M B K 48

もし貧乏人が経済学を学んだら

8章

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(21)

第8章 投資
8.9 金融市場の不完全性
情報の非対称性のもとでの契約の形態
(472ページ)

 「したがって最適な契約は、外部投資家に対し必要な収益率を提供しつつも、投資家が産出量の確認する状況が生じる割合を最小化するような契約である。」

 ここでは、そのような契約の例として、次のような契約を想定し、それにもとづいて分析が行われます。

(1) 「もしプロジェクトの収益がある境界水準を越えた場合、企業家は投資家に D を支払い、投資家は産出量の確認をおこなわない。」
(2) 収益が D を下回った場合、投資家は確認費用(以下 C )を支払い、産出量のすべてを受け取る。

 投資家の受け取り(確認費用 C を支払う必要がある場合はそれを引いた純受け取り)は、以下の図の赤いラインになります。
13090604






 




 
   (図1)





 プロジェクトの産出量が D 以下の場合は、確認費用 C を支払い産出量を受け取るので、その純受け取りは y-C です(図の黒い直線が y-C です)。産出量が D 以上の場合は、D を受け取るので、y>D では、受け取りは D で一定になります(水平の直線)。
 この図からわかるように、産出量が D<y<D+C の範囲では、投資家の受取は、C を払って産出量を確認して産出量を受け取るよりも多くなります。これが、「外部投資家に対し必要な収益率を提供しつつも、投資家が産出量の確認する状況が生じる割合を最小化する」役割を果たしているわけです。

 プロジェクト産出量は、0 から 2γの間で「一様分布」している、と仮定されています。
13090601










 産出量の確率密度関数を f(y) とすると、f(y) = 1/(2γ) で一定になります。
 産出量の期待値を求めれば、
13090504



13090505
   (1)

 となります。

 産出量がこのように分布しているので、例えば、産出量が 0 から d の間になる確率は d/(2γ) です。その確率は、下の図の色がついている部分の面積です。
13090602










 計算で求めれば(産出量が 0 から y の間になる確率を P(y) とすると)、
13090502



13090503
   (2)

 となります。
 上の図のように、産出量が 0 から d になる場合の期待値(産出量が 0 から d になる条件での期待値=条件付期待値)は、
13090506





13090507 


   (3)

 となります。これは、産出量が 0 から d になる場合の平均産出量が d/2 になる、ということも表わしています。

 そこで、このケースの場合の投資家の期待純受取を求めます(475ページ)。以下 R(D) は、投資家の受取の期待値です。
13090603










(1) 産出量 y が y<2γの場合。
 産出量 y が Dより大きかった場合(上の図の①の場合)は、投資家の受取は D なので、その期待値は、
13090508



13090509
   (3)

 となります。
  次に産出量 y が D より少なかった場合(上の図の②の場合)は、投資家は確認費用 C を払い、産出量を受け取ります。つまり y-C です。
 産出量が 0 から D になる場合の平均産出量はD/2になります((3)式)。産出量が 0 から D になる確率は、(2)式から D/(2γ) なので、純受取の期待値は、平均産出量 D/2 から確認費用 C を引いた値に D/(2γ) をかけた ( D/2-C)D/(2γ) になります(これがローマーの説明)。
 計算で求めれば、
13090510



13090511

   (4)

 です。したがって、y<2γの場合の投資家の受取の期待値は、(3)+(4)なので、
13090512
   (5)

 となります。

(2) D が2γより大きかった場合。
 この場合、産出量はDより小さくなるので(産出量は 2γより大きくならない)、確認費用 C を払い産出量を受け取ります。産出量の期待値は、(1)式からγです。したがって、この場合の投資家の受取の期待値は、

R(D) =γ- C   (6)
 
 です。

 D の変化に対して投資家の期待受取がどのように変化するかを見るために(5)式を変形すると、
13090512


13090513

   (7)

13090514


13090515

   (8)

