サカナクションの「セプテンバー」を聴いて。


今回は2019年6月19日に発売されたサカナクションのアルバム「834.194」のdisc1、disc2に収録されている「セプテンバー」という曲を取り上げてみたいと思う。この曲はdisc1には東京バージョンが、disc2には札幌バージョンが収録されており、異なるアレンジを楽しむことができる。筆者がこの曲を初めて聴いたのはラジオ『サカナロックス』2019年2月7日放送分(HPリンク)のアコースティック弾き語りバージョンだった。その時は1番しか歌わなかったのだが、かなり”死”を意識した歌詞だなぁと思った記憶がある。アコースティックに近いアレンジが札幌バージョン東京バージョンはより電子音的で都会的なアレンジとなっている。2019年4月のアルバム発売前の幕張のライブにおいて、この曲は2回披露されており、アルバムを象徴するような楽曲なのだと感じた。
「セプテンバー」は最近作られた楽曲ではなく、17歳頃、他人に聴かせることを意識していない頃に作られた曲なのだという。アルバムを2枚組にすることに決め、どのように振り分けようとかと考えたときに、”作為性と無作為性”というテーマに落ち着き、”無作為で作っていた頃の象徴の曲”として、NFでも受けが良かった「セプテンバー」を収録することに決めたようだ。このアルバムには他にも過去に作った曲をリアレンジした曲が収録されている(「ナイロンの糸」)。
筆者個人的には、よりこの曲の雰囲気が出ているのはやはり札幌バージョンかなという気がする。聴いていてすんなりなじむというか、音数が少なく素朴な雰囲気が若者独特の歪さや青さを表現しているようで心地良く感じる。初期のアルバム「GO TO THE FUTURE」の雰囲気に近い感じも良い。

※参考記事 ライブで初めて聴いた時の感想など



※参考 雑誌『MUSICA 2019年7月号』


インタビューの中でこの曲について語られているところを引用してみる。

(筆者注:2枚組のコンセプトを決めるにあたり、外向けのわかりやすいものと内省的な難しいもの、どちらも捨てきれなくて悩んでいたというくだりがあり)
(山口)「(略)で、これってなんなのかって思ってた頃に、たまたま”セプテンバー”っていう札幌時代に作った曲を、一昨年の12月にリキッドルームでやったNFの時に、アコースティックで弾き語りしたんですよ」
(インタビュアー)「この曲はそんな昔からあった曲なんだ。」
(山口)「17だか18の時に書いた曲なんですよね」
(インタビュアー)「それって、要するにダッチマン(サカナクションの前にモッチや一郎が組んでいたバンド)の時に作った曲ってこと?
(山口)「そう、ダッチマンの曲です。あの時って今みたく誰かに聴かせる前提で作ってないんですよ。自分のためだけに作ってる曲だから、もの凄く歪で生々しいんですよね。それをステージで今のお客さんに向けて歌った時に反応がよかったし、かつ、その歪さが自然に感じられたんですよ。つまりまったく作為性がない時に作ってたものの感覚……その昔、札幌のベッシーホールでライヴやってたり、5人で札幌のStudio Bepopに集まって自分達で楽器セッティングして作ってたり、そうやって全部自分達で完結してた時のこの感じっていうのは、今の自分達のお客さんに届くんだな、今のシーンにも届くんだなっていう確信にもなって。ただ、この感じはもう二度と作れないなとも思ったんですよね」

※参考 雑誌『ROCKIN' ON JAPAN 2019年8月号』


インタビューでこの曲について語られている部分を引用してみる。
(インタビュアー)「≪僕たちはいつか墓となり/土に戻るだろう≫って17歳が言ってるって考えると結構すごいですよね。」
(山口)「でもこれ、SNSがある時代だったらただの中二病ですよ。それがなかった時代だからこそ書けた曲なのかなって。石川啄木とかも今だったらただの中二病って言われて終わってたかもしれない。だからやっぱりSNSはセンチメンタルを殺したと思う。」
(インタビュアー)「今までこの曲をサカナクションで作り直そうとか、アルバムに入れようとしたことはあったんですか?」
(山口)「いや、ないですね。ただ『NF』で藤原ヒロシさんと二人でアコースティックライブをした時に、なんの曲歌おうかなってステージで考えて、ふと歌ってみたんですよ。本当に何年、何十年ぶりに。そしたら意外と気持ちよく歌えたし、お客さんも『あ、新曲だ』みたいな感覚で聴いてくれて。だから、そうやって作為性がなく作ったものも純粋に聴いてもらえるようになったのかなっていう。むしろ、そういったものを求められてるのかなっていうヒントになったんですよね」


●「セプテンバー」(2019年6月19日発売アルバム「834.194」収録曲)

