1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:28:47.81 ID:GKoetXSh0

唯「じゃあ憂のところに行ってくるから」

和「いってらっしゃい」

唯ちゃんと憂ちゃんが付き合い始めてちょうど一週間。
この光景も慣れてきたかな。

お昼ごはんの時間になると唯ちゃんは憂ちゃんのところへ行く。
二人で一緒にお弁当を食べているみたい。
いつもはりっちゃんや澪ちゃんも一緒に四人で食べてるけど、今日は二人とも風邪で休みらしい。
なんでも二人して風邪をひいてしまったそうだ。

そうすると、ほんのちょっとだけ気まずい……いや、本音を言うとかなり気まずい。
和ちゃんとふたりきりでお弁当を食べるのは。


2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:31:08.70 ID:GKoetXSh0

気まずいと思ってしまうのは、和ちゃんに対して私が後ろめたさを感じているから。
唯ちゃんは憂ちゃんに告白するにあたって参謀役に私を選んでくれた。
そのこと自体はとっても嬉しかった。
でもほんの少し困ってしまった。

だって知っていたから。

和「ムギ? ちょっと聞いてる?」

紬「え、ええと……なにかしら和ちゃん」

和「はぁ……最近ちょっと変よ、ムギ」

紬「そうかな?」

和「そうよ。話をしてても上の空。悩みなら、私でよければ相談に乗るわよ?」

紬「じゃあ、そうね……放課後ちょっと軽音部にきてくれない? 今日は部活休みにしてもらうから」

和「いいわ」


和ちゃんが唯ちゃんのことを好きだったって。知っていたから。


3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:34:24.36 ID:GKoetXSh0

和「ムギ、いる?」

紬「和ちゃんいらっしゃい。今お茶をいれるから少し待っててね」

和「いいのに…」

紬「……」

和「……」

紬「はいどうぞ」

和「ケーキまで…」

紬「持って帰っても余らして駄目にしちゃうだけだから。おかわりもあるから」

和「それで話って?」


6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:36:53.57 ID:GKoetXSh0

紬「唯ちゃんのことなんだけど」

和「ひょっとして……ムギも唯のこと好きだった?」

紬「ううん。そうじゃないの」

和「じゃあ…」

紬「私が唯ちゃんの相談に乗ってたのは知ってる?」

和「ええ、唯から聞いたわ。ちょっとショックだったけど」

紬「えっ?」

和「あー、うん。相談なら私にしてくれればいいのに、って。
  ちょっと自意識過剰かな…」

紬「あ、それは……」

和「何かあるの?」

唯ちゃんは多分気づいてた。和ちゃんが自分のことを好きだ、って。
だから和ちゃんじゃなくて私を相談役に選んでくれた。
でも、それを私の口から言ってもいいのかな。


8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:38:24.94 ID:GKoetXSh0

和「何か知ってるなら教えてちょうだい」

紬「うん……じゃあ話すね。たぶん唯ちゃんは和ちゃんの気持ちに気づいてたんだと思う」

和「……そっか」

紬「だから和ちゃんには相談しなかった」

和「唯気づいてたんだ……私、必死に隠してたんだけどな」

紬「唯ちゃんは実は結構鋭いから」

和「ほんとね」

和ちゃんは表情には出さないけど、たぶん泣きたい気持ちを押し殺してる。
でも、今の私には何もできない……。


9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:40:05.43 ID:GKoetXSh0

和「それでムギの悩みは?」

紬「実は私も知ってたの。和ちゃんが唯ちゃんのこと好きだって」

和「ムギまで? 私、そんなにわかりやすいかな?」

紬「ううん。私の場合は見てしまったの。誰もいない教室で和ちゃんが唯ちゃんの席に座ってるところ」

和「……」

紬「私は、和ちゃんの気持ちを知ってたのに唯ちゃんに協力したの」

和「……別にムギは悪くないわよ」

紬「うん。自分でも悪いことをしたとは思ってない。でも、それでも」

和「……」

紬「和ちゃんに対して申し訳ないと思ってしまうの」


10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:42:02.56 ID:GKoetXSh0