 となります。これは上に凸の2次関数です。
 したがって、投資家の期待受取 R(D) と D との関係は、次のグラフになります。
13090609





   図2




 D が増加するにつれて R(D) は増加し、D = 2γ-C で最大値 (2γ-C)/4γをとります((8)式から)。D>2γでは、γ- C で一定です((6)式から)。

**********
 実は投資家の期待受取 R(D) は、上記のように計算しなくても求まります。産出量は一様分布しているので、それぞれの産出量が発生する確率は同じです。
 産出量が連続的に変化した場合(下の図の横軸)、投資家の受取の合計は以下の図の面積になります。したがって、期待値はその面積に2γをかければ求まります(あるいは、投資家の受取の合計が以下の図の面積になるので、受取の平均は2γで割ったものです)。下の図の色がついた部分の面積を計算すると、
13090606
















赤い部分は損失分なので、その部分はマイナスにして足します。

13090516



13090517



 これに1/(2γ)をかければ、
13090518



 となります。これは(7)式と同じです。

**********
 投資家の期待受取が図2のように変化する、つまり D = 2γ-C で最大になり、D がそれより大きくなると減少するのは、ローマーの説明によれば、「投資家が産出量を確認する場合、投資家が受け取るネットの額は常に 2γ-C を下回ることにある。したがって、産出量が 2γ-C を上回る場合、D = 2γ-C として確認なしに 2γ-C を受け取るほうが、投資家にとっては D>2γ-C とするよりもよりよい結果となるのである。」(475ページ)

 投資家の期待受取の変化が図2のようになるは、上記の契約(契約1とします)をした場合の受取と、「すべての産出量に対して確認費用 C を払い、産出量を受け取る」という契約(契約2とします)をした場合の受取を比較してみればわかります。
 確認費用 C を払い産出量を受け取る(契約2)場合、投資家の受取は y-C となり、下の図の赤い直線になります。
13090605
















 それに、対して契約1の場合の投資家の受取は、冒頭の図1です。両者を比べれば、

13090607
















 契約1は、契約2に比べて、①の部分が多く、②の部分が少ないわけです。つまり、契約2との差は、①-②になります。
 そこで、Dが増加していくと、①は変化せず、②が減少していきます。そのため投資家の期待受取 R(D) は、D の増加関数になります。
 しかし、D>2γ-C になると、下の図のようになります。
13090608
















 D>2γ-C になると、②の部分はすでになくなっています。そして、Dが増加するにつれて、①は減少します。そのために、D>2γ-C になると、R(D)は減少するのです。

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(19)

**********
8章 投資
将来の収益に関する不確実性
 (461ページ)

 ローマーによれば、次の(8.33)式
13032742

  (8.33)

 をΔt で微分し、Δt → 0 にすると、次の(8.34)式になるそうです。
13032753
  (8.34)

 最初、計算そのものが「どうやって?」でしたが、計算の方法はわかりました(だから以下その部分を書きます)。しかし、この計算の意味がよくわかりません・・・ 
 不確実性を評価するためだと思いますが?

**********
 (8.33)式を考える前に、資本1単位の価値を表すq(t)の式を時間 t で微分してみます(この計算をすると、(8.33)式をどうやって変換したら(8.34)式になるかがわかります)。
13032731

  (1)

 (ローマーの本書では、445ページ、(8.24)式)

 これは、連続時間モデルで企業の最適化問題を解いて導出された(その部分の補足はこちら)、企業の利潤関数の条件に対応しています。
13032721
  (8.22)
 この(8.22)式が導出される過程で、次の条件が出てきます。
13032716


 この式の両辺を時間tで積分すれば、(1)式になりそうな感じなのですが・・・ 積分区間がわからない(どの時点で価値を評価するかによって決まると思いますが)。

 そこで、逆に(1)式を時間 t で微分して、(8.22)式になるか、確かめてみます。

 (1)式を時間 t で微分する前に、積分の中の ert  を外に出します。t は被積分変数ではありませんので(被積分変数は τ )、外に出しておいたほうが計算しやすいからです。
13032732

  (2)

