2010年10月
2010年10月31日
上下とも左:京都府産、右:伊豆大島産(伊豆諸島北部型)
原歯型でも、意外と体長や大腮の長さなど個体変異が大きく幅広いため同等の標本同士を選択して比較するのは簡単ではない。大歯型、中歯型の方がそれぞれの歯型における変異のパターンが明らかなので比較しやすいのである。たとえば、大歯型でうち、一番後の内歯が後によっているものや、中歯型でほぼ原歯型に近く3本の内歯がひときわ発達したものなど抽出のキーになる特徴がある。一方原歯型ではそのキーとなる特徴がない。従っておおよそ体長の等しいもの同士の比較をせざるをえない。不明瞭であるが上下のサイズの異なる原歯型において伊豆大島産(伊豆諸島北部型)は前足、中足ではややはっきりと、後ろ足では若干長めになっている。また、前足脛節も長めであることがわかる。ただ、比較の両者は後胸+腹部の長さが若干異なるので正確な比較ができているかどうかは疑問である。とにかく足の長さを比較する場合はその他のどの特徴を持って合い対応する抽出するかは非常に難しい。しかし、付節及び前足の脛節の長さ以外にも、伊豆大島産は大腮、前胸、交尾器の形態からも原名亜種とは連続性のない独立した特徴を持つ個体群であることには間違いはない。
左からノコギリクワガタ伊豆諸島北部型(伊豆大島)、中ノコギリクワガタ(京都府産)、右ノコギリクワガタ伊豆諸島北部型(伊豆大島)
まったく同じ歯型のノコギリで比較するのはなかなか難しい。中の京都府産と右の大島産はおそらくほぼ同じ歯型に相当するが大島産は大腮が湾曲している。左の個体は同じ大島産で若干歯型が原歯型に近づいたタイプ。したがって中央の原名亜種はちょうど大腮の個体変異の中間に相当する個体だが画像のように大島産は原名亜種に比べ同じ歯型でもより大型である。足の長さを比較すると当然のことながら大島産は長い。これは個体の大きさが大きいので当たり前のことだ。しかし、真ん中の個体の縮尺を変えて一回り拡大してもやはり付節の長さは大島産の方が長い。足の長さを比較する場合この方法が正しい比較ではないかと思う。
同じ歯型の個体を選び、縮尺によって体長を同じにして比較した結果伊豆大島産はさらに付節が長く発達する。しかし、はっきりした境界はわからないが体長が65mmを超えるあたりから付節の長さの違いが不明瞭になる。付節の長さの違いがはっきりするのは大歯型の比較的小型〜原歯型の比較的大型個体である。
2010年10月24日
左 静岡県富士宮市産(P.i.inclinatus) 2010.8.21 右 伊豆大島産(P.i.inclinatus伊豆諸島北部型) 2010.9.5
大腮を除く体長がほぼ同じで歯型が異なる個体の比較。伊豆大島産は大型化する傾向があり中歯型でも一回り大きい個体が見られる。また、両者は頭部+前胸と後胸+腹部のバランスが異なり、大島産は後胸+腹部の長さが若干長い。両者の足の長さの差異はややはっきりしないが伊豆大島産は若干長い。このように1つの基準を定めてもその他の条件が変わってくるため足の長さを特徴とするのは非常に難しい。個人的な考えでは、足の長さを比較する場合、同じ歯型、同じ体型の個体を選び、縮小拡大して大きさをそろえて足の長さを比較するのが正しい方法ではないかと思う。足の長さの比較はノコギリクワガタのように雄の中で著しい多型の見られる昆虫(多型とは本来別の性の個体にも用いる用語のようだが)では条件をそろえるのが極めて難しい。これも個人的な考えだが、屋久島産のノコギリは付節が長いとはっきり言えるのではないかと思っている。
大腮を除く体長がほぼ同じで歯型が異なる個体の比較。伊豆大島産は大型化する傾向があり中歯型でも一回り大きい個体が見られる。また、両者は頭部+前胸と後胸+腹部のバランスが異なり、大島産は後胸+腹部の長さが若干長い。両者の足の長さの差異はややはっきりしないが伊豆大島産は若干長い。このように1つの基準を定めてもその他の条件が変わってくるため足の長さを特徴とするのは非常に難しい。個人的な考えでは、足の長さを比較する場合、同じ歯型、同じ体型の個体を選び、縮小拡大して大きさをそろえて足の長さを比較するのが正しい方法ではないかと思う。足の長さの比較はノコギリクワガタのように雄の中で著しい多型の見られる昆虫(多型とは本来別の性の個体にも用いる用語のようだが)では条件をそろえるのが極めて難しい。これも個人的な考えだが、屋久島産のノコギリは付節が長いとはっきり言えるのではないかと思っている。
左 ノコギリクワガタ(P.i.inclinatus) 京都府木津川市産 2010.7.中〜下旬 ノコギリクワガタ伊豆諸島北部型(P.i.inclinatus)2010.9.5
ノコギリクワガタの足の長さのを分類の基準にする場合はあまりに多くのファクターを考慮しなければならない。体長が同じでも歯型が異なる場合もあり、同じ歯型で同じ体長でも大腮の長さや湾曲によって大腮を除く体長が変わってくる。大腮を除いた体長が同じでも歯型によって頭、前胸、後胸腹部のバランスが異なり、特に伊豆諸島の場合は後胸腹部が比較的長いため原名亜種との比較は条件をそろえるのが非常に困難である。今日の昆虫166参照。(神津島産のミヤケノコギリは後胸+腹部が大腮を除く体長の中で比較的大きいので付節が長いのは当然であり比較の意味がない)また、体長や足の長さを分類の基準とする場合は十分なサンプルを用意し、少なくとも統計的資料を添えるべきであろう。記載に当たり足の長さの違いを割愛したのはこうした経緯があった。画像は原名亜種と大島産のノコギリで大腮を除く体長がほぼ等しく歯型が同じで頭部+前胸と後胸+腹部の長さもほぼ等しい個体である。両者の足を比較すると大島産は前足全体が長く、中足及び後足の付節が長い。しかし、これは60mm前後の個体における違いであって大型個体ではこの違いが不明瞭になる。
