1:2014/10/14(火) 00:11:28.89 ID:
※ゆるゆりSS
※地の文アリ
※12000文字程度を予定(書き溜めアリ)
※ゆるゆりだけどゆるくない
※次のレスから開始

初投稿で勝手のわからないところもあるかと思いますが、何かあればお教えください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1413213078
2:2014/10/14(火) 00:13:01.10 ID:
「おーす、みんな!」

いつものように、大きな声をあげながら襖を開ける。この二年間で染み付いた行為だ。
私は、この瞬間がとても好き。授業が終わってから、みんなの集まる部室に行くのが、たまらなく好きだった。

「あれ、今日はちなつちゃんだけ?」

綾乃に絡まれていた所為で来るのが遅くなったから、当然一年生の二人はもういるものだと思っていた。しかし、この和室を見渡す限りあかりはいない。トイレにでも行っているのだろうか。

「私だけで悪かったですね。あかりちゃんはお姉さんとデートがあるって帰っちゃいましたよ」

ちなつちゃんが、不貞腐れるように言った。



3:2014/10/14(火) 00:15:38.22 ID:

吉川ちなつ。私の初めての後輩で、とっても可愛らしい女の子。ピンクの髪とその特徴的な髪型が、彼女の可愛さを最大限に引き出している。

勿論、あかりも私にとって可愛い後輩だが、幼馴染みの彼女は、あまり後輩という気がしない。いじり甲斐のある、同い年の友達みたいなものだ。

「悪いことなんてないよぉ。ちなつちゃんと二人きりだなんてあんまりないから、すっごく嬉しいもん」

そう言って、私はちなつちゃんに抱きついた。ふわふわとした髪が、私の顔に当たる。けれどそれは全く不快ではなく、むしろ心地よい。ちなつちゃんの暖かみが感じられる気がするのだ。

「……もぅ、調子のいいことばっかり言って」

文句を言いながらも、彼女は抵抗しない。

「あれ?」

おかしいな。違和感が胸を絞め始める。普段なら、私が抱きつくことにもっと抵抗するはずだ。

受け入れてくれるのは嬉しいけれど、いつも力一杯拒絶するのに、今日だけしないだなんて、やっぱりおかしい。



5:2014/10/14(火) 00:17:31.51 ID:

「ちなつちゃん、もしかして体調悪いの?」

目の前にある、綺麗な顔が、怪訝な表情を浮かべた。心当たりがないのだろうか。

「だって、今日は私のこと拒まないし」

声のボリュームが尻すぼみしていくのがわかった。だって、自分でこんなこと言うなんて、悲しいよ。私はちなつちゃんが大好きなのに。

「もう、なんでそんな顔するんですか」

少し困ったように、ちなつちゃんは私の頬に左手を添えた。

「私にだって、そういう気分の時はあります。京子先輩が元気なかったら、こっちまで調子が狂っちゃいますよ」

ふわり。

そんな感触を、頭に覚えた。頭を撫でられているんだ。ちなつちゃんが、左手を私の頬に添えたまま、もう一方の手で頭を撫でてくれていた。それに気付いた途端、顔が熱くなるのを感じた。



6:2014/10/14(火) 00:21:43.31 ID:
「うふふ、京子先輩、顔真っ赤ですよ」

愛おしそうに、慈しむかのように、彼女の手が私を撫ぜる。気持ちいいな。素直にそう思えた。

「京子先輩って、不思議な人ですよね」

笑いかける彼女の顔が、眩しい。

「いつも迷惑なくらい元気で、みんなを巻き込んで、でも凄く気が付く人で、可愛らしい人です」

嘘。

咄嗟にそう思った。だって、ちなつちゃんがこんなこと言ってくれるなんて思わなくて。言葉にならない程に嬉しくて。目頭が熱くなった。

「そんな京子先輩のこと、とってもカッコよくて頼りなるって思いますよ」

もう、駄目だ。我慢出来そうにない。涙が、溢れる。

「私、先輩のことが好きです」

私は、力一杯愛しい彼女を抱き締めた。

歳納京子編 おわり


7:2014/10/14(火) 00:23:59.01 ID:
「思ったよりも時間かかったな」

 私は思わず独りごちた。たまたま日直だったがために、先生の手伝いを放課後に任されてしまい、いつもより部室に向かうのが遅れてしまっている。
最初は京子も手伝うと言っていたが、一人で足りているし、自分でやると言い聞かせた。変なところで気を遣う奴だ。そこが彼女のいいところだと、思うけれど。