 この(2)式を t で微分するわけですが、そのとき、ある関数 f(t) を a から x まで積分した関数を x で微分すると、f(x) になる(aは、a≦xとなる定数)、という関係を使います。
13032733
 
 

13032734



 積分区間が入れ替わった場合には、
13032735



 となります。従って、(2)式の積分の部分を t で微分すると、τ に t を代入した関数になります。そこで、(2)式を時間 t で微分すると、
13032736



13032737



13032738



 ここで、左の項の積分の前の ert  を再び積分の中に戻します。
13032739



 左の積分の項は、(2)式から q(t) です。従って、
13032740
(3)
 となります。
 つまり、(1)式を時間tで微分すると、(3)式になるわけです。

 もう一度(1)式を引用すると、
13032731

  (1)

 この(1)式が表しているのは、資本1単位当たりの限界収入生産物 π(K)(資本1単位の生産性) の流列(合計)を、現時点 t を基準とした(t を現在とする)割引現在価値で表したもの(右辺)が、時点 t での、資本1単位当たりの市場価値 q になっている、ということです。
 一方、(3)式

dq(t)/dt = rq(t)- π(K(t))

 が表しているのは、その資本1単位当たりの市場価値である q の(時間 t に関する)変化率は、資本のレンタル料(投資家へのリターン)から限界収入生産物 (π(K)) を引いたものになる、ということです。瞬時的な q の変化は、この式で示されるような最適化を行っている、ということです。

 そこで、(1)式の時間 t を Δt だけ後ろにずらして評価しましょう、というのがここでローマーがやろうとしていることです。
 
**********
 (8.33)式をΔtで微分する場合も、上記と同じ方法になります。もう1度(8.33)式を引用しておけば、
13032742



 Δtで微分したとき、左辺は次のようになります。q(t) を t で微分した場合と同じです(dq(t)/dt に、t = t+Δt を代入する)。
13032743


 そこで、右辺を Δt で微分するわけですが、上の計算と同じように、まず erΔt  を積分の外に出します。
13032744



13032745



13032746



13032747



 2番目の項の積分を Δt で微分すると、τ に t+Δt を代入したものになります。また、最初の項の erΔt  を再び積分の中に戻します。
13032748



13032749


 最初の項の積分は、q(t+Δt) なので、
13032750


 従って、(8.33)式を Δt で微分すると次の関係になります。
13032751


 ローマーが指示するとおり、Δt → 0 とします。
13032752


 時点 t においてわかっている変数は、期待値をはずせます。左辺の dq(t)/dt は、時間変化なので、時点 t ではまだわからない、ということでしょう。 
13032753
 (4)

**********
 しかし、最初に書いたように、この手続きの意味がよくわかりません。時点(t)を Δt だけ後ろにずらせば、不確実性の領域に入ってきます(未来のことはわからないので)。
 
 (1)式が示していることは、q は、限界収入生産物(資本単位当たりの生産性)の流列(合計)を割引現在価値で表したものに等しい、ということでした。その q を時間 t で微分することで、瞬時的な q の変化が、(3)式で表されるような「最適化」に対応している、ということがわかりました。

 そこで、時点 t を Δt だけ後ろにずらして同じ作業をします。(でも、なぜ t+Δt ではなくて、Δt で微分するのか、という疑問が残ります・・・ )

 その結果導出された(4)式は、不確実性がない場合の(8.22)式や(3)式と変わらないものになります(dq/dt に期待値がついていることを除いて)。
 それなので、ここから得られるインプリケーションは、「不確実性は投資に直接的な影響を及ぼさないように思われる」(461ページ)、ということになるようです。

 ただし、この後の議論では、不確実性が及ぼす影響は無視できない(大きい)、という方向に進みます。

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(18)

**********
第8章 投資
8.4 モデルの解析
 (447ページ)

 ここでは、産業の資本総量(K) と、資本の価値(q) に関して、位相図を使って分析しています(以下の補足は、位相図を描くための導入の部分についてです)。

 まず、企業の最適化問題から、2つの条件が導かれました(導出は前回の部分)。
13032718
       (1)   (ローマーの(8.21)式)
 13032721  
  (2)    (ローマーの(8.22)式)

