スピタメウォッチング

スピリチュアル好きによるエンタメウォッチング

[Alexandros]、「明日、また」を聴いて。

明日、また(完全生産限定盤)(ラバーバンド付)
[Alexandros]
Universal Music =music=
2017-11-29


[Alexandros]の2017年11月29日発売のシングル「明日、また」を取り上げてみたいと思う。前回のリリースから約10か月ぶりとのことで、頻繁に新曲をリリースする印象の[Alexandros]にしては間が空いたのでは、と思っていたところ、今年は1か月くらいニューヨークと日本を行ったり来たりする生活をしていたとのこと。ニューヨークでの生活において刺激を受けたことがたくさんあるらしく、そんなエッセンスが詰め込まれた3曲が収録されている。中でもこの曲は一番初めにできた曲らしい。
ニューヨークで本場のミュージシャンに刺激を受け、自信を失うこともあったようだが、”自分にはメロディーがある!”と思い立ち、書きあげた曲なのだそうだ。以前からメロディーには自信があると発言していた川上だが、今回の新曲も非常に耳に残るメロディーが印象的で、聴いたら一発で[Alexandros]の曲だな、とわかるような彼らの特徴が光る作品だと感じた。昨年から今年にかけては「Swan」「Nawe,Nawe」「ムーンソング」「SNOWSOUND」など、今までにない目新しい印象の楽曲が多かったが、今回の「明日、また」は原点回帰的というか、定番というか、いつもの[Alexandros]感がある楽曲だなという印象。もちろんそれが良いとか悪いとかではない。

※参考
・ラジオ『スクールオブロック! アレキサンドロックス!』(2017年10月31日放送分)
http://www.tfm.co.jp/lock/alexandros/index.php?itemid=10478&catid=84&catid=84

・雑誌『ロッキング・オン・ジャパン 2018年1月号』



●「明日、また」(2017年11月29日発売シングル)



[Alexandros]のMVには若い女性が出演することが多かったが、今回は岡田将生が出演しており、何やら悩みを抱えていそうな青年を熱演している。少年時代に友人たちと自然の中を探検した回想のようなシーンと、思い悩む青年、そして大自然がテーマとなっている。一人バイクに乗って自然の中へ出かけていった青年が、最後に何かを思い立ち、立ち上がって走っていくシーンが印象的だ。サビでは、広大な自然の中で演奏する[Alexandros]が映し出される。ラストに少しだけ、ライブの状況なのか、観客の映像が重なる部分があるが、この曲は自分たち自身のことを歌った曲でもあるのだろうと感じた。青年の乗るバイクのナンバー”19‐92”が何度か画面に映し出されるが、この数字にも何か意図があるのかもしれない。

「明け方になって
 僕らはそれぞれの道へ
 進もうとすればするほど
 遠く、遠く、遠のく

 無我夢中になって
 報われると信じたけど
 叶えようとすればするほど
 淡く、淡く、泡になって
 
 Ah
 誰しも自分から逃げたくなって
 Ah
 新しい居場所を探してる

 明日、また
 泣きじゃくる時が来たとして
 怯まず笑えば
 あなたは今まで以上に
 強く在れる
 思いも寄らず、として」(1番Aメロ、Bメロ、サビ)


この曲の主語は「僕ら」と複数形になっており、MVでも主人公の少年時代と思われる少年たちが映し出されることから、「僕ら」は広く一般に”世間の人々”というよりも、特定の自分が所属するグループのような印象が強い。彼らが「進もうとす」る先は、おそらく”夢”とか”目標”とか”理想”といったものなのだろう。次の段落に「報われる」とあることから、”たゆまぬ努力”を連想させ、また「叶えようとすればするほど」というのは、まさに”夢””目標”のことだと言える。
少年時代の仲間のことかはわからないが、「僕ら」はそれぞれの夢や目標に向かって、「無我夢中に」進んできたけれども、その努力は「泡になって」しまうようなことも多かった。次のBメロで書かれていることは、まさにMVで青年がそのような気持ちでいたのだろうなと感じるような内容であり、今のこの人生に行き詰まりを感じて、「自分から逃げたくなって」「新しい居場所を探してる」ということなのだろう。
サビはストレートなので特に解釈する必要もない。ここでは「あなた」という呼びかけ形になっており、「僕ら」との関係性が気になるところである。自分たち自身のことを歌っているのかと思いきや、サビでは「あなた」という対象に向かって呼びかけるというのは不思議な感じがする。「僕ら」を客観視している立場から、「あなた」(=「僕ら」)へのエールのようにも見えるし、同じように悩んでいる人一般のことを「あなた」と言っているのかもしれない。同士への呼びかけやエールのようにも見える。

人生、泣きたいこと、ムカつくこと…色々ある。それでも「生きると願う」のだ。

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「泣き方を知って
 僕らは生まれてきたけど
 大人になればなるほど
 乾く、乾く、乾いて

 怒りまかせで言った
 誰かへの誹謗中傷も
 悔もうとすればするほど
 憎い、憎い、醜くなって

 Ah
 誰しも自分を守りたいくせして
 Ah
 いつしか自分で傷つけた 

 愛したいなら
 思う存分愛せばいい
 今でも疼く傷跡も
 息を吸い吐く身体も
 生きると願うから」(2番Aメロ、Bメロ、サビ)

2番は感情表現に関する言葉が多い。「泣く」「怒り」「誹謗中傷」「憎い」など。それも、いわゆるネガティブといわれるような感情ばかりで、人生の辛い側面のことを言っているのだと思う。実際、はじめの段落では、「大人になればなるほど」涙は枯れてしまうものだと言っており、感情表現が希薄になってしまったり、泣きたいときに思いっきり泣くことが難しい状況を描写している。1番サビでは「泣きじゃくる時が来たとして」と言っていることから、これは表立って感情表現ができなくなっただけで、本心では泣きたいことが多いということなのだろう。
2つめの段落は少々意味が取りづらい。軽はずみな発言を「悔やもうとすればするほど 憎い、憎い、醜くなって」というのは、おそらく自分のことが嫌いになる、自分自身が「醜くな」るということなのだと思う。相手のことが憎いとか相手は醜いやつだ、ということではなく、そんなダメな自分に対して自己嫌悪の感情を抱いてしまうということではないかと思う。
そのことがわかるのがBメロ。「自分を守りたいくせして いつしか自分で傷つけた」というのは、まさにAメロの要約のような内容。自分の感情を抑え込んだり、「自分を守」るために相手を否定したり批判したりしてみても、結局は自分で「自分を傷つけ」るだけなのである。これは本当によくあることで、自分が傷つきたくないと思うばかりに、相手にひどいことをしてしまったり、本心を隠してしまったりするというのは誰しも経験があると思う。それが本来的に自分を輝かせることではないとわかっていたとしても。
サビでは突然「愛したいなら」という言葉が出てくる。これは唐突な感じがするが、「憎い」との対比になっていると思う。これは恋愛の歌ではないので、「愛」する対象は、主に自分自身のことなのかなという気がする。人生は辛いことの方が多いのではないかというくらい、山あり谷ありなものだが、そそれでも「身体」は傷を治そうとするし、呼吸が止まることはなく、「生きると願う」ものなのだということだろうか。

傷つくのを恐れて守りに入ってないで、立ち向かって行け!

