英語のwikipediaがとてもいいです(
こちら。以下はそのwilipediaにしたがって、まとめたものです)。モデルを単純化して、かなり詳しく説明しています。教科書にそのまま載っててもいいくらい。ただし、最後の式が違います。正しくは(この記事の最後に示しますが)、$V_{e}-V_{u}=(ey+fc)/(r+f+e)$. ピーター・A・ダイアモンド(Peter A. Diamond)の元の論文は、
"Aggregate Demand Management in Search Equilibrium" (1982)
です(このタイトルで検索すれば、pdfファイルが見つかると思います)。


ダイアアモンドのココナッツモデル
島の人はココナッツを取って生活している(実は、取らなくても生活できるんだけど)。ココナッツを取るには費用 c がかかるが、食べると効用 y が得られる。ただし、島には自分で取ったココナッツは食べてはいけないという掟がある。他の人とトレードして初めて(食べて)効用を得る。

 ココナッツの木を見つける確率は f 。ココナッツを持っている人に出会う確率は b とします。島の人口のうち、すでにココナッツを持っていて、交換相手を探して人の割合は e 。

 ココナッツ探しに参加する人が多いほど、ココナッツを持っている人に出会う確率は大きくなるはずだから、b はe の関数で、$b'(e)>0$ ( e による一階微分はプラス)と想定できます。e の増加にしたがって、b も増加するから。

 すでにココナッツを取り、ココナッツを持って、交換する相手を探している状態の価値を $V_{e}$ (添え字が e になっているのは、このモデルを雇用に当てはめると、雇用されている状態に当たるから)、ココナッツを持っていなくて、ココナッツの木(ヤシの木)を探している状態の価値を $V_{u}$ とします(添え字が u になっているのは、失業に当たるから)。その場合、それぞれ価値の割引現在価値は、次の式で表されます(この式の導き方はローマーの『上級マクロ経済学』を参照。モデルは違うものですが、9章、9.4節、509ページ)。

$rV_{e}= b(e) (y+V_{u}-V_{e})+\displaystyle \frac{dV_{e}}{dt}$   (1)
$rV_{u}= f (-E[c]+V_{e}-V_{u})+\displaystyle \frac{dV_{u}}{dt}$   (2)

ここで、r は主観的時間割引率です。c はココナッツを取るためのコストです。ここでは、その値は、現時点ではわからないことになっていて、期待値で表されています。

 ココナッツをすでに手に入れ、交換相手を探している人の時間変化は次の式で表されます。

$\displaystyle \dot{e}= f(1-e)-b(e)e    (\dot{e}=\frac{de}{dt})$      (3)

 右辺の第1項は、ココナッツの交換市場に入ってくる人の割合です(inflow)。ココナッツを入手しているの割合が e なので、1-e の人がココナッツを探しています。ココナッツの木(ヤシ)を見つける確率が f なので、f(1-e) の人がココナッツを見つけ、ココナッツの交換市場に入ってくるわけです。

 右辺第2項は、ココナッツの交換市場から退出する人の割合です。e の割合の人がココナッッツを持っていて、交換相手を探しています。そのうち $b(e)$ の割合(確率)の人が交換相手を見つけるので、$b(e)e$ の人が交換相手を見つけ、ココナッツを交換し、消費し、再びココナッツを探す状態(u)に戻っていきます。つまり、ココナッツの交換市場から退出するわけです。したがって、その右辺の第1項と第2項の差が、ココナッツを手に入れ、交換相手を探している人(ココナッツ市場にいる人。状態 e の人)の増加率になります。

 定常状態では、変数の変動が止まる点なので、$de/dt=0$ となります。$b(e)$ の例として、$b'(e)>0$ になればいいので、$b(e)=e$ という単純な関数を想定すると、(3)式は、

$\dot{e}= f(1-e)-e^{2}$    (4)