 学校の離れにある茶室は、趣深く佇んでいた。見る度に思うが、これ程の施設が何故学校にあるのだろうか。つまらないことを考えながら、中に入り、襖に手を掛けた。

「えっ……」

 ちなつちゃんと京子が、抱き合っていた。京子の表情を伺うことは出来ないが、ちなつちゃんは目を閉じながら、慈愛の表情を浮かべていた。
よく見れば、右手で京子の頭を撫でている。私は何故か居た堪れなくなって、襖を閉じた。胸が、チクリと痛んだ。

「っ」

 思わず私は走りだす。この場所に、一秒たりとも居たくなかった。おかしな話だ。いつもはずっとごらく部に居たい。皆と一緒に居たい。と思っているはずなのに。今日だけはあそこから逃げ出したくて仕様がなかったのだ。

 気がつけば、私は教室まで戻ってきていた。



8:2014/10/14(火) 00:25:48.05 ID:
「ちなつちゃん、京子のことが好きなのかな」

 口から出た疑問に、私自身が驚かされた。

 私はずっと、京子のことが好きだった。小さい頃はずっと私の影に隠れていた、女の子。段々と元気になって、皆を引っ張っていく存在になった、女の子。いつも私の隣にいてくれた、女の子。そんな彼女のことが好きだった。はずなのに。

「そっか。私、ちなつちゃんのことが好きになっちゃってたんだ」

 思えば、彼女はずっと私に好意を向けてくれていた。初めて会ったあの日から、ずっと。彼女は私の行動全てに、大袈裟に一喜一憂してくれた。いつの間にかそれが、私にとって当たり前で、でも掛け替えの無いものになっていたんだ。

「あんなに可愛い子に、毎日毎日アプローチされたら、誰だって靡いちゃうよね」



9:2014/10/14(火) 00:27:35.92 ID:
 すーっと、涙が頬を伝っていた。この涙の意味は、何なのだろうか。京子に対する罪悪感なのか、ちなつちゃんを盗られてしまった悲しみなのか。

 盗られる?

 否、盗られるだなんて烏滸がましい。私にそんなことを言う資格はない。私は彼女の気持ちに気づきながらも、ずっと何も言わないでいたのだから。応えるどころか、拒絶すらしてあげなかった。そんな私に、今更自分の気持に気づいたからといって、嘆く権利なんて、ない。

 わかっている。わかっているけれど。涙は止まらなくて。

「私、馬鹿だなぁ」

 でも、

「祝福して、あげなくちゃね」

 私の大好きな人と、私の大切な幼馴染が、幸せになるんだから。私は、笑顔でいなければならない。

 おめでとう、ちなつちゃん。

 おめでとう、京子。

 明日はきっと、笑いながら言えるから。だから、今日だけは、思い切り泣かせて欲しい。

 急用が出来たから部活に顔は出せないと、あかりにメールを送って私は帰路についた。

船見結衣編 おわり



12:2014/10/14(火) 00:31:01.51 ID:
「あ、メールだ」

 ケータイの液晶画面を見て、差出人の名前を確認します。相手は、あかりが昔からよく知る人でした。

 船見結衣ちゃん。あかりの幼馴染で、歳がひとつ上の先輩で、同じごらく部の仲間で、そしてあかりの大切なお友達。

これまでの十三年間で、一体どれだけ「結衣」という名前を呼んだのでしょうか。きっと、途方もないくらい多いと思います。結衣ちゃんは、それだけあかりとずっといる人なんだ。

だから、結衣ちゃんからメールがあるだけで、あかりは少しうれしくなってしまいます。体がぽかぽかしてくるんです。

『ごめん、あかり。急用が入ってごらく部には顔出せない。京子達にもそう伝えといて』

 メールは、そんな文面でした。

 おかしいなあ、とあかりはすぐに思いました。結衣ちゃんなら自分で同じ内容のメールを他の二人にもするはずです。たとえ一人だけに連絡するとしても、どうしてあかりなのでしょうか。結衣ちゃんなら、真っ先に京子ちゃんに連絡するはずです。

