M B K 48

もし貧乏人が経済学を学んだら

ギボンズ、『ゲーム理論』

ギボンズ(Gibbons) 『ゲーム理論』、練習問題 3.8

 (Texを読み込むのに少し時間がかかります。) 

 最初のダブル・オークションの線形均衡は、160-61ページと同じ手続きを経れば求まります。あるいは、sugiさんのブログに解答があります。
http://blog.livedoor.jp/sugi5_4/archives/36901819.html
 ですので、結果だけを書きます。(この記事がかなり長いので、いったんこれを書いて、余裕があれば、前半のダブル・オークションの説明を加えるかもしれません。)

 企業が選ぶ賃金 (企業の戦略) を $w_{f}$ とし、労働者が選ぶ賃金 (労働者の戦略) を $w_{e}$ とすると、その両者の線形戦略の均衡(線形均衡)は、

$w_{f}=\displaystyle \frac{2}{3}m+\frac{1}{12}$   (1)

$w_{e}=\displaystyle \frac{2}{3}v+\frac{1}{4}$   (2)

 となります。取引が行われるのは $w_{f}>w_{e}$ となる場合なので、(1)式、(2)式から、その条件は、

$\displaystyle \frac{2}{3}m+\frac{1}{12}>\frac{2}{3}v+\frac{1}{4}$
 $\Leftrightarrow$
$m>v+\displaystyle \frac{1}{4}$   (3)

 となります。これを図で示せば、次のようになります。
8(11)









   図1




 グレーの色をつけた部分は非効率になっている領域です ( $m>v$ となるなら、$v<w<m$ となる賃金で雇用すれば (雇用されれば)、企業も労働者も利得を増やせるが、雇用されていない)。

 両者の期待利得は、

$\pi_{f}=\left\{\begin{array}{l}
\displaystyle 0\hspace{10pt}(0\leq m<\frac{1}{4})\\
\displaystyle \frac{1}{2}m^{2}-\frac{1}{4}m+\frac{1}{32} \hspace{10pt} (\frac{1}{4}\leq m\leq 1)
\end{array}\right.$   (4)

$\pi_{e}=\left\{\begin{array}{l}
\displaystyle \frac{1}{2}v^{2}+\frac{1}{4}v+\frac{9}{32}\hspace{10pt} (0\leq v\leq\frac{3}{4})\\
\displaystyle \frac{7}{32}\hspace{10pt}(\frac{3}{4}<v\leq1)
\end{array}\right.$   (5)

 となります (これも計算は省略)。(3)式から、また、図1から、企業が取引を行うのは、$\displaystyle\frac{1}{4}\leq m\leq1$ の場合だけです。したがって、$\displaystyle m<\frac{1}{4}$ となる場合の期待利得は $0$ です。また、$\displaystyle v>\frac{3}{4}$ の場合は、 (3)式から、また、図1から、取引が行われる条件となる $m$ の値が $1$ より大きくなります。そのため、取引は行われません。したがって、$\displaystyle v>\frac{3}{4}$ となる場合の労働者の期待利得は、単純に外部での雇用から得られる利得の期待値、つまり、$\displaystyle\frac{3}{4}<v\leq1$ となる場合の $v$ の期待値、$\displaystyle E\hspace{2pt}[v\hspace{2pt}|\hspace{2pt}v>\frac{3}{4}]\hspace{5pt}=\frac{7}{32}$ になります。
 
 $m$, $v$ は $[0,1]$ の一様分布なので、期待利得はさらに計算できます。積分区間に注意して計算すると、

$\displaystyle \pi_{f}=\int_{\frac{1}{4}}^{1}(\frac{1}{2}m^{2}-\frac{1}{4}m+\frac{1}{32})\hspace{4pt}dm=\frac{9}{128}$

$\displaystyle \pi_{e}=\int_{0}^{\frac{3}{4}}(\frac{1}{2}v^{2}+\frac{1}{4}v+\frac{9}{32})\hspace{4pt}dv+E\hspace{2pt}[v\hspace{2pt}|\hspace{2pt}v>\frac{3}{4}]$

$=\displaystyle \frac{45}{128}+\int_{\frac{3}{4}}^{1}v\hspace{4pt}dv=\frac{45}{128}+\frac{7}{32}=\frac{73}{128}$

 となります。したがって、企業と労働者の期待利得の和は、

$\displaystyle \pi_{f}+\pi_{e}=\frac{82}{128}=\frac{41}{64}$   (6)

 となります (注(1) )。


ゲーム I
 これは159ページの単一価格均衡に対応しています。
 企業と労働者がそれぞれの私的情報 (企業にとっては労働者の生産性 $m$, 労働者にとっては外部での雇用の機会 $v$ ) を知る前に、区間 $[0,1]$ から任意に $w$ が決定されます。企業の最適戦略は、もし $m\geq w$ なら取引を受諾し (賃金 $w$ で雇用する)、$m<w$ なら拒否する (雇用しない) というものになります。いっぽう、労働者の最適戦略は、もし $v\leq w$ なら受諾し (賃金 $w$ で就職する)、$v>w$ なら拒否する (就職しない)、というものになります。これは最適戦略でありナッシュ均衡になっています。企業は、$m<w$ である労働者を雇用しても、企業の利得は $m-w$ なので、利得がマイナスになるだけです。また、労働者にとって、$v>w$ の場合に取引に応じる (就職する) のは、外部から得られる利得 $v$ のほうが賃金 $w$ より大きくなっているため、最適ではありません。

 取引が行われるタイプの組を図示すると、次の図となります。
8(2)






   図2







 $m\geq w$ かつ $v\leq w$ となる領域 (黄色の部分) でのみ取引が行われ、それ以外の領域では取引は行われません。グレーの領域は不効率になっている領域です (左下の三角形では $v<w^{\prime}<m$ となる賃金 $w^{\prime}$ で雇用すれば、企業も労働者も利得を増やせるのに、賃金が $w\hspace{4pt}(>m)$ に設定されているため企業が雇用しない。右上の三角形では、$v<w^{\prime \prime}<m$ となる賃金 $w^{\prime \prime}$ で雇用されれば、企業も労働者も利得を増やせるのに、賃金が $w\hspace{4pt}(<v)$ に設定されているため労働者が拒否する)。

 そこで、企業と労働者がそれぞれの私的情報を知る前に、$w$ を設定した場合の両者の期待利得を求めると、まず企業の期待利得は (企業にとっての私的情報 $m$ は、賃金を決める時点ではわかっていないので期待値で計算する必要があります)、

$\pi_{f}=(E\hspace{2pt}[m\hspace{2pt}|\hspace{2pt}m>w]-w)\hspace{2pt}Pr\{m>w\}Pr\{v\leq w\}$   (7)

 となります。続けて計算していくと、

$\pi_{f}=(\displaystyle \frac{w+1}{2}-w)(1-Pr\{m\leq w\})Pr\{v\leq w\}$

$=(\displaystyle \frac{w+1}{2}-w)(1-w)w$

$=\displaystyle \frac{(1-w)^{2}w}{2}$   (8)    

 となります。
 ( (8)式の値は、積分を使って計算することもできます。図2の黄色の領域で $w-m$ の期待値を計算すればいい。
$\displaystyle \pi_{f}=\int_{0}^{w}\int_{w}^{1}(w-m) \hspace{4pt}dm\hspace{2pt}dv=\frac{(1-w)^{2}w}{2}$   )