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「I'd always wanted to be "someone" else
 With all the lights that I could never have
 I cried when realized that I could never be
 So I gave up and chose to stick with me
 To overcome that "someone"
 <訳詞> 
 私はいつの日も「誰か」になりたがっていた
 持てやしない光の持ち主
 なれないと気づいた時、私は泣いた
 だから諦めて
 自分自身に人生に留まりながら
 その「誰か」を越えることにする

 We're the light
 We're the light
 <訳詞>
 私達は光
 私達は光輝く

 明日、また
 泣きじゃくる時が来たとして
 怯まず笑えば
 あなたは今まで以上に
 強く在れる
 鎧を持たずとして」(Cメロ、ラストサビ)

 
Cメロの英語の部分は、主語が「I」の部分と、「We」の部分がある。1つめの段落はおそらく思想的に言っても川上自身の本音の部分ではないかと思う。よって主語も「I」になっている。ずば抜けた才能のある光り輝くスーパースターと、今の自分の現実を見比べて、「なれないと気づいた時、私は泣いた」ということだろう。サビの「泣きじゃくる時」というのを具体的に言っているのがこの英語部分なのかもしれない。自分ではない「誰か」になろうとするのではなく、ありのままの「自分自身」で勝負しようということなのだろう。
ラストサビは最後の最後「鎧を持たずとして」の部分だけが変わっている。「鎧」というのはもちろん”身を守る”ための道具であり、2番の「自分を守りたいくせして」のあたりに関連した言葉である。最後にこの言葉だけが置き換えられているところを見ると、「鎧」というのがかなり重要なテーマであるということがわかる。全体を踏まえてみてもこの曲の主題は、”傷つくことを恐れて立ちどまっている自分を鼓舞する”といったようなものであると思う。”弱気になって泣き言言ってんじゃねーよ!コノヤロー”といういつもの感じだ。MVの青年も、”現実から目を背けて逃げてる場合じゃなかった…”とふと気づき、立ち上がって「明日」に向かって走り出したのかもしれない。

「明日、また」
歌手名:[Alexandros] 作詞・作曲:川上洋平

歌詞サイトはこちら

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米津玄師、「Moonlight」を聴いて。






今回は、米津玄師 4thアルバム「BOOTLEG」の目玉曲である「Moonlight」を取り上げてみたい。この曲はアルバムタイトル「BOOTLEG」の意味を説明するような曲になっていて、本人も一番最後にできた目玉曲と言っている(※1)。世の中の過剰なオリジナル信仰に対するアンチテーゼとでも言うのだろうか。ざっくりと言うと、どこまでが自分のオリジナリティで、どこからが相手の真似やパクリなのかというのは線引きできるものではないし、他者と関わり合う中で他者の要素を取り入れて作られた作品であっても、それは美しいのだから、それでいいのではないかということ。そして、オリジナルを追い求めるあまり奇抜な表現に走ることもあるが、他の人が誰もやっていないからといってオリジナリティがある=評価されるということではないだろう、ということが言いたいのだと思う。この曲はかなり米津の世の中に対する思想的な部分が色濃く反映されているなぁと感じる。

※参考 下記の記事にアルバムタイトルに込められた意図について少し書いた。
「BOOTLEG」アルバム全体の感想&レビュー

(※1)の参考文献でもある雑誌『ROCKIN' ON JAPAN 2017年12月号』の全曲解説インタビューより、この曲に関して重要なところを引用してみる。


「(略)そのなかでたどり着いたのが、文化祭の支度みたいにダイナマイトを作るっていう、その一節なんです。文化祭っていうピースフルでポップなもの、でも実際作ってるのはダイナマイトであるっていう、その感じなんですよ。文化祭の支度みたいにダイナマイトを作ってる人間って、それこそ俺だと思うし(笑)。それは俺にしかできないことなんじゃないかなあって、周りを見渡してても思うし。だから笑顔でファック。それが俺なりの、今、自分が住んでる世界に対する回答だし、自分が今まで培ってきた過去の集積による現在ですね。」
「(略)自分としては、偽物/本物って表現の違いでしかないっていうか、別にどっちでもいいんですけどね。最終的にはどっちでも。ただそれによって、自分は自分にしかできないことを120%やれてると思うし、それが『BOOTLEG』っていうアルバムだと思う。(略)」

●「Moonlight」(2017年11月1日発売アルバム「BOOTLEG」収録曲)

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この曲は音楽的には”先鋭的な”サウンドということになるらしい(※1参考)。筆者は専門的な音楽には疎いので、これが”先鋭的”なのかどうかはよくわからなかった。ボーカルにエフェクトがかかる部分があり、その声が人間離れしている感じで米津の好きな(?)怪獣や妖怪的な存在を彷彿とさせたのが印象に残っている。
上にも書いたように、この曲は世の過剰なオリジナル信仰に対する批判的な考えが込められた楽曲である。それだけでなく、オリジナリティを追い求める人が奇抜な表現に走ることに対して、その発想こそが凡庸であり、かえって平凡であるという皮肉も込められているのではないだろうかと感じる。米津の追い求めているものは、世間一般の意味で言うところの”オリジナリティ”ではなく、限りなく”美しいもの”なのであり、そもそもの根底にある考えが違うのだと思う。
この考えは非常に共感する部分があって、筆者も現代アートなどに同じような感覚を得ることがあった。奇抜なアイディアだとは思うが、”だから何?”と思うようなものであったり、”これは美しいものなのだろうか?”と疑問に感じるものもあった。アートであれ音楽であれ、芸術というものには”美しさ”というのは欠かせない要素なのではないかと思う。
(注:下線部は筆者追記 声にエフェクトがかかる部分)

「あなたこそが地獄の始まりだと
 思わなければ説明がつかない
 心根だけじゃうまく鍵が刺さらない
 愛し合いたい 意味になりたい

 どこへ行ってもアウトサイダー 夜通し読んだハンターハンター
 本物なんて一つもない でも心地いい
 文化祭の支度みたいに ダイナマイトを作ってみようぜ
 本物なんて一つもない

 ムーンライト 爪が伸び放題 使う予定もない
 差し出されたレーズンパイ
 オールライト 「自分の思うように あるがままでいなさい」
 ありがとう でもお腹いっぱい

 イメージしよう 心から幸せなあの未来
 イメージしよう イメージ
 教えてよ そこまで来たら迎えに行くから
 教えてよ」(1番Aメロ、Bメロ、サビ1、サビ2)


この曲を見ていく上で一番問題になってくるのは「あなた」「わたし」とは一体何か?ということである。どうも特定の人物という感じがしない。特に「あなた」は何かの例えだと思う。筆者が一番最初にピンと来たのが”美しさ”ということだった。つまりは、創作の中で限りなく”美しさ”を探求していくことを「あなた」と例えているのではないかと思う。つまり、自らの”美への探求心”「地獄の始まり」であるということなのではないだろうか。なんとか「あなた」”美しさ”「愛し合いたい」というのは、自らの内なる欲求を表すとても詩的な表現だと思う。

この曲の主題のひとつに、”大衆VSアウトサイダー”の対比というものがある。大衆とかマジョリティに染まれない自分。「どこへ行っても」一人ぼっちで孤独を感じる。誰も自分を理解してくれないのだという諦め。「文化祭の支度みたいに ダイナマイトを作ってみようぜ」というのは、本人が雑誌のインタビューでも語っていたように、”まさに自分はそんな人間だ”ということらしい。ハッピーでわいわい楽しげな時空間で、ダークで破滅的なことを企てるような人間(=「笑顔でファック」)、という意味だろうか。ダークそうに見えてダークな人間よりも、より狂気的で恐ろしい感じもする。その裏には、孤独感や大衆・世の中への諦め感も見え隠れしている。「本物なんて一つもない」というのは、”本物、偽物という区別は存在しない”という意味にもとれるし、”本物は存在するが、そこらにはない”という意味にもとれる。「心地いい」と言っていることから、そのことを割と肯定的にとらえてもいるらしい。