「京子ちゃんだけだと心配だから、っていうのはありそうかも」

 口に出して、少し笑ってしまいます。京子ちゃん、大雑把なところがあるから。

 少し変な気はするけど、それだけ結衣ちゃんが急いでいるってことなのかも。じゃあ京子ちゃんとちなつちゃんにメール送らなきゃね。

 あかりは、結衣ちゃんが行けないことを簡単に伝えるメールを二人に送りました。



13:2014/10/14(火) 00:33:54.30 ID:
「ただいまー」

 ちょうど、お姉ちゃんが帰ってきたみたいです。今日は、お姉ちゃんとデートです。あかりの見たかった映画のチケットをお姉ちゃんが用意してくれて、お夕飯も話題のお店に連れて行ってくれるみたい。

 お姉ちゃん、本当に優しくてあかり大好き。昔からあかりとお姉ちゃんは仲が良かったけれど、中学生になってからそういう機会も減っちゃったんだよね。だから久しぶりに二人きりのデート、楽しみだなあ。

 二人きり。

 そういえば、あかりと結衣ちゃんがいないということは、今ごらく部は京子ちゃんとちなつちゃんの二人きりなのかな。

 京子ちゃんとちなつちゃん。もっとお互いに素直になって、仲良く出来ればいいのに。いつも、そう思う。

 京子ちゃんは、とても明るくなった。昔みたいにすぐに泣かなくなったし、あかり達を引っ張っていってくれる存在になった。でも、どこか無理をしているんじゃないかな。そう思う時があります。

 あかり達の知らないところで、泣いているんじゃないかな。そう、思うことが。大袈裟にちなつちゃんに迫ったり、抱きしめようとしたりするのはきっと、京子ちゃんなりの照れ隠しなんじゃないかと思います。

 ちなつちゃんも、本当は京子ちゃんのこと、嫌いじゃないはずなのにつっけんどんなんだから。自分の気持ちを認めようとしない。結衣ちゃんにずっとアプローチしている手前、ためらっているのかもしれません。

 そんなことを考えながら、あかりはお姉ちゃんと家を出ました。



14:2014/10/14(火) 00:35:49.26 ID:
 翌日学校で、ちなつちゃんがこう切り出しました。

「あのね、あかりちゃん。私、謝らないといけないことがあるの」

 その時のちなつちゃんの顔は、泣き出しそうなほどに追い詰められているように見えました。

「私ね、京子先輩と付き合うことになった……ううん、付き合うことにしたの」

 そっか。

 あかりが思ったのは、ただそれだけでした。今までつっかえていた何かがなくなったみたいに、すっきりするように、納得してしまいました。ああ、やっと二人とも素直になれたんだ。

 ちなつちゃんは、あれだけ結衣先輩とのことを協力してもらったのに、と何度も謝ってくれました。あかりはそんなこと、全然気にしていないのに。

 それよりも気になるのは、結衣ちゃんのことです。きっと昨日あかりにメールをしたのは、そういうことだったのでしょう。結衣ちゃんは多分、ちなつちゃんのことが好きだったから。ちなつちゃんも、京子ちゃんもきっと気づいていない。けれど、結衣ちゃんはちなつちゃんが好きだ。

 ずっと皆のことを見てきたあかりには、わかる。



15:2014/10/14(火) 00:36:39.70 ID:
 あかりは、ごらく部が大好き。ごらく部の皆が、大好き。

 だから、ちなつちゃんと結衣ちゃんのことを応援してきたし、ちなつちゃんと京子ちゃんが結ばれることも祝福したい、失恋してしまった結衣ちゃんのことも元気づけてあげたい。

 そのために、あかりには何が出来るんだろう。あと一年しか、結衣ちゃんと京子ちゃんの二人と一緒の学校に居られない。あと一年、あかりたちはどんなごらく部で居られるだろう。

 でも、今は、もっと先に言うべきことがあると思うから。

「ちなつちゃん、おめでとう。幸せにね!」

赤座あかり編 おわり



16:2014/10/14(火) 00:40:46.46 ID:
 正直に言って、吉川さんと歳納先輩が付き合うことになった、というのは甚だ意外でなりませんでした。