 次に、労働者の期待利得を計算すると (労働者にとっての私的情報 $v$ も、賃金を決める時点ではわかっていないので期待値で計算する必要があります)、

$\pi_{e}=w\hspace{2pt}Pr\{m>w\}Pr\{v\leq w\}$

$+E\hspace{2pt}[v\hspace{2pt}|\hspace{2pt}v\leq w]Pr\{m\leq w\}Pr\{v\leq w\}$

$+E\hspace{2pt}[v\hspace{2pt}|\hspace{2pt}v>w]Pr\{v>w\}$   (9)

 となります。第1項が次の図3の①、第2項が②、第3項が③に対応しています。
8(22)






   図3







 続けて計算していくと、

$\pi_{e}=w(1-Pr\{m\leq w\})Pr\{v\leq w\}$

$+\displaystyle \frac{w}{2}Pr\{v\leq w\}Pr\{v\leq w\}$

$+\displaystyle \frac{w+1}{2}(1-Pr\{v\leq w\})$

$=w(1-w)w+\displaystyle \frac{w}{2}ww+\frac{w+1}{2}(1-w)$

$=-\displaystyle \frac{w^{3}}{2}+\frac{w^{2}}{2}+\frac{1}{2}$   (10)

 となります。
 (これも積分を使って計算できます。図3に従って積分区間を設定し、(9)式の第1項は、
$\displaystyle \int_{0}^{w}\int_{w}^{1}w \hspace{4pt}dm\hspace{2pt}dv$
 第2項は、
$\displaystyle \int_{0}^{w}\int_{0}^{w}v \hspace{4pt}dv\hspace{2pt}dm$
 第3項は、
$\displaystyle \int_{w}^{1}v\hspace{4pt}dv$ となります。  )

 したがって、(8)式、(10)式から、企業と労働者の期待利得の和は、

$\displaystyle \pi_{f}+\pi_{e}=-\frac{w^{2}}{2}+\frac{w}{2}+\frac{1}{2}$

$=-\displaystyle \frac{1}{2}(w-\frac{1}{2})^{2}+\frac{5}{8}$   (11)

 となります。(11)式から、この期待利得を最大にする $w$ の値は $\displaystyle \frac{1}{2}$ で、その場合の期待利得は $\displaystyle \frac{5}{8}$ になることがわかります。


ゲーム II
 このゲームでは、企業が私的情報、つまり労働者の生産性 $m$ を観察してから、賃金 $w$ を提示します。企業の利得は $m-w$ です。しかし、労働者は、$v>w$ の場合は、この取引を拒否します。したがって、企業が利得を得ることができるのは、$v\leq w$ となる場合だけです。企業はこの労働者の行動を予測して期待利得を最大にするように戦略、つまり、$w$ を決めます。企業の期待利得は、

$\pi_{f}=(m-w)Pr\{v\leq w\}$

$=(m-w)w$

$=-(w-\displaystyle \frac{m}{2})^{2}+\frac{m^{2}}{4}$   (12)

 です。(12)式を最大にする $w$ は、

$w=\displaystyle \frac{m}{2}$   (13)

 です。企業にとって、この期待利得を最大にする賃金を選択するのが最適なので、企業の最適戦略は、$w=\displaystyle \frac{m}{2}$ を選択することです。その場合の企業の期待利得は、(12)式から、

$\displaystyle \pi_{f}=\frac{m^{2}}{4}$

 になることがわかります。$m$ は $[0,1]$ の一様分布なので、さらに計算できて、

$\displaystyle \pi_{f}=\int_{0}^{1}\frac{m^{2}}{4}\hspace{4pt}dm=\frac{1}{12}$   (14)

 となります。

 企業は $w=\displaystyle \frac{m}{2}$ となる賃金を選択し、労働者は $w\geq v$ となる場合にのみ取引に応じるので、取引が行われるのは、$\displaystyle v\leq \frac{m}{2}\hspace{6pt}(m\geq 2v)$ となる場合です。これを図で示せば、次のようになります。
8(3)








   図4





 $\displaystyle v\leq \frac{m}{2}\hspace{6pt}(m\geq 2v)$ となる領域(黄色の部分)が取引が行われる領域です。グレーの部分は非効率になっている領域です (企業が $v<w^{*}<m$ となる賃金 $w^{*}$ を提示すれば、企業も労働者も利得を増やせるが、$w=m/2$ を選択しているため (このグレーの領域では $v>w\hspace{6pt}(=m/2)$ となるため) 労働者が拒否する)。

 ( (14)式の企業の利得の値は、積分を使って計算することもできます。$m-w$ の期待値を $m\geq 2v$ となる領域 (図4の黄色の領域) で計算すればいい。  
$\displaystyle \int_{0}^{1}\int_{0}^{\frac{m}{2}}(m-w) \hspace{4pt}dv\hspace{2pt}dm=\displaystyle \int_{0}^{1}\int_{0}^{\frac{m}{2}}(m-\frac{m}{2}) \hspace{4pt}dv\hspace{2pt}dm$
$=\displaystyle \int_{0}^{1}\int_{0}^{\frac{m}{2}}\frac{m}{2} \hspace{4pt}dv\hspace{2pt}dm=\int_{0}^{1}\frac{m^{2}}{4}\hspace{4pt}dm=\frac{1}{12}$   )

 次に、企業が提示する賃金を $w$ とすると、労働者の期待利得は、

$\pi_{e}=wPr\{v\leq w\}+E\hspace{2pt}[v\hspace{2pt}|\hspace{2pt}v>w]Pr\{v>w\}$   (15)

 となります。(13)式から、企業は $w=\displaystyle \frac{m}{2}$ を提示するので、$w$ に代入すれば、

$=\displaystyle \frac{m}{2}Pr\{v\leq\frac{m}{2}\}+E\hspace{2pt}[v\hspace{2pt}|\hspace{2pt}v>\frac{m}{2}]Pr\{v>\frac{m}{2}\}$

 (ここでは、$m$ をいったん所与として計算しています。別の計算方法、$v$ を所与として計算する方法は、注(2) )  続けて計算していくと、

$=\displaystyle \frac{m}{2}Pr\{v\leq\frac{m}{2}\}+\frac{\frac{m}{2}+1}{2}(1-Pr\{v\leq\frac{m}{2}\})$

$=\displaystyle \frac{m}{2}\frac{m}{2}+(\frac{m}{4}+\frac{1}{2})(1-\frac{m}{2})$

$=\displaystyle \frac{m^{2}}{8}+\frac{1}{2}$

 となります。$m$ は $[0,1]$ の一様分布なので、

$\displaystyle \pi_{e}=\int_{0}^{1}(\frac{m^{2}}{8}+\frac{1}{2})\hspace{4pt}dm=\frac{13}{24}$   (16)