和「気にする必要ないのに」

紬「ごめんなさい」

和「だから気にしなくていいって」

紬「ごめんなさい」

和「ムギ……」

紬「ごめんなさい」グス

和「なんでムギが泣くのよ……こっちまで泣きたくなるじゃない」グス

紬「ごめんなさい」グス

和「もう……」グス


12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:43:02.54 ID:GKoetXSh0

___
和「泣いたら疲れちゃった」

紬「……」

和「このケーキ、もらうわね」パクッ

紬「……」

和「あら、美味しい」

紬「ケーキおかわりいる?」

和「もらうわ」

紬「はい」

和「あら、こっちも美味しいわね」パクッ

紬「そう」ニコニコ

和「もう、太ったらムギのせいなんだから」


13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:46:10.52 ID:GKoetXSh0

紬「ねぇ、和ちゃん」

和「なに?」

紬「唯ちゃんが心配してたよ。和ちゃんが最近遊びにきてくれないって」

和「付き合い始めたばかりだから、二人の邪魔をしたくなかっただけよ」

紬「唯ちゃんね、憂ちゃんと付き合うことが決まって、一番最初に和ちゃんにメールしたんだって」

和「……」

紬「だから、ね」

和「実は今日、唯に誘われてるの。泊まりにこないかって」

紬「それじゃ!」

和「でも、ちょっと気まずいじゃない」

紬「……そんな」

和「だからムギも一緒にきてくれる?」

その日は和ちゃんと一緒に唯ちゃんの家に泊まった。
和ちゃんは終始元気そうにしていたし、私がついていく必要はなかったみたいだ。
夜は四人、布団で寝た。唯ちゃんと憂ちゃんが和ちゃんに抱きついてた。
一人は寂しいので、私は和ちゃんの足に抱きついた。
和ちゃんの足は思ってた以上に細かった。ちょっと羨ましい。


15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:47:51.47 ID:GKoetXSh0

___
和「でね、ムギに脚本を頼みたいの」

紬「いいわよ。演目は?」

和「ロミオとジュリエット」

紬「ふぅん。でもなんで」

和「ロミオからのリクエストよ」

紬「ロミオ?」

和「澪のこと。実は頼まれちゃったんだ」

紬「何を?」

和「恋のお手伝い」

和ちゃんが何を言ってるのかは、すぐ分かった。
文化祭で劇をやることは決まっている。しかし演目も役者も決まっていない。
和ちゃんは出来レースをやろうと言ってるのだ。
演目をロミオとジュリエットにして、ロミオ役を澪ちゃんがやる。
ということは、ジュリエット役はもちろん……。


18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:49:59.37 ID:GKoetXSh0

紬「でもロミオとジュリエットかぁ……」

和「うん。澪からのリクエストだから、できれば応えたいのだけれども……でも」

紬「和ちゃんも読んだことあるのね?」

和「ええ、昨日読んだわ」

紬「原作?」

和「ええ」

紬「じゃあ和ちゃんも思ったんじゃない? あれを劇としてやるのは難しいって」

和「……そうね。ロミオもジュリエットも身勝手すぎるもの」

紬「ロミオは惚れっぽい性格で、以前の失恋の傷も癒えないうちにジュリエットに恋をしちゃうの。
  しかも、周りの人間のことなんて全く考えないような身勝手さ」

和「しかも短気ね」

紬「簡単に相手を殺しちゃうのよね」

和「そしてジュリエットも……自分のために色々動いてくれた乳母に辛くあたるし、
  仲の良かった従兄弟のティボルトがロミオに殺されても、ロミオのことばかり考えてる」


19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:52:46.42 ID:GKoetXSh0

紬「でも読んでいて面白かったんじゃない?」

和「ええ、身勝手な二人なのに、その二人の恋愛には凄い熱が宿ってのよね。
  知らないうちに応援してしちゃった」

紬「流石はシェークスピアね。詩情を最大限に盛り込んだ台詞の数々。悲劇的なラスト。
  それは翻訳されていてもなお私たちの心に訴えかけるわ。でも……」

和「私達じゃ難しいか」

紬「そうね。ちょっと練習しただけの素人がやっても感動には繋がらないかな。
  学芸会向けに二人の身勝手さを削った上で簡略化した脚本をベースにすれば、ある程度の質は保証されるけど……」