「わたくしはてっきり船見先輩のことが好きなのかと……」

 誰に聞かせるでもなく、ただ、思ったことが口に出てしまいました。

「バカだなあ、向日葵は」

 けれど、この子は自分に向けて言ったと思ったようです。

 無理もありません。今教室にはわたくしと櫻子しかいないのですから。歳納先輩とのことを話してくれた二人は、ごらく部へと向かってしまいました。

「ちなつちゃん、どうみても歳納先輩のこと好きだったじゃん」

「はて、そうでしょうか」

 確かに、ここ最近の吉川さんは、歳納先輩の話をよくしていたように思います。

 やれ、いつも抱きついてくる歳納先輩が鬱陶しいやら、やれ、歳納先輩は元気が良すぎるやら。

 以前は、もっと船見先輩の話をしていたというのに。


17:2014/10/14(火) 00:42:28.53 ID:
「櫻子の癖に、そういうところはよく見てますのね」

 自分が気付いていなかったのに、お馬鹿な幼馴染が気付いていたのが悔しくて、そんなことを言ってしまいました。

 だってそうでしょう。

 この子はずっと私の傍にいた癖に、いつまでたってもこちらの気持ちの欠片も理解してくれないのですから。

 どんなにわたくしが素直になろうとしても、この子はいつだって察してくれない。

 いいえ、違います。こんなの醜い言い訳に過ぎません。

 本当はわかっているのです。

 私が一歩踏み出す勇気のない、臆病者なだけなのだと。

 櫻子に非などない。ただ、少し。ほんの少しでもいい。わたくしが素直になれれば――


18:2014/10/14(火) 00:45:01.89 ID:
「わかるよ」

 目の前の幼馴染は、にかっといつもの眩しい笑みを浮かべました。

「だってさ、ちなつちゃんいつも歳納先輩の悪口ばっかり言ってたでしょ」

 屈託のない、幼い頃から変わらない、わたくしの愛した笑み。

「でもね、すっごく楽しそうだった。ほら、わたしたちと一緒でしょう?」

 その愛しい表情から放たれた言葉は、とてつもない破壊力で、

「あ、貴方、な、なななな、なにを」

 わたくしがこんなに慌てているのに、顔を真っ赤にしているのにこの子はきょとん顔で。

 自分が何を言っているのかも理解していない、お馬鹿な幼馴染が愛しくて。

「…………はぁ。ねえ、櫻子」

 うじうじと考えていた自分自身が馬鹿らしくなってしまいました。

「わたくし、櫻子のことが好き――愛してますわ」

 こんなお馬鹿な子相手に気張る必要なんてなかったのですね。

古谷向日葵編 おわり


19:2014/10/14(火) 00:47:00.24 ID:
 最近、アイツの元気がない。

 病気だとか、調子が悪いとか、そういうことではないと思う。

 けれど、会話している時、一緒に歩いている時、生徒会の仕事をしている時。ふっと見せる表情が、変だった。

 どうおかしいのか、説明できない。けれど、変。変としか言いようがない。

 だからモヤモヤする。

 ただでさえ邪魔なおっぱいぶら下げてムカツクのに!

 そっちに元気ないと、私の調子も狂っちゃうよ、バカ。櫻子様の体調管理はお前の仕事なんだからなー!!