 となります。
 ( (16)式の値も積分を使って計算できます。取引を行う場合の労働者の期待利得は、図4の黄色の領域、$m\geq 2v$ で $w\hspace{4pt}(=\displaystyle\frac{m}{2})$ の期待値を求めればいい。
$\displaystyle \int_{0}^{1}\int_{0}^{\frac{m}{2}}\frac{m}{2} \hspace{4pt}dv\hspace{2pt}dm=\int_{0}^{1}\frac{m^{2}}{4}\hspace{4pt}dm=\frac{1}{12}$
 取引を行わない場合の期待利得は、それ以外の領域で $v$ の期待値を求めればいい。
$\displaystyle \int_{0}^{1}\int_{\frac{m}{2}}^{1}v \hspace{4pt}dv\hspace{2pt}dm=\int_{0}^{1}\left[\frac{v^{2}}{2}\right]_{\frac{m}{2}}^{1}\hspace{4pt}dm=\displaystyle \int_{0}^{1}(\frac{1}{2}-\frac{m^{2}}{2})\hspace{4pt}dm=\frac{11}{24}$
$\displaystyle \frac{1}{12}$ と $\displaystyle \frac{11}{24}$ を足せば $\displaystyle \frac{13}{12}$ になります。  )

 したがって、企業の期待利得と労働者の期待利得の和は、

$\displaystyle \pi_{f}+\pi_{e}=\frac{1}{12}+\frac{13}{24}=\frac{5}{8}$   (17)

 となります。これは、ゲームIの期待利得 ((11)式) と同じ値です。


【補足】
 それぞれの均衡の非効率性を比較するために、最も効率的な取引が行われた場合の期待利得を計算してみます。最も効率的な取引は、情報の非対称性がなく、企業も $v$ を観察でき、労働者も $m$ を観察でき、企業が $m\geq v$ となった場合のみ、労働者に $w=v$ となる賃金を提示し、労働者がそれを受諾する、というものです  ($m<v$ の場合に、$v$ の賃金を支払えば損失を出すだけ。同様に $m<v$ の場合に、$m$ の賃金を提示しても、労働者は $v$ のほうが高くなっているため拒否する。ただし、実際はこの問題では、企業は$v$ を観察できないことになっているので、$w=v$ という賃金を設定できません)。取引が行われるのは、以下の図に示されたの領域 (黄色の領域) です。
8(4)






   図5







 企業の期待利得は、企業は $m\geq v$ となる場合にのみ労働者を雇い、労働者に $w=v$ となる賃金を支払うので、

$\pi_{f}=(m-E\hspace{2pt}[v\hspace{2pt}|\hspace{2pt}v\leq m])\hspace{2pt}Pr\{v\leq m\}$

$=(m-\displaystyle \frac{m}{2})\hspace{2pt}m\hspace{4pt}=\frac{m^{2}}{2}$

 となります。$m$ は $[0,1]$ の一様分布なので、

$\displaystyle \int_{0}^{1}\frac{m^{2}}{2}\hspace{4pt}dm=\frac{1}{6}$   (18)

 となります。( (18)式の値は、$\displaystyle \int_{0}^{1}\int_{0}^{m}(m-v)\hspace{4pt}dv\hspace{2pt}dm$ を計算することでも求められます。)

 労働者の期待利得は、取引に応じても、応じなくても $v$ を得るので、

$\pi_{e}=vPr\{v\leq m\}+vPr\{v>m\}$

$=v$

 となります。$v$ は $[0,1]$ の一様分布なので、

$\displaystyle \int_{0}^{1}vdv=\frac{1}{2}$

 となります。企業と労働者の期待利得の和は、

$\displaystyle \pi_{f}+\pi_{e}=\frac{1}{6}+\frac{1}{2}=\frac{2}{3}$   (19)

 です。

 そこで、前出の3つのゲームの期待利得と、この最も効率的な取引の期待利得との差、つまり期待損失を求めてみます。最初のダブル・オークション (線形均衡) では、期待利得は $\displaystyle \frac{41}{64}$ なので、期待損失は、$\displaystyle \frac{2}{3}-\frac{41}{64}=\frac{5}{192}$ です。次のゲームIとゲームIIでは、期待利得は $\displaystyle \frac{5}{8}$なので、期待損失は、$\displaystyle \frac{2}{3}-\frac{5}{8}=\frac{1}{24}$ です。したがって、ゲームI (単一価格均衡) とゲームIIよりも、ダブル・オークションの線形均衡のほうが非効率性が少ないことがわかります。


注1)
 (6)式の値は、図1の黄色の領域でのみ取引が行われるような架空の取引を想定し、それぞれの期待利得を計算することでも確認できます。例えば、$m\geq v+\displaystyle \frac{1}{4}$ となる場合にのみ企業が賃金 $w=v+\displaystyle \frac{1}{4}$ を支払う、というものです ($v<w$ となるので労働者は応じます。ただし実際には企業は $v$ を観察できないので、このような賃金を設定することはできません)。その場合、黄色の領域での企業の期待利得、つまり $m-w\hspace{4pt}(=m-(v+\displaystyle \frac{1}{4})\hspace{2pt})$ の期待値を計算すれば、$\displaystyle \frac{9}{128}$ となります。黄色の領域での労働者の期待利得、つまり $w\hspace{4pt}(=v+\displaystyle \frac{1}{4})$ の期待値を計算すれば、$\displaystyle \frac{9}{64}$ になります。それ以外の領域での労働者の期待利得、つまり $v$ の期待値を計算すれば、$\displaystyle \frac{55}{128}$ になります。(それぞれの計算はここでは省略)


注2)
 (15)式の計算では、$m$ をいったん所与として計算しましたが、$v$ をいったん所与として計算することもできます (こちらのほうが計算が面倒)。その場合、図4を次のように分割して計算します。
8(32)






   図6







$\pi_{e}=wPr\{v\leq w\}+E[v|v>w]Pr\{v>w\}$   (15)

$=\displaystyle \frac{m}{2}Pr\{v\leq\frac{m}{2}\}+E[v|v>\frac{m}{2}]Pr\{v>\frac{m}{2}\}$

 ここまでは前の部分と同じ。

$=E\hspace{2pt}[\displaystyle \frac{m}{2}\hspace{2pt}|\hspace{2pt}m\geq 2v]\hspace{2pt}Pr\{m\geq 2v\}+E\hspace{2pt}[v\hspace{2pt}|\hspace{2pt}\frac{m}{2}<v\leq\frac{1}{2}]\hspace{2pt}Pr\{m<2v\}$
$+E\hspace{2pt}[v\hspace{2pt}|\hspace{2pt}v>\displaystyle \frac{1}{2}]\hspace{2pt}Pr\{v>\frac{1}{2}\}$

 最初の項は図6の①に、第2項は②に、第3項は③に対応しています。続けて計算していくと、

$=\displaystyle \frac{E\hspace{2pt}[m\hspace{2pt}|\hspace{2pt}m\geq 2v]}{2}\hspace{2pt}(1-Pr\{m<2v\})+E\left[\frac{\frac{m}{2}+\frac{1}{2}}{2}\hspace{5pt}|\hspace{5pt}m<2v\right]Pr\{m<2v\}$
$+\displaystyle \frac{\frac{1}{2}+1}{2}\frac{1}{2}$

 (最後の項は、$\displaystyle \int_{\frac{1}{2}}^{1}v\hspace{2pt}dv$ を計算することでも求まります。) 続けて計算していくと、

$=\displaystyle \frac{1}{2}(\frac{2v+1}{2})(1-2v)+\frac{E\hspace{2pt}[m\hspace{2pt}|\hspace{2pt}m<2v]+1}{4}\hspace{2pt}2v+\frac{3}{8}$