和「それじゃあちょっと味気ないんじゃないかしら。澪の頼みだからできれば盛り上げてあげたいのだけど」

紬「うん。そこで私が出てくるのね」

和「ええ。ムギって昔演劇部の脚本を手伝ってたそうじゃない」

紬「ええ」

和「お願いっ! 手伝ってちょうだい」

紬「…………任せておいて。他ならぬ和ちゃんの頼みだもの。全力で協力しちゃう!」


21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:54:03.25 ID:GKoetXSh0

―――
紬「これでどうかしら」

和「ちょっと読ませてもらうわ……」

―――
―――
―――

和「凄いわね」

紬「そう?」

和「うん。これは泣けるわ
  なるほど、ロミオとジュリエットを幼馴染みにしたんだ」

紬「うん。澪ちゃん達の境遇とも重なるし、
  そっちのほうがふたりとも役に入りやすいだろうから」

和「原作通りふたりとも身勝手なまま。
  ロミオとジュリエットの悲劇はティボルトとマキューシオが担うのね」

紬「ええ、ティボルトには女の子になってもらったの。ふたりには悲劇の恋人を演じてもらう」

和「そしてロミオとジュリエットが幸せなキスをして終わるのね
  身勝手な二人だけど、ティボルトやマキューシオの悲劇のおかげで『本当に良かった』って思える話になってる」


22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:55:39.57 ID:GKoetXSh0

和「完璧な出来よ」

紬「そう? ありがとう」

和「お礼を言うのは私のほうね。
  でもこんなに書けるんだから、ムギ、作詞もできるんじゃない?」

紬「うーん。できないことはないけど澪ちゃんみたいな詩は書けないかな」

和「そうなんだ。とにかくありがとう。
  ところで、マキューシオとティボルトの役なんだけど、ちょっと台詞が多いけど、みんな覚えられるかしら?」

紬「立候補者がいなかったら私、やってもいいよ」

和「そう? それは助かるわ。ねぇ、ムギ」

紬「…?」

和「私、ムギのこと好きよ」

紬「ありがとう。私も和ちゃんのこと好きよ」

文化祭の出し物を決めるホームルームは、和ちゃんの計画通りに進んだ。
ロミオとジュリエットに反対する意見はほとんど出なかった。
澪ちゃんがロミオに立候補すると、既に教室にはジュリエット役はりっちゃんしかいない、という空気が流れてた。
かくして、りっちゃんが眠っている間に全ては決まってしまった。

少しだけ予定外だったのは、私がティボルト役、和ちゃんがマキューシオ役になったこと。
……たぶん、それだけ。


24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 22:58:20.30 ID:GKoetXSh0


◇◇◇

今回の文化祭、本当にムギには助けられた。
ムギは本当によく気がきく子だ。よく見ていると本当にそう思う。
演技指導中にみんなが疲れてくると、少しだけ巫山戯て笑いをとる。
流石に律と澪の演技指導には苦労してたみたいだけど、最終的にはきっちり仕上げてきた。

そして当日……

和「貴女のような女のために死ぬなど巫山戯た話。とてもじゃないが御免被る」

紬「あらそれはどうもお生憎様。私とて貴殿のような唐変木のためには死ねません」

和「私は貴女のために死ぬのではない。ロミオの、我が親友のために果てるのだ」

紬「私とてそう、マキューシオ。そなたのために死ぬのではない。
  我が親愛なる従姉妹殿、ジュリエットのためにこの生命を散らすのよ」

和「ああ、それにしても」

紬「いいえ、それ以上はいけません」

―――
―――
―――


25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 23:00:11.79 ID:GKoetXSh0

―――
和「いい演技だったわね」

紬「ええ」

和「すごい歓声。この歓声の3割ぐらいは私たちのおかげじゃない?」

紬「八割ぐらい、かな」

和「八割はちょっといいすぎじゃない?」

紬「いいの、今日だけは」

和「え?」

紬「じゃあ私もうけいおん部に行って明日のための練習しなきゃ」


そう言うとムギは逃げるように走って行ってしまった…。
走り去る寸前、ムギは泣いているように見えた。
どうしてだかは分からない。
演技をして感動したか。それとも、別の何かが作用したか。
私には、何も……。

ムギ……あなたは……。


26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 23:02:09.06 ID:GKoetXSh0

文化祭二日目、軽音部の演奏もつつがなく終わった。
あれからずっとムギに注目していたけど、ずっと元気そうにしていた。
あの涙は役に入りきってしまったから流れたものなんだろう。
私も少し泣いてしまったもの。