 となります。定常状態では、$de/dt=0$ なので、

$e^{2}+fe-f=0$

 が成り立つことになります。したがって、定常状態では、

$e^*= \displaystyle \frac{1}{2}(-f+\sqrt{f^{2}+4f })$

 の割合の人が、ココナッツの交換市場にいることになります。

 しかし、$de/dt=0$ となる、もうひとつの定常状態(均衡)があります。島の人が、他にココナッツを持っている人がいなくて、交換できる相手がいない、と思ってしまうと、誰もココナッツを取ろうとしません(コストだけを払うことになるから)。そうなると、ココナッツの交換市場に入ってくる人がいなくなるので、(4)式の右辺の第1項は 0 になります。その場合、(4)式は $de/dt=-e^2$ となり、定常状態( $de/dt=0$ )では、 e の値が $e^*=0$ となります。これは、ココナッツを取り、交換する人が 0 になることを意味します。誰もココナッツを取らない状態も定常状態(均衡)になるわけです。

 誰もココナッツを取ろうとしない状態は、定常状態(均衡)ですが、最適(パレート最適)ではありません。みんなでココナッツを取って、交換したほうが効用を高めることができるからです(パレート改善の余地がある)。

 通常、経済学では、市場にまかせておけば、最適な均衡に到達できる、と想定されています。しかし、このモデルは、市場にまかせておいても、最適な均衡には到達できない可能性があることを示しています。理由は、均衡が、個人の合理的な最適化(効用最大化)で決まる(これが通常の経済学の想定)だけではなくて、他の人の行動によって左右されるからです。みんなが、ココナッツを取るのはコストがかかるし、他にココナッツを持っている人はいないだろう、と思ってしまうと、ココナッツを取らないこと(それは最適ではないのに)が均衡になってしまうわけです。

 言葉を変えて言えば、経済の均衡は、ある部分、自己実現的である、ということです。みんなが、そうなるだろうと思うと、その予想が(望ましいものではなくても)実現してしまうわけです。

 これは、(1)式、(2)式を使っても、確かめることができます。定常状態では、$\displaystyle \frac{dV_{e}}{dt}=0$,$\displaystyle \frac{dV_{u}}{dt}=0$ になるので、

$rV_{e}= b(e) (y+V_{u}-V_{e})$   (5)

$rV_{u}= f (-c+V_{e}-V_{u})$   (6)

 となります(ここで、$E[c]=c$ としています。そうなる例としては、ヤシの木の高さは同じで、コストはどれも同じだとみんな思っている場合)。(5)式から(6)式を引いて、$V_{e}-V_{u}$ を求めます。

$r(V_{e}-V_{u})=b(e)y+fc-(b(e)+f)(V_{e}-V_{u})$

$V_{e}-V_{u}=\displaystyle \frac{b(e)y+fc}{r+f+b(e)}$

 $b(e)=e$ なら、$V_{e}-V_{u}$  は

$V_{e}-V_{u}=\displaystyle \frac{ey+fc}{r+f+e}$   (7)

 となります。$V_{e}-V_{u}$  がコスト c よりも大きくなければ、誰もココナッツをとろうとしません。したがって、みんながココナッツを探し、ココナッツを取り、交換を始める条件は、

$V_{e}-V_{u}=\displaystyle \frac{ey+fc}{r+f+e}>c$   (8)

 となります。ここで、$e=0$ の場合、つまり、誰もココナッツを取ろうとしない状態の場合、(7)式は、

$V_{e}-V_{u}=\displaystyle \frac{fc}{r+f}$

 となります。右辺は c より大きくなっています。

$(\displaystyle \frac{f}{r+f})c>c$

 $V_{e}-V_{u}$  がコスト c よりも大きい場合は、誰もココナッツをとろうとしないことになるので、これは $e=0$ となることと整合的です。したがって、$e^*=0$ (誰もココナッツを取ろうとしない状態)は、均衡になっているわけです。

 いっぽう、(8)式の条件から、ココナッツの交換が始まる条件は、 

$e>\displaystyle \frac{rc}{y-c}$

 となります。$b(e)=0$ と仮定していたので、元の $b(e)$ で表記すれば、その条件は、

$b(e)>\displaystyle \frac{rc}{y-c}$

 となります。政府が何か経済政策によって、$e^*=0$ ではなくて、人々がココナッツ市場に参加する「最適な」均衡が達成されるようにするには、(1)コスト c を補助し、c を下げる(上記の不等式の右辺は小さくなります)、(2)同じことですが、利益(効用) y に上乗せする、(3)スパルタ教育をし、忍耐力を鍛える(時間割引率rを下げることになるから)、(4)STAP細胞技術を支援し、人の首をキリンのように長くする、というような方法が考えられます。