毎日つらい記事ばかりなので、今日は、日本人の
素晴らしくもうれしい情報をお知らせします。
私にはこれが真実なのかどうか厳密に知る能力が
ありませんが、希望も込めて、フレーフレーニッポン!
(文責・鈴木)
■ Japan On the Globe(1411)■■ 国際派日本人養成講座 ■■

       The Globe Now: ゆっくりと進化を続ける日本企業
             〜 ウリケ・シェーデ『シン・日本の経営』を読む

「失われた30年」は失われていなかった。
多くの日本企業はゆっくりと着実に
新しい時代に適応し、進化を続けていた。

■転送歓迎■ R07.03.09 

■1.ゆっくりと着実に体質改善して、
蘇りつつある日本企業

伊勢: 花子ちゃんは「失われた30年」という言葉を聞いた
ことがあるだろう?

花子: ええ、うちの父がいつも言っています。確か1990年代
初頭から、現在まで続いている30年もの日本経済の停滞と
いうことですね。

 父はちょうど2000年に大学を卒業したんですけど、その頃は
バブル崩壊後の就職超氷河期でどこにも就職できず、やむなく
近くの蕎麦屋さんでアルバイトを始めたそうです。幸い、
一生懸命に働いたんで、ご主人からも気に入られて、
暖簾(のれん)分けして貰って、今の蕎麦屋をやっています。

伊勢: お父さんはちょうど卒業時期が超氷河期にぶつかって不運
だったけど、頑張
て自分の店を持てたんだね。でも、それも
できない多くの人々が、大学は出たけれ
ど、派遣社員やアルバイト
で安定した仕事につけないという悲惨な状況が続いた。

 こういうことから、私のメルマガ「国際派日本人養成講座」
でも、何度か「失わ
た30年」という表現を使ってきたけど、
実はこの期間、多くの日本企業が停滞して
たのではなく、
ゆっくりだけど着実に進化して、力強く蘇りつつある、と
分析した
済書が出たんだ。『シン・日本の経営 悲観バイアス
を排す』という本だけどね。


■2.今の日本の最大の課題は「絶え間ない悲観と憂鬱」

花子: 『シン・ゴジラ』みたいなタイトルですね。でも日本
企業が蘇りつつある、なんて、初めて聞きました。少子高齢化
、人口減少、円安、物価高、一向に出口の見えないデフレ、、、
そんな暗いニュースばかり聞かされていますけど。

伊勢: そこが、この本で「悲観バイアスを排す」と副題について
いる理由だね。こ
本の著者ウリケ・シェーデさんは、ドイツ
出身の女性経営学者で9年以上の日本滞
経験を持ち、一橋大学
や日本銀行などで研究員や客員教授を務めた。現在はアメリ

のカリフォルニア大学サンディエゴ校の大学院教授をしている。

花子: 「悲観バイアス」って、日本人が物事を悲観的に見過ぎ
ているということですか?

伊勢: その通り、この本の結論部で、著者はこう語っている。
__________
 日本は過去20〜30年の「停滞」の間も着実に成長してきたと
いう観点から、日本
を見ていくべきだ。日本の失業率は他の
OECD加盟国よりもはるかに低い。人々は勤勉かつ誠実に
働き、高いスキルを持たない人でもパートタイムの仕事を見つ
けることができる。
多くを望みすぎなければ、一部のパートタイムの仕事は終身
雇用に転換されること
もある。社会は混乱状態にはないし、
大きな社会的な分断もない。社会のセーフティネットは
充実し、国土は美しく、都市は清潔で安全だ。これらは
すべて大きな成果といえる。[シェーデ、p183]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

花子: そう言われれば、確かにアメリカのように大規模な
黒人暴動が起きたり、ヨーロッパのように移民の集団が
犯罪を犯すような混乱はないですね。でも、食料品の
値上げで、みな大変な思いをしてますけど。