$=\displaystyle \frac{1}{4}-v^{2}+\frac{v+1}{4}2v+\frac{3}{8}$

$=\displaystyle \frac{1}{4}-v^{2}+(v+1)\frac{v}{2}+\frac{3}{8}$

 $v$ は $[0,1]$ の一様分布なので、

$=\displaystyle \int_{0}^{\frac{1}{2}}(\frac{1}{4}-v^{2})\hspace{4pt}dv+\int_{0}^{\frac{1}{2}}(v+1)\frac{v}{2}\hspace{4pt}dv+\frac{3}{8}$

$=\displaystyle \frac{1}{12}+\frac{1}{12}+\frac{3}{8}=\frac{13}{24}$

 となり、(16)式と等しい値になります。これも積分を使って計算できます。図6の3つの部分に分けて計算します。①の部分の期待利得は、

$\displaystyle \int_{0}^{\frac{1}{2}}\int_{2v}^{1}\frac{m}{2}\hspace{4pt}dm\hspace{2pt}dv=\int_{0}^{\frac{1}{2}}\left[\frac{m^{2}}{4}\right]_{2v}^{1}dv$

$=\displaystyle \int_{0}^{\frac{1}{2}}(\frac{1}{4}-v^{2})\hspace{4pt}dv=\frac{1}{12}$

 ②の部分の期待利得は、

$\displaystyle \int_{0}^{\frac{1}{2}}\int_{0}^{2v}v\hspace{4pt}dm\hspace{2pt}dv=\int_{0}^{\frac{1}{2}}\left[vm\right]_{0}^{2v}\hspace{4pt}dv=\int_{0}^{\frac{1}{2}}2v^{2}\hspace{4pt}dv=\frac{1}{12}$

 となり、③は $\displaystyle \frac{3}{8}$ なので、それらを合計すれば $\displaystyle \frac{13}{24}$ になります。

ギボンズ(Gibbons) 『ゲーム理論』、練習問題 2.15

 前半部分は、sugiさんの解答にあります。
http://blog.livedoor.jp/sugi5_4/archives/36901819.html
 ですので、前半部分は簡単に、後半部分を中心に書きます。

(1)
 逆需要関数は $p=a-Q$ です。$Q$ は $n$ 企業の生産量の合計です。

$Q=q_{1}+q_{2}+\displaystyle \cdots+q_{i}+\cdots+q_{n}=\sum_{i=1}^{n}q_{i}$   (1)

 企業 $i$ の利潤は、

$\pi_{i}=[a-(q_{1}+q_{2}+\cdots+q_{i}+\cdots+q_{n})]q_{i}-cq_{i}$   (2)

 となります。ここで、(1)式の $n$ 企業の生産量の合計 $Q$ から、企業 $i$ の生産量 $q_{i}$ だけを引いた 、残りの $n-1$ の企業の生産量の合計を $q_{-i}$ と表記すれば、(2)式は、

$\pi_{i}=(a-c-q_{-i})q_{i}-q_{i}^{ 2}$

 と表わせます。利潤最大化する生産量は、

$q_{i}=\displaystyle \frac{a-c-q_{-i}}{2}$   (3)

 となります。(3)式の生産量をそれぞれの企業ごとに個別に記せば、

$q_{1}=\displaystyle \frac{a-c-(q_{2}+q_{3}+\cdots+q_{n})}{2}$
$q_{2}=\displaystyle \frac{a-c-(q_{1}+q_{3}+\cdots q_{n})}{2}$
$\vdots$
$q_{i}=\displaystyle \frac{a-c-(q_{1}+\cdots q_{i-1}+q_{i+1}+\cdots q_{n})}{2}$
$\vdots$
$q_{n}=\displaystyle \frac{a-c-(q_{1}+\cdots+q_{n-1})}{2}$

 となります。これらの式を足し合わせます。左辺は $n$ 企業の生産量の合計になります。右辺の分子の (・・・) の中には、$q_{1},q_{2},\displaystyle \cdots,q_{i},\displaystyle \cdots,q_{n}$ がそれぞれ $n-1$ 個あります。したがって、上記の式を足し合わせると、

$q_{1}+q_{2}+\displaystyle \cdots+q_{n}=\frac{n(a-c)-(n-1)(q_{1}+q_{2}+\cdots+q_{n})}{2}$

 となります。整理すれば、

$q_{1}+q_{2}+\displaystyle \cdots+q_{n}=\frac{n(a-c)}{n+1}$   (4)

 となります。対称的なナッシュ均衡では、$q_{1}=q_{2}=\cdots=q_{i}=\cdots=q_{n}$ となるので、ひとつの企業の生産量 (企業 $i$ の生産量 $q_{i}$) は、(4)式の $1/n$ になり (それを $q_{c}$ で表すと)、

$q_{c}=\displaystyle \frac{a-c}{n+1}$   (5)

 となります (この生産量はナッシュ均衡になっています)。利潤は (それを $\pi_{c}$ で表わすことにすると)、

$\displaystyle \pi_{c}=\frac{(a-c)^{2}}{(n+1)^{2}}$   (6)

 となります。

 次に、$n$ 企業が強調し、独占的な生産量を分け合った場合、$n$ 企業の利潤の合計は、$(a-c-Q)Q$ です。この利潤を最大化する生産量は、

$Q=\displaystyle \frac{a-c}{2}$   (7)

 です。この生産量を $n$ 企業で分け合うので、1つの企業の生産量は (それを $q_{m}$ で表わすと)

$q_{m}=\displaystyle \frac{a-c}{2n}$   (8)

 となります。利潤は (それを $\pi_{m}$ で表わすことにすると)、

$\displaystyle \pi_{m}=\frac{(a-c)^{2}}{4n}$   (9)

 となります。

 次に、他の $n-1$ の企業が上記の独占的生産量を生産するときに、1つの企業が逸脱し、利潤最大化する生産量を選んだ場合、その生産量は、他の $n-1$ 企業の生産量に対する最適反応になります。逸脱する企業が生産量 $q$ を選択した場合の利潤は、

$\displaystyle \pi=[a-c-(n-1)\frac{a-c}{2n}-q]q$   (10)

 です。この利潤を最大化する生産量は (それを $q_{d}$ で表わすと)、

$q_{d}=\displaystyle \frac{(n+1)}{4n}(a-c)$   (11)

 とります。利潤は (それを $\pi_{d}$ で表わすことにすると)、

$\displaystyle \pi_{d}=\frac{(n+1)^{2}}{16n^{2}}(a-c)^{2}$   (12)

 となります。

  そこで、この切り替え戦略がサブゲーム完全なナッシュ均衡になるための条件 (逸脱が行われないための条件) を求めると、

$\displaystyle \frac{1}{1-\delta}\pi_{m}\geq\pi_{d}+\frac{\delta}{1-\delta}\pi_{c}$   (13)

 となります。(6)式、(9)式、(12)式を代入すれば、

$\displaystyle \frac{1}{1-\delta}\frac{(a-c)^{2}}{4n}\geq\frac{(n+1)^{2}}{16n^{2}}(a-c)^{2}+\frac{\delta}{1-\delta}\frac{(a-c)^{2}}{(n+1)^{2}}$

 となります。整理すれば、

$\displaystyle \delta\geq\frac{(n+1)^{2}}{(n+1)^{2}+4n}$   (14)