 そんなモヤモヤが続いていて、私はどうしたらいいのかわからなくなっていた。

 今日も幼馴染は『変な』顔をしていた。


20:2014/10/14(火) 00:49:34.36 ID:
「櫻子の癖に、そういうところはよく見てますのね」

 ちなつちゃんと歳納先輩が付き合うことになったのが、意外だったらしい。

 けれど私は、いつかそうなるんじゃないかと思っていた。

「わかるよ」

 だってさ、

「だってさ、ちなつちゃんいつも歳納先輩の悪口ばっかり言ってたでしょ」

 毎日毎日、ずーっと歳納先輩のことを話していた。

 迷惑だよねって。なおしてほしいなあって。でもさ、ホントに嫌だったらあんなふうにいっぱい話せないんだよ。

「でもね、すっごく楽しそうだった。ほら、わたしたちと一緒でしょう?」

 そう、私も一緒だもん。向日葵はウザいしおっぱい大きいしムカつくし口うるさいしおっぱい大きいけど、嫌いじゃない。

「あ、貴方、な、なななな、なにを」

 むしろ、

「…………はぁ。ねえ、櫻子」

 私は――

「わたくし、櫻子のことが好き――愛してますわ」

 大好きだよ、向日葵。

大室櫻子編 おわり


21:2014/10/14(火) 00:52:22.44 ID:
「凄いところを見てしまったな」

 目の前の、小柄な少女に語りかける。

「…………」

「ん? ああ、そうだな。収まるべきところに収まったという感じだろう」

 松本はいつも、こうして誰にも聞こえないような小さな声で喋る。私以外にはわからない、声で喋る。

 正直なところ、彼女がこの中学校を卒業した後、高校を出て社会に出た後、きちんとやっていけるか心配だ。

 けれど一方で、私が優越感を覚えているのも確かだ。

 彼女が何を考え、何を思っているのかを知っているのは、私だけ。私だけが、彼女をわかってあげられる。

 だから、私は彼女を独占出来る。

 そんな邪な思いを抱いてしまうのだ。

「…………?」

 心配そうに、松本がこちらを見上げる。

「なんでもないさ、大丈夫。松本こそ大丈夫か、あんなシーンを目撃してしまったのだし」

 訊かれて、顔を少し赤くする。

 仕方あるまい。中学生には少々刺激的な場面だった。


22:2014/10/14(火) 00:54:06.54 ID:
 ――古谷と大室が、キスをしていた。

 小鳥のような可愛い接吻ではない。お互いを貪り求め合うような、深い深い口吻だった。

「…………」

「あ、ああ、すまん。つい思い出してしまって」

 どうやら無意識に、自分の指を唇に当てていたらしい。はしたないところを松本に見られてしまった。恥ずかしい。

 私でさえこうなのだ。松本は、あれを見てどう思ったのだろうか。彼女も、想像してしまったのだろうか。

 誰かと、口吻をするところを。

 だとしたら、その相手は誰だろうか。

 もしそれが、私ならば。

「…………」

「な、何を突然言い出しているんだ松本、べ、べべ別に私はキスがしたかったわけじゃないぞ!」

 かーっと顔が熱くなるのを感じた。どうして、松本に私の考えていることがわかったのか。

 そんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか。

「…………」

 う、嘘ですねってどういうことだ。ああ、何故近づいてくるんだ、松本よ。

 どうしても目は、彼女の唇に奪われてしまう。違うんだ、私は決してやましいことなど――

「…………」


23:2014/10/14(火) 00:58:56.52 ID:
 気が付けば、私の唇は松本に奪われていた。

 ただ、数瞬触れ合うだけのキス。ついさっき見たものに比べれば、子どもの遊びのようなものだ。

 それなのに、だというのに。

「うっ、わ」

 どうして、こんなにも気持ちいいのだろうか。どうして何も言葉が出てこないのだろうか。

 今まで見たことのない蠱惑的な表情を浮かべる松本に、何か言ってやりたくても、口が言葉を紡いでくれない。

「…………」

 うるさい、わかるかそんなもの。こっちはもういっぱいいっぱいなのだ。

 どうしてこうなったんだ。最初はすれちがった歳納に、彼女が出来たと自慢されて、その後松本と会って、それから古谷と大室が……

「ああ、もうよくわからんが全部歳納が悪い!! 突然吉川と付き合い始めた歳納が悪い!!」

「…………」