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この歌詞を17歳が書いたと思うと、やはり山口一郎は相当早熟な高校生だったのだろうなと、周りの人とは価値観が合わなかっただろうなと、思わざるを得なかった。本人もよく、”孤独”や”孤高”といった表現を使っているようだが、こんな歌詞を作る人間がクラスの中心で仲間に囲まれてリア充生活を送っているとは到底思えない(笑)。山口「SNSはセンチメンタルを殺した」と言うが、当時の山口がこういった歌詞や曲を現代のYouTubeで発信していたら、”陰キャのカリスマ”的に、おそらく早熟の天才として注目されたのではないかと思う。確かにSNSはセンチメンタルを殺した側面もあるが、同時に多様性を許容し、同じような人と人とを結びつける文化も生まれたのではないか。身近に合う人はいなくても遠くで同じを思いを抱えた人の共感を呼び、一気に拡散されていたかもしれない。

「転んで 足元 つばを吐いた
 古傷くすぶっては 腹を立てた

 自信 疑心 欲に幸
 全てグッと抱いては
 曇り空の下で
 湿った風仰いでた

 僕たちは いつか墓となり
 土に戻るだろう
 何も語らずに済むならばいいだろう
 それもまあいいだろう」(1番Aメロ、Bメロ、サビ)


冒頭Aメロ「転んで 足元 つばを吐いた 古傷くすぶっては 腹を立てた」とある。この部分は主人公の青年の思春期特有の”不機嫌さ”というか、”人生うまくいかねぇ”と悶々としているような、鬱屈とした気持ちが表現されていると思う。「腹を立てた」という怒りもあるし、過去の「古傷がくすぶって」落ち込むような気持ちもある。

続くBメロの「自信 疑心 欲に幸」という部分も、思春期の心のもやもや感を端的に表した部分だなと感じた。”自分はすごい、できる”という「自信」、”いやでも本当にそうか?”という「疑心」、”有名になりたい、金持ちになりたい”という「欲」、その先にあるであろう「幸」といったところだろうか。こういった様々な気持ちやもやもやを「全てグッと抱いて」いるのだろう。「曇り空の下で」という表現は、秋のどんよりとした雲をイメージさせる。今にも雨が降ってきそうな、「湿った風」を感じている様子は、主人公のもやもやどんよりとした、陰気な心模様を表現しているようでもある。

サビの「僕たちは いつか墓となり 土に戻るだろう」の部分は、明らかに”死”をイメージさせる歌詞だ。この曲のタイトル「セプテンバー」=9月というのは、山口一郎の誕生日(9月8日)がある月でもある。自分の生まれた月のタイトルで、”死”について思いを馳せるというのも非常に象徴的な歌詞だなと思う。17歳にしては悟りすぎというか、大人びたようないわゆる”中二病”的な雰囲気がある。「何も語らずに済むならばいいだろう それもまあいいだろう」の歌詞は、同じことを繰り返して確認しているような節があり、意味深だなと思う。「何も語らずに済む」、つまり、「何も語」りたくないのだろうか?というと、「それもまあいいだろう」と言う。「まあ」とは何だろう。「何も語」ることができなくなる状態=”死”「いいだろう」と肯定する面もありつつ、それでもやはり生きている限りは”何かを語りたい”と言っているような、そんな気持ちを感じ取った。

未来を想像しているような…!?不思議な歌詞

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「心が貧しくなってたんだ
 だからさ 道草食ってたんだ

 わずかな知識でも
 慰めになるから
 捜し求め歩いては
 また口つぐむだろう

 そして汚れた世界
 熱い背中にハロー
 その頃の僕には
 湿った風が吹いてた」(2番Aメロ、Bメロ)


2番はとても不思議な歌詞で、17歳の主人公が未来を想像して書いているのかと思わせるような、大人の世界に対する感覚を歌詞にしたような雰囲気を感じる。「心が貧しくなってたんだ だからさ 道草食ってたんだ」の部分は、まさにサカナクションのこれまでの軌跡を描いたような歌詞で、タイムマシンに乗って書いたのではないかと錯覚してしまうほどだ(笑)。テレビに出て疲れて6年間アルバムを出さなかった今のサカナクションのことを言っているかのようである。

続くBメロ「わずかな知識でも 慰めになるから 捜し求め歩いては また口つぐむだろう」のフレーズは、筆者が一番気に入っている部分で、「知識」「捜し求め歩いて」いるのに、なぜ「また口つぐむ」のだろう?という矛盾が心に引っかかった。「口つぐむ」はサビの「何も語らずに」と対応しているので、”死”と置き換えることもできるのかもしれない。この世で様々な経験を積んで人生を歩んでいったとしても、またいつか死は訪れるのだと。もしくは、この世の中のことを知るために、あえて「口つぐむ」のかもしれない。内面の静寂の中にこそ、「捜し求め」ている答えがあるのだと。「捜し求め」る答えを見つけるために、あえて「口つぐむ」のだとしたら、非常に哲学的で内省的な歌詞だなと思った。

