サカナクションの「モス」を聴いて。


今回は2019年6月19日に発売されたサカナクションのアルバム「834.194」のdisc1に収録されている「モス」を取り上げてみたいと思う。この曲を筆者が初めて聴いたのは2018年12月の魚図鑑ゼミナール@六本木だったが、この時は「マイノリティ」という仮タイトルが付けられていた。この曲は2019年7月クールのフジテレビ系木曜ドラマ『ルパンの娘』の主題歌にも起用されている。
歌詞の「マイノリティ」の部分は掛け合いのようになっていて、ライブではノリノリになって楽しめる。「モス」という字面だけ見ると一瞬固まってしまうが、「モス」というのは”蛾”のことであり、某ハンバーガーショップのことではない(笑)。太鼓のようなパーカッションの音色がメラメラしていて、血気盛んな印象のあるこの曲。”マイノリティなめんな!”という、あふれ出んばかりの負けず嫌い精神やカウンター精神を感じることのできる一曲だ。


※参考記事



※参考 雑誌『TV bros 2019年6月号』


作詞をしていて、どうなったら”完成”と思うのかをインタビュアーに聞かれて回答する中に、この曲についての話が出てきたので引用してみる。
「(略)絵画に例えると、白いキャンバスに向かって、こういうメロディとリズムがあるから、それに対して抽象画のように、ひたすら何かを描いては消し、描いては消しという作業を繰り返すんです。そうすると、そのうちに何か形に見えてくるんですよ。「あれ? 僕が書いているのは壺かな?」って。それって、最初から「壺を描くぞ!」って描く絵とは違って、もっといろんなことを内包しているんです。だから、どこかいびつになるし、真っ直ぐなものにはならない。そうやって、陶芸家が粘土をこねるように、まず自分が何を歌いたいのかを模索していくんです。」
(インタビュアーに「書けた!」と感じる瞬間はどんなものか聞かれて)
「ひとことが出てきた時です。」
「(略)さっき、描いては消しを繰り返すって話したじゃないですか。自分でも何だか分からないけど、ぐにゃぐにゃと詞を書き続けていく中で、たとえば新曲に「蛾」の歌があるんですけど、その歌詞も、「あっ、自分が書こうとしてたものは蛾のことだったんだ」って気付く瞬間があって、それが分かったら完成なんです。(略)」

※参考 雑誌『MUSICA 2019年7月号』


インタビューの中で、この曲に関係する部分を一部引用してみる。
(山口)「マイノリティっていう言葉って僕達が安易に使っている以上に色んな性質を持ってて……社会的にマイノリティっていう言葉を聞くと、そこにはやっぱり性的マイノリティだったり民族的マイノリティってものを内包するじゃないですか。でも僕が言いたかったことって――これは愛美ちゃんに言われたことだけど、マイノリティってことじゃなくてディファレント、つまり違うもの、みんなが好きと言うものを好きと言わない性質というか。つまり高校時代の自分達ですよ。売れてるものを好きって言うんじゃなくて、自分の好きなものを見つけていく、それが売れたらまた離れていくっていう、ある種、音楽リスナーの健全なスタイル(笑)」
(インタビュアー)「いつでもカウンターっていうね。」
(山口)「そうそうそう(笑)。それが自分達の考え方なんだなっていうふうに愛美ちゃんに言われて、確かにそうだなと思って。で、これを”マイノリティ”っていうタイトルにすると、そういう自分達の言いたい部分を的確に言えないなって思ったんですよ。それでタイトルを変えなきゃいけないなと思って、歌詞の内容もディファレントに近い性質にしていこうと思って、『蛾』をテーマにしたんです。で、3つめの目という、自分達が普段見てるものとは違うもう1個スカした目というか、それを持ってるという……そこに着地できて完成したかなって思いますね」