 この関係から、K(産業全体の資本ストック) と q(資本の価値) の空間に、dq/dt=0 の軌跡と、dK/dt=0 の軌跡を描き、その位相図において、dq/dt (qの変化) と dK/dt (Kの変化) を検討したいわけです。

(1)
 まず、dq/dt=0 の軌跡は(2)式からわかります。(2)式の dq/dt を移項すれば、

dq/dt = rq(t)-π(K(t))   (3)

 となります。dq/dt=0 ならば、rq(t)=π(K(t)) という関係になります。従って、

q(t)= π(K(t))/ r (4)

 となります。企業の利潤関数 π(K(t)) は、産業全体の資本ストックに対して、減少関数になります。需要が一定だとして、ある企業の資本ストックに対して、産業全体の資本ストックが増加すれば、その企業の資本ストックが産業全体に占める割合は減ります。一定の需要を奪い合うことになるので、π(K(t))は、産業全体の資本ストックに対して、減少関数になるわけです(この部分の説明は、439ページ)。
 従って、(4)式は、(K,q) の空間で右下がりの関数になります。つまり、dq/dt=0 の軌跡は、(K,q)の空間で右下がりになる、ということです。

 dq/dt の動学は、次のようになります。(3)式から、K が増加すると、π(K(t)) が減少し、dq/dt は増加します。従って、dq/dt=0 の軌跡より右側(Kが大きくなる)領域では、qは増加します。逆に、dq/dt=0 の軌跡より左側では、q は減少します。位相図は、一番最後↓にあります。

(2)
 いっぽう、dK/dt (Kの変化)は、(1)式と(2)式には現れていません。しかし、最適化するときの条件として、次の関係(予算制約)がありました。
13032702
  (5)

 投資が、資本の時間変化(増減)になる、ということです。
 そこで、この関係と(1)式を使って、dK/dt と q の関係を導きます。
13032718
  (1)

 (1)式から、C’(I)の逆関数を想定し(そうすれば、C’(I) を変数として、I を表すことができます)、そうすると I と q の関係がわかりますから、次に、(5)式から、dK/dt と q の関係が導かれます(言葉で書くとわかりにくい・・・)。

 ところで、(1)式の左辺の 1 は、資本の価格を表しています(ここでは 1 に固定されています)、C(I) は、資本の調整費用です。これは、投資に対して増加関数です(投資が増えれば資本ストックも増え、資本の調整費用が増加するから)。また、C”(I)>0なので(でないと、投資を増やすほど、投資に対する相対的な費用の増加が鈍化することになるので、どんどん投資したほうがよくなる)、C’(I) も I に対して、増加関数です(この説明は、440ページ)。
 そこで、まず、I と C’(I) の関係を図で表してみます。C’(I) は I の増加関数なので、
13032901








 
 (1)式から、q は C’(I) に 1 を足したものですから、上の図でC’(I) を上に 1 シフトさせたものになります。
13032902








 
 ここで求めたいのは I ですから、C’(I) の逆関数を考えます(縦軸を横軸と考え、縦軸の変数から I を表すようにする)。図でかけば、
13032903









 図(3)

  C’(・) の逆関数を、 C’-1(・) とすると、上の図の C’(I) と I の関係は、I = C’-1(C’(I)) となります。(1)式から、 C’(I)は、q から 1 を引いたものですから(上の図でもそうなっています)、

I = C’-1(q-1) 

 となります。従って、(5)式を組み合わせれば、

dk/dt = C’-1(q-1)

 この産業には企業がNあるとすると、全体の資本ストックはN倍すればいいので、

dK/dt = NC’-1(q-1) (6)

 となります。そして、C’(0)=0 です。投資がゼロならば、資本の変化はないので、調整費用もかかりません。また、(1)式から、C’(0)=0 のとき、q は 1 になります。従って、q=1のときに、(6)式は、0になります。
 つまり、dK/dt =0 の軌跡は、(K,q) の空間で、q=1 の水平な直線になる、ということです。