 となります。これが、切り替え戦略が成立するための (切り替え戦略がサブゲーム完全なナッシュ均衡になるための) $\delta$ の条件です。


(2)
 上記の結果から、$\delta$ が(14)式を満たさない場合、(9)式の独占生産量 $q_{m}$ を生産する切り替え戦略は成立しません。

 しかし、逸脱する企業が選択する生産量は、他の $n-1$ 企業の生産量に対する最適反応です。そのため、他の企業は、(9)式の独占的生産量 $q_{m}$ とは異なる生産量を選択することで、逸脱する企業の利潤を変えることができます。上記の問題の場合、逸脱する企業は、他の企業が選択した独占的生産量 $q_{m}$ より大きな生産量を選ぶことで、より大きな利潤を得ます。そして、生産量 $q_{c}$ がナッシュ均衡になっているということは、他の企業が独占的生産量 $q_{m}$ より大きな生産量、つまり、 $q_{m}<q<q_{c}$ を選んだとしても、逸脱する企業は、再び他の企業の生産量よりも大きな生産量を選択することで、より大きな利潤を得ることができる、ということを意味します。

 しかし、他の $n-1$ 企業が独占的生産量 $q_{m}$ とは異なる生産量を選択すれば、逸脱する企業の生産量と利潤も変化させます。逸脱する企業の利潤が変化すれば、繰り返しゲームにおける、切り替え戦略が成立する条件も変わってきます(結論から言うと、他の企業は独占的生産量 $q_{m}$ より大きな生産量を選択することで、逸脱する企業の生産量を $q_{c}$ に近づけることになり、逸脱する企業の利潤を下げるので、切り替え戦略が成立するようになります)。そこで、以下、協調する企業が生産量 $q^{*}$ を選択した場合に、$\delta$ が(14)式を満たさない場合でも、切り替え戦略が成立するか、成立する場合には、その $q^{*}$ の値がどうなるかを調べます。

 $n$ 企業が $q^{*}$ の生産量を選択した場合の利潤は(それを $\pi^{*}$ で表すことにすると)、

$\pi^{*}=(a-c-nq^{*})q^{*}$   (15)

 です。次に、逸脱する企業が $q^{*}$ とは異なる生産量を選択する場合、その生産量は、$q^{*}$ に対する最適反応になります。逸脱する企業の利潤は、$[a-c-(n-1)q^{*}-q]q$ です。これを最大化する生産量は  (それを $q_{dev}$ で表すと)、

 $q_{dev}=\displaystyle \frac{a-c-(n-1)q^{*}}{2}$   (16)

 となります。その場合の利潤は (それを $\pi_{dev}$ で表わすことにすると)、

$\displaystyle \pi_{dev}=\frac{[a-c-(n-1)q^{*}]^{2}}{4}$   (17)

 となります。

 そこで、切り替え戦略が成立する条件を求めると、

$\displaystyle \frac{1}{1-\delta}\pi^{*}\geq\pi_{dev}+\frac{\delta}{1-\delta}\pi_{c}$

 となります。逸脱が起こった場合は、問題(1)の場合と同様に、すべての企業が $q_{c}$ を生産するので、右辺の第2項は、(13)式と同じです。$\pi^{*}$ に(15)式、$\pi_{dev}$ に(17)式を代入し、右辺の $\pi_{c}$ には(6)式を代入すれば、

$\displaystyle \frac{1}{1-\delta}(a-c-q^{*})q^{*}\geq\frac{[a-c-(n-1)q^{*}]^{2}}{4}+\frac{\delta}{1-\delta}\frac{(a-c)^{2}}{(n+1)^{2}}$

 となります。整理すれば、

$[(n+1)^{2}-(n-1)^{2}\delta]q^{*2}-2[n+1-(n-1)\delta](a-c)q^{*2}$

$+\displaystyle \frac{(n+1)^{2}-(n+3)(n-1)\delta}{(n+1)^{2}}(a-c)^{2}\leq 0$

 $\Leftrightarrow$

$\displaystyle \left\{[(n+1)^{2}-(n-1)^{2}\delta]q^{*}-\frac{(n+1)^{2}-(n+3)(n-1)\delta}{n+1}\right\}(q^{*}-\frac{a-c}{n+1})\leq 0$

 したがって、切り替え戦略が成立する $q^{*}$ の条件は、

$\displaystyle \frac{(n+1)^{2}-(n+3)(n-1)\delta}{(n+1)[(n+1)^{2}-(n-1)^{2}\delta]}\leq q^{*}\leq\frac{a-c}{n+1}$   (18)

 となります。以下、表記を簡潔にするために、(18)式の生産量の範囲の下限を $q_{-}$ としておきます。つまり、

$q_{-}\equiv\displaystyle \frac{(n+1)^{2}-(n+3)(n-1)\delta}{(n+1)[(n+1)^{2}-(n-1)^{2}\delta]}$

 です。一方、$\displaystyle \frac{a-c}{n+1}$ は、ナッシュ均衡となる、(5)式の $q_{c}$ です。それぞれの企業が同じ生産量 $q$ を生産した場合の利潤、つまり、$(a-c-nq)q$ (これは(15)式と同じ) を図で示すと、図1のようになります。
15




 図1





 利潤を最大化する生産量は、$\displaystyle \frac{a-c}{2n}$ です。これは、(8)式の $q_{m}$ です。しかし、この生産量を選択した場合、切り返し戦略は成立しません。切り返し戦略が成立する範囲の中で、つまり、(18)式の条件を満たす$q$ の中で利潤が最大になるものは、

$q_{-}=\displaystyle \frac{(n+1)^{2}-(n+3)(n-1)\delta}{(n+1)[(n+1)^{2}-(n-1)^{2}\delta]}$

 であることがわかります。

 

ギボンズ(Gibbons) 『ゲーム理論』、練習問題 2.14

 練習問題2.13の結果を使います。2.13の解答は、sugiさんが用意してくださっています(他の問題の解答もあります。助かります)。
http://blog.livedoor.jp/sugi5_4/archives/36901819.html

(1)
 需要は $q=a-p$ です。1企業だけが存在し、独占的に生産すると、利潤は $pq-cq$ です。

$pq-cq=(p-c)q$
$=(p-c)(a-p)$
$=-p^{2}+(a+c)p-ac$   (1)

 この利潤を最大にする価格は

$p=\displaystyle \frac{a+c}{2}$  (2)

 です。この価格をつけたときの利潤は、$\displaystyle \frac{(a-c)^{2}}{4}$ です。2企業が協調してこの独占的価格をつける場合は、この利潤を二分するので、1つの企業の利潤はその1/2、つまり、

$\displaystyle \frac{(a-c)^{2}}{8}$   (3)

 となります。

 この問題では、需要関数の切片 $a$ が需要が高いとき ($a_{i}=a_{H}$) と需要が低いとき ($a_{i}=a_{L}$) で変化するので、それぞれの場合の価格は、需要が高いときの価格を $p_{H}$,需要が低いときの価格を $p_{L}$ とすれば、

$p_{H}=\displaystyle \frac{a_{H}+c}{2}, \hspace{5pt}p_{L}=\frac{a_{L}+c}{2}$   (4)

 となります ( (2)式の $a$ をそれぞれ $a_{H}$,$a_{L}$ に変えればいい)。そして、お互いに協調し、独占価格をつけた場合の利潤は、需要が高いときの利潤を $\pi_{m}^{H}$,需要が低いときの利潤を $\pi_{m}^{L}$ とすれば、