※参考 ラジオ『サカナロックス』
・2019年6月14日放送分
「サカナクションのニューアルバム『834.194』を半解剖!」
https://www.tfm.co.jp/lock/sakana/index.php?itemid=13144&catid=17&catid=17
この曲はもともと「マイノリティ」っていう仮タイトルが付いていたんですよ。歌詞の中にも「マイノリティ」って言葉が出てくるんですけど、結構この言葉ってセンシティブじゃないですか。性的マイノリティや民族的マイノリティも含まれるから。でも、僕が言いたかったのは、みんなが好きと言うものを好きと言いたくない……自分の中に本当に好きなものがあるっていう、それを選ぶっていう性質のマイノリティだったんだけど。それを「マイノリティ」っていうタイトルにしちゃうと全部含んでしまうので。違った表現ができないかなっていうので「モス」っていう……虫の蛾ですね。それをタイトルにして完成させた曲です。
この曲は、サカナクションの中でも"浅瀬"というかね。一番外側に向けて発信する曲として作り始めたんですけど、コンセプトとしては、C-C-Bと、Talking HeadsとUKインディ……Klaxonsとか、Bloc Partyっていう僕らの時代の青春です……そういうバンドをぐっと混ぜ合わせたらどういう曲になるかっていうのを実験的に作っていった曲だったんですね。でも最初は、C-C-BとTalking Headsと山本リンダだったの(笑)。でも、山本リンダ感って結構な山本リンダ感が出ちゃって……頭の、ジャジャ、ジャジャ……っていうところは山本リンダ。(♪山本リンダの「狙いうち」が流れて……)そう、これ!ここからの……(♪サカナクションの「モス」が流れて……) ほら!!何か感じる?感じなかった?今の!そういうコンセプトで作った曲なので。他にもそういう曲があるから、これはどんなコンセプトで作った曲なのかなって聴いてくれると嬉しいです。

・2019年6月21日放送分
「ニューアルバム『834.194』発売!完成までの6年間を振り返ります。」
https://www.tfm.co.jp/lock/sakana/index.php?itemid=13184&catid=27&catid=17

山口「この曲のコンセプト……DISC1に入っている曲は、作為性をもって作っている曲だから。」

諏訪「僕は作為性にはまるタイプなので。」

山口「ははは(笑)。その諏訪さんが釣れた「モス」っていう曲は、円グラフがあるとしたら、メンバーと話し合って結果的に落ち着いたバランスっていうのが……」

山口「25パーセント、Talking Heads感。25パーセントは山本リンダ感。」

諏訪「イントロね!」

山口「そう!でも、後で気づいたんですけど、これは相川七瀬感なのかもしれないって(笑)。」

諏訪「ははは(笑)。相川七瀬が山本リンダ感なのかもしれないしね。」

山口「よくわかんなくなっちゃってるけど(笑)。"夢見る少女じゃいられない"かもしれなかったんですけど(笑)。で、1990年代〜2000年代のUKロック感。これは、Bloc Partyだったり……僕らの青春です。UKロックにものすごく勢いがあって……UKインディーロックって言っていいのかな?Klaxonsだったり。その辺の感じを出したかった。残りの25パーセントがC-C-B感。」

諏訪「エジーがピンクの髪で歌ってる感じでしょ?」

山口「ははは!(笑) C-C-Bがわからない人は検索してみてください(笑)。その、Talking Heads、UKロック、山本リンダ、C-C-Bの4つを混ぜ合わせてサカナクションらしい曲を作るとどうなるのっていうお題でやり始めたんです。」

諏訪「ほー!作為性っていうのはそういうことでもあるんですね。実験的なところがあるわけですね。」

C-C-B 「ロマンチックが止まらない」



Talking Heads 「Psycho Killer」



Bloc Party 「Helicopter」



山本リンダ 「狙いうち」



相川七瀬 「夢見る少女じゃいられない」



※曲中の歌詞”三つ目の眼”とは何だろう?


「目」が出てくるサカナクションの曲はいくつかあるが、2012年に発売されたシングル「僕と花」の冒頭の歌詞はこの曲と関係があるのではないかと思った。

「僕の目 ひとつあげましょう だからあなたの目をください」

歌手名:サカナクション 作詞・作曲:山口一郎
歌詞サイトはこちら

この歌詞について、ベストアルバム「魚図鑑」の冊子にはこんな説明が書いてある。
(略)また、冒頭の「僕の目 ひとつあげましょう だからあなたの目をください」というフレーズは、「音楽で客観視をあげるから、みんなの客観視をください」という意味だとのこと。
”客観視”ということで言うと、”六人目のサカナクションのメンバー”とも言われている、エンジニアの浦本雅史氏の顔が浮かぶ。浦本氏とは、3枚目のアルバム「シンシロ」からの付き合いとのことで、近年はライブにもマニピュレーターとして参加しているらしい。山口一郎がいかに浦本氏を信用しているかという話は、『Sound & Recording Magazine 2019年8月号』に記載があった(山口一郎のインタビュー記事より引用)。
(略)僕はシーンにおけるサカナクションの立ち位置みたいなものは俯瞰できているけど、リアルなサカナクションを一番客観視できているのは浦本さんだと思っています。



●「モス」(2019年6月19日発売アルバム「834.194」収録曲)



