1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 21:37:09.80 ID:+22Iailr0

年明け早々、千歳が風邪を引いた。
その連絡を受けたのは、千歳本人からではなくその双子の妹である千鶴さんからだった。

初詣からの帰り道。
振袖姿だったものの、千鶴さんからの珍しい電話の内容がそれで、千歳のもとへ
向かわないわけにはいかなかった。

綾乃「……」

千歳「ごめんなあ、綾乃ちゃん」

そして今。
千歳は鼻の頭を真っ赤にしながら申し訳なさそうにそう言った。


2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 21:38:10.32 ID:+22Iailr0

『姉さん、今にも死にそうなくらいひどいんです』と言った千鶴さんの切羽詰った声が
思い出される。
どこが死にそうなくらいなのよ、どこが。

本当に悲痛そうな声に理屈とか常識とかが吹き飛んでしまって急いで駆けつけたものの、
今思えばそんなにひどかったらいくらお正月でも病院に行ってるだろうし、私に
電話なんてしてこないだろう。

綾乃「……本当にびっくりしたんだから」

でも――
とりあえず、千歳が起き上がれるくらいには元気そうでよかった。
私はへなへなと千歳の部屋に座り込んだ。


3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 21:38:32.39 ID:+22Iailr0

千歳「うち、べつに普通の風邪やねんけど……」

そうは言いながらも、その声は少し掠れている。
死にそうではないものの、辛そうなのは確かかもしれない。

綾乃「熱は?大丈夫なの?」

千歳「まだちょっとあるくらいやし……」

そう言って苦笑する千歳の額に、手を当てた。
ずっと外の寒い空気に触れていた手は当然のことながら冷たくて、よくわからなかった。
それでも千歳の頬がいつもより数倍は赤く染まっていて、だからきっと「まだちょっと」も
あるのだ。


4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 21:38:53.54 ID:+22Iailr0

千歳の「ちょっと」は全然「ちょっと」なんかじゃないことを、私はちゃんと
知っている。

綾乃「あるじゃない、ほら、眠ったほうがいいわよ」

まあ私が邪魔しに来たようなものなのだろうけど。
電話をしてきた千鶴さんも、それからご両親も出かけてしまったのかこの家には
誰もいないらしくチャイムを押して出てきたのは起きたばかりというふうな千歳だったのだ。

千歳「えっ、でも綾乃ちゃんもいるのに……」

綾乃「私のことはいいから」


5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 21:42:22.73 ID:+22Iailr0

そう言いながら、千歳の身体をそっと押してベッドに横たわらせた。
千歳は小さく笑って「ごめんな」と。

綾乃「ううん、私こそ突然来ちゃってごめんなさい」

千歳「そんなことあらへんよ、綾乃ちゃんが来てくれてうち嬉しかったし」

熱があるせいか、今日の千歳はなんだかひどく、幼く見えた。
幼くというよりも、なんというか――守ってあげたい、みたいな。
そんな気分にさせられてしまう。

綾乃「そ、そう……」


6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 21:45:32.24 ID:+22Iailr0

いつだって千歳は素直だ。
中々素直になれない私の代わりみたいに、いつだって千歳は素直に気持ちを
伝えてきてくれる。だけど、私が来て嬉しかった、なんてことをこんなふうな顔で
言われれば照れてしまうに決まっている。

千歳「千鶴やんなあ」

綾乃「へ?」

千歳「綾乃ちゃん呼んだん」

綾乃「えぇ、まあ」

曖昧に頷くと、千歳は(きっと千鶴さんに向けて)呆れたような顔をしつつ、
「ごめんな」とまた。


7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 21:49:25.91 ID:+22Iailr0

なんだか今日は謝られてばかりだ。
弱弱しい千歳の声に、私はぶるぶると首を振った。

綾乃「新年早々、そういうのは無しなしナシュヴィルよ!」

ごめんごめんって、そんなの千歳らしくもない。
私が言うと、千歳はきょとんとしたあと、「ほなありがと、かな?」と笑った。

綾乃「それもちょっと違う気がするけど……謝られるよりはいいかしら」

千歳「どやろ」

ふふっと二人で笑い合う。
その声も少し苦しそうではあるけれど。


8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 21:51:58.55 ID:+22Iailr0

千歳「綾乃ちゃん、初詣の帰りやったん?」

ひとしきり笑ったあと、千歳はベッドの中で寝返りを打って壁に背を向けながら
私に訊ねてきた。
自分の恰好がこの状況に浮いていることに気付き、私は「えぇ」と恥ずかしくなって
俯いた。

せめて着替えてから来ればよかったかしら、なんて今さら。

千歳「やっぱ綾乃ちゃんはなんでもよう似合うてるなあ」

綾乃「そ、そんなことないわよ!」

千歳「ほんまやて」


10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 21:54:14.87 ID:+22Iailr0

千歳ったらまたそんなこと――
そう言って軽く千歳を睨みつけようとして。

千歳の瞳が、あまりにも真剣なことに気が付いた。
それとも、熱のせいで潤んでいるから、ただそれだけなのかもしれないけど。
なんだかいつものふざけたようにそう言う千歳とは違って、不覚にも言葉に
詰まって、よけいに顔がかあっと赤くなるのがわかった。