サビの「爪が伸び放題 使う予定もない」という歌詞は一見意味がわからないなと思ったが、ここで満月と狼男の言い伝え(?)を思い出し、もしかしたらの例えなのかなと思った。以前にも「翡翠の狼」という曲で自身を孤独な狼に例えた曲を作っていた米津。ここでも自身を創作に悩む孤独な狼に例えているのかもしれない。「レーズンパイ」のくだりは、ラストの「お腹いっぱい」に続く掛けことばだが、ここでは”甘いもの”の象徴として描かれていると思う。3行目「「自分の思うように あるがままでいなさい」」という歌詞は、そうやって自分を”甘やかす”他者の言葉のように感じられた。”あるがまま?そんなのは聞き飽きた。そういう甘やかしみたいな言葉は「お腹いっぱい」なんだよっ”という気持ちなのではないだろうか。ラストの2行はAメロの「心根だけじゃ上手く鍵が刺さらない」と同じような意味なのではないかと思っていて、「あるがまま」「心根だけ」では、美しいものにはたどりつけない(つまり、泥臭く苦悩して模索する必要がある)ということだと解釈した。

「イメージしよう」からの段落は、「あなた」への問いかけのように見えるが、一番意味がわからない部分でもある。「心から幸せなあの未来」「地獄」という表現と対になっているように思う。「地獄」を抜け出し、「心から幸せな」状態にたどり着きたいという気持ちがあるのだろう。「そこまで来たら迎えに行くから」はラストに効いてくる言葉だと思うので、ここでチェックしておく。

孤独で創作に没頭する苦悩。ただひたすら”美しいもの”を求めて…。

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「わたしこそが地獄を望んだんだと
 認めなければそろそろいけない
 自分の頭今すぐ引っこ抜いて
 それであなたとバスケがしたい

 どこへ行ってもアウトサイダー 継接ぎだらけのハングライダー
 本物なんて一つもない でも心地いい
 ビニールハウスで育ったアベリア 偽物なんだってだからどうした?
 本物なんて一つもない

 ムーンライト 幽かに明るい部屋 なだらかなノイズ
 効き目薄いボルタレン
 オールライト テーブルの向こうに 裏返しのアイフォン
 今回は誰のスパイ?

 イメージしよう プールの底で眺める水面
 イメージしよう イメージ
 教えてよ 何もかも終わらせる言葉を
 教えてよ

 鳴り止まないカーテンコール そこにあなたはいない
 鳴り止まないカーテンコール そこにわたしはいない」
 (2番Aメロ、Bメロ、サビ1、サビ2、Cメロ)


「自分の頭今すぐ引っこ抜いて」という表現と「ボルタレン」(鎮痛薬)という言葉から、おそらく2番は”頭痛”がしている、つまりは”苦悩している”ということを表している。それは「地獄」という言葉でも言いかえられている内容だ。この頭痛がする「地獄」のような苦悩というのは、「わたしこそが」「望んだ」ことでもあるらしい。大衆に染まらずアウトサイダー的な生き方をする中で、孤独と向き合いながら、世の中に反発する気持ちや諦めの気持ちを抱きつつ、それでも限りない”美しさ”を追い求める創作の苦悩ということで良いと思う。それは苦しいけれども、自らが選んだ道だということを自覚しているのだろう。

Bメロでは「ハングライダー」「アベリア」が具体例として挙げられている。ここで下線を引いたエフェクトの部分について少し考えてみたい。別人のような声になっている下線部分と通常の米津の声が交互に繰り返されるが、なんとなく会話のような雰囲気もあり、自分の中のよりダークでブラックな部分の声なのかなという印象を受けた。悪魔のささやき…とまではいかないが、自分の内側で別人の声がするという感覚は誰しもあると思う。

サビの「幽かに明るい部屋」という表現からは、この時が夜で、月明かりの淡い光だけがあるような状況が伝わってくる。2番サビで面白いのは「テーブルの向こうに 裏返しのアイフォン 今回は誰のスパイ?」という歌詞である。「アイフォン」という固有名詞まで出てきて現代的な雰囲気。ここも意味が分かりづらく、想像することしかできないのだが、「アイフォン」で調べ物をして「スパイ」をしている(つまり、他のアイディアを盗む的な)というようなことかなと思った。「裏返しの」とわざわざ書いたのは、後ろめたい気持ちがあるということを示唆するためだろうか。

1番の「イメージしよう」の部分でも、「地獄」との対比が描かれていたが、2番でも「何もかも終わらせる言葉を」と表現していることから、おそらく「地獄」「終わらせる言葉」のことを言っているのだと思う。「プールの底で眺める水面」「イメージ」すると、「プールの底」に沈み、窒息寸前でほぼ死にそうな状況が思い浮かぶと思う。「あなた」に向かって、そんな苦しみを「終わらせる言葉」「教えてよ」と言っているのだろうか。限りなく”美しいもの”を追求することは、「地獄」とも言える苦しみであり、早くそこから抜け出したいという気持ちがあるのだろう。

ラストCメロ、「鳴り止まないカーテンコール」というのはおそらく、”大衆的な人気”ということの比喩ではないかと思う。カーテンコールというのは演劇や舞台などで幕が終わった後に、観客が拍手喝采により出演者やスタッフを呼び戻すことである。ここで言う「カーテンコール」は、拍手喝采の観客に迎えられ、一般大衆に評価されている(人気がある)ということを意味していると思う。そこに「あなた」「わたし」もいないと言っている。
ここで1番の「イメージしよう」の段落を思い出してみる。「そこまで来たら迎えに行くから」というフレーズがあったが、これはラストに「わたし」「あなた」を迎えに行ったために、「カーテンコール」には「わたし」「あなた」もいないということではないだろうか。つまり、大衆的な人気の中には、「あなた」(=”美しさ”)はいないし、「わたし」(=おそらく米津)もいない(=目指していない)という意味かなと解釈した。大衆に染まらないし、染まりたいと思わない、あくまでも「アウトサイダー」孤独な自分自身と、大衆受けするようなものに対する批判的な思いを暗に表現しているのではないかと深読みしてみた。”大衆&アウトサイダー”や、”本物&偽物””美しさ”を追求する創作の孤独など、米津自身の内面がより濃く投影されたアルバムの目玉曲にふさわしい作品だと感じた。

「Moonlight」
歌手名・作詞・作曲:米津玄師

歌詞サイトはこちら

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米津玄師、「飛燕」を聴いて。



米津玄師、4thアルバム「BOOTLEG」の第1曲目、「飛燕」を取り上げてみたいと思う。タイトルは読んで字のごとく、飛ぶツバメのことだろう。アップテンポでギターの音色が印象的な、爽やかでのびのびとした印象の楽曲で、本当にツバメが気持ちよく空を飛んでいるような情景が目に浮かび、聴いていて心地の良い曲だ。手拍子などもありノリが良いので、ライブでも盛り上がりそうだなと思った。この曲について本人の語るところによると、『風の谷のナウシカ』ナウシカと自分を重ねる感覚で作ったとのことで、一連の他者とのコラボ&オマージュ作品を制作するにあたって、自分と他者との関わり合い方が変わってきたことを曲にしたそうである。そのくだりが書かれている『ROCKIN' ON JAPAN  2017年12月号』の全曲解説インタビューの重要なところだけを引用してみる。

