2019年03月20日

学問が技術を進化させるとともに、技術が学問を進化させる

退官される先生方の最終講義の季節は、毎日、美味しく、貴重な知識、知恵の豪華ディナーを食べているようなぜいたくな気分です。

食べるだけでなく、得た栄養をしっかり使いたいです。

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今日は、

システム創成学専攻粟飯原周二 教授最終講義「破壊力学の研究動向と将来展望」


に参加します。

粟飯原先生は博士課程修了後、大学に残られたのではなく、長らく新日鉄に勤務しておられました。

学生時代に機械工学材料力学を専攻していた「TAK」さんは学会の研究会で何度か、お世話になりました。

そして13年ほど前に東大に移られました。

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今の時代、専門は一つではなく、いくつか持ち、また、移っていきます。

「TAK」さんの場合、材料力学、耐震工学、エネルギー工学、技術経営、と移ってきました。

一度、専攻した分野は、それなりに専門であった自負もあり、十分な知識がある、と思っています。

ところが、それが「落とし穴」技術の進歩が速い現代では、昔の知識は、あっという間に陳腐化します。

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工学の基本、材料力学の進化、鋼構造から軽量材料へ


機械工学では、科学をモノづくりに活用する基本として、材料力学、流体力学、機械力学、熱力学を学びます。

工学の自然科学化から社会科学化、そして人間科学へ


建築物、船などは、昔からありましたが、その設計、建造に、科学的知見が取り入れられるようになったのは、日本では明治以降、世界でもニュートン、ベルヌーイ、ライプニッツらの自然科学的知見が出てくる近代になってからで、それまでは大工、職人の経験、勘によるものでした。

産業革命以降、蒸気機関による鉄道、船、飛行機あるいは鉄、コンクリートによる建築物ができると、飛行機の空気による揚力、抵抗、船と波の相互作用、建築物の耐震、耐風など、これまでは考える必要のなかった、新しい自然と人工物の関係が生まれてきました。

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この、新しい自然と人工物の関係は、理学ではなく、主として、これら鉄道、船、飛行機、建築物、をつくった工学が担当することとなりました。

そこで、流体力学、材料力学などの学問が生まれました。

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鉄道、船、飛行機、建築物をつくる、工、技術に対して、新しい自然と人工物の関係の評価は、工、技術よりも、むしろ観察に近い自然科学的手法が取られます。

これは、自然科学の知見を取り入れて、モノ、技術を創りだす、という方向から、創り出したモノ、技術を自然科学的手法で評価する、という、一種のパラダイムシフトを生むことになります。

この自然科学から技術へ、技術を自然科学で評価、という両方向を使いつつ、技術は進歩していくことになります。


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理工系、理学と工学の間をさまよい、揺れ動く


