ページです)。

 (ローマーは、上記の例とは反対に、今度は実質賃金が非弾力的になる場合の例を計算しています。338-39ページ。W/P=AY0.1 です。そうなると、ここの例とは反対に、価格変更した場合と変更しなかった場合との利潤差は、かなり小さくなります。約0.0000168。)

**********
 ローマーは、もう少し極端な数値例でも計算しています(331ページの注)
 「たとえば、η=3(これは50%のマークアップを意味する)で、ν=1/3の場合を考えよう。これほど極端な場合を考えても、メニュー・コストを払うことの誘引は、3%の産出量下落に対して伸縮的価格下での収入の0.8%、5%の下落に対しては同2.4%となる」。
 今度は、均衡産出量水準は、[(3-1)/3]0.1=0.8735805 となります。この均衡産出量水準が先ほどの例より低くなるのは、マークアップ率が高くなっているからです。マークアップ率が高くなれば、企業は産出量を減らして価格をつり上げます。前の例と同じように、パラメーターを変えて(a=η=3、b=ν=1/3)グラフを描けば、次のようになります。

13042821










 前のグラフよりも横に広がっているのは、労働供給の弾力性が高くなっているからです(0.1→1/3)。そのために実質賃金の変動が少なくなり、産出量の変化に対して費用の増減の割合が少なくなるので、価格を変更した場合と、変更しなかった場合との利潤の差も少なくなります。
 3%産出量が下落するので、Y= 0.97Y=0.97×0.8735805=0.847373 となります。前の場合と同じように、このときの利潤差を求めると、次のようになります。

13042822








 ローマーの計算では、0.8%でしたが、上の計算では0.7%です(この違いはなぜ?)。
 この数値が前の例よりも少なくなったのは、これも労働供給の弾力性が高くなり、実質賃金の減少の割合が少なくなったからです。そのために、価格変更した場合の、費用の減少の割合が少なくなるので、価格変更したときの利潤の増加分が少なくなるわけです。

 ローマーによれば、この数値でも、価格を変更する誘引は、価格調整の障害よりも大きい、ということです。

 ローマーは、このモデルのケースが現実をよく表していると考えているわけではありません。価格変更した場合と、変更しない場合とでは、変更した場合の利潤が非常に大きくなります(そのために企業は価格変更します)。価格が粘着的になる理由を示すことができていません。

補足:
 この企業 i だけが価格変更して、他の企業が価格をすえ置くという前提も、現実的でないと思いますが、ローマーはこれについてはここでは触れていません。
 他の企業も価格を変更すれば(上記の例のように、その場合の利潤の増加が大きいので、その可能性は高い)、そして、価格変更する企業の割合が増えれば(上のモデルでは、Pが変化する)、企業 i (そして価格変更した企業)の利潤の増加の割合は減少します。

プロフィール

沢ひかる

貧乏人。

経済学「部」とは無縁です。

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