「(略)自分が音楽を作ったり歌詞を書く上で、すごく指針になってる人間なんですね、ナウシカって。すごく慈愛に満ち溢れた人間だけれども、その裏に混沌とした狂気的な部分も持ってて。それによっていろんな人間や生き物と調和していく。時には争いながら、より未来に進んでいけるように身を粉にして頑張る人間だと思うんですけど。そういう姿に対して、やっぱ美しいなあと思うんですよね。で、自分もそういう人間になりたいなあっていうのは、子どもの頃からずっと思ってるんです。(略)」
「いろんな人に自分を開いて、いろんなものを受け入れると、今までの自分じゃない感性や文脈が入り込んでくるわけじゃないですか。そうやって自分がどんどん変わっていくことに対して、心地よさを感じるんですよね。(略)」

詳しくは雑誌をチェック↓




●「飛燕」(2017年11月1日発売アルバム「BOOTLEG」収録曲)

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上記のことを踏まえた上で、筆者がこの曲に関して感じたことは、やはり米津のメイン思想である”遠くへ行け””過去の自分との対話”、そして”美の追求”であった。この曲はそのすべての要素が詰まっていて、米津の内面の世界の割とポジティブな面が作品になって現れたのだなと感じた。上記の米津本人が語るところのナウシカの人間性の描写というのが、まさに筆者たちリスナー(他者)が感じる米津への印象そのものではないかと思ったし、”まさにそんな人間だと思ってますよ”と言いたい気分になった(笑)。自分にとってポジティブに感じる他者の姿は、自分が目指す姿や未来の自分だったり、本来自分が持っている(けど出しきれていない)資質なのではないかと感じることがある。
この曲に関しては、ツバメの”渡り鳥”という”遠くへ行く”性質と、”旋回する”という飛び方の性質がキーポイントとなっている。また、”なぜ渡り鳥が正確に遠く離れた目的地へ飛んでいけるのか?”ということも主題に大きく関わる部分である。そういった特徴も踏まえて歌詞を見てみたいと思う。

「翼さえあればと 灰を前に嘆いていた
 鳥のように飛んでいく あの雲に憧れて

 慰めも追いつかない 一人きり空の果て
 傷に傷を重ねて まだ誰かが泣いている

 夜の底に 朝の淵に こそ響く歌があると
 呼ぶ声が聞こえたら それが羽になる

 ずっと 風が吹いていた あの頃から 変わらぬまま
 君のためならば何処へでも行こう 空を駆けて」(1番Aメロ、Bメロ、サビ)


1番のAメロの描写は、”過去の自分との対話”的な要素が強いと思う。「灰」というのは、米津がよく使うモチーフの一つで、「LOSER」「シンデレラグレイ」、色という意味では「灰色と青」などでも見られるが、いずれもポジティブな意味ではないように思う。今回は「Neighbourhood」の歌詞の印象ともつながる感覚があり、「灰」は煙草の「灰」のことかなと思った。つまり、幼少期に自分がいたあまり適切ではない(タバコの煙がモクモクしているような)環境のことなのではないかと感じた。そこからの”遠くへ行け”思想のことを言っているのだろう。2つめのAメロの描写も、孤独で傷ついている過去の自分のことを指しているような気がする。

この曲の表現で面白いのは、”自分”を意味する”僕”などの単語が一切出てこないことだ。なんとなく、客観的に見ているようなところがある。それは、大空を羽ばたく鳥の視点、つまりは俯瞰した視点からの曲ということなのだと思う。だから「まだ誰かが泣いている」といったように、自分ではなく、一対一の他者(”君”、”あなた”)でもない言い方をしているのではないだろうか。米津ナウシカに共通する”人間性”の特徴みたいなものを客観的に描いたような感覚もある。

Bメロは「歌」という歌詞があるので、米津自身のことを言っているような印象。「夜の底に 朝の淵に こそ響く歌があると 呼ぶ声」というのは、内なる創作意欲のようなものかなと思った。「LOSER」の歌詞で言うところの「ポケットに隠した声」みたいなものかと思う。それが原動力となって、”遠くへ行く”ための「羽」になるということだろう。

※参考
「LOSER」歌詞の意味&解釈(その1)
「LOSER」歌詞の意味&解釈(その2)
「Neighbourhood」歌詞の意味&解釈

ついアツくなって言い合いになることも…背後に潜む孤独感…

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「美しさを追い求め 友さえも罵れば
 這い回る修羅の道 代わりに何を得ただろう

 猛り立つ声には 切なさが隠れている
 誰がその背中を 撫でてやろうとしただろう

 流離うまま 嵐の中 まだ胸に夢を灯し
 渦を巻いて飛ぶ鳥の 姿を倣えばいい

 ずっと 羽ばたいていた 未来へ向かう 旅路の中
 道の正しさは風に託して ただ進んでいけ」(2番Aメロ、Bメロ、サビ)


2番は争いや怒りについての描写。ナウシカについて語るインタビューでも「混沌とした狂気」「時には争いながら」と言っている。「美しさを追い求め 友さえも罵れば」というのは、その通り、自分自身の美学みたいなものが他人と異なってしまったときに、”それは違う”などと言い争いになったりした自身の体験から来ている言葉だろうと思う。「修羅」というのは、米津がよく使う仏教用語で、死後に輪廻転生する6つの世界=”六道”の一つ、”修羅道”のことを言っている。「修羅道は阿修羅の住まう世界である。修羅は終始戦い、争うとされる。苦しみや怒りが絶えないが地獄のような場所ではなく、苦しみは自らに帰結するところが大きい世界である。」ウィキペディアより引用)。2つ目のAメロは、そんな他者と争って怒っていた過去の自分に今感じていることだろうと思う。「切なさ」とあるが、要するに”孤独”ということではないだろうか。1番にも「一人きり」という表現があり、結局のところ、本当に自分が戦わなければならなかったのは「友」といった他者ではなく、自分自身が感じている”孤独”だったということなのだと思う。

「嵐」というのもよく出てくる言葉で、過酷な環境とか状況といった意味かと思う。この曲で面白いのは、「嵐」「渦」と、ツバメが旋回しながら飛行することをかけているところだ。生まれ故郷を肉体的に離れるという意味でも、精神的な意味でも”遠くへ行く”ということに関して、また、限りなく”美を追求する”ことを、「胸に夢を灯し」と言っているのではないかと思う。では、ツバメが「渦を巻いて飛ぶ」「姿を倣えばいい」というのは、一体どんな意味なのだろうか。これは筆者の想像だが、なんとなく”らせん状に成長する”イメージが浮かんでいる。同じところを一周したと思っても、2週目の地点はより高い次元に上がっているような感覚。そうしてらせん状に上へ上へと上っていくということかなと思った。また、「嵐」「渦」に逆らわず、その流れのまま自分も「渦を巻いて」飛んでいけということかもしれない。いずれにしてもポジティブな意味であるのは間違いないだろう。深読みすると、「修羅」という単語が出てきたこととも関連があり、ぐるぐる回る”輪廻転生”の思想とかけている可能性もあるかなと思った。

悩み多きあの頃の自分へ。そのままの道をただ進め!