あ、それと、澪から律と付き合えたと報告された。
劇中のキスがきっかけだとか。
協力した私としても嬉しい。


後片付けの仕事が終わった後、教室に戻った。
そこにはムギがいた。



ムギは律の席に座っていた。


27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 23:03:10.70 ID:GKoetXSh0

和「ムギ……?」

紬「…? 和ちゃん?」

和「ムギ、泣いてるの?」

紬「ごめんね」

和「なんでムギが謝るのよ?」

紬「……」

和「……そっか……悪いことしちゃったね」

紬「いいの。好きでやったことだから」

和「だけど」

紬「和ちゃんだって唯ちゃんに相談されたら協力したでしょ?」

和「……うん。そうかも」


29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 23:05:59.75 ID:GKoetXSh0

和「ねぇ、ムギ。私達ティボルトとマキューシオみたいだね
  他の人の恋に振り回されて、自分たちは不幸になって」

紬「ティボルトもマキューシオも自業自得よ」

和「私たちのティボルトとマキューシオのことよ」

紬「……」

和「ねぇ、ムギ」

そう言って私はムギを抱きしめた。
ムギは思ったより小さかった。
いつもはちょっと大人びていてみんなを気遣う彼女。今は私の胸の中では静かに泣き続けていた。
この子も、そして私も、好きな人に告白さえできない。
ほんの少しの身勝手さ……むしろ勇気と言うべきそれさえ持てない。

でも……。

和「ムギ、今は泣いていいから。誰も見てないから」

紬「……」

ムギは静かに泣き続けた。


31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 23:07:56.52 ID:GKoetXSh0

___
和「もういいの?」

紬「うん。恥ずかしいところ見せちゃったね」

和「お互い様よ」

紬「うん」

和「お菓子食べる? 打ち上げで残ったやつがあるんだけど」

紬「でも太っちゃう」

和「ムギってちょっと変わってるね」

紬「和ちゃんみたいな細い子にダイエットの苦労はわからないわ」

和「そうね……。ねぇ、ムギ」

紬「なぁに?」

和「私、ムギのこと好きよ」


32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 23:09:17.39 ID:GKoetXSh0

紬「ありがとう。でもこんなタイミングで言われたら勘違いしちゃう」

和「勘違いじゃないわ」

紬「え?」

和「私、ムギのことが好き」

紬「でも和ちゃんは唯ちゃんのことが好きなんじゃ…」

和「唯のことも好きよ。でもムギのことも好きになっちゃったんだから仕方ないじゃない」

紬「……」

和「ムギはどうなの?」

紬「私はりっちゃんが好き」

和「私のことは?」

紬「友達としては好き」


34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 23:10:47.02 ID:GKoetXSh0

和「そう。それは残念」チュ

私はムギの唇を奪った。

紬「へっ?」

和「前払い。絶対私のこと好きにしてみせるから」

紬「……和ちゃん?」


ムギの顔が少しずつ赤くなっていく。
…もう真っ赤になった。ゆでダコみたい。


和「……」プッ

紬「和ちゃん酷い」

和「あ、怒った。ムギが怒るところを見るのはじめてかしら」

紬「むーっ」

あ、今度は口が尖った。


35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 23:15:32.90 ID:GKoetXSh0

>数週間後。デート後

和「今日は楽しかった?」

紬「うん。すっごく楽しかった!!」

和「そう。それは良かった。ねぇムギ、まだ律のこと好き?」

紬「うん……好き」

和「そう……」

紬「でも和ちゃんのことも好き!」

和「ほんと? じゃあ律と私どっちが好き」

紬「それは秘密」

和「ムギは時々いじわるなのね」

紬「うふふ……」

そんなこんなで私達は順調に関係を深めている。
ロミオとジュリエットのような劇的な恋ではないけど。
でも、いいよね。こういう恋も。

私はムギに手を差し出す。ムギは嬉しそうに私の手を握り返した。

おしまいっ!


43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/06/17(日) 23:25:30.13 ID:W/+oHXCN0

乙乙
和ちゃんとムギちゃんの組み合わせはしっとりと暖かくていいな



元スレ:紬和「私たちはロミオにもジュリエットにもなれない」

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