2005年05月10日

権利の濫用(配転命令)

【介護必要な家族いる従業員への転勤命令に無効判決】

 介護や援助が必要な家族がいるのに遠隔地への転勤を命じたのは不当として、ネスレジャパン姫路工場(兵庫県香寺町)の男性従業員2人が、本社のネスレジャパンホールディング(茨城県稲敷市)に地位保全と賃金の支払いを求めた訴訟の判決が9日、神戸地裁姫路支部であった。松本哲泓(てつ・おう)裁判長は「2人が転勤すれば、家族の治療や介護が困難となり、症状が悪化する可能性がある。不利益は大きく、配転命令権の乱用にあたる」などとして、転勤命令を無効として従う義務がないことを認めるとともに、会社側に03年9月以降の未払い賃金の支払いを命じた。

 原告側代理人の吉田竜一弁護士は「家族の介護などの理由で配転命令が無効になるのは珍しい。家庭の問題を抱える従業員に、転勤が大きな影響を与えることを認めてくれた意義ある判決だ」と話している。

 勝訴したのは、妻が精神病を患っている兵庫県姫路市の男性従業員(55)と、母親がパーキンソン病のため要介護度2の認定を受けている同県神崎郡内の男性従業員(49)。

 判決によると、ネスレ社は03年5月、贈答品の箱詰め作業をしていた姫路工場のギフトボックス係の廃止を決め、従業員60人に茨城県稲敷市の霞ケ浦工場へ転勤するか、退職するかの選択を迫った。9人は転勤に応じ、49人は退職した。

 原告の2人は家族の援助や介護が必要だとして姫路工場に残りたいと会社側に要求したが、拒否された。03年9月から給与の一部の支払いを止められた。

 判決は、業務上必要な転勤命令であっても、労働者が通常受け入れるべき不利益を著しく超える場合など特段の事情がある場合には、使用者の権利の乱用となり、転勤命令が無効になるという一般的な判断を示した。

 そのうえで、判決は、原告の家族の状態について、「精神病の妻は家事をすることや単身で生活することは困難。夫の転勤により病状が悪化する恐れがあった」「転勤すれば、要介護状態の母親の介護が困難になったり、病状が悪化したりする可能性があった」などと認定。従業員に著しい不利益を与えるとして、会社側の転勤命令は権利の乱用にあたると結論づけた。

 原告2人は03年6月に地位保全などを求める仮処分を同支部に申請。同11月、請求を認める仮処分決定を得たが、会社側が姫路工場での就業を認めないため提訴した。

 判決後、記者会見した姫路市の男性従業員は「会社のやり方は強引だった。意に沿った判決で大変うれしい」、神崎郡の男性従業員は「介護の大変さを認めてもらい良かった」と話した。

 判決に対しネスレジャパングループ広報室は「判決文を見ていないので、コメントは差し控えたい」としている。<朝日新聞>


 非常に難しい事件だと思います。会社が上告すれば上級審で争われることになりますので、現時点で司法の判断が確定しているわけではありませんが、興味深い内容です。

 以前にも書きましたが、会社の人事権(解雇・懲戒・配転命令、他)が公序良俗に反するか否かの判断基準は、「業務上の必要性」「労働者の受ける不利益性」のバランスにあります。
必要性が高く不利益性が低いものは正当な人事権の行使であり、逆に必要性が低く不利益性が高いものは人事権の濫用として無効とされます。また契約内容や就業規則の内容、解雇や配転等の回避努力を会社が行ったか否かといったことも考慮され、総合的に判断されます。

 配転命令権そのものは企業が有する人事権の一つとして、その行使も広く認められていて、例えば「マンネリ回避」といった理由でも問題ありません。ただ、そこに不当な動機があるとか、判決文にもあるように、労働者が通常甘受すべき不利益を超えているような場合は無効となりますので、注意が必要です。

 判決文を読んでいないのであくまでも推測になりますが、工場自体は閉鎖になっていないようなので、他部署への部署替えなど、労働者が受ける不利益の軽減努力がされていなかったのではないかと思われます。
もっとも契約で職種が限定されていたとか、他にも個別事情を抱えていて残留を希望する人が多いといった理由があれば、簡単に部署替えというわけにもいかないのでしょうが・・・。
また、もし姫路工場そのものが閉鎖になっていれば判断は違っていたかもしれません。
雇用契約を結んでいる以上、企業には雇用を継続する責任がありますので、場合によっては債務不履行(民法415条)になることも考えられますが、転勤により雇用継続を図ろうとしたことが評価される可能性もありますから。

 しかし、一番の問題は訴訟にまで発展してしまったことだと思います。労働者が「会社のやり方は強引だった」と言っているように、しっかり話し合いをし、工場内の他部署への配転が難しいのであれば、労働者の個別事情によって退職金にイロをつけるといった配慮も必要だったのではないかと思います。
配転命令は当然の人事権といっても限界がありますので、その行使には十分ご注意ください。


brain





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この記事へのコメント
竹林さん、こんばんは。
私も、この判決に大変興味を持ちました。
介護を理由に転勤を拒否する事例は、今後増えていくことが予想されます。私の会社でも潜在的に問題を抱えています。

家庭の事情に配慮し、強引なことはしないようにしていますが、実際には難しい問題が色々と出てきます。多分、会社は争うと思いますので、今後の成り行きに注目したいと思います。

大変参考になる記事、解説をありがとうございました。
Posted by 人事労務屋・田代 at 2005年05月11日 00:47
田代さん、コメントありがとうございます。
権利の濫用は合法と違法の境目がはっきりしていないため、扱いは難しいですね。

おっしゃるように、今後こういった問題は増えていくと思われますので、十把一絡げでなく個別対応が望まれるようになってきたということなのでしょうね。
契約形態の多様化も含め、労務管理が益々難しくなってきたように思います。
Posted by 竹林社会保険労務士事務所 at 2005年05月11日 10:57