繭の映像に耐え、MVを最後まで見ると、山口一郎の隣の家から美少女が出てくる。実はこの美少女は”可愛すぎる美少年”として話題になっている井手上漠氏(男)なのであった。筆者も普通に可愛い子だなぁと思ってクレジットの名前を見たら…以前に一度テレビで観たことがあったので、”あの子か!”と思った。”マイノリティ”をテーマにした楽曲ということで、ジェンダーレス男子の井手上を起用したらしい。


山口一郎
はこの曲で言うところの”マイノリティ”について、上記のインタビューを見ると、”みんなの好きと言うものを好きと言わない”、”売れているものではなく、好きなものを選んでいく”ということを言いたかったのだと言っている。要するにひねくれ者のあまのじゃく精神である(笑)。”他と違うことにアイデンティティを持ってやってきたということだろうか。
そういうことで言うと、確かに性的マイノリティや民族的マイノリティとは意味合いが違っている。彼らは好き好んでマイノリティになったわけではないし、その苦しみの原因は社会の不寛容、不理解といったものが中心だろう。しかし、山口一郎は他人と違うところへ好んで向かっていっているように見える。だからこそ、「マイノリティ」ではなく「モス」というタイトルにしたということなのだろうが。

とはいえ、この曲には山口一郎がよく言っている”38歳で独身子なしであるという自分はマイノリティである”、という考えもどこか含まれているように感じる。また、自分達が本当に好きでやりたい音楽が大衆受けしないものである(=マイノリティである)ということも歌われているように思う(上で書いたことと若干矛盾)。自分たちはマイノリティだなんだと言っている時点で、相当”他人の目””世間体”のようなものを気にしている人なのかもしれない(わかっていたことだが…)。

「君のこと
(ソウゾウデキズニ)

 知らなくていいや
(ソウイウフンイキ)

 僕はまだ
(ソウゾウデキズニ)

 探してたいんだ
(ソウイウコトバガ)

 抱えても
 叶えられないこと

 比べても
 負けるとわかってたんだ

 繭割って蛾になる マイノリティ
 揺れてる心ずっと 三つ目の眼
 
 飛び交う蛾になる マイノリティ
 雨に打たれ 羽が折りたたまれても」(1番Aメロ、Bメロ、サビ)

Aメロは”()”の部分にコーラスが入る構成となっている。その部分を抜き出すと「(ソウゾウデキズニ ソウイウフンイキ ソウゾウデキズニ ソウイウコトバガ)」となる。これを漢字ひらがなにして順番を入れ替えると、”そういう雰囲気 想像できずに そういう言葉が 想像できずに”となる。これはどういうことかと考えてみたところ、山口一郎が気にしている”結婚””恋愛”に関することではないかと思った。家庭を持つ自分が想像できない…など。
「君のこと 知らなくていいや 僕はまだ 探してたいんだ」のフレーズも見てみる。「君」はこれから先の”未来”に関することなのではないかと感じる。「君」”結婚””家庭を持つこと”と置き換えてもなんとなく意味が通じる。「僕はまだ」音楽の道で「探してたいんだ」という意思表示にも見える。また、「君」”大衆一般(マジョリティ)”として、「君のこと 知らなくていいや」(=大衆の好みは無視する=マイノリティ)という意味にもとれるなと思った。

Bメロの「抱えても 叶えられないこと 比べても 負けるとわかっていたんだ」の部分は、勝ち負けにこだわる主人公の性質が見て取れる。「抱えて」いるのは”頭”だろうか。いつも頭を「抱えて」悩んでも、「叶えられないこと」があると。誰かと自分達を「比べて」苦しんでいたこともうかがえる。自分達の音楽は作為性を持たずに作って大衆受けする(=勝つ)ようなものではなく、作為性を狙ってやっとシーンで戦える、そういった「マイノリティ」な性質のことを言っているのかなと思った。

サビ「繭割って蛾になる マイノリティ 揺れてる心ずっと 三つ目の眼」の部分を見てみる。「マイノリティ」な性質を持つ自分達が「繭割って蛾にな」り、幼虫から蛹へ、成虫へと変態し、外へ飛び立つ様子が描かれている。”作為性””無作為性”の狭間で「揺れてる心」と、それを見つめる「三つ目の眼」。それはつまり”客観視”の視点である。外へ飛び立つにあたって、その「三つ目の眼」が重要な役割を果たしていると言えるのではないだろうか。

