米津玄師「ピースサイン」カップリングの「Neighbourhood」を聴いて。



今回は米津玄師のシングル「ピースサイン」のカップリング曲である「Neighbourhood」を取り上げてみたい。「Neighbourhood」というのは直訳すれば”近所、地域、地域の人々”といった意味であり、タイトルからも子ども時代に過ごした狭い地域社会やその頃の記憶をもとに書かれた曲だろうと推測できる。「ピースサイン」少年時代の自己との対話がテーマとなっており、シングル全体を通して、過去の自分との対話や過去回帰などが重要なキーワードとなっている。
当楽曲については音楽サイト『リアルサウンド』で語られていたインタビュー記事の内容が参考になるので、少々引用してみる。
サイトはこちら→http://realsound.jp/2017/06/post-84263_2.html

「イメージしたのは、Oasis「Don’t Look Back In Anger」と、The Beatlesの「Strawberry Fields Forever」ですね。これにはちゃんと意味があって、彼らはイギリスの労働者階級から出てきて、一躍、国民的なスターになった、というストーリーがあるじゃないですか。そこに共感するというか、「自分もまともな教育を受けてきてねえな」と思う瞬間があるんですよね。もちろん楽しかった記憶もあるし、こんなことを言ったら親に怒られるかもしれないけれど、マジでしょうもない場所だったな、と思うんです。地元には若者の音楽みたいなものはまったくなくて、ライブハウスに行ってもダサいバンドばかり。こんなところで、こんなヤツらと一緒に生きていかなきゃと思うと絶望したし、ずっと早く出ていきたいと思っていたんですよ。この曲は、そういうふうに考えて、くすぶっていたころの自分との対話ですよね。」

●「Neighbourhood」(2017年6月21日発売シングル「ピースサイン」収録曲)

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歌詞だけを読むと少々薄暗い雰囲気というか、あまり明るくポジティブな内容には思えないのだが、曲調は(前述のインタビューにもあるように)やや明るめの英国ロックテイスト(だからタイトルも英表記?)で、これまでの米津の楽曲にはあまり見られない趣の曲だなという印象を受けた。曲自体にアナログ感があり、”身体性”を感じるどこか懐かしい雰囲気で、歌詞と非常にマッチしている。子ども時代を思い出し、”嫌だな”と思う光景も、そんな子ども時代を懐かしく思う気持ちも、両方感じることができる歌詞である。前述サイトのインタビューでこんなことも語られていた。
「愛憎入り乱れて、というか。そこから出てきた人間なんだ、ということは認めざるを得ないし、そういうものとして生きていきたいなというふうには思います。」
「この頃ひどい夢を見る 子供の頃の風景
 煙草の煙で満ちた 白い食卓だ
 腐りかけの幸せ 一日一切れずつ
 続く絶え間ないヒステリー あとは怠惰だけ

 平和も平和で反吐が出た
 遠く聞こえるバーバラアレン

 どうしたんだいなあ兄弟 俺がわかるかい?
 お前が許せるくらいの 大人になれたかな
 もういいかいなあ兄弟 ここらでおしまいで
 なんて甘えてちゃお前にも 嫌われちゃうのかな」(1番Aメロ、Bメロ、サビ)


印象的なのが「煙草の煙で満ちた 白い食卓だ」という歌詞。両親は喫煙者だったのだろうか。ぱっと見の印象でも、愛のあるあたたかい家庭や食卓ではなさそうだということが伺える。「腐りかけの幸せ」「絶え間ないヒステリー」「怠惰」といった歌詞からも、当時の身の回りの環境が子どもにとって適切で健全であったとは思えない状況だった(と認識している)ことがわかる。
Bメロの「バーバラアレン」についても、前述のサイトのインタビューで語られていたので引用してみる。
(インタビュアーに「バーバラアレン」はスコットランドの民謡ですねと言われて)
「そうですね。徳島から出てきて初めて知った曲でもあるんですけど、僕はジュディ・コリンズのバーバラアレンがめちゃくちゃ好きで。「蛍の光」などもそうですが、スコットランド民謡って、すごく郷愁を感じるじゃないですか。故郷も「しょうもない場所だったなあ」と思う反面、思い出というのは年をとるほどまやかしに包まれていって、苦しかった出来事は削ぎ落とされていく。クソみたいな環境だったけど、それはそれでよかったんじゃないか、友だちと遊んだり、幸せを感じた出来事もあっただろうと。そういうものだけを抽出して夢に見たり、あのころの友だち、何しているかなと思ったり。そういう郷愁というのは、重要なテーマでした。」
↓こちらが米津が聞いていたというジュディ・コリンズ「バーバラアレン」



このインタビューを読んで初めてこの曲を聴いてみたが、確かに非常に”郷愁”を感じる曲だなと感じた。「平和も平和で反吐が出た」という部分は、Aメロの描写からするとどこか逆説的で、とても「平和」そうには見えないのに、と思う。おそらくここでいう「平和」というのは、”規模が小さい、しょぼい、狭い世界”といったような意味なのかなと思う。パートのおばさま方が狭い社会での愚痴をこぼしているようなイメージだろうか。”こんなことであれこれ言うなんて平和だな”という皮肉めいた言葉でもあると思った。そしてそんな狭い社会(=「Neighbourhood」)とそこから抜け出したかった当時の自分や状況への郷愁として「バーバラアレン」という表現を使ったのではないだろうか。
サビについてはラストで述べてみたいと思う。