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「夢を見ていたんだ風に煽られて
 導いておくれあの空の果てへ
 夢を見ていたんだ風に煽られて
 導いておくれあの空の果てへ

 ずっと 風が吹いていた あの頃から 変わらぬまま
 君のためならば何処へでも行こう 空を駆けて

 ずっと 羽ばたいていた 未来へ向かう 旅路の中
 道の正しさは風に託して ただ進んでいけ」(Cメロ、ラストサビ)


「夢」という表現が再度出てきた。先ほど書いたように、”遠くへ行きたい””美しいものを追求したい”という思いということで良いと思う。「風に煽られて」は1番Bメロの「呼ぶ声が聞こえたら」の表現と似ていて、どこか受け身というか、”何らかの刺激があって”というニュアンスが共通している。なんとなくだが”不可抗力で”といった意味合いも感じていて、その思いや内なる声が一体どこから湧いてくるのかは定かではないが、絶対的に逆らえるものではない感じ、という感覚がある。理由はわからないけれど、絶対にそうなんだ(”遠くへ行け”、”美の追求)、という感覚があるということだろう。

そして最後にサビをまとめる。サビにだけ「君のため」とあり、「君」という言葉が出てくる。ここでの「君」というのは、”過去の自分”ということだろうと思う。もう一つありえるとすれば、ナウシカの描写で言うところの「いろんな人間や生き物」という意味かもしれない。「あの頃から」という表現があることから、やはり”過去懐古”の要素はあるように思う。悩み苦しんでいた「あの頃から」「ずっと」目に見えない絶対的な大きな力によって(=「風」)、生きるべき道を生きてきたのだということ。ここにも決して過去の自分(も今の自分も)を否定しない米津の思想が見て取れる。”「君」(=過去の自分)の「夢」を実現するために、今の自分は何でもするし、やれるのだ、(なぜなら、今も昔もずっと大きな力(=「風」)の流れの中にいるから)”ということかなと思った。もう一つの意味だと、”まだ見ぬ「君」(=「いろんな人間や生き物」)と出会い関わる中で、さらなる”美を追求する”ことができるなら、どんな”遠く”でも行こう”という意味にもとれる。どちらもポジティブだし、文脈的に意味が通る。

「道の正しさは風に託して ただ進んでいけ」というのは、この曲のメインメッセージであり、とても重要だと思う。ツバメはなぜ誰に聞くでもなく目的地まで飛んでいけるのだろうか?それはツバメ自身にも説明ができない、大いなる自然のなせる業なのかもしれない。「風」は前述した”目に見えない絶対的な大きな力とか流れ”といった意味でもあるし、その「旅路」の中で出会うあらゆる「いろんな人間や生き物」という意味も含まれていると思う。このアルバムの収録曲が他者とのコラボ&オマージュ作品多数ということ、他者と意見が食い違って言い争うことで「代わりに何を得ただろう」と気づいたことなどを踏まえると、頑なに自分の世界に閉じこもっているばかりではなく、自分を開いて、あらゆる出会いに必然性を感じながら「ただ進んでいけ」といった意味なのだと思う。自分で考えてもどうにもならない大きな力に導かれてここまできたし、これからもそうやって生きていくのだということ、ナウシカのように「いろんな人間や生き物」と調和しながら「より未来に進んでいけるように」頑張るのだという思いが込められているのだろう。悩み苦しんでいた過去の自分へのメッセージでもあるし、自分自身の現在の描写でもあるし、未来への決意や自分を鼓舞するような楽曲でもあるのかなと思った。

「飛燕」
歌手名・作詞・作曲:米津玄師

歌詞サイトはこちら

※「BOOTLEG」収録曲もどうぞ
「BOOTLEG」アルバム全体の感想&レビュー
「Moonlight」歌詞の意味&解釈
「春雷」歌詞の意味&解釈
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ライブ感想@東京国際フォーラム2017年7月「RESCUE」初日
「メトロノーム」歌詞の意味&解釈


米津玄師、アルバム「BOOTLEG」の感想とレビュー



2017年11月1日発売の米津玄師4thアルバム「BOOTLEG」の全体的なレビューと感想を書いてみたいと思う。なぜ「BOOTLEG」(=”海賊版”の意)というタイトルにしたかということについては様々な媒体で語られているが、世に遍く”オリジナリティ信仰”に対し疑問に思う節があるようで、”何が本物で、何が偽物なのか?”ということを問うような意図があるようである。そこであえて”これは偽物(=海賊版)”という皮肉的な意味を込めてつけられたタイトルなのだそうだ。ただただ奇抜なものに走るのではなく、音楽の文脈や型を踏んだうえで、見たことのないものを作ろうということらしい。本作については、タイアップや他者とのコラボ、オマージュ作品が多数を占めており、他者とのかかわり合いの中でいろんなものを自身の中に取り入れて作っていったという経緯がある。それもあって、”何が自分のオリジナルで、何が他人の影響かなんて、わかりっこないし考えることに意味はない。結果、美しいものが生まれるのだからそれでいいのではないか”、というような気持ちも込められているのだなと感じた。

※参考 2017年10月29日放送ラジオ『UR LIFESTYLE COLLEGE』吉岡里帆ナビゲート)
米津玄師がゲスト出演した際に語られた内容を抜粋。筆者要約文

昔から音楽に対する過剰なオリジナル信仰があると感じていて、それが嫌だった。”オリジナリティ”や”独創性”という言葉自体は悪くないが、その使われ方にずっと違和感を覚えていた。”見たことがあるものかないものか”という過剰な二元論のニュアンスで使われることが多い。本当に見たことがないものをつきつめて考えていくと、ノイズミュージックやすっとんきょうなピアノなどそういった方向になる。それはそれで美しいけれど、”オリジナリティ”という言葉を使う人は、そういう意味で使っていない。そもそも、音楽にはいろんな文脈や型がある。ロック、ジャズ、パンク。そういうのを踏まえた上で、誰も見たことがないものをやりましょうよ、それが自分なりに思う”オリジナリティ”。そういう意味では、自分はいろんな人間の一部、エッセンスを噛みちぎりながら、飲みこみながら、胃の中で醸造しながら、ある種スクラップの寄せ集めのような存在だと思っていて、昔のオリジナル信仰という意味で、”オリジナリティ”という言葉を使う人間に対して、”自分はあなたたちからするとニセモノ、本物ではない存在なのかもしれないけれども、これだけ美しい音楽が作れるんですよ”という皮肉の意味も込めて「BOOTLEG」(海賊版)という意味のタイトルにした。

●収録曲のタイトル(太字クリックで歌詞の意味&解釈記事に飛ぶ)



01 飛燕
02 LOSER
04 砂の惑星 ( + 初音ミク )
05 orion
06 かいじゅうのマーチ
08 春雷
09 fogbound ( + 池田エライザ  )
11 爱丽丝
12 Nighthawks
13 打上花火

<新曲ひとこと感想>
・「飛燕」(ひえん)
タイトル通り、鳥が大空を気持ちよさそうに羽ばたいている様子が目に浮かぶような、のびのびとしていて軽さがある一曲。上京し、他人と関わる中で広い世界(”遠く”)へ飛び立ってきた米津自身のような雰囲気。『ナウシカ』へのオマージュ的な意味がある作品とのこと(※1)。

・「砂の惑星(+初音ミク)」
ハチ名義で発表された話題作の米津セルフカバー作品。アレンジなどは変わっていない。両者を聞き比べた時に感じる身体性や肉体性にも注目。恐ろしいほどの中毒性がある。

・「かいじゅうのマーチ」
NHKラジオ『サウンドクリエイターズファイル』において、森山良子「今日の日はさようなら」の選曲があり、この楽曲との関連性が語られていた。もとは『かいじゅうずかん』に収録しようとしていたとのこと。ハッピー感が強い。