 そんな攻めるような目で見るなよ、わかったよ、ただの八つ当たりだよ。

 でも許してくれ、本当に混乱しているんだ。

「その、なんだ、松本。私でいいのか?」

「…………」

 くそ、いつからそんな恥ずかしい台詞を吐くようになったんだか。

「私も好きだぞ、りせ」

 耳まで真っ赤になった。

西垣奈々&松本りせ編 おわり


24:2014/10/14(火) 01:02:22.59 ID:
 いつか破綻するのではないかと、ずっと思っていた。

 綾乃ちゃんの思いは、危うすぎる。

 ウチは、綾乃ちゃんが好き。性愛としてではない。ウチは杉浦綾乃という人が好き。

 だから彼女には幸せになってほしいとずっと思っていた。今もそうだ。

 だから綾乃ちゃんと歳納さんが結ばれればいい、と応援してきた。

 けれど心の何処かで、綾乃ちゃんは報われないだろうとも思っていた。

 酷い話だ。親友だなんだと言っておきながら、その実彼女の恋は叶うまいなどと思っているのだから。

 綾乃ちゃんの思いは、危うすぎる。



25:2014/10/14(火) 01:04:57.12 ID:
 あの子の純粋すぎる思いは、しかし一方で重すぎる。

 綾乃ちゃんの思いは、憧れが強い。いつまでたっても、歳納さんとまともに話すことすらままならない。

 勿論彼女は努力をしてきた。成長もしたと思う。

 かつてとは比べ物にならないほどに歳納さんと話せるようになったし、距離も縮まっただろう。

 けれど、歳納さんだって待っていてはくれない。

 彼女にも、自由に恋愛をする権利がある。綾乃ちゃんを待つ義理などないのだ。

 歳納京子という少女の周りは、常に賑やかだ。

 船見結衣、赤座あかり、吉川ちなつ――ごらく部の仲間たち。彼女たちの誰かと付き合うことになったって、不思議じゃない。

 たとえ思いが通じたとして。綾乃ちゃんの爆弾のような肥大した思いを、歳納さんが容易に受け止められるとは思えない。

 綾乃ちゃんも綾乃ちゃんで、理想と現実のギャップに苛まれて傷ついてしまうだろう。


 きっと、いつかは破綻の日がやって来ると思っていた。覚悟をしていた。そのつもりだった。




26:2014/10/14(火) 01:08:55.24 ID:
「ああ、もうよくわからんが全部歳納が悪い!! 突然吉川と付き合い始めた歳納が悪い!!」

 だから、そんな言葉が聞こえてきたときも、ウチは平静を装うことが出来るはずだった。

「え、あ、うそ」

「――ッ」

 なのに、言葉が出なかった。

「ね、ねえ千歳、今のは聞き間違いよね? と、とと、歳納京子がよ、よよよ吉川さんと」

 綾乃ちゃんは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。焦りと悲しみと恐怖と色んなモノが綯い交ぜになった表情。

 落ち着いて、綾乃ちゃん。まだ決まったわけやないから。まずは歳納さんのところに行って確かめてみよう。

 たったそれだけ。それだけを言えればいいのに。何故かウチの口はパクパクと声にならない音を発するだけだっ
た。

 駄目だ。ウチがこんなんじゃ、綾乃ちゃんを余計不安にさせてしまう。

「ぅ、うああああああああああ」

 案の定、声にならない悲鳴を上げながら綾乃ちゃんは走りだしてしまった。

 ああ、捕まえなくちゃ。ここで綾乃ちゃんを一人になんかできない。

 震える脚に鞭打ち、ウチも走りだす。


27:2014/10/14(火) 01:10:09.48 ID:
「待って、待って綾乃ちゃん!!」

 廊下を全力で駆ける。綾乃ちゃんには、思いの外早く追いついた。

「綾乃ちゃん!?」

 目の前で綾乃ちゃんが大きくずっこけたからだ。私も急なことに止まりきれず、廊下に倒れる綾乃ちゃんに飛びかかるように倒れこんだ。

「うぐぅ」

 痛い。しかし今は、そんなことを言っている場合ではない。

「綾乃ちゃん!!」

 後ろを向いている彼女の顔を、無理矢理こちらに向かせる。

「大丈夫やから、大丈夫、やから」

 もう何を言ってあげればいいのかわからなかった。わからなくて、ただただ大丈夫だからと言い続ける。無様やなあ、ウチ。

「千歳……」

 綾乃ちゃんは、やっぱり泣いていた。

「もう、なんで千歳が泣いてるのよ」



28:2014/10/14(火) 01:11:34.59 ID:
 あ、れ?