良かったことも、イマイチだったことも…全部ひっくるめて今の自分がある

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「肩を寄せ合って生きていく 小さな日陰の虫
 新聞の文字は小さく テレビは煩い
 右曲りのトラックに 巻き込まれたらしいよ
 あの子がくれたガンダム まだ残ってるかな

 有り余ってる時間を 悪戯に溶かしていく
 どうすればいいのかわからない それもわからない
 この頃ひどい夢を見る 子供の頃の風景
 煙草の煙で満ちた 白い食卓だ

 平和も平和で泣けてきた
 耳に残るバーバラアレン

 どうしたんだいなあ兄弟 どこで泣いてんだい?
 それはお前には似合わない すぐに脱ぎ捨てとけ
 もういいかいなあ兄弟 それでもやめらんない
 にやけ笑いかまして午前四時 それはそれで楽しい」(2番Aメロ、Bメロ、サビ)


2番のAメロは主に同じ時を過ごした幼馴染や友人との関係性を描写しているのではないかと感じた。「右回りのトラックに 巻き込まれたらしいよ あの子がくれたガンダム まだ残ってるかな」、この歌詞は流れから言っても、どこか突然放り込まれた感覚がある不思議な歌詞だと思う。(おそらく)友人が交通事故に遭って亡くなってしまったことを暗に示唆していて、どこか悲しい雰囲気が漂っている。
次のAメロ変形の段落は非常に感情的で、繰り返しの歌詞があることからも強調されている印象を受ける。「有り余ってる時間を 悪戯に溶かしていく」という歌詞からは、田舎の狭い社会での暮らしが退屈で暇で暇で仕方ない様子が伝わってくる。やり場のない爆発したいほどのエネルギーを持てあました少年期、思春期の子どもの頃を想像させる印象的な描写だと思った。
サビの「午前四時」という単語に妙に引っかかった。シングル表題曲「ピースサイン」においても「夜明け前を手に入れて笑おう」という歌詞があったからだ。米津にとって「午前四時」「夜明け前」というのは特別な時間帯なのだろう。『MUSICA 2017年7月号』のインタビューにはこう書かれている。
「自分は夜明け前が凄く好きなんですよね。(略)何かと何かの狭間にあるあの時間が、求めようとしても決して得られないものとリンクしているというか……子供って大人になりたいと思って背伸びしたりするじゃないですか。(略)子供達のそういう気持ちと夜明け前の状態がリンクして見える部分があったんですね。(略)」








子ども時代の自分へ語りかける。「お前が許せるくらいの大人になれたかな」

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「生きられないなって トイレの鏡の前で泣いてた
 逃げ出せその街を 飛ばせ飛ばせ飛ばせ 笑え笑え笑え
 
 定期を買うくらいの まとまった金すらなくて
 毎日切符で済まして むしろ金かかる 
 きっと夢は叶うなんて嘘を 初めから信じちゃいなかった
 それでもなおここまでこれた お前はどうしたい?

 どうしたんだいなあ兄弟 俺がわかるかい?
 お前が許せるくらいの 大人になれたかな
 もういいかいなあ兄弟 ここらでおしまいで
 なんて甘えてちゃお前にも 嫌われちゃうのかな」(Cメロ、Aメロ(再)、ラストサビ)


2番のサビでも、Cメロにおいても”泣く”という描写が出てくる。子どもの頃の狭い社会が退屈で窮屈でつまらなくて、一刻も早くここから出たい!という気持ちの表れだろうか。「逃げ出せその街を 飛ばせ飛ばせ飛ばせ 笑え笑え笑え」という歌詞からは切迫感や感情の高ぶりを感じる。
Aメロ(再)からは、当時は決して裕福ではなかったこと、夢は叶うわけがないと思っていたことが伺える。「それでもなおここまでこれた お前はどうしたい?」、この問いかけは大人になった自分から当時の自分への問いかけだろう。米津の思想をより濃く読み取るとすれば、「それでもなおこんな遠くまでこれた」ということであろうし、あの時思い切って「逃げ出」し、上京してきたからこそ今があるし、生まれ育った場所が上京したいと思うほどの(自分にとって良くない)環境だったからこそ今がある、と見ることもできる。
サビの「どうしたんだいなあ兄弟」「もういいかいなあ兄弟」という問いかけも、もちろん子ども時代の自分に対するものだろう。「お前が許せるくらいの大人になれたかな」、この1フレーズがこの曲のメインテーマであり、この問いかけを続けながらこれからも生きていくのだろうと思う。子どもの頃の自分はどんな自分を許し、どんな自分を許せないと言うだろうか?それは人それぞれかもしれない。ただ、その瞬間、その瞬間を全力で、懸命に生きていたとすれば、それをとがめる人はいないように思う。生まれ育った環境はどうあれ、誰しもが子どもの頃の自分に胸を張って生きられる人生を歩んでいけるといいなと感じる一曲だった。

「Neighbourhood」
歌手名・作詞・作曲:米津玄師

歌詞サイトはこちら

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