2014年03月11日

産学連携、シーズとニーズのマッチングからオープン・イノベーションへ

政策研究大学院大学で行われる知的財産マネジメント研究会(Smips)

に参加します。

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ライセンス・アソシエイツ分科会では、「産学連携、最近思うこと」というテーマで、東大TLOの山本貴史社長からお話があります。


産学連携についての最近の動きを振り返ると、

オープン・イノベーション時代における産学連携


これまでの産学連携は

・企業が広範囲な研究を行う中央研究所を廃止し、自社製品に特化した研究開発を行うようになった

・社会の変化が急激で一社単独では研究開発のカバーが難しくなった

などの事情を背景に、大学の研究シーズと企業の商品ニーズをマッチングさせる、のが基本でした。

大学の研究シーズは、利用されぬまま、埋もれているものが多く、一方、企業側のニーズは比較的明確で、

産学連携とは研究成果を実用化するための「手段」でした


ところが、ここ数年で産学連携の様相が変わってきました

「製品をデザインするのはとても難しい。多くの場合、人は形にして見せてもらうまで,自分は何が欲しいのかわからないものだ」

というスティーブ・ジョブスの言葉が示す通り、消費者自身が自らのニーズがよくわからない時代であり、企業もニーズが何なのか、よくわからなくなっています

イノベーションを起こしたくても、思考回路が凝り固まった自社企業内では、従来の発想領域を超えようがありません

オープン・イノベーションの時代においては、産学連携は単なる「研究成果を実用化するための手段」ではなく、

ニーズ探索、発想のオープン化も含めて、もっと幅広いものになってきました


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アメリカの産学連携と大学教育


アメリカの産学連携と大学教育」と言うと、スタンフォード大学とシリコンバレーのモデルがあげられ、日本にも導入したい、と考える人が多いのですが、その社会的背景を知っていた方がよさそうです。

アメリカの産学連携は、古くは軍事産業など歴史がありますが、本格化したのは、1980年にバイドール法が成立し、国の資金による研究であっても、大学が特許を取得できる、資産化できるようになってからです。

それ以前は大企業には中央研究所があり、中には、本業とは関係のない分野で、ノーベル賞級の研究をしていました。

これについては、渦中にいる時は、わからない歴史の重要性

に書いたのですが、


1980年代に、大企業で中央研究所が様々な研究を行っていました。

その象徴的なものが、アメリカのAT&Tのベル研究所でしょうか?

直接、本来の通信業務とは関係ない分野で、ノーベル賞クラスの研究成果がいくつも出ていました。

ところが、その後、株主に対して、予算の執行とそれに対する成果の明示、説明が求められるようになり、このような「おおらかな研究環境」は姿を消します。

そして、技術開発の中心が、大企業の中央研究所から、シリコンバレーのベンチャーへと移っていきます。

この波は、日本へも伝わり、日本企業も中央研究所では基礎研究を自ら行うのではなく、大学との委託研究に切り替えていきます。

これが、「中央研究所の終焉」でしょうか?


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この「中央研究所の終焉」の際に、多くの企業研究者が大学に移って研究活動を続ける、という、人材の流動がありました。

この人材の移動が「イノベーション・エコシステム」を形成することになりました。

これについては、

企業家精神(アントレプレナーシップ)を発揮するにはイノベーション・エコシステムが大切




企業家精神(アントレプレナーシップ)を発揮するには、大企業、大学、ベンチャー企業、弁護士、弁理士などの専門家集団などのイノベーション・エコシステムにより、技術、知財、人材、資金が動くことが大切です

大企業、大学、ベンチャー企業、弁護士、弁理士などの専門家集団などのイノベーション・エコシステムは、ポジティブな関係だけではなく、

・大企業をレイオフされた人々が、新しい産業を創る

・大企業をスピンアウトしたベンチャー企業を、数年後にその大企業がM&Aで吸収

のように、かなりドロドロしたものも含みます。これらを含めたエコシステムの中で企業家精神(アントレプレナーシップ)は活かされる、ようです


「米国におけるクリーンテックベンチャーの動向と今後の課題」に参加しました




ベンチャーが活躍する分野としては、クリーンテック、ライフサイエンス、ITが主流ですが、それぞれで全く様相が異なること、

アメリカでもベンチャーを育てる生態系があるのは、シリコンバレー(スタンフォード)、ボストン(MIT)、ニューヨーク。投資家、ベンチャー経験者、(レイオフされた有能な)技術者、弁護士がいて、世界中から人材が集まる



オープンイノベーションとアントレプレナーシップ(企業家精神)




オープンイノベーションとアントレプレナーシップ(企業家精神)を取り巻く環境について、簡単にまとめてみました

オープンイノベーションとアントレプレナーシップ(企業家精神)については、企業体質、個人の資質として、議論されることが多いのですが、

むしろ、ここに書いたように、

・グローバル競争の激化、株主への説明責任の増大に伴う、大企業の中央研究所の終焉

・大企業の基礎研究からの撤退に伴う、産学連携、ベンチャー企業への移行

・単独企業内でのイノベーションから、産業クラスターでのオープンイノベーション

という時代、社会の大きな流れの中で考えた方がよさそうです





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前置きが長くなりましたが、出たお話をまとめます。

・産学連携、大学により、ポリシーが大きく異なり、広がる大学間格差

・大学技術のライセンス、マーケティング・モデルの欠如

・大学の産学連携、知財本部とTLO、URAなど、内部で縄張り争いで、うまく機能していない

・大学の産学連携、多くの担当職員が任期付きで、人材育成の弱さが露呈

・大学の産学連携、数値が一部しか公開されないため、評価が不明確

・ある企業との共同研究成果をもとにした大学発ベンチャー、ライバル会社には持ち込めない。

・研究費獲得の実績づくりに、何でもかんでも、やみくもに、特許出願する研究者もいる。

・産学連携は、あくまでも手段であり、目的化してはいけない。

・日本の中だけでの閉じた議論は意味をなさない。グローバル・アイでの議論を。

・日本企業はNIH(ノット・インベント・ヒア)自社開発主義が強すぎる。世界的には、技術の知財ごと買収が一般的に。

・日本のビジネス、日本国内でのビジネスの前提で行うので、世界に広がらない。

・クオリティーの高いものを出そうとすると、ハードルが高くて、なかなか出ない。

・ビジネス・コンテスト・プランにFacebookを出しても、入賞しないだろう。

・新規事業、ダメなところを挙げたら、ポシャってしまう。




stake2id at 19:49│Comments(0)TrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加

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