・「Moonlight」
アルバムタイトルの「BOOTLEG」の言わんとすることを楽曲としてまとめたのがこの曲。世の中に対する皮肉も込められていて、シングル表題曲にはなり得ないけれども、米津の基本思想が伺える根幹的な一曲だと思う。

・「春雷」
筆者一番のお気に入り楽曲。繊細で美しく軽やかな歌詞の世界と、激しく痛みを伴う内面の恋心といった、あらゆるミスマッチ感が楽しめる曲で、おしゃれで洗練された中毒性のある一曲。

・「fogbound(+池田エライザ)」
ツアータイトルにもなっている中心的な楽曲。「fogbound」とは”濃霧”という意味で、船が濃霧で立ち往生するといったような意味もあるらしい。深い内面の世界を描いた、アダルトでムーディーな感じのする一曲。

・「爱丽丝」(アリス)
米津が音楽系の飲み仲間たちとともにレコーディングした曲(※1)。タイトルは友達が作成しているタトゥーシールの文字とのこと(※2)。どこか中国っぽい雰囲気のある曲で、「diorama」「YANKEE」時代の曲に似た感じもある。

・「Nighthawks」
米津が敬愛するRADWIMPSBUMP OF CHICKENへのオマージュのつもりで制作したとのこと(※1)。新進気鋭のロックバンドのイチオシ曲のような趣でバンド感がある。清涼飲料水のCMに使われていそうな爽やかな楽曲。

・「打上花火」
DAOKOとのコラボバージョンとは趣の違う米津のソロ作品。効果音が多用されており、のどかな夏の郷愁を感じられる。音程もコラボバージョンとは少々異なっている。しんみり落ち着いて聴ける曲。

・「灰色と青(+菅田将暉)」
MVも作成された目玉曲。菅田将暉とのコラボでも話題に。男同士の友情を懐古するというのがメインのストーリー。20代半ばの才能ある若者、米津菅田将暉の歌唱と演技が光る、奇跡のような名バラード。

(※1)『ROCKIN' ON JAPAN 2017年12月号』の全曲解説記事参照。


(※2)『ROCKIN'ON JAPAN 2017年11月号』のインタビュー記事参照。



●感想1 米津の基本思想”遠くへ行け”、”美の追求”、”過去の自分との対話”をおさえておく

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米津玄師が楽曲やライブ、インタビューなど様々な媒体で語っている基本思想は、大きく上記の3つだと思う。”遠くへ行け”「LOSER」「ピースサイン」などで色濃く見られる。”過去の自分との対話”「ピースサイン」「春雷」「Nighthawks」「灰色と青」などで強いが、要素要素はほとんどすべての楽曲で見られる。”美の追求”は彼自身の生き方そのものであって、いつも繰り返し語っていることの一つだ。”とにかく美しいものをつくりたい…”そんな思いで日々を生きているのだろう。

●感想2 年を重ねるごとに輝きを増す作品の”美しさ”

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筆者自身は、”美しい作品”というのは、美しい心、美しい内面の世界からしか生まれ得ないということを確信しており、本気で”美しさ”と向き合い追求するのであれば、内面を美しくしていくしかないのだと思っている。そして、その”美しさ”というのは、誰よりも売れたいとか人気者になりたいとか称賛されたいとか、そういった欲望や野心とは対極にあるものだと思っており、米津の作品に感じる”美しさ”というのは、彼自身に”売れたい欲”みたいなものがないからこその賜物なのではないかという気がしてならない。1st「diorama」から4th「BOOTLEG」に至るまで、枚数を重ねるごとにその”美しさ”は純度を増し、より繊細で無駄なものの削ぎ落された純粋な作品群になっていっているような感覚がある。それは過去との対話や自分自身を深く内省することで、心の純度を高めていった結果なのだろうと思う。”遠くへ行け”の真意というのは、ある意味で”エゴ・欲望から遠く離れていけ”という意味なのかもしれない。米津の作品に触れると、真に美しいものは自らのエゴや欲望といったものから、遠くかけ離れたところにあるのだということを実感する。

●感想3 深い深い米津ワールドの底がさらに深まった「Moonlight」と「fogbound」

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「BOOTLEG」の中でもこの2曲は特に、シングル表題曲にはなり得ないようなやや暗めの楽曲で、アルバム収録にふさわしいような曲なのだが、米津のように自分自身に深く向き合っているような内省的な人間にとっては、こういった世界観が”地”というか、割とナチュラルなのだろうなと感じたりもする。この2曲を聴くと、相当に意識の深いところまで内省したのだろうなということがよくわかり、ある特定の宗教や思想によらない米津独自の世界観みたいなものが確立されつつあるのではないかという感覚を得た。以前は仏教やキリスト教的な思想のエッセンスを感じるような楽曲もあったが、様々なものに触れて自分を見つめ直していった結果、普遍的でかつ独創的な思想に達してきたということだろうか。このアルバムのテーマに”独創性””オリジナリティ”があるが、芸術的・創造的な活動を生業としている人にとっては、永遠のテーマのようなところがあるのだと思う。”何が独創的?、何が本物で何が偽物?”、ということに深く向き合ってきたことが伝わってくる。

●感想4 ”開かれていく=大衆化”ではないのだと感じたアルバム

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1曲目の「飛燕」という楽曲は、前作「Bremen」から今に至るまで、さまざまな存在とコラボしたり、影響を与えあいながら、他者や外の世界に対して彼自身の心を開いていったことが象徴的に描かれていると感じて、このアルバムの冒頭を飾るにふさわしい一曲だなと思った。一般的に、広く世の中に出ていくことというのは、こういったアーティストの場合は特に、”大衆化”を意味することが多いと思う。それがネガティブな意味で使われると、尖った特徴が失われたとか、大衆に迎合した、のようなニュアンスを持ったりもする。有名な人とコラボして知名度が上がっていく様子、「BOOTLEG」が数多の媒体で宣伝される様子を見ても、筆者自身は”大衆化”という感覚を持たなかった。それは、前述したとおり、彼自身に”売れたい”といった欲がないこととも関係していると思う。彼の制作の軸は常に”美しいものをつくりたい”というところにあり、それが彼がどんなに遠くへ行こうとも、ブレない名曲の数々を生み出す所以なのだろう。

●感想5 すべてを肯定していく”懐の深さ”を感じる楽曲たち

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米津の基本思想、”過去との対話”において、大事にしていることは、過去の自分を否定しないということらしい。過去の作品を今聴いて思うこともあるのだろうが、そういった自分自身の全てを肯定していこうという意識をとても感じる。「灰色と青」では、”過去は良かった(でも今は)”といったニュアンスの内容が歌われているが、それでも今を否定するわけではないという意識も伝わってきた。過去や今の自分自身にとどまらず、”かいじゅう”といった、人間とは容姿の異なる想像上の生き物についても、分け隔てなく接していくような気持ちがあるのだと思う。これは感覚的なことなのだが、米津はとても弱者(や孤独に苦しむ人など)に対してやさしい人なのだろうなと感じることが多々ある。「Bremen」では特にだったが、話しかける言葉がとてもやさしく愛にあふれているような感覚があり、それは自身の経験によるものなのかなと想像したりもした。自身の外見が周囲の他人と異なっていたこと、人間関係で苦労した経験などから、人の心の痛みみたいなものにも人一倍敏感なのかもしれない。人々の根底にあるはずの普遍的な共感、同情、慈しみのような感覚を、米津なりのフィルタですくい上げて楽曲に落とし込んでいるのだろう。

※「Bremen」以降のアルバム未収録曲もチェック!
「NANIMONO」歌詞の意味&解釈(中田ヤスタカとのコラボ曲)
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米津玄師、「春雷」を聴いて。