$\displaystyle \pi_{m}^{ H}=\frac{(a_{H}-c)^{2}}{8}, \hspace{5pt}\pi_{m}^{ L}=\frac{(a_{L}-c)^{2}}{8}$   (5)

 となります ( (3)式の $a$ をそれぞれ $a_{H}$,$a_{L}$ に変えればいい)。

 この協調から逸脱し、わずかに価格を下げれば、需要をすべて奪うことができます。その場合の利潤は2倍になります (厳密には2倍よりわずかに少ないですが、以下の問題の条件を求めるには、2倍として問題ありません)。したがって、逸脱した場合の利潤は、(5)式の2倍になり、需要が高かった場合を $\pi_{d}^{L}$,需要が低かった場合を $\pi_{d}^{L}$ とすれば (添え字の $d$ は逸脱を表します)、

$\displaystyle \pi_{d}^{ H}=\frac{(a_{H}-c)^{2}}{4}, \hspace{5pt}\pi_{d}^{ L}=\frac{(a_{L}-c)^{2}}{4}$   (6)

 となります。逸脱が起こった後の期間は、両企業がベルトランの複占モデルでのナッシュ均衡となる価格、$p=c$ をつけるので、利潤は0になります。

 そこで、この切り替え戦略がサブゲーム完全なナッシュ均衡になるための条件 (逸脱が行われないための条件)を求めると、需要が高い場合 ($i=H$) では、

$\displaystyle \pi_{m}^{ H}+\sum_{t=1}^{\infty}\delta^{t}[\pi\cdot\pi_{m}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]\geq\pi_{d}^{ H}$   (7)

 となります ($\pi$ は需要が高い状態が発生する確率です)。ここで、左辺は協調を続けた場合の利潤の流列、第1項は今期の利潤 (今期は需要が高い状態、$i=H$)、第2項は協調を続けた場合の来期以降の期待利潤の流列です。右辺は逸脱した場合の利潤の流列です。逸脱した場合、来期からは利潤がゼロになるので、今期の利潤だけになります。

$\displaystyle \sum_{t=1}^{\infty}\delta^{t}=\frac{\delta}{1-\delta}$

 なので、これを代入すれば、

$\displaystyle \pi_{m}^{ H}+\frac{\delta}{1-\delta}[\pi\cdot\pi_{m}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]\geq\pi_{d}^{ H}$   (8)

 となります。逸脱した場合は、協調して独占価格をつけていた場合の2倍の利潤を得ることができます。つまり、$\pi_{d}^{ H}=2\pi_{m}^{ H}$ です。(8)式の右辺を $2\pi_{m}^{ H}$ に変えれば、

$\displaystyle \pi_{m}^{ H}+\frac{\delta}{1-\delta}[\pi\cdot\pi_{m}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]\geq 2\pi_{m}^{ H}$   (9)  

 (9)式を整理すれば、

$\displaystyle \pi_{m}^{ H}\leq\frac{\delta}{1-\delta}[\pi\cdot\pi_{m}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]$   (10)

 となります。ここで、右辺は、来期以降の期待利潤の流列です。これを

$\displaystyle \pi^{e}=\frac{\delta}{1-\delta}[\pi\cdot\pi_{m}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]$

 と表せば、(10)式の、逸脱が行われず切り替え戦略が成立する(サブゲーム完全なナッシュ均衡になる)ための条件は、

$\pi_{m}^{ H}\leq\pi^{e}$   (11)

 と表せます。右辺の $\pi^{e}$ は、需要の状態にかかわらず ($i=H$ か $i=L$ にかかわらず) 一定の値になります。そのため、需要が低かった場合 ($i=L$) の切り替え戦略が成立するための条件は、

$\pi_{m}^{ L}\leq\pi^{e}$   (12)

 となります(左辺が変わるだけ)。ここで、$a_{L}<a_{H}$ であり、(4)式から、$\pi_{m}^{ L}<\pi_{m}^{ H}$ です。したがって、(11)式と(12)式を比較すれば (右辺は同じ)、需要が高い場合 ($i=H$,(11)式) のほうが、切り替え戦略が成立する条件が厳しいとわかります。つまり、需要が高い場合に ( (11)式で) 成立していれば、需要が低い場合でも ( (12)式でも) 成立します (注1)。切り替え戦略を使える最小の $\delta^*$ を求めるには、需要が高い場合、(11)式だけで考えればいいことになります。
 そこで、(10)式 (これは需要が高い場合の条件) に戻り、(10)式を変形すれば、

$[1-\delta(1+\pi)]\pi_{m}^{ H}\leq\delta(1-\pi)\pi_{m}^{ L}$

 $\delta$ の条件を表す式に変形すれば、

$\displaystyle \delta\geq\frac{\pi_{m}^{ H}}{(1+\pi)\pi_{m}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}}$

 (5)式の $\pi_{m}^{H}$,$\pi_{m}^{L}$ を代入すれば、

$\displaystyle \delta\geq\frac{(a_{H}-c)^{2}}{(1+\pi)(a_{H}-c)^{2}+(1-\pi)(a_{L}-c)^{2}}$   (13)

 となります。これが、切り替え戦略が成立するための $\delta$ の条件です。「企業が独占価格を維持するために切り替え戦略を使える最小の $\delta^*$ 」は(13)式を満たす最小の値なので、

$\displaystyle \delta^{*}=\frac{(a_{H}-c)^{2}}{(1+\pi)(a_{H}-c)^{2}+(1-\pi)(a_{L}-c)^{2}}$   (14)

 です。ちなみに、

$\displaystyle \delta^{*}>\frac{1}{2}$   (15)

 です。


(2)
 $\displaystyle \frac{1}{2}<\delta<\delta^{*}$ の場合には、上記の結果から、(4)式の「独占価格」をつける切り替え戦略は成立しません。しかし、(4)式の独占価格よりも低い価格をつけることで、逸脱した企業の利潤を下げることができます。逸脱した企業は、協調している企業の独占価格よりもわずかに低い価格をつけることで需要をすべて奪い、「協調した場合の2倍」の利潤を得るので、協調しているときの独占価格を下げ、利潤を下げておけば、逸脱した企業の利潤もそれに応じて下がるからです(もうひとつのベルトラン・モデルのポイントは、逸脱する企業は他の企業より「低い価格」をつけることで需要を奪うことです)。したがって、2企業が協調するときに、(4)式の独占価格(協調して利潤最大化する価格)ではなくて、それより低い価格をつけることで、$\frac{1}{2}<\delta<\delta^{*}$ の場合にも、切り替え戦略を成立させることができるかもしれません。

 そこで、以下、協調する2企業が $p^{*}$ の価格をつけた場合に、切り替え戦略が成立するか、成立する場合には、その $p^{*}$ の値がどうなるかを調べます (問題文にあるように、価格 $p^{*}$ をつけるのは需要が高い場合です。需要が低い場合は、(4)式の需要が低いときの独占価格 $p_{L}$ をつけます)。

 (1)式から、1企業だけが存在し、価格 $p$ をつけた場合の利潤は、

$pq-cq=(p-c)q=(p-c)(a-p)$

 です。2企業がこの利潤を分け合うので、2企業が協調し、需要が高い場合に $p^{*}$ をつけた場合の利潤を $\pi_{c}^{ H}$ とすれば、

$\displaystyle \pi_{c}^{ H}=\frac{1}{2}(p^{*}-c)(a_{H}-p^{*})$   (16)