ノコギリクワガタの足の長さのを分類の基準にする場合はあまりに多くのファクターを考慮しなければならない。体長が同じでも歯型が異なる場合もあり、同じ歯型で同じ体長でも大腮の長さや湾曲によって大腮を除く体長が変わってくる。大腮を除いた体長が同じでも歯型によって頭、前胸、後胸腹部のバランスが異なり、特に伊豆諸島の場合は後胸腹部が比較的長いため原名亜種との比較は条件をそろえるのが非常に困難である。今日の昆虫166参照。(神津島産のミヤケノコギリは後胸+腹部が大腮を除く体長の中で比較的大きいので付節が長いのは当然であり比較の意味がない)また、体長や足の長さを分類の基準とする場合は十分なサンプルを用意し、少なくとも統計的資料を添えるべきであろう。記載に当たり足の長さの違いを割愛したのはこうした経緯があった。画像は原名亜種と大島産のノコギリで大腮を除く体長がほぼ等しく歯型が同じで頭部+前胸と後胸+腹部の長さもほぼ等しい個体である。両者の足を比較すると大島産は前足全体が長く、中足及び後足の付節が長い。しかし、これは60mm前後の個体における違いであって大型個体ではこの違いが不明瞭になる。
2010年10月23日
ヤンソニーテナガコガネCheirotonus jansoni65mm 雲南省昆明
初めて手に入れた産地。違いはないと思うがクワガタと並んで好きな昆虫であるため買ってしまった。残念ながら♀付節欠け。テナガの特徴はメスであってもやはり前足なので痛い!!安く買えるがこれがネットオークションのリスクである。それにしてもやはりテナガは綺麗でかっこいい。
話は前回の記事に戻るが、先生からのおみやげのロシアの昆虫に関する本を読んでい見ると驚くべきことが書かれていた。Пауки линяют несколько раз за лето, ...многие насекомые не линяют вообще, поскольку живут недолго.と書かれていた。クモは夏に何回か脱皮する・・・多くの昆虫はほとんど脱皮しない。なぜなら寿命が長くないから。と書かれている。脱皮しない昆虫???
2010年10月17日
ロシア語の先生からのおみやげ
このブログに書くのは趣旨に反するが最近の虫ブームの斜陽とも言える状況でロシアの虫事情に触れてみたくなった。ロシアに帰国した先生が気を利かせて虫についてのロシア語の本を探してきてくれた。なんでも相当苦労したらしい。ご存じの通り、ミヤマクワガタやノコギリ、コクワガタ、スジクワガタ、キンオニなど主な国産クワガタのみならずセンチコガネやオオセンチコガネ、ゲンジボタルやヘイケボタルなど、日本の主な昆虫はロシア人のMotschulskyが記載者である。しかし、2度の戦争やペレストロイカを介して事情は変わったようだ。歴史については詳しくないので先生の受け売りで書いている。最近のロシアでは自然科学に目を向ける人は少ないようで当然虫の本など需要はなくほとんど無いようだ。そもそも日本は特別な文化なのだろう。アメリカでもおたくはうけても虫がブームになることはないようだし、なぜ日本人は虫を好むのだろうか。一時的と思われたブームもかなり続きやっと不況と重なったためか秋の気配を感じてきた。虫の値段はブームの以前の方がむしろ高かったのでこれからは需要と供給の関係から高利少買にもどってしまうのもまた困ったものである。話は戻るが実はミヤケノコギリの記載文はもとはロシア語で書いたのだがむし社から英文に書き直すように指導を受けた。
2010年10月15日
ミヤケノコギリクワガタ(P.i.miyakejimaensis)
ノコギリクワガタ伊豆諸島南部亜種として記載した際、元原稿を大幅にカットした。記載文は原名亜種との違いのみをできるだけ簡略に説明するものであり、一般の論文とは形式が異なる。英文についてはさらにbe動詞を使用しないことになっている。その結果”たいしたことが書いてない”といった批判の元になってしまった。ちなみに写真の数、パラタイプの数も制限された。パラタイプの指定は個人の所有としては多すぎるという指摘を受け半分に減らすように指導された。おそらく、販売目的という誤解を受けたのだろう。今回は報告文として写真の数から原稿の内容までまったく制約を受けず自由に書くことができ、心の中のもやもやした気持ちをかなりすっきりさせることができた。また、こんなことを書くと”自己満足”だと言われかねないが・・。東海メディア様のご厚意でタイトルに"決定版”というふれこみを付けていただいたが私としてはまだまだノコギリもこれからだと考えている。まだまだ、いろいろな地域のたくさんの個体を見て継続して情報収集をしていく必要性を感じている。今回の記事ではノコギリクワガタ伊豆諸島南部亜種の和名提唱以外に、伊豆半島の原名亜種と伊豆諸島産ノコギリに連続性がないことの根拠、利島産、新島産、神津島産のイズミヤマ(L.m.adachii)の比較的大型個体も紹介できた。おまけに、今年採集のミヤケノコギリ(三宅島産)の最大個体60mmを表紙に使っていただいた。感謝感激である。ミヤケノコギリの赤味のある個体は深いワインレッドでとても美しい。