11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 21:57:04.89 ID:+22Iailr0

綾乃「ち、千歳……?」

そっと口を開いた。
なんだか乾燥しているみたいに、口の中がからから。
私の声まで掠れてしまって。

千歳「……ほんまに可愛いで」

はっとしたように千歳は私から目を逸らすと、いつもみたいなふざけた声の調子に
戻って笑った。

きっと、私の気のせい、だろうけど。
千歳の視線がそらされてもまだ少し、ドキドキが止まらなかった。
もう千歳の熱が移っちゃったのかしらと思うほど。


12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 22:04:35.78 ID:+22Iailr0

綾乃「……ありがと」

一応、お礼は言っておく。
ここでいつもなら「歳納さんにもそんなふうに素直に言えたらいいんのになあ」と
千歳の声がするのに、今日の千歳は布団に顔を伏せたままこくんと頷いて
何も言わなかった。

こんなふうな千歳は初めて見るから、少し戸惑って。


14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 22:12:41.81 ID:+22Iailr0

綾乃「……」

千歳「……綾乃ちゃん?」

一瞬の沈黙の後、千歳がそっと布団から顔を出して、言った。
「なに?」と返事をすると、「あぁ」と千歳は声を漏らす。

千歳「まだいたんやね」

綾乃「えっ」

千歳「あ、いや、あかんいう意味やなくて……」


15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 22:18:37.25 ID:+22Iailr0

そんなすぐに帰らないわよ、と苦笑する。
申し訳なさそうに、千歳が「うん」と頷いた。

千歳「……」

綾乃「でも、帰ったほうがいい?」

ごそごそとまた寝返りを打った千歳に、私は訊ねた。
私がいちゃ眠れないだろうし。というか眠らないだろうし。
千歳のことだから、やっぱり私に悪いと言って。

千歳「……風邪、うつる思うから」


16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 22:23:30.79 ID:+22Iailr0

それは構わない。
結局来たのは私自身なのだし。

綾乃「……じゃあ、帰るわ」

けど、私に背を向けた千歳に。
私はそう言って立ち上がった。
私にいてほしくないのかもしれない、そう思って。

千歳「うん、来てくれてありがとうな」

綾乃「ちゃんと学校始まるまでには治してよね」

千歳「……うん」


18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 22:26:10.45 ID:+22Iailr0

じゃあまた。
そう言って、千歳に背を向けかけたとき。

千歳「……」

ふわっと身体が後ろに揺れた。
千歳が、振袖の裾を引っ張ったのだとわかるまで数秒間を要して。
それから「ちょ、ちょっと?」と驚いて振り返ると。

綾乃「……」


19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 22:29:37.22 ID:+22Iailr0

丸いメガネの奥で、千歳が何か言いたそうに私を見上げていた。
いつだって素直で、私にはなんだって伝えてくれる千歳が。
今日はどうしても言えないというようにぐっと口許を引き締めたまま。

綾乃「……もう」

でも、なんとなくわかった気がした。
千歳の瞳が、私を縋っているような気がしたから。

それとももしかすると、私自身がそう思いたかったからだけなのかもしれないけど。


20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 22:32:08.71 ID:+22Iailr0

綾乃「千歳が寝ちゃうまで、一緒にいてあげる」

そう言うと、千歳は「いいん?」と言いつつ。
嬉しそうにはにかんだ。
「べつにそういうつもりやったわけやないんやけど……」なんて、
まるでいつもの私たちとは正反対。

なんだか変な感じ。
だけどたまにはこんなふうな千歳といるのも悪くないかな、なんて思ったり。


21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 22:35:44.51 ID:+22Iailr0

綾乃「はい、ちゃんと横になって目つぶる」

千歳「綾乃ちゃん、お母さんみたい」

ふふっと笑いながらも、千歳は私の言う通り今度こそきちんと横になって、
ぎゅっと目を閉じた。
なんとなく、その手を握ってみようかとも思ったけれど。それはさすがに恥ずかしいから
やめておく。

その代わりに、そっと千歳のやわらかな髪を指先でなでてみた。
眠りかけていた千歳が、こそばそうに身動ぎする。
それを見ながら、そういえばまだ新年の挨拶をしてなかったことを思い出して。

だんだん、私まで眠くなってきて、ぼんやりした頭の中、私は「今年もよろしくね、千歳」
そう呟いてみた。

終わり


22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/01(日) 22:37:23.99 ID:+22Iailr0

あけましておめでとうございます
綾千もっと増えろ
最後まで見てくださった方ありがとうございました

それではまた



元スレ:千鶴「少しの間だけでも杉浦さんと姉さんが幸せになれますように」

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