 自分の目元に触れる。そこは確かに、濡れていた。いつの間に涙を流していたのだろうか。

「ありがとう、千歳。私は大丈夫よ」

 ああ、そして、いつの間に彼女は笑っていたのだろうか。

「もう心配はノンノンノートルダムよ」

 綾乃ちゃんの浮かべる満面の笑みを見て、思った。

 ごめんな、何も出来なくて。何の役にも立たなくて。やっぱりウチ、綾乃ちゃんのこと大好きやわ。

池田千歳編 終わり


29:2014/10/14(火) 01:14:53.26 ID:
 千歳は暫く泣き止んでくれなかった。

 廊下に座り込んだまま、私たちはずっと抱き合っていた。よしよしと、千歳の頭を撫でる。

 いつもと立場が逆で、なんだか笑ってしまいそうだ。

 こんなにも、私のことを考えてくれる人がいるんだなあ。こんなにも、私を応援してくれている人がいるんだなあ。

 千歳が私の良き理解者であることを、改めて実感する。

 つい数分前まで、心のなかはぐちゃぐちゃだったのに。あんなにも荒んでいたのに。今はとっても穏やかだ。

 私はずっと、自信がなかった。

 自分自身の気持ちに。歳納京子への、思いに。

 私は、歳納京子が好きだ。けれど、それはどういう意味の好きなのか、ずっと迷っていた。

 私が素直になれなかったのは、正確は勿論だけれど、そんな迷いがあったからだ。千歳が言うように、私は歳納京子のことが好きなのだろうか。

 恋愛感情として、好きなのだろうか。


30:2014/10/14(火) 01:17:51.11 ID:
 もっと仲良くなれたらな。なんて思う。手を繋ぎたい、触れ合いたい。そう、思う。

 キスをしたい、えっちなことをしてみたい。そう、思っているのだろうか。そんなことを考えると顔がみるみるうちに熱を帯びて、何も考えられなくなる。

 だからずっと、わからなかった。私が歳納京子をどう思っているのか。歳納京子とどうなりたいのか。

「ねえ、やっとわかったわ、千歳」

 けれど、皮肉なことに気付かされた。

「私、歳納京子のことが好きだったのね」

 腕の中の千歳が、ビクリと震えたのがわかった。

「綾乃、ちゃん」

 ややくぐもった声が聞こえる。また私を心配してくれているのだろう。本当にありがたい。

 大好きな人が、手の届かないところに行って、ようやく私は気が付くことが出来た。


31:2014/10/14(火) 01:21:14.68 ID:
「私は、歳納京子のことが大好きだったのよ。ずっと一緒にいたい。触れたい、キスしたい、結婚したい、えっちなことだってしてみたい」

