1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:48:56.72 ID:GmU+Uba/0

ふとした時に思う。





ある時は夕飯の前。



撫子「櫻子ー、ご飯できてるよ」

櫻子「あ、待って! 今行く!」



どたどたとせわしなく階段を降りてきたかと思うと、私のすぐ横を櫻子は走り抜けていく。



ふわっ



撫子「!」



私の目の前でたなびいた櫻子のくせっ毛は、通り過ぎた場所にシャンプーの甘い香りを微かに残す。



……あんなに背、高かったっけ。



撫子「家の中を走るな!」



戸惑いを取り繕うように大声を出した。


2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:49:37.37 ID:GmU+Uba/0

ある時は勉強中。



がちゃ



櫻子「なっ、ねーちゃん何してんの!?」

撫子「櫻子が宿題サボってないか監視しに来ただけだよ」

櫻子「監視されなくてもちゃんとやってるっての!」

撫子「へえ……どれどれ……?」ぺらっ

櫻子「わっ、見るなー!!」じたばた



撫子「……」

櫻子「……ねーちゃん?」

撫子「……あ、いや、まだ全然終わってないけど、一応はやってるんだね」

櫻子「だから言ったじゃん! 早く返せ!」ばっ



少し前まで掛け算の六の段も覚えられなかった子が、連立方程式に頭を悩ませていた。


3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:50:18.40 ID:GmU+Uba/0

ある時は風呂上がり。



櫻子「ふ〜、さっぱりした〜」



櫻子「……ってあれ、ねーちゃん何飲んでんの?」

撫子「コーヒー」

櫻子「あっ、ずるい! 私も飲む!」とてとて



撫子「……あれ? あんたコーヒーなんて飲めたっけ?」

櫻子「失礼な! 私だって飲めるよ」

撫子「だって櫻子、前まで苦いの無理って……」

櫻子「えー、そうだったっけー?」



曖昧な返事を返しつつ、台所から自分のカップや道具を取り出そうとする櫻子の後ろ姿は、少し大人びて見えた。



櫻子「あっ、お菓子みっけ♪」



「食べちゃだめだよ」「えー」という言葉をやり取りをしてる間も、私はずっと上の空だった。





成長してるのは、私も花子も変わらない。 なのに、櫻子が変わるとその度に気になってしまう。



なぜだろう。


4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:51:00.59 ID:GmU+Uba/0

ある日のこと。



撫子「あれ、これって……」



今年も終わりが近づき、家の大掃除をしていた私は、物置きの奥から古いアルバムを発見した。

外観だけ見れば、それなりの値段が付きそうな見た目をしているが、ほこりまみれになった姿だとさすがにそれも見劣りしてしまう。



ぺら……



撫子「うわ、懐かしい」



中身を見た私は、思わず声を上げてしまった。

アルバムの一つ一つのページには、私、櫻子、花子を写した写真が、所狭しと並べられていた。一番最近のものでも三、四年前。古いものだと櫻子が生まれる前のものまである。



撫子(あ、これって……そうそう、あったあった)

撫子(最後にスキーに行ったのっていつだったっけ……多分小学生の頃だよね、懐かしいなあ)

撫子(うわ、中学校の卒業式の写真、私ぼろ泣きしちゃってるし……櫻子より先に見つけといて良かった)

撫子(わあ……生まれてすぐの花子、かわいい……)



ページをめくる度に現れる、さまざまな時間、さまざまな場所の写真。それらを見る度に、あんなことがあったな、こんなこともあったな……と、古い記憶を掘り返して、一人追想し、一人切ない感情に浸っていくのだった。


5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:51:36.02 ID:GmU+Uba/0

撫子「……」ぺらっ



私は段々と……ほぼ無意識に……今よりもずっと幼い、私と櫻子の写真ばかりを眺めるようになっていた。

どのページのどの写真でも、櫻子は屈託のない、無邪気な笑顔をカメラに向けていた。そして、幼い私は大抵、すぐ隣で笑顔を返すか、少し離れた場所から見守っていたりしていた。



撫子(このころの櫻子は、まだ可愛げがあったなあ……)



過去を思い出しながら、そんなことを思ったりする。



昔の櫻子がどんな子だったかと聞かれれば……やはり「元気」を体現したような子だったと思う。家の中でも、近所で他の子と遊ぶ時も、いつも誰よりもはしゃいでいた。人を気遣うこともできたし、誰とでも仲良くできる子でもあった。

少なくとも、今のように生意気ではなかったし、わがままでもないし、バカでもないし――


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:52:11.93 ID:GmU+Uba/0

あれ?





櫻子って……



いつの間に、知らない間に、こんなに変わってたんだ。



櫻子が変わったということ。

そして、私がそれに気づけなかったということ。

否定しようのない事実が、私の全身を押し潰すかのような感覚を走らせた。



ずっと近くにいたはずなのに。

ずっと一緒に過ごしてきたのに。



なんで気づかなかったんだろう。



いつから?

いつ変わったんだっけ?

分からない。思いあたる節もない。



…………なんで………


7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:52:49.48 ID:GmU+Uba/0

櫻子「何見てんのー?」

撫子「うわっ!!」びくっ



アルバムに気を取られていた私は、背後から近づいて来る櫻子の存在に気がつかず、情けない声を出してしまった。



櫻子「……びっくりしたー」

撫子「それはこっちのセリフだよ」

櫻子「そんなに驚くことないでしょ!」



櫻子の言うことももっともだが、認めるのも何だか腹立たしく、私は適当にやり過ごす。



櫻子「……あっ、これってアルバム?」

撫子「ああ……そうだよ」

櫻子「へえー……うわっ、懐かしー!」



私よりもあからさまなリアクションを見せる櫻子を、私はざわつく胸を誤魔化すように見つめていた。


8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:53:30.42 ID:GmU+Uba/0

「……撫子、もしかして何かあったの?」

撫子「え……?」

「勘違いだったらごめんね。なんか、いつもより声が元気なさそうだったから」



毎日夜にひっそりと行われる、彼女と二人きりの通話。電話越しに聞こえる彼女の声は、少し心配しているように思えた。

彼女にいきなり意表をつかれて、胸がどきりとする。それなりに長い付き合いなだけあって、何か異変があるとすぐに気づかれてしまう。



撫子「……ううん、勘違いじゃないよ。ちょっと、寂しくなっちゃってさ」

「寂しい……?」

撫子「ん……櫻子のことでね」

「喧嘩でもしたの?」

撫子「いや……なんて言ったらいいのかな……」


9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:54:33.52 ID:GmU+Uba/0

私は一言一言、頭の中を整理整頓するように話し始めた。



撫子「前までちっちゃな子だと思ってたのに、いつの間にか大きくなっていて……」



「……うん…………うん」



彼女は一つ一つ、私の言葉を丁寧に掬いとるように聞いてくれた。

心の中にたまっていたたくさんの思いを、声という形にして変換して……気がつけば、かなり長い時間話し込んでしまった。



撫子「……あ、ごめん。つい話しすぎちゃった」

「別にいいよ。撫子がこんなに長く話してるの、珍しいし」



ふふっ、という笑い声。

部屋の中はとても静かで、一階のテレビから微かに伝わる音以外に、何も聞こえて来ない。たとえ電話越しでも、彼女の息遣いとか、声とか……否応なしによく聞こえてくる。


10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:55:30.54 ID:GmU+Uba/0

「撫子は、櫻子ちゃんのことが本当に好きなんだね」

撫子「っ……///」



私は思わず言葉を詰まらせる。

嘘ではない……のに、他人が言葉にして言うと、それが既成の事実であっても、すごく恥ずかしい気分になってしまうのはなぜなのか。



撫子「そりゃもちろん、姉妹だし……大切だよ。花子も、櫻子も」

「そういう意味で言ったわけじゃないんだけどなー」

撫子「えっ、え……それって……え?///」

「くすっ……」



学校だと私が彼女を弄る側なのに、電話となると、いつも彼女のペースに持っていかれてしまう。そういうギャップも、彼女にとっては私の魅力の一つらしいけど。


11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:56:21.33 ID:GmU+Uba/0

撫子「……意地悪」

「あ、もしかして拗ねちゃった?」

撫子「拗ねてない」



一人で空回り。櫻子相手にこんなに変な気持ちになっている自分が、いまだに信じられなかった。



「……私はさ、一人っ子だから、撫子の気持ちとか、よく分からないんだけど」



一息ついて、彼女は言った。



「撫子、櫻子ちゃんのこと、子供だと思ってるでしょ」

撫子「え……だって、現に子供だし……」

「年齢的な話じゃなくて。精神的な話」



彼女が何を伝えようとしているのか、いまいち理解ができなかった。



「……櫻子ちゃんもさ、いつまでも子供じゃないんだよ」

撫子「……!」どきっ

「これから高校に行って、大学に行って、就職して、家を出て……どこかの誰かと結婚するんだよ」

「自立して、一人で生きていけるようになっていくってこと、忘れてない?」


12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:57:22.24 ID:GmU+Uba/0

撫子「……」



何も言い返せなかった。

よくよく考えれば、至極当たり前のことなのに、私はその事実からずっと目を逸らし続けていたのかもしれない。



「それと撫子、一つ勘違いしてる」

撫子「え……?」

「人ってのはね、いつの間に変わるものじゃない」



「急に変わるものよ」



撫子「急に……」



「そう。特に櫻子ちゃんみたいな、小学生から中学生の間はね、その人を変えるきっかけになる出来事が、よくある時期よ」

「撫子なら、何か思いあたる節があるんじゃない?」



彼女に投げかけられた問いに、私ははっきりと答えることはできなかった。

けれど、櫻子を変えたものが何なのか、全く分からないわけではない。

それはきっと、隣の家に住む、幼馴染が原因だ。


13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:58:02.26 ID:GmU+Uba/0

「……撫子?」

撫子「……あ、ああごめん。ちょっと考え事してた」



眠くなって思考が散漫になっていた頭を、ふるふると左右に振る。

時計の針を見ると、既に通話が始まってから三十分が経過していた。



撫子「私たち、結構長く話しちゃったみたいだね」

「あ、ほんとだ。もうこんな時間」

撫子「明日は学校だし……今日はこのくらいにしとこうか」

「……ええ、そうね」

撫子「……話聞いてくれて、ありがとう」

「ふふ、お役に立てて何より」

撫子「おやすみ」

「おやすみなさい」



通話終了ボタンを押すと、携帯は見慣れたホーム画面を映し出す。何十秒かの間だけ、ベッドに腰掛けつつ、通話の余韻に浸る。

朝のアラームの設定を確認した後、画面を真っ暗にした。今日はもうさっさと布団にもぐって、深い眠りについてしまいたかった。


14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:58:36.32 ID:GmU+Uba/0

こんこん





撫子「………………ん…………?」



掛け布団を顔のすぐ前まで持ってきて、目を閉じた私の耳に、ドアを軽くノックする音が届いた。



がちゃ



櫻子「ねーちゃん、起きてる?」



撫子「……んー……櫻子…何………?」



こんな夜遅くに櫻子が私の部屋に来るなんて、とても珍しいことだった。

私は小さな声で、彼女の問いかけに応じた。



櫻子「……一緒に寝てもいい?」


15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 23:59:40.39 ID:GmU+Uba/0

もぞもぞ



撫子「……ん」



私はベッドの右端に寄り、左側に空きを作った。



櫻子「おじゃましまーす……」



櫻子は小声でそう言うと、私が空けたスペースに寝っ転がり、同じ掛け布団の中へと体を潜らせていった。



櫻子「へへ……あったかい……」



既に私の体温で温まった布団の感触に、櫻子は満足しているようだった。

そして、当の私はというと……あんな会話を交わした後ということもあって、目を合わせるのも気恥ずかしいという有り様だった。



撫子「……なんでいきなり一緒に寝ようだなんて思ったの?」



櫻子のいる向きとは反対方向を向いたまま、私は聞いた。



櫻子「あー……ほら、さっき、ねーちゃんが見つけたアルバム。あれ見ててさ、昔はこうして二人で寝てたよなーって思い出して……」

櫻子「たまには、こうやって一緒に寝るのもいいかなーって……///」



少し照れ気味なのか、たどたどしく紡がれる櫻子の言葉が、私の心にずきり、ずきりと刺さる。


16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 00:00:25.18 ID:GoTmYfNv0

櫻子「ふあぁ……眠……」



こすっ……



撫子(え、ちょ……!)



櫻子の足が、私の足と触れ合い、もつれ合って……もともと温まっていた布団の中の温度が、さらに上がったような気がした。

それに加え、櫻子は自分の顔をつんつんと私の背中に当ててくるもんだから……私の顔は、みるみる赤くなっていった。



撫子(こ、この状態で寝るの……///)



先程までの眠気はどこへやら。今は心臓のドキドキ音がやたらうるさくて、とても眠れそうになかった。


17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 00:01:21.87 ID:GoTmYfNv0

櫻子「……」



櫻子が掛け布団の中に潜り込んでから、三十分近くが経っただろうか。

もぞもぞと動いていた櫻子もようやくおとなしくなり、私もやっと一息ついた。



撫子(ふー……早く私も寝ないと……)

そう思いつつ、私はくるり、と身体の向きを変え、櫻子の方に向き直した。

これが間違いだった。



撫子(……!!)



身体の向きを変えた瞬間、私の目に飛び込んで来たのは……ぐっすりと眠る、櫻子の寝顔だった。



櫻子「すう…………すう…………」



単刀直入に言えば、私はこの顔に見とれてしまった。

起きている時には絶対見られない、穢れを全く知らないかのような、あどけない幼顔。それは櫻子が言っていた、一緒に寝ていた頃に見た櫻子の寝顔と、何一つ変わらない表情だった。


18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 00:01:57.98 ID:GoTmYfNv0

櫻子「……ん…………ぅ……」



どきどき、どきどき。

今なら、バレない……かな。



私はそっと、櫻子の頭の後ろに手を回す。そして、彼女が起きてしまわないよう、さらさらとした髪の毛をゆっくりと撫でてやった。



撫子「…………」



ああ……思い出した。

昔、眠れない櫻子のために、こうやって頭をなでなでしていたっけ。



櫻子「んぅ〜………」

撫子(おっと……)ぱっ



櫻子の唸り声に驚き、私は慌てて手を離す。

もぞもぞと体を動かしたものの、起きることはなかった。



櫻子「すう…………すう…………」



静寂な部屋の中に、一定の間隔で繰り返される呼吸音が再び響き渡る。


19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 00:02:58.82 ID:GoTmYfNv0

撫子「…………」



以前見た顔と同じ顔が見られて嬉しい。

嬉しいはずなのに。

どうして、心はこんなにもずきずきと痛むのだろう。

どうして、胸がきゅっとなるのだろう。



『人ってのはね、いつの間に変わるものじゃない』

『急に変わるものよ』



彼女の言った言葉を思い出す。

彼女の話した内容が本当だと仮定すると……櫻子はこれから、またどんどん変わっていくのだろうか。

……いや、そもそも彼女の言う「変化」が既に訪れているとも限らない。

櫻子の寝顔のように、私と櫻子をリンクさせるものは、これから一つ一つ、消えていくのかもしれない。


20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 00:03:41.42 ID:GoTmYfNv0

櫻子の成長が気になってしまう理由。

それはきっと、櫻子の性格にあるのだろう。

花子の場合、物心ついた頃には既にしっかり者で、周りに迷惑をかけることもほとんど無く、姉からすれば手間がかからなくてありがたい妹だった。

それに引き換え櫻子は……宿題はやらないわ、夕飯の当番は忘れるわ、私や花子の食べ物を勝手に食べるわ……ほとんど毎日、何かやらかすような子で、私どころか、妹の花子にさえ手間をかけさせる始末だった。



だからこそ……彼女の成長は、人一倍目立ってしまうのかもしれない。



撫子「……櫻子………………」



頭の中では、アルバムに貼られていた何枚もの写真が浮かび上がり、櫻子との思い出が蘇っていく。


21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 00:05:33.70 ID:GoTmYfNv0

自分に妹ができると知って、嬉しくてはしゃぎまわったこと。



妹ができたら何してあげよう、どんなことをしようと毎日考えていたこと。



病院で櫻子を初めて見た時のこと。



食事を食べさせたり、おもちゃを使って一緒に遊んだこと。



寝る前に絵本を読んだこと。



櫻子が道端で転んで泣いてしまい、私が必死になって宥めたこと。



私が小学生になると、二人でよく外の公園に遊びに行ったこと。



櫻子が友達をつくって、時々家に連れてくるようになったこと。



雨なのに傘を忘れてしまった時、櫻子が学校まで届けに来てくれたこと。



櫻子が友達と大喧嘩をして、一緒に謝りに行ったこと。



花子が生まれると知って、櫻子と二人で喜んだこと。



二人で掃除や洗濯を手分けして手伝ったこと。



一年間だけ、同じ小学校に通ったこと。



卒業式の日、私以上に櫻子がぼろ泣きして、ひま子もそれにつられて泣いてしまったこと。



春はお花見に、夏はお祭りに、秋は紅葉狩りに、冬はスキーに行ったこと。



一緒に笑って、一緒に泣いて、





一緒に過ごしてきたこと。


22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 00:06:20.23 ID:GoTmYfNv0

「…………………」



嫌だ。



櫻子「……んぁ………」



「………っ…………ぅっ……」



嫌だよ。



櫻子「……ねー……ちゃん……?」



お願い、離れないで。



撫子「……ふ………ううっ………っ……」



どこにも行かないで。



櫻子「……なんで………泣いてるの……?」



撫子「っ……さくらこ……さくらこ………」



私は愛しい妹の名前を呼ぶ。



何度も何度も、

ただただ求めるように、

寂しいよ、と伝えるかのように。



櫻子「ねーちゃん……大丈夫?………私はここにいるよ……」

撫子「ひっ……ぅ……うぅ……///」



櫻子に背中をさすさすされながら、私は声を押し殺して泣いた。

嬉しさやら悲しさやらで、感情はぐちゃぐちゃに混ざっていた。


23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 00:07:03.04 ID:GoTmYfNv0

櫻子「落ち着いた?」

撫子「ん……ありがと……///」



しばらくして、私は目尻に溜まった涙を指で拭いながら言った。

目の前にいる櫻子は、いつになく優しい顔をこちらに向けていた。



櫻子「……どうして、泣いてたの?」



櫻子は心配そうにしていた。普段めったに泣くことのない私がすぐ隣で泣いていたのだし、心配するのも無理はない。



撫子「ん、んーん……なんでもないよ……」

櫻子「ねーちゃん!」



櫻子は声量を上げて言った。



櫻子「なんでもなくない……だってねーちゃん、『さくらこ』って何度も何度も言って泣いてたじゃん!」



怒っているようで、少し悲しそうな声を、櫻子は漏らした。



櫻子「私のせいで泣いてるの? そうだったらあやまるから……」

撫子「ち、違う……櫻子は悪くない……から……」

櫻子「じゃあ……何?」



せっかく落ち着いたのに、私はまた泣きそうになってしまう。

それをなんとか堪えつつ、私は声を絞り出した。



撫子「…………怖くて……」


24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 00:07:44.45 ID:GoTmYfNv0

櫻子「……え」



撫子「櫻子が……これからどんどん大きくなって……変わっていって……離れていくんだなって……」

撫子「そう思ってたら……なんか寂しくて、怖くなっちゃって……」




櫻子「ばかっ!」



突然の大声にビクッとし、櫻子の方に目をやると、目を背けたくなるくらい真っすぐな視線が、私の心を捕らえた。



櫻子「何言ってんの……私がねーちゃんの前からいなくなるわけないじゃん!」

櫻子「大人になっても、何歳になっても、私はずっと私だもん! 変わるわけないじゃん!」



櫻子「私だって……私だって、ねーちゃんが大好きだもんっ!!///」



撫子「櫻子……」



ぎゅっ



櫻子「ぅ………うう~っ……」



櫻子は痛くなるくらい、私をぎゅっと抱きしめる。

そして、私の全然ない胸に顔を埋め、自分がむせび泣いているのを必死に隠そうとしていた。



撫子「ごめん……ごめんね、櫻子……」

櫻子「……うぅ………ばか…………ねーちゃんのばか……」



妹を泣かせちゃうなんて……私ったら何やってるんだか。


25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 00:08:20.45 ID:GoTmYfNv0

櫻子「……すー………………」



泣き疲れてしまったのだろう。櫻子は顔を埋めているうちにすやすやと眠ってしまった。



胸元でいびきをかく櫻子を、私はそっと腕で包み込む。

こうしていると、私と櫻子が一つになったようで、心がぽかぽかと温まるのを感じた。



撫子(……ありがとう、櫻子)



櫻子はたくさんのことに気づかせてくれた。



全ての思い出は、ばらばらに存在する点ではなく、一本の直線の上に、点々と位置しているものだということ。

たとえ二人が成長しても、いつどこにいたとしても、私と櫻子の姉妹の関係は、ずっと変わらないということ。

大きくなったからといって、それが離れることには繋がらないこと。



櫻子も私も、お互いが大好きだということ。





私は櫻子の頭の上に手を置いた。



夜遅くに起こしちゃってごめんね。

せめて朝が来るまで、幸せな夢が見られますように。



櫻子「……むにゃ」



私もそっと目を閉じる。

心と体で、温かさを感じながら。





おやすみなさい。


26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 00:09:23.61 ID:GoTmYfNv0

おわりです。

ありがとうございました。



オチが弱くてすみません。



元スレ:撫子「ふとした時に、気づくこと」

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