米津玄師の2017年11月1日発売のアルバム「BOOTLEG」より、「春雷」を取り上げてみたい。この楽曲は、2017年7月に行われたライブ「RESCUE」@国際フォーラムにて披露されており、筆者はその時に初めて聴いた(そのことについては→ライブ感想@東京国際フォーラム2017年7月「RESCUE」初日の記事参照)。その日の演出は、青い背景に原色のような抽象画がパッパッと切り替わっていくような映像だったような、かすかな記憶がある。改めてCDを購入してじっくりと歌詞を読みながら聴いてみると、新曲の中で自分が一番心惹かれたのはこの曲であると気づいた。おそらく当ブログの読者の方は筆者と似たような好みの傾向があると思うので(笑)、おそらく気に入ると思う。この曲を一言でいえば、痛みに似た恋」(歌詞中にある言葉)だろう。何とも言えない繊細な楽曲で、米津が世界をどのように観ているのか、周囲のあらゆるものや出来事から何を感じ取って楽曲に落とし込んでいるのか、というのが非常によく垣間見られる作品だと思った。タイトル的には「YANKEE」収録曲の「花に嵐」になんとなく似た雰囲気がある。美しすぎて鳥肌が立つような、ゾクゾクするような、ピュアだけれども狂気に満ちたラブソングだと感じた。

『ROCKIN' ON JAPAN 2017年11月号』、『ROCKIN' ON JAPAN 2017年12月号』米津のインタビュー&全曲解説特集によると、次のようなことが書かれていたので少し引用してみる。





(2017年11月号)「春雷」についてのインタビュー記事
(中略)(インタビュアー)「俺は”メランコリーキッチン”の発展形に乗せて、何かに心を奪われる瞬間をすごくピュアに描いた――」(米津)「それもあります」(中略)(米津)「(略)でもほんとに、これはほんとに、純粋な恋愛感情というか。そういうものを、自分の中から引きずり出して。純粋にそういう曲でもあります。」

(2017年12月号)「春雷」についての全曲解説記事
(米津)「(略)何かを熱烈に追い求める瞬間っていうのは、自分の人生の中でも何度かあって。熱烈に思えば思うほど、それが痛みになる瞬間があって。で、自分はそういう痛みによって育てられてきたなあって。その相反する感じ。”春雷”っていうタイトルも、春と雷っていうふたつのイメージがもたらすアンビバレンスな感じ。そういうものがやっぱ美しいと思う。(略)」
※参考 「メランコリーキッチン」歌詞の意味&解釈

●「春雷」(2017年11月1日発売アルバム「BOOTLEG」収録曲)


(↑ 2017年12月5日 MV公開のため追記)
今までの米津の曲にはあまりないテイストのポップな楽曲で、洗練されたおしゃれ感があると思った。「あなた」への恋心を歌った歌で、その表現のあまりの繊細さに、”これは本当に26歳の男性が書いた歌詞なのか?”と疑いたくなるほどだった。「あなた」への狂おしいほどの想いが描かれており、「さざめく秘密」「口をつぐんだ恋」といった表現からも、自身の秘めたる感情であった、もしくは不倫などの周囲にばれてはいけない関係だった(禁断の恋?)、といったことが予想される。二人が付き合っていたのかは定かではないが、「あなた」はどうも手の届かない相手、あるいは片思いのような関係性である気がしてならない。

「現れたそれは春の真っ最中 えも言えぬまま輝いていた
 どんな言葉もどんな手振りも足りやしないみたいだ
 その日から僕の胸には嵐が 住み着いたまま離れないんだ
 人の声を借りた 蒼い眼の落雷だ

 揺れながら踊るその髪の黒が 他のどれより嫋やかでした
 すっと消えそうな 真っ白い肌によく似合ってました
 あなたにはこの世界の彩りが どう見えるのか知りたくて今
 頬に手を伸ばした 壊れそうでただ怖かった

 全てはあなたの思い通り 悲しくって散らばった思いも全て
 あなたがくれたプレゼント
 ゆらゆら吹かれて深い惑い 痛み 憂い 恋しい

 言葉にするのも 形にするのも そのどれもが覚束なくって
 ただ目を見つめた するとあなたはふっと優しく笑ったんだ
 嗄れた心も さざめく秘密も 気がつけば粉々になって
 刹那の間に 痛みに似た恋が体を走ったんだ」(1番Aメロ、Bメロ、サビ)


1番のAメロは「あなた」との出会いの描写。「嵐」「落雷」という言葉がこの曲のキーワードとなっており、心が「あなた」への狂おしいほどの思いで「嵐」のようにかき乱されていること、そして、「落雷」が落ちる時のように、ズキュンと恋に落ちてしまったということを表現しているのだと思う。「人の声を借りた 蒼い眼の落雷だ」という表現がとても詩的で、これは要するに、「人」=「あなた」=「落雷」ということだろう。「蒼い眼」という表現から、外国人のことか?と思ったが、おそらく現実にそうということではなく、比喩表現だろう。”純粋で澄んだ”、ということかもしれないし、”顔面蒼白”といった言葉もあるので、少々病み気味というか”影のある””憂いを帯びた”ような雰囲気も感じられる。

次のAメロでも「あなた」の描写が続く。「すっと消えそうな 真っ白い肌」「黒」「髪」なので、おそらく外国人ではなさそうだ(笑)。繊細で儚げな美しさを纏った女性のイメージで、元気はつらつ!というよりは、少し病弱で影のある印象の方がしっくりくる。「あなたにはこの世界の彩りが どう見えるのか知りたくて今 頬に手を伸ばした 壊れそうでただ怖かった」という表現も、「あなた」のとにかく脆くて儚いイメージと、この主人公の「あなた」への切ない想いが伝わってきてぐっとくる部分だ。「見える」という歌詞は先の「蒼い眼」という言葉とも関連性がありそうで、「あなた」のその”純粋で澄んだ”、もしくは”憂いを帯びた”「蒼い眼」からは、「この世界の彩り」「どう見えるのか」と思っているのだろう。つまりは、その「あなた」のどうも放っておけないような人を惹きつける”純粋で澄んだ””憂いを帯びた”雰囲気は、どういったことから起きているのか気になるということではないだろうか。

Bメロは、主人公の「あなた」への想いの強さ、片思いっぽさが現れている部分だと思う。「全てはあなたの思い通り」というのは、「あなた」の方が(恋愛において)優位に立っているということかなと思うし、「悲しくって散らばった思いも全て あなたがくれたプレゼント」という表現は、ややM的というか(笑)、振られてもなおそれを「プレゼント」という辺りが若干狂っている。「散らばった」「ゆらゆら吹かれて」という表現が「嵐」のイメージにつながり、繊細な「あなた」という花(主人公の「あなた」への想いの象徴)が「嵐」の中でひらひらと舞っていくような心象風景が思い浮かぶ美しいシーンだ。