伊勢: 15歳から24歳の若者の失業率で見ると、アメリカ
は9.0%、ヨーロッパ
は14.1%に対して、日本は4.1%
だから、欧米よりははるかにましなんだね。
「国土は美しく、都市は清潔で安全」なのは、言うまでもない。
こうして見ると、
我々日本人は欧米などよりも、はるかに
安定し、安全で清潔な国に住みながら、「
本には希望がない、
もうダメだ」などと言っている訳だ。

 シェーデさんは、「悲観バイアス」について、こう語っている。
__________
 おそらく今の日本の最大の課題は「絶え間ない悲観と憂鬱」
とでも呼ぶべき考え
が蔓延していることだろう。・・・
このように常に暗いトーンで語られるせいで、日本の強みは
とかく見過ごさ
れ、・・・最近の改善状況はほとんど注目され
ていなかった。これがあまりにも長
続いてきたので、良い
ニュースがあっても、日本人を含めて、ほとんどの人が
それ
信じきれずにいる。[シェーデ、p185]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

伊勢: これはまさしく経済版の「自虐史観」だね。これでは
本当の自分の実力を知
て、それを発揮して主体的に未来を
切り開いていることはできない。


■3.きわめて専門性の強い事業分野で高い
利益率を持つ企業群

花子: 日本の失業率の低さや、安全で清潔な国、というのは、
分かりましたが、「過去20 〜 30年の「停滞」の間も着実に
成長してきた」というのは、どんな事実から言えるので
しょうか?

伊勢: それがシェーデさんの経営学者としての研究成果の
核心なんだけど、冒頭で
んなふうに要約している。

__________
 日本が世間で言われるよりもはるかに強い理由は、日本企業
の再興が進行中であり、グローバルな最先端技術の領域で
事業を展開する機敏で賢い企業が新たに出てきたことにある。
こうした企業の多くは最終製品ではなく、素材や部品などの
中間財を製造している。消費者は日本の中間財の技術や
生産設備の重要性に気づいていないことが多い。[シェーデ、p5]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 そんな「機敏で賢い」企業例が、シェーデさんの本に
「2000〜2009年度の平均営
利益率の上位40社」として、
一覧表として並んでいる。上位の5社ほど、事業内容
利益率を紹介すると、こんな具合なんだ。

・(株)キーエンス センサ、測定器など、47.48%
・ファナック(株) 工場自動化、ロボットなど、32.69%
・ヒロセ電機(株) 高性能コネクタ、29.42%
・(株)ホギメディカル 医療用不織布、24.72%
・ユニオン・ツール 産業用切削工具、24.38%

 等々、こんな具体に40社も並んでいる。利益率20%と
言ったら、一億円売った
ら、2千万円も利益が出る、
という大変な水準だ。

花子: キーエンスとか、ファナックは聞いたことがあり
ますけど、あとは知らない企業ばかりですね。

伊勢: そう、ひところのパナソニックとか、日立、ソニー
などの有名な大企業では
く、きわめて専門性の高い事業
分野で、独占的な位置を占め、高い利益率を誇って
る企業がたくさん出てきている。

 特に、センサ、高性能コネクタ、医療用不織布など、
高度に専門的な部品材料、
るいは、ロボットや産業用
切削工具など、工場で用いられるハイテク設備類など、
般消費者には縁のない商品ばかりだから、聞いたことの
ないのは当然だね。こうい
ハイテク企業が、化学、鉄鋼、
精密機械、医薬品などの分野でゴロゴロしている。

 ハーバード大学では、世界各国の「複雑性ランキング」を
発表している。これは
国がどれだけ難しい、容易に真似で
きない製品を輸出しているか、のランキングだ
たとえば、ワイシャツなんかは、どこの国でも作れるけど、
医療用不織布を作れる
は限られている。こういう観点から、
世界の国々をランキングすると、日本は過去
30年にわたって、
1位を続けているそうだ。

花子: えーっ、そうなんですか? そんな話は初めて聞きました。

伊勢: 一般消費者の知らないところで、多くの日本企業が
独自の製品技術や生産技
に磨きを掛け、他の国には容易に
真似できない商品を生み出し続けているんだね


■4.小錦から舞の海へ

伊勢: 昭和の頃の代表的な日本企業と、令和の日本企業の
違いをシェーデさんは、
相撲の「小錦から舞の海へ」と
いう巧みな比喩で表現している。

花子: 私は相撲はまったく知らないんですけど、その二人は
どんなお相撲さんなんですか?