続く「飛び交う蛾になる マイノリティ 雨に打たれ 羽が折りたたまれても」のフレーズ。「繭」の中でじっとしていた幼虫、蛹時代を経て、外を「飛び交う蛾」になったのだという。これからは内にこもっていないで、「マイノリティ」なりに精力的に活動していくという決意だろうか。時には「雨に打たれ」、活動できなくなったり停滞する時期があるかもしれない。たとえ「羽が折りたたまれても」、どこかで雨宿りして休みつつ、また「飛び交う蛾」として飛び立っていくのだ。無邪気な幼虫時代、時機を待つ蛹時代を経て、ようやく成虫になったサカナクションの現在を表しているのかもしれない。

空からの視点と空を飛ぶための羽を獲得した、”成虫”サカナクション

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「君の上を
(ソウゾウデキズニ)

 ふわふわ浮いた
(ソウイウフンイキ)

 抱えても
 叶えられないこと

 比べても
 一人でうずくまっても

 つまづいても
 誰かが指差しても

 次の場所を
 行けるとわかってたんだろう
 
 繭割って蛾になる マイノリティ
 揺れてる心ずっと 三つ目の眼
 
 飛び交う蛾になる マイノリティ
 雨に打たれ 羽が折りたたまれても

 繭割って蛾になる マイノリティ
 揺れてる心ずっと 三つ目の眼
 
 連れてく蛾になる マイノリティ
 君はまた僕を思い出せるなら」(2番Aメロ、B’メロ、サビ)


2番Aメロは短く、「君の上を ふわふわ浮いた」の部分しかない。ここでの「君」は漠然としていて意味がわかりにくいが、「君」=大衆として、人々や世の中の様子を上から俯瞰しているようなイメージが浮かんだ。”客観視”のイメージに似ている。空から見るという「三つ目の眼」を獲得して、客観的に世の中を見ているのではないだろうか。

Bメロは1番の変形型。「抱えても 叶えられないこと 比べても 一人でうずくまっても つまづいても 誰かが指差しても 次の場所を 行けるとわかってたんだろう」とある。Bメロが増えて、サビに向かう切迫感がアップしている。「一人でうずくまっても つまづいても 誰かが指差しても」と言うのは苦しみの描写。どんなに苦しいことがあっても、他人に見下されて笑われても、といった意味だろう。「次の場所」は次のサビ「連れてく蛾になる」にかかる言葉でもある。空からの視点と空を飛ぶための羽を獲得した成虫は、「次の場所」「行けるとわかってたんだろう」と、過去を振り返りつつ思っている。過去の自分には、どんなに辛いことがあっても「次の場所」は必ず用意されている確信があったということだ。

ラストのサビだけ文言が変わっている。「連れてく蛾になる マイノリティ 君はまた僕を思い出せるなら」とある。「連れてく蛾」の行き先はもちろん「次の場所」ということだろう。「連れてく」と聞くと、「新宝島」の歌詞を思い出す。「次の場所」というのは、サカナクションで言えば”NF”のことであろう。サカナクションを入口に、”NF”やその他のカルチャー全般にも興味を持ってほしい、というのが「連れてく」の意味だろう。「君はまた僕を思い出せるなら」の歌詞がこの曲の中で一番意味深で、よく意味がわからない部分だ。”「君」=大衆”説でいくと、人々が自分のことを「思い出せるなら」ということになる。結局のところ、自分達のことを忘れないでほしい、覚えていてほしいということなのだと思う。”NF”の活動とかもいろいろやるけど、こんなサカナクションをこれからもよろしく、ということなのではないだろうか。

「蛾」というモチーフについて、きらびやかで美しいイメージの”蝶”との対比という意味もあるのかもしれない。世間の好みを鑑みても、蝶がメジャーなら、「蛾」が好きな人は「マイノリティ」と言えるだろう。6年間アルバムを出さない小休止状態だったサカナクションだが、これからは「飛び交う蛾」のごとく、精力的に活動するつもりなのだろう。次のアルバムは何年後になるのだろうか。リリース情報が待ち遠しい。


「モス」
歌手名:サカナクション 作詞・作曲:山口一郎

歌詞サイトはこちら

※「834.194」収録曲も














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※ライブのレポ&感想記事
観覧感想@NHK SONGS 2019年7月6日放送分
ライブ感想@幕張メッセ 2019年4月 (834.194)6.1chサラウンド公演
ライブ感想@六本木 2018年12月 魚図鑑ゼミナール・ビジュアルライブセッション
ライブ感想@幕張メッセ 2017年9月 10周年6.1chサラウンド公演

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