サビ「言葉にするのも 形にするのも そのどれもが覚束なくって」の部分、この歌詞には主語がないが、”主人公の「あなた」への想い(を)”が主語ということで間違いないと思う。「言葉」「形」では表現できない「あなた」への想い。主人公は何も言えずに、「ただ目を見つめ」ることしかできなかったのだろう。”目は口ほどに物を言う”というように、見つめ合うと「言葉」以上に相手の想いを汲み取れるもので、絶対に嘘はつけなくなってしまう。次に、「するとあなたはふっと優しく笑ったんだ」とある。「あなた」も何も言わずにその繊細で「蒼い眼」を輝かせて「笑った」のだろう。「嗄れた心」「さざめく秘密」「粉々になって」というのはどういうことだろうか。「嗄れた心」は主人公自身の乾いた心の状態を表しているのかなと思った。「さざめく秘密」はこれまで(禁断の恋なので)見ないように、気づかないようにしてきた「あなた」への複雑な想いということだろうか。「あなた」のほほえみにより、乾いた嗄れた心」「あなた」への想いを隠そうとする気持ちも粉砕され、「痛みに似た恋が体を走った」のだろう。「あなた」への恋心が自分の中に確かにあると認めた瞬間に、恋の稲妻が体中を駆け巡るような、そんなイメージだ。それは瞬間的、「刹那」的な一瞬の出来事だったのだろう。

繊細で甘美でやさしく花のように美しい「あなた」の香りに誘われて…

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「深い惑い痛み憂い繰り返し いつの間にか春になった
 甘い香り残し陰り恋焦がし 深く深く迷い込んだ

 花びらが散ればあなたとおさらば それなら僕と踊りませんか
 宙を舞う花がどうもあなたみたいで参りました
 やがてまた巡りくる春の最中 そこは豊かなひだまりでした
 身をやつしてやまない あんな嵐はどこへやら

 まだまだ心は帰れない その細い声でどうか騙しておくれ
 カラカラに枯れ果てるまで
 ふらふら揺られて甘い香り 残し 陰り 幻」(2番A’メロ、Aメロ、Bメロ)


Aメロの変形型の部分。「深い惑い痛み憂い繰り返し」というのは、1番Bメロの表現を受けて書かれている。「あなた」への想いを抱えたまま1年が経過し、また「春」になったということだろうか。この短いフレーズに「深い」「深く」という単語が3回も出てくる。この曲はとにかく「深」くてドロドロとした想いに満ち溢れているのだが、歌詞は「散らばった」「ゆらゆら」「粉々になって」といった、軽い雰囲気の単語が多く使われており、そのミスマッチ感が何とも言えない味になっている。この曲のキーポイントは、米津本人も語っていたところのまさにその”ミスマッチ感”でもある。深い情欲と軽い表現のミスマッチ、暖かくふんわりとした「春」と激しい「嵐」「雷」のミスマッチ、繊細な「あなた」と主人公の深い情欲のミスマッチ、そういった対比が描かれているのが面白いなと思う。

「花びらが散ればあなたとおさらば」という表現から、”卒業”のことを連想し、先生と生徒の禁断の恋とかもあり得るな、と思った。「宙を舞う花がどうもあなたみたいで参りました」という部分からも、やはり「花」「あなた」を重ねて描いていることが伺える。「やがてまた巡りくる春の最中 そこは豊かなひだまりでした」という表現もそうだが、1年を春を起点に始めていることからも、やはり学校の設定がピンとくる感じがする。「豊かなひだまり」からは「あなた」のあたたかさ、やさしさ、包容力を感じる。「身をやつしてやまない あんな嵐はどこへやら」という表現は、「あなた」と一緒に過ごせる間は、「あなた」のあたたかさに包まれ、心のざわつきから解放されていたということかなと思った。

2番は全体的にふわっとして繊細で甘美で美しい雰囲気があって、花のいい香りが漂ってきそうな女性らしさを感じる。「どうか騙しておくれ」というのもどこかM的で、やはり狂っている(笑)。「カラカラに枯れ果てるまで」という表現は「嗄れた心」と似ている。あえて「枯れ」たという表現を使っているのは、「花」「枯れ」ることや、恋の色気や潤いとの対比表現としての「枯れ」という意味合いがあるのだと思う。Bメロのラストで「幻」とあるのが何だか切ない。「あなた」の美しく「甘い香り」に誘われて、夢の中のような、幻想的な底なしの魅惑的な世界「深く深く迷い込んだ」ということなのかもしれない。

騙されてもいいから…ぶつけることのできない狂おしいほどの想いを抱え…

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「聞きたい言葉も 言いたい想いも 笑うくらい山ほどあって
 それでもあなたを前にすると 何にも出てはこないなんて
 焦げ付く痛みも 刺し込む痺れも 口をつぐんだ恋とわかって
 あなたの心に 橋をかける大事な雷雨だと知ったんだ

 どうか騙しておくれ 「愛」と笑っておくれ
 いつか消える日まで そのままでいて

 言葉にするのも 形にするのも そのどれもが覚束なくって
 ただ目を見つめた するとあなたはふっと優しく笑ったんだ
 嗄れた心も さざめく秘密も 気がつけば粉々になって
 刹那の間に 痛みに似た恋が体を走ったんだ」(2番サビ、Cメロ、ラストサビ)

2番サビ。始めの2行はそのままなので特に解釈の必要もないだろう。「焦げ付く痛み」「刺し込む痺れ」も、「雷」に関連した「痛みに似た恋」の表現だと思う。「口をつぐんだ恋」「さざめく秘密」という表現と似ている。「あなたの心に 橋をかける」というのはとても詩的な表現で心を惹かれる。「雷雨」「橋」と聞くと思い浮かぶのがやはり”虹”だろう。主人公と「あなた」との間に、「橋をかける」というのは、端的に言えば結ばれるということで良いと思う。「橋」”虹”をかけるためには、その前に「雷雨」が必要ということだろう。主人公の心が「嵐」「雷雨」になるというのは、前の嗄れた心」「枯れ果てる」といった表現、もしくは「豊かな陽だまり」と対比になっており、心がかき乱されてしまうのは「あなた」と結ばれる前段階として必ず必要なのだ、ということを言っているのだと思う。

Cメロは何度か繰り返される強調の部分。「どうか騙しておくれ」は2番にも出てきた。「「愛」と笑っておくれ」というのも、どこか皮肉的で狂っている雰囲気がある。先ほどの学校の先生に恋をした説を生かすとすると、先生は大人、主人公は学生ということになるので、そんな若造が「愛」のことをとやかく語ることに対する皮肉が込められているのかもしれない。「いつか消える日まで そのままでいて」というのは、「あなた」「消える」のか、主人公もしくは主人公の「あなた」への想いが「消える」のか、そのあたりは定かではない。この楽曲内で、「あなた」というのはとにかく、繊細で脆く儚く甘く美しく純粋で憂いを帯びたものとして描かれていて、本当に「いつか消える」のではないかというくらい壊れやすいイメージが浮かんでいる。今のあなたが狂おしいほどに好きだから、「どうか」「そのまま」「あなた」でいてということなのだと思う。

筆者の記憶が正しければ、2017年7月の「RESCUE」公演の際に、”過去を振り返りながら(自分と対話しながら)曲作りを進めていて、次の新曲もそんな中からできた曲”、というように紹介していたような気がする。もしそうだとすると、この曲も過去を振り返って作られた曲ということになる。
冒頭の方に、「花に嵐」「YANKEE」収録曲)との関連性を指摘した。「花に嵐」は学校内でのいじめがテーマになっている楽曲で、いじめにあっていた自分を救ってくれた人に対する感謝のような内容となっている。「花に嵐」「花」「嵐」「春雷」「春」「雷」「花」「嵐」といった単語に共通性があり、もし「花に嵐」で自分を救ってくれたのが先生で、「春雷」も学校を舞台にした話だとすると、全く違う曲のようでいて実は似たようなモチーフがもとになっているのかもしれない。これはあくまでも筆者の深読み推察である。

※参考 「花に嵐」歌詞の意味&解釈

「春雷」
歌手名・作詞・作曲:米津玄師

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