次のBメロはいまいち解釈が難しい部分だった。「そして汚れた世界 熱い背中にハロー」とある。「汚れた世界」は言ってみれば「欲」にまみれた”大人”の世界ということになると思う。17歳の青年にとって大人の世界は未知の世界だが、それでも少しは窺い知ることができる。そして「熱い背中にハロー」の部分は、先を行く先人の大人たちの「熱い」後ろ姿に出会う、といったことかなと思った。大人の世界は「汚れた世界」ではあるが、その中でも「熱い」気持ちを持って活動している人々もいる、ということだろうか。「熱い」という表現からは、17歳の自分が非常に冷めた目で世の中を見つめ、大人の世界に対してもある種心の距離を置きながら近づこうとしていくような、そんな雰囲気も感じた。

その後「その頃の僕には 湿った風が吹いてた」と続くが、「その頃」とは一体いつのことだろうか。大人の世界に足を踏み入れた「僕」と解釈すると、「その頃の僕」にも、1番と同じように「湿った風が吹いてた」のだという。「湿った風」という言葉からはあまりポジティブなイメージは浮かばない。子供でも大人でもない自分が今感じているもやもや感、そして大人になってからの自分も同じようにもやもやとした感覚を抱くのではなかろうかと想像する、「湿った風」からはそんな様子が読み取れた。

達観した死生観…輪廻転生?お彼岸にこの世とあの世を意識して…

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「僕たちは いつか花となり
 土に戻るだろう
 何も語らずに済むならばいいだろう
 それもまあいいだろう

 僕たちは いつか墓となり
 土に戻るだろう
 何も語らずに済むならばいいだろう
 それもまあいいさ

 僕たちは いつか墓に生る
 苔にもなるだろう
 ここで生きる意味 捜し求め歩くだろう
 それもまあいいさ」(2番サビ、ラストサビ)

 
サビは少しずつ文言が違っている。2番サビは「花となり」と言っていて、ラストでは「墓に生る苔にもなる」と言っている。我々が死んで肉体が滅びて、ゆくゆくは「花」「苔」になるということはわかるのだが、我々が死んで魂のような存在になったときに、「花」「苔」に生まれ変わるというイメージはあまり持てない。「花」「苔」になるのは、”肉体”としての我々のことなのではないかという気がしている。火葬の現代ではイメージが付きにくいが、土葬という風習をイメージするとその点については納得ができると思う。

ラストサビに「ここで生きる意味 捜し求め歩くだろう」という部分がある。この部分はこの曲の主題のような歌詞で、非常に重要だろう。2番Bメロで「捜し求め歩いて」いたのは、実は「生きる意味」だったのかもしれない。「知識」を得たいのではなく、「生きる意味」を知りたくて、少しでも「慰めになる」「知識」「捜し求め」ていたのだろう。

そして「ここ」という場所についても考えてみたい。「ここ」というのは、死後の世界を意識したうえでの「ここ」なのではないかという気がする。つまりは、あの世とこの世、この世としての「ここ」という意味なのではないかと思った。9月はお彼岸もあり、お墓参りをすることも多い。先祖の墓の前で故人を偲ぶとともに、ではなぜ「僕」は今「ここ」に生きているのだろう?と考える。ラストの方で歌詞には記されていない「僕たちはセプテンバー」という声も入るが、言葉にならない様々な感情が込められた心の叫びにも胸が打たれる。

この歌詞全体を通して「生きる意味」というのが重要なテーマになっており、17歳の主人公が今感じている、そして大人の自分が感じるであろうもやもや感も、「生きる意味」というテーマに関係があるのではないかと感じる。墓を前にすると、自分もいつかは死んであの世に逝くのだという気持ちにさせられるし、あの世ではない”この世”に自分が「生きる意味」とは何かということを考えざるを得なくなる。そして、せっかくなら生きているうちに、何かを語っておきたい、というそんな気持ちも伺える。これからも、そんな内省的な山口一郎が語る言葉に耳を傾けていきたいと感じる「セプテンバー」の一日であった。

「セプテンバー」
歌手名:サカナクション 作詞・作曲:山口一郎

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※「834.194」収録曲も
 

 

 

 

 

 



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※ライブのレポ&感想記事
ライブ感想@幕張メッセ 2019年4月 (834.194)6.1chサラウンド公演
ライブ感想@六本木 2018年12月 魚図鑑ゼミナール・ビジュアルライブセッション
ライブ感想@幕張メッセ 2017年9月 10周年6.1chサラウンド公演

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