伊勢: 小錦は身長184センチで体重が275キロの巨漢だ。
一方の舞の海は身長171セン
チ、体重は100キロに満たない。
その小柄な舞の海が小錦と12回対戦して5勝を上げ
ている。
圧倒的な体格差から見れば、舞の海の善戦ぶりは凄いと
言えるだろう。

花子: 身長171センチ、体重は100キロに満たないと言ったら、
普通の人とあまり変わりませんね。それだけの体格差で、
舞の海はどうして小錦に5回も勝てたんですか?

伊勢: 舞の海は現役時代に33種類もの決まり手を使った
そうだ。その技の多さで
「技のデパート」という異名を
とった。しかも、対戦毎に相手も戦法を変えてくる
ら、
それを上回る形で、毎回新たな技を繰り出して、対戦相手
と観客を驚かせてい
らしい。

花子: 「体格の小錦」対「技の舞の海」という構図は分かり
ましたけど、それが企業どう関係するんですか?


■5.日立製作所の変貌

伊勢: 昭和の頃の日本企業は、とにかく大企業になろうと
いうことで、いわば小錦
目指していた。それが令和の
日本企業は小さくとも、高度な技術で勝負する舞の海
なった、ということだね。

 その代表例を、シェーデさんは、日立製作所の例で
説明している。バブル崩壊前
日立に限らず、日本の多くの
大企業は、とにかく事業を多角化して、売上げを大き
することを目指していた。しかし、そんな「小錦」戦略は
バブル崩壊で行き詰まる
__________
 バブル崩壊後、日立は大苦戦し、2001年から2010年
にかけて営業利益率は2%を割った。過度に多角化して多数の
事業に手を広げたものの、その多くは収益性が低かった。

2010年の日立のウェブサイトには、冷蔵庫や掃除機などの
家電製品、ハードデぃスク・ドライブや半導体など
コンピュータの周辺機器、化学品、建設機械、医療機
器、鉄道車両、フォークリフト、タービン、発電所など、
10以上の「中核」事業が並んでいた。これら事業に共通する
コア・コンピタンス(JOG注: 中核技術)は何かと
聞かれると、日立の経営陣でさえ口ごもった。[シェーデ、p69]
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■6.日立の「舞の海」への変貌

 日立はこの「小錦」戦略から、「舞の海」戦略に転換した。

そんな日立が過去10年の間に新しい会社へと変貌を遂げている。
既存事業の多くか
撤退し、日立化成など珠玉の事業も売却
した。新たに掲げた目標は「スマートシ
ティ」技術と
アプリケーションのリーダーになることだ。・・・
日立製作所は2023年に11年連続で、情報サービス企業
クラリベイトの「Top
00グローバル・イノベーター」に
選ばれたが、これは同社が集中的にディープテ
ク(JOG注:
先端技術)戦略に移行している証だ。[シェーデ、p69]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

花子: 今でも家電の量販店に行けば、日立の冷蔵庫や
エアコンなどが並んでいますから、そんな風に変わった
とは気がつきませんでした。

伊勢: 2010年度と2023年度を比べると、売上高は
約9兆3100億円から10兆8900億
と、13年で
17%ほどしか伸びていない。
年平均の成長率は1.2%ほどに過ぎな
い。これだけ見たら
「失われた30年」の停滞と言えるだろう。でも、営業利益は
4,400億円から7,481億円へと1.7倍に伸びている。
営業利益率も4.6%から6.
9%に伸びた。