 となります。需要が低い場合は、(4)式の $p_{L}$ をつけるので、そのときの利潤は、(5)式の

$\displaystyle \pi_{m}^{ L}=\frac{(a_{L}-c)^{2}}{8}$   (5)

 です。

 逸脱した場合は、協調する場合の2倍の利潤を得ることができます。逸脱した場合の利潤(需要が高い場合)を $\pi_{d}^{ H}$ とすると、$\pi_{d}^{ H}=2\pi_{c}^{ H}$ です。

 そこで、需要が高い場合に $p^{*}$ をつける切り替え戦略が成立する条件を求めると、

$\displaystyle \pi_{c}^{ H}+\frac{\delta}{1-\delta}[\pi\cdot\pi_{c}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]\geq\pi_{d}^{ H}$   (17)

 となります。$\pi_{d}^{ H}=2\pi_{c}^{ H}$ を代入し整理すれば、

$\displaystyle \pi_{c}^{ H}\leq\frac{\delta}{1-\delta}[\pi\cdot\pi_{c}^{ H}+(1-\pi)\pi_{m}^{ L}]$

 となります。これは、(10)式の $\pi_{m}^{ H}$ が $\pi_{c}^{ H}$ に変わっただけです。整理すれば、

$[1-\delta(1+\pi)]\pi_{c}^{ H}\leq\delta(1-\pi)\pi_{m}^{ L}$   (18)

 となります。ここで、$1-\delta(1+\pi)<0$ ならば、(18)式は常に成り立ちます (右辺はプラス)。反対に、 $1-\delta(1+\pi)>0$ になるのは、$\displaystyle \delta<\frac{1}{1+\pi}$ となるときです。$\displaystyle \frac{1}{1+\pi}$ と $\delta^{*}$ を比較すると、

$\displaystyle \frac{1}{1+\pi}-\delta^{*}=\frac{(1-\pi)(a_{L}-c)^{2}}{(1+\pi)[(1+\pi)(a_{H}-c)^{2}+(1-\pi)(a_{L}-c)^{2}}>0$

 なので、$\displaystyle \delta^{*}<\frac{1}{1+\pi}$ です。したがって、今問題にしている $\displaystyle \frac{1}{2}<\delta<\delta^{*}$ の範囲では、$1-\delta(1+\pi)>0$ となります。そこで、(18)式に戻り、(18)式を変形すると、

$\displaystyle \pi_{c}^{ H}\leq\frac{\delta(1-\pi)}{[1-\delta(1+\pi)]}\pi_{m}^{ L}$

 (16)式から、$\displaystyle \pi_{c}^{ H}=\frac{1}{2}(p^{*}-c)(a_{H}-p^{*})$ なので、左辺に代入すれば、

$\displaystyle \frac{1}{2}(p^{*}-c)(a_{H}-p^{*})\leq\frac{\delta(1-\pi)}{[1-\delta(1+\pi)]}\pi_{m}^{ L}$   (19)

 となります。右辺は、$p^{*}$ の値にかかわらず、一定の値です。これを $\pi_{s}$ と表せば、(19)式は、

$\displaystyle \frac{1}{2}(p^{*}-c)(a_{H}-p^{*})\leq\pi_{s}$   (20)

 と表わすことができます。左辺は $\pi_{c}^{ H}$ なので、

$\pi_{c}^{ H}\leq\pi_{s}$   (21)

 と表しても同じです。これが切り替え戦略が成立する条件です。これを図に表したものが次の図1です。

14_1








   図1





 (20)式から、 $\pi_{c}^{ H}$ ( (20)式の左辺)は、価格を横軸にとると、上に凸の2次関数です。(20)式、(21)式は、切り替え戦略が成立するためには、この $\pi_{c}^{ H}$ が、$\pi_{s}$ より低くならなければいけないことを示しています。そうなるのは、$\pi_{c}^{ H}$ がA点からB点になる範囲と、C点からD点になる範囲です。

 しかし、協調する企業が、C点からD点の範囲の価格を選んだ場合、逸脱する企業は、B点からC点の価格を選ぶことで、協調した場合の利潤 (C点からD点) の2倍より大きな利潤を得ることができます。逸脱した場合の利潤と協調した場合の利潤の差が大きくなるので、切り替え戦略は成立しません。

 したがって、協調する企業は、A点からB点の範囲の価格を選びます。その場合、逸脱する企業は、その価格より下げなければ、需要を奪うことができないので、逸脱したとしても、B点より低い価格を選ばざるをえません。その分利潤も低くなり、(20)式、(21)式の切り替え戦略が成立する条件が満たされることになります。

 したがって、「サブゲーム完全なナッシュ均衡で、企業が切り替え戦略を使って需要の大きときには $p(\delta)$ を、需要が少ないときには価格 $p_{L}$ を付けることができるような最高の $p(\delta)$」は、B点の価格になります。

 (20)式の不等式を解き、小さい方の解を求めると、

$p^{*}=p(\delta)=\displaystyle \frac{a_{H}+c-\sqrt{(a_{H}+c)^{2}-4(a_{H}c+2\pi_{s})}}{2}$

 となります。$\pi_{s}$ は(19)式の右辺なので、それを代入し、整理すれば、

$p(\delta)=\displaystyle \frac{a_{H}+c-\sqrt{(a_{H}-c)^{2}-\frac{\delta(1-\pi)}{1-\delta(1+\pi)}(a_{L}-c)^{2}}}{2}$

 となります。


注1) また、需要が高いときのほうが、逸脱するインセンティブが高まる、ということも言えます (このモデルが示す重要な結果)
 

ギボンズ(Gibbons) 『ゲーム理論』、練習問題 2.8

 このモデルでは、75ページからのモデルに、労働者のライバルの労働者に対する妨害活動が加わります($s_{i}$, $s_{j}$が妨害活動)。(ただし、計算は75ページからとだいたい同じです。)

$y_{i}=e_{i}-\displaystyle \frac{1}{2}s_{j}+\varepsilon_{i}$   (1)
$y_{j}=e_{j}-\displaystyle \frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}$   (2)

 
 労働者は、努力と妨害活動の不効用を引いた期待賃金を最大化します。

$max_{e_{i},s_{i}}\hspace{5pt}(W_{H}-W_{L})Pr\{y_{i}\geq y_{j}\}+W_{L}-g(e_{i})-g(s_{i})$
 
 これは次のように書き換えることができます。

$max_{e_{i},s_{i}}\hspace{5pt}(W_{H}-W_{L})Pr\{y_{i}\geq y_{j}\}+W_{L}-g(e_{i})-g(s_{i})$

 $e_{i}$, $s_{i}$ で微分し、1階の条件を求めると、

$(W_{H}-W_{L})\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial e_{i}}=g^{\prime}(e_{i})$   (3)

$(W_{H}-W_{L})\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial s_{i}}=g^{\prime}(s_{i})$   (4)

 となります。


 まず$P_{r}\displaystyle \{y_{i}>y_{j}\}$を計算します(これは76ページと同じです)。

$P_{r}\displaystyle \{y_{i}>y_{j}\}=Pr\{e_{i}-\frac{1}{2}s_{j}^{*}+\varepsilon_{i}>e_{j}^{*}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}\}$