 なんて馬鹿なのだろう。

「私、好きなんだあ、あの子のことが」

 失って初めて気付くだなんて、安いラブソングみたいね。

「千歳、これから一緒にごらく部に行ってくれる?」

 千歳がこちらを見上げる。私の意図をはかりかねているのだろう。

「私の大好きな人と、可愛い後輩が結ばれたんですもの。お祝いにいかなくちゃね」

 それで、終わりにしよう。私の小さな恋をお終いにしよう。

 きっと、大丈夫。私には、こんなに思ってくれる友人がいるのだから。

杉浦綾乃編 おわり


32:2014/10/14(火) 01:23:10.59 ID:
 皆に京子先輩とのことを話すのは、怖かった。

 私は結衣先輩に一目惚れして、そしてずっと結衣先輩にアタックし続けてきた。皆それを知っている。

 あかりちゃんは、私の相談にのってくれて、色々と応援してくれた。そんな彼女を裏切るようなことをしたのだ。

 嫌われるかもしれない。

 そう思うと、とても怖かった。

 結衣先輩には、あんなに好き好き言っておきながら、結局京子先輩のところに行ってしまったのが申し訳なくて。

 杉浦先輩は、ずっと京子先輩のことが好きだったのに。急にあらわれた私に奪われて。

 そんな先輩を応援していた、池田先輩も……。

 考えれば考えるほど、怖くなる。

「大丈夫だよ、ちなつちゃん」

 隣にいる京子先輩が、ぎゅっと私の手を握ってくれた。温かい。安心する。

 ああ、私ったら安いなあ。ちょろいなあ。こんなことで、もう不安がなくなっていく。勇気が湧いてくる。

 だから私はこの人のことが好きなんだ。


33:2014/10/14(火) 01:26:35.98 ID:
 あかりちゃんと結衣先輩は、こちらが拍子抜けするほどあっさりと私たちの仲を認めてくれた。

 本当に嬉しかった。櫻子ちゃんも向日葵ちゃんも、驚いているようだったけれど、祝福してくれた。

「じゃあ今日は皆でお祝いだな」

 結衣先輩がそういって笑う。

「いいね結衣ちゃん、あかり、部室のおかし出してくるよー」

「じゃあ私はお茶をいれるよ」

 結衣先輩とあかりちゃんが慌ただしく動き出す。

「あ、あの、先輩私も……」

 何か手伝おうと、私も立ち上がる。

「いいからいいから、ちなつちゃんは今日の主役でしょ。座っててよ」

 何故か結衣先輩は、少し困ったような顔をしていた。


34:2014/10/14(火) 01:27:40.12 ID:
「京子先輩、なんだか結衣先輩おかしくなかったですか?」

 結局押し切られた私は、京子先輩と並んで座っていた。

「んーまあねえ」

 なんだか、曖昧な答え。もしかしたら京子先輩には心当たりがあるのかもしれない。

 でも私に教えてはくれない、と。

「やっぱり私、ちょっと手伝いにいってきます」

 きっと京子先輩は結衣先輩のために黙っているのだろうと思った。二人の幼馴染の絆が、少し悔しい。

 やはり曖昧に笑う京子先輩を尻目に、私は給湯室へ向かった。


35:2014/10/14(火) 01:31:03.39 ID:
「結衣ちゃん、無理してるでしょ」

 そんな声が聞こえてきて、私は停止した。

「なんだよあかり、藪から棒に」

 身を隠し、側耳を立てる。

「結衣ちゃんは、ちなつちゃんが好きだったんでしょう?」

 思わず、声を出しそうになった。

 今、あかりちゃんは何と言った。先輩が、私の事を好き?

「そっか、バレてたか」

 あっさりと、先輩も認める。

「わかるよ、あかりはごらく部の皆が大好きなんだから」

 ああ、なんてことだろうか。

「あかりは本当にいい子だね」

 私は、なんてことをしてしまったのだろうか。

「大丈夫だよ。今は無理してるかもしれないけど、きっと大丈夫」

 私は裏切ったのだ。

「私はちなつちゃんのことが好きだけど、京子のことも大好きなんだ。もちろん、あかりもね」

 こんなにも健気な先輩を。

「だから、大丈夫。大好きな二人が結ばれたんだ。嬉しくないわけがないだろ」

 ああ、ごめんなさい。結衣先輩。ごめんなさい。あかりちゃん。


 これ以上聞いてはいけない。そう思って私は静かに京子先輩のもとへ戻った。



36:2014/10/14(火) 01:32:29.26 ID:
「京子先輩、知ってたんですね」

 それだけで、先輩は私が何を言いたいのかわかってくれたようだった。

「ごめんね、ちなつちゃん。知らないなら知らないでいた方がいいと思ったんだ」

 でも、これじゃあ。私、最低過ぎます。そう叫びたくなるのを我慢する。今ここで騒いだら、結衣先輩の決意を無駄にしてしまう。

「おいで、ちなつちゃん」

 京子先輩が、自分の胸に手招きをする。堪らず私は抱きついた。

「この前と逆だね」

 先輩が優しく、私の髪を撫ぜる。とても気持ちいい。

「先輩、私、私」

 そうしたら、なんだか安心して、涙が溢れ出てきてしまった。

「ちなつちゃん、私たちうんと幸せになろう。誰にも負けないくらい」

「はい」

「皆が羨ましがるくらい、幸せになろう」

「はい」

 ただただ、私は、頷くだけだった。

「有難うございます、京子先輩」

 ようやっと落ち着いて、先輩から離れる。

「うん、やっぱりちなつちゃんが笑ってる顔が一番だね」

 そう言って、京子先輩は笑った。

「なんなんですか、もう」

 照れくさくて、なんだかおかしくって、ついに私たちは吹き出した。折角泣き止んだのに、今度は笑いすぎて涙が出る。


37:2014/10/14(火) 01:39:39.00 ID:
「ああー! ちなつちゃんが泣いてる!!」

「おい、京子! お前なにしたんだ!!」

 丁度、あかりちゃんと結衣先輩も戻ってきた。

 ああ、ごらく部ってやっぱりいいな。

「ねえあかりちゃん」

「なあに、ちなつちゃん」

「結衣先輩」

「どうしたの、ちなつちゃん」

「京子先輩」

「なになに、ちなちゅ」

「私、ごらく部が、ごらく部の皆が――」


 大好きです!


 吉川ちなつ編 おわり

ちなつ「ごらく部」 おわり


38:2014/10/14(火) 01:40:28.89 ID:
ここまでお付き合いありがとうございました。


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