「スマートシティ」技術の一環が鉄道事業で、売上高は
約5倍に伸びて、その8割
海外で稼いでいる。
日本の高品質な鉄道技術を海外市場に展開し、信頼性や安全性
高さが評価されている。イギリスで車両約600両の製造と
27年半の保守事業の
括受注で、総事業費5500億円もの
巨大プロジェクトの受注に成功している。

花子: イギリスのような先進国で、そんな巨大事業の受注に
成功するなんて、凄いですね。

伊勢: 鉄道事業は、中国が低コスト戦略で海外受注にも
積極的だが、車両の製造か
保守、線路、信号の保守点検、
運行システムなど、実にさまざまな技術を総合的に

合わせて初めて高度の信頼性、安全性が実現する。
それこそ「舞の海」戦略その
のだろう。


■7.社会の安定、安心を維持するための「遅い」変化

花子: パソコンや家電で、日本企業のブランドが見えなく
なって、その代わりに中国や韓国ばかりが活躍しているので、
日本企業は衰退一方かと思っていました。

伊勢: 確かに、日本企業の活躍舞台はハイテクの部品材料や、
設備・インフラなど
一般消費者には見えない所に移ったので、
そう思うのは無理はない。もう一つ、日
企業の進化が
目に見えないのは、それがとてもゆっくりだからだ。

 たとえば、GAFA、つまり、グーグル、アップル、
フェイスブック、アマゾン
近年、急速に我々の生活シーンに
入ってきて、いかにもアメリカ企業のスピードの
さが
印象づけられている。たとえば、Amazonは過去5年間で
年平均約16%もの成
を続けている。5年で2倍以上だね。

花子: 確かにウチの父も、数年前にアマゾンを使い始めて、
今ではあれこれ日常的に使っています。

伊勢: しかし、こうした成功企業の陰では、多くの敗残企業が
倒産し、失業者をた
さん出している。それに比べると、
日本企業はリストラと言っても、退職金の上乗
をした早期退職制度や、配置転換など、穏やかな手段を
とっている。

花子: 国によって、企業のスピードはだいぶ違うんですね。

伊勢: そう、それをよく「日本の企業はアメリカに比べて、
変化のスピードが遅い
どと言う人がいるけど、シェーデさん
は、変化のスピードの遅さは、「日本企業
安定し、安全で
、比較的平等な社会を維持するために甘んじて支払っている
代償だ

「シェーデ、p128]と指摘している。

「スピードが遅いから日本企業はダメだ」というのは、
これまた自虐的な指摘で、「安定、安全で、比較的平等な
社会を維持するためには、変化はゆっくりで良い」と
言う戦略と考えるべきだね。その根本にあるのが、
「売り手よし、買い手よし、世間よし」を調和を理想と
するの日本の「三方よし」の事業哲学だ。「売り手よし」に
は従業員の生活も入るから、急激な人員整理などできない。
__________
テーマ・マガジン「三方よしの日本的経営」多くの企業が、
買い手よし、売り手よし、世間よしの「三方よし」を追求する
ことで、永続的な成功を享受してきた。
https://note.com/jog_jp/m/me3ec3c881a98
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伊勢: この哲学で、多くの日本企業がじっくり自らの技術を
磨き、今では世界市場
も独自の技術で活躍し、高収益と
安定的な雇用を維持している。それが我々、日本
事業哲学なんだ。

花子: 私も、そんな企業に就職したいなぁ。何か、
希望が湧いてきました。
                                       
(文責 伊勢雅臣)


■リンク■

・JOG(308)日本電産・永守重信の新「日本的経営」
「雇用創出こそ企業の最大の社会的貢献である」
https://note.com/jog_jp/n/ne7b14e85f182


■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
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・ウリケ・シェーデ『シン・日本の経営 悲観バイアスを排す』★★★、日経プレミ
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