$=Pr\displaystyle \{\varepsilon_{i}>e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}\}$

$=\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}Pr\{\varepsilon_{i}>e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}\hspace{3pt}|\hspace{3pt}\varepsilon_{j}\}\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$

$=\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}[1-Pr\{\varepsilon_{i}\leq e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j}\hspace{3pt}|\hspace{3pt}\varepsilon_{j}\}]\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$


$=\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}[1-F(e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j})]\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$

 したがって、$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial e_{i}}$, $\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial s_{i}}$ はそれぞれ、

$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial e_{i}}=\int_{\varepsilon_{j}}f(e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j})\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$

$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial s_{i}}=\frac{1}{2}\int_{\varepsilon_{j}}f(e_{j}^{*}+\frac{1}{2}s_{j}^{*}-e_{i}-\frac{1}{2}s_{i}+\varepsilon_{j})\hspace{3pt}f(\varepsilon_{j})d\varepsilon_{j}$

 と計算できます。対称的なナッシュ均衡では、$e_{i}=e_{j}=e^{*}$, $s_{i}=s_{j}=s^{*}$  となるので、

$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial e_{i}}=\int_{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}$

$\displaystyle \frac{\partial P_{r}\{y_{i}>y_{j}\}}{\partial s_{i}}=\frac{1}{2}\int_
{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}$

 となります。これを、(3)式、(4)式の1階の条件に代入すれば、

$(W_{H}-W_{L})\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}=g^{\prime}(e^{*})$   (5)

$\displaystyle \frac{W_{H}-W_{L}}{2}\int_{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}=g^{\prime}(s^{*})$   (6)

 となります。これは、労働者がこの(5)式と(6)式にしたがって、努力水準と妨害活動を調節することを表しています。

  ここで、労働者は、この契約が

$\displaystyle \frac{1}{2}W_{H}+\frac{1}{2}W_{L}-g(e^{*})-g(s^{*})\geq U_{a}$

 の条件を満たせば参加します。このような問題の場合、参加制約は等号制約で成立するので、

$\displaystyle \frac{1}{2}W_{H}+\frac{1}{2}W_{L}-g(e^{*})-g(s^{*})=U_{a}$   (7)

 です。

 一方、上司(企業)の目的は、2つのタイプの労働者の生産量の合計((1)式+(2)式)から賃金を引いた利得を最大化することです。

$\max_{W_{L},W_{H} }\hspace{5pt}2e^{*}-s^{*}-(W_{H}+W_{L})$

 (7)式を代入すれば、

$\max_{e^{*}, s^{*}}\hspace{5pt}2e^{*}-s^{*}-2g(e^{*})-2g(s^{*})-U_{a}$   (8)

 となります(上司は賃金をうまく選んで、$2e^{*}-s^{*}-2g(e^{*})-2g(s^{*})$ を最大にするように行動することになる)。

 このモデルの場合、75ページのモデルと違い、労働者のライバルになる労働者に対する妨害活動が加わります。$g^{\prime\prime}(\cdot)>0$ なので、$g^{\prime}(\cdot)$ は増加関数です。したがって、(5)式、(6)式から、$W_{H}-W_{L}$が増加すると、労働者は努力水準 $e^{*}$と妨害活動 $s^{*}$の両方を増加させます。

 そのため、上司が賃金格差$W_{H}-W_{L}$を増加させ、労働者の努力水準を上げ、生産量を増やそうとすると、労働者に妨害活動を増やすインセンティブを与えてしまいます。そして、労働者の妨害活動が増加すれば、(1)式、(2)式から、生産量は減少します。つまり、$W_{H}-W_{L}$を増加させることで、努力水準を増加させても、$W_{H}-W_{L}$の増加によって同様に増加する妨害活動によって生産量は相殺されてしまうわけです(上司はトレードオフに直面する)。

 $W_{H}-W_{L}$に対して労働者が選択する努力水準と妨害活動の水準は、(5)式、(6)式によって決まります。(5)式、(6)式から、

$g^{\prime}(e^{*})=2g^{\prime}(s^{*})$   (9)

 の関係が得られます。したがって、上司の最大化問題には、(9)式の制約条件が加わります。ラグランジュ方程式を次のように設定します。

$L=\hspace{3pt}2e^{*}-s^{*}-2g(e^{*})-2g(s^{*})-U_{a}+\lambda(2g^{\prime}(s^{*})-g^{\prime}(e^{*}))$

 1階の条件は、

$\displaystyle \frac{\partial L}{\partial e^{*}}=2-2g^{\prime}(e^{*})-\lambda g^{\prime\prime}(e^{*})=0$   (9)

$\displaystyle \frac{\partial L}{\partial s^{*}}=-1-2g^{\prime}(s^{*})+2\lambda g^{\prime\prime}(s^{*})=0$   (10)

 となります(注1)。(10)式から$\lambda$を求め、(9)式に代入すれば、

$2-2g^{\prime}(e^{*})-\displaystyle \frac{1+2g^{\prime}(s^{*})}{2g^{\prime\prime}(s^{*})}g^{\prime\prime}(e^{*})=0$

 を得ます。整理すれば、

$g^{\prime}(e^{*})=1-\displaystyle \frac{1+2g^{\prime}(s^{*})}{4g^{\prime\prime}(s^{*})}g^{\prime\prime}(e^{*})$   (11)

 となります。$g^{\prime}(\cdot)>0,\hspace{2pt}g^{\prime\prime}(\cdot)>0$ なので、(11)式の右辺の第2項は、$\displaystyle \frac{1+2g^{\prime}(s^{*})}{4g^{\prime\prime}(s^{*})}g^{\prime\prime}(e^{*})>0$ です。したがって、(11)式から、$g^{\prime}(e^{*})<1$ です。

 妨害活動がない場合は、$g^{\prime}(e^{*})=1$ になります(77ページに示されています。あるいは上記の最大化問題で $s^{*}=0$, $g(s^{*})=0$ として解けば、$g^{\prime}(e^{*})=1$ が得られます)。賃金格差と$g^{\prime}(e^{*})$ の関係は、(5)式

$(W_{H}-W_{L})\displaystyle \int_{\varepsilon_{j}}f(\varepsilon_{j})^{2}d\varepsilon_{j}=g^{\prime}(e^{*})$   (5)

 で決まるので、$g^{\prime}(e^{*})=1$(妨害活動がない場合)から、$g^{\prime}(e^{*})<1$(妨害活動がある場合)になれば、$W_{H}-W_{L}$は減少します。


----------
注1) $f(e^{*},s^{*})=\hspace{3pt}2e^{*}-s^{*}-2g(e^{*})-2g(s^{*})-U_{a}$ とすれば、$e^{*}>0$, $s^{*}>0$ に対して、
$\displaystyle \frac{\partial^{2}f}{\partial e^{*2}}+\frac{\partial^{2}f}{\partial s^{*2}}+\frac{\partial^{2}f}{\partial e^{*}\partial s^{*}}<0$.
 (9)式、(10)式は、$e^{*}>0$, $s^{*}>0$ の$e^{*}$, $s^{*}$で成立するので、(9)式、(10)式の解が最適解です。
 

プロフィール

沢ひかる

貧乏人。

経済学「部」とは無縁です。

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