 また図3から、I は q の増加関数になっていますから(q=資本1単位の価値 が増えれば、投資が増える、というのは直感的に考えてもわかります)、q>1 のときに、dK/dt >0 (dK/dt =NI なので)、q<1のときに、dK/dt <0 になります。言い換えれば、dK/dt =0 の軌跡より上の領域では、K は増加し、dK/dt =0 の軌跡より下の領域では、Kは減少します。位相図は、下の図のようになります。

13032904



 

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(17)

 企業の最適化問題の連続時間モデル。 
 こちらも参考になるかもしれません(← ブランシャール/フィッシャーの補足ですが、ラムゼイモデルの連続時間モデルで、ハミルトニアンを使っています)。

**********
第8章 投資
企業の最適化問題 (444ページ)

 ハミルトニアンを使わずに計算したほうが、離散時間モデルと対応するので、まずハミルトニアンを使わずに計算します。
 (440ページから)
 企業の利潤は、π(K(t))・k(t)-I(t)-C(I(t)) です。ここで、π(・)は、この企業の利潤関数(この式の表記から、資本1単位当たりの生産性、つまり、限界収入生産物とも言えます)。K(t)は、この産業全体の資本ストック、k(t)は、この企業の資本ストック(ローマーの本書では、kではなくてギリシャ文字ですが、以下アルファベットの小文字のkで表します)、I は投資、C は、企業にとっての資本ストックの調整費用です。
 企業は、この利潤の流列の割引現在価値を最大化します。次の式を最大化します。
13032701

 (1)

 投資と資本ストックの時間変化の関係は、次のようになります。
13032702


 投資が、資本の時間変化(増減)になる、ということです。この関係が、(1)式を最大化するときの、予算制約になります。

 (ここから444ページ)
 そこで、ラグランジュ方程式を設定すると、
13032703



13032704



13032705



13032706

   (2)

 離散時間モデルでは、ラグランジュ乗数として、λ(t)ではなくて、q(t)を使っていますが、ここではλ(t)で計算します(後で変えれば同じになります)。
 1階の条件を求めるためには、I と k で微分します。k で微分するときには、注意が必要です。

(1) I で微分
 (2)式を I で微分して、1階の条件を求めると、
13032707


13032708
  (3)

(2) k で微分
 ラグランジュ方程式をkで微分するときには、λ(t)dk(t)/dt をkで微分しないといけません。これは、次のように計算します(この計算の方法に関しては、中田真佐男氏の『動学マクロ経済学に必要な数学』を参考にしました)。まず、λ(t)k(t) を t で微分します。
13032709


 この式から、λ(t)dk(t)/dt は、次のように表せます。 
13032710
 (4)

 この(4)式を、(2)式の最後の積分の項に代入して計算します。
13032711



13032712

  (5)

 横断性条件から、t→∞ のときのλ(t)k(t)は、0になります。(5)式を使って、(2)式のラグランジュ方程式を書き換えると、 
13032713



13032714


 k で微分し、1階の条件を求めます。
13032715


13032716
 (6)

(3)
 離散時間モデルのときと同様に、λ(t) ではなくて、q(t) に変更します。λ(t) は、k の「外生的な増加が時点0で評価した企業利潤の総価値に与える限界的効果」を示しています。q(t)は、「時点 t での企業にとっての追加資本1単位の価値を時点 t でのドル単位で表したもの」になります。(←この説明は、441ページ)
 q(t) と λ(t) との関係は、次のようになります。
13032717
 (7)

 これを(3)式に代入すれば、
13032718
  (ローマーの(8.21)式)

 次に、(7)式のλ(t)を(6)式に代入すれば、
13032719


13032720
  (8)

13032721
 (ローマーの(8.22)式)

 この2つの条件((8.21)式と(8.22)式)の意味は、離散時間モデルと同じです。

 (8.21)式が示しているのは、「1単位の資本を取得するのに必要な経費」(=q(t)) が、「その購入価格(ここでは1に固定されている)に限界調整費用を加えたものに等しい」(441ページ)ということです。
 これは、企業が次のように最適化することを意味します。
 企業は、資本の市場価格(右辺 q)がその取引費用(左辺 1+C’(I))を上回っている場合には資本ストックを増加させ(投資を増やす)、逆に市場価格が取引費用より低い場合には、資本ストックを削減する、ということです(445ページ)。

 一方、(8.22)式の右辺は、「資本1単位の機会費用」、つまり、1単位の資本を保有すると時間当たり、rq(t)の放棄が求められる一方、q(t)/dt のキャピタルゲインが得られる、ということを示しています。従って、企業は、限界収入生産物(左辺)が、その資本1単位の機会費用と等しくなるまで、資本を増加させる、ということが示されます(442ページ)。

**********
 ハミルトニアン関数の設定から導出する方法。ハミルトニアンについては、チャンの『現代経済学の基礎』(下)に詳しい説明があります(以下もチャンから引用)。

 一般的に最大化問題は、次のように書けます。
 *任意の時間 t において、制御変数 u(t) が決定される。
 *制御変数 u は、運動方程式(動学方程式)を通じて、状態変数 y に影響を与える。
 *状態変数 y は、目的関数に影響を与える。目的関数を最大化する条件を見つける。

 この最大化問題を定式化すると、

 制約条件(状態変数の動学方程式)
13032201


 y(0)=y0 y(T)=yT
13032202



を最大化する。」 ということになります。

 ハミルトニアン関数は、次のように設定されます。
13032203

 ここで、λ(t)は、共役状態変数と呼ばれています。

 ハミルトニアンを上記のように設定すると、最大化条件は次のようになります。
13032206
  (9)

13032204
  (10)

13032205
  (11)

λ(T)=0 (横断性条件)  

 ただし、(1)の条件が可能になるためには、「ハミルトニアンがuで微分可能で、内点解を得ることができる」という条件があります。

**********
(4)現在価値ハミルトニアン
 そこで、ローマーの本書に戻って、最初に444ページの「当該期価値ハミルトニアン」((8.20)式)ではなくて、445ページ下の注に記載されている「現在価値ハミルトニアン」で計算します(上のチャンの条件がそのまま使えるので)。
 まず、ハミルトニアンは、ローマーが示しているとおり、次のようになります。
13032722


 上記の、一般的な最大化問題のそれぞれの変数と関数を、次のように変えればいいわけです。制御変数uは、I(t)(投資)です。状態変数 y は、k(t)(資本ストック)です。共役状態変数 λ(t)は、λ(t)です。
 最大化条件は、次のようになります。
 上記の(9)式に対応するもの。
13032723

 (12)

 上記の(11)式に対応するもの。
13032724
 
 (13)

 (12)式の条件から、
13032725


13032708

 が導かれますが、これは上の(3)式と同じです。
 次に、(13)式の条件から、
13032726


 これは、上の(6)式と同じです。λ(t)にq(t)を代入すれば、ラグランジュ方程式を用いた場合と同じ式が導出されます。

(5)当該期価値ハミルトニアン
 当該期価値ハミルトニアンは、ローマーの(8.20)式ではなくて、次の式の設定にしたほうがいいと思います(最後にe-rt がついている)。
13032727


 先ほどの現在価値ハミルトニアンの場合と同じように、最大化条件を求めます。
 (9)式に対応するもの。
13032728

  (14)

 (11)式に対応するもの。
13032729
  (15)


 (14)式の条件から、
13032730


 -1-C’(I)を移項すれば、ローマーの(8.21)式になります。
 (15)式の条件は、(13)式と同じです。

(15)式を計算すると、
13032719


13032720


 となり(これは前の(8)式)、両辺に、e-rt が出てきて、そのe-rt が消去されるので、ローマーの(8.20)式には、e-rt がついていないといけないと思うのですが・・・ ???

プロフィール

沢ひかる

貧乏人。

経済学「部」とは無縁です。

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