2018年04月08日

フェニックス6号(H28年4月発行)回想

「瀬戸川の畔」   丸山 進

さよならに透かしがあるか確かめる   安藤香代子
 紙や布に透かしがあるなら分かるが「さよなら」にあるという発想がユニーク。誰かに言われた「さよなら」の余韻に浸りながら、真意をはかりかねているのだろうか。
女心の未練だろうか。

正装の紳士とつつくイチゴパフェ    安藤 なみ
 一読して滑稽で異様な情景が浮かぶ。妖艶な女とイチゴパフェをつつく正装の紳士とは。合コンで出来立てのシニアカップル、薬物から更生した男と支援者、同性婚の語らい等が浮かんでは消える。想像が尽きない句を提供できるのは言葉のマジシャンだけである。

マヨネーズそろそろ華麗に逆立ち日   稲垣 康江
 残り少なくなって捨てられる寸前のマヨネーズに、稲垣はサプライズの舞台と心に染みる詩を与えた。それは「華麗な逆立ち日」として永く人々とマヨネーズ嬢の記憶に残るだろう。世の中のどんな小さなものも祝福されるべきだと叫んでいるようだ。

あれこれと書いた予定が指図する     太田昌宏
予定を書く時はまだ先だと思い、あれこれと頑張ったり欲張ったりでいろいろ計画を詰め込んだ。時期が近づくと思わぬ野暮用が出来たりで、予定の実行が怪しくなってきた。自分の書いた予定表が鬼の形相で迫ってくる。「指図する」がぴったり。

飛ぶのは辛い残るのはなお辛い     北原おさ虫
 特攻をテーマにした連作の一句。国のためとは言え母に先立ち飛び立つのは辛い、臆病と言われ英霊にもなれず生き残るのはなお辛い。若者を死に追い込んだ狂気の時代を美化する人達が今なお居ることを憂う。

婚活と墓活セミナー隣り合う      高田 桂子
 婚活と墓活が隣り合うという嘘のようなほんとの話。
婚活も墓活もしばらく前にはなかった言葉だ。それが隣り合うとは時代の流れを感じる。
思えばどちらもスタートでありゴールである。句のリズムがよい。

したたかをラベンダーブーケ包み込む  高橋ひろこ
 ラベンダーブーケは結婚式の演出に欠かせないアイテム。花嫁のしたたかさ、それはそれで結構な資質だが、
とりあえず清楚でキュートなブーケが可愛く包み隠してくれる。昔流に言えば角隠しかな。

ダイエット形状記憶にはばまれる    田地 尚子
 ほとんどの老若男女がダイエットに憧れるか脅迫されているが、成果はイマイチだ。何故か。理由は簡単、アウトプット以上に食べるからだ。簡単な努力をしないで「形状記憶にはばまれる」という逃げの屁理屈がおもしろい。

垂直な夢を持ってる白い服       平子久仁子
 ホームレスもコソ泥も白い服を着ない。新郎新婦や入学の生徒には白が目立つ。白は希望の色である。よれよれの白は似合わない。誰にでもある垂直の夢がいつまでも白く大きく輝いて欲しい。

文春をあくびのふたにする議員     深谷江利子
 この頃の議員は交通事故より週刊文春に気をつけている。元より潔白なら恐れることはないが叩けば出る埃が溜まっているのだろう。議場で眠くなったら、文春を取り出し必死で読んでいる議員が浮かぶ。作者の時事への切り込みは鋭い。

三度目はたぶん切れない赤い糸     前田トクミ
 赤い糸が二度目までは切れたと言外に言っている。深刻な事をさらりと詠んでいる意識は作者にあるのだろうか。読者の関心を二度目までの事に集中させる猫だましテクニックには非凡さを感じる。

アルバムの前で半日回顧録       松長 一歩
 何気なく昔のアルバムを手にしたら、懐かしい思い出が次々と蘇ってきた。あいつはどうしているか、こいつはもうあの世だな。俺もこんなに若く、様になっていたなあ。ページを捲るたびに「うーん」と感慨に耽っていたら。「ご飯だよ」とお呼びがかかり、現実に。

美術館妻は発散僕ためる        水谷 克行
 夫婦の趣味や好みはいろいろ。観る、食べる、休むにしても好みの温度差はあるだろう。美術館でもそれは同じ。一緒に行けるだけでも幸せだ。連れて行ってもらえない部類も多いのだから。「ためる」が絶妙。

リズム良く休み取ってる不整脈     三好 光明
 人様にとって不整脈は困ったもんだが、脈の立場になれば時々は休みたい。脈が終われば人もお終い。ここは譲り合ってリズム良く休んでもらった方が長生きできるのでは。と、パラドックス的発想がおもしろい。

形見分け母の秘密も譲られる      安井紀代子
 形見分けの中に母の秘密もあったとは、ちょっとミステリアスな感じもする重い話だが、長い人生にはいろいろあり秘密もあったと思う。母と娘の固い絆を感じさせる物語りである。

エスカレーター天敵とすれ違う     丸山 進
 東京駅には長い長いエスセカレーターがあり時々乗った。その日は上りに乗った。人は皆眠らず前を向いている。ふと見たら天敵が下りてきた。まさか、あいつも気が付いた。互いに横目ですれ違った。逃げようも追いかけようもない。その後の消息は知らない。


ssm51 at 22:22│Comments(0)clip!川柳作品 | 句集

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マル

川柳をやってます。
川柳は金もかからず、金にもならないのが魅力です。
短詩系や文芸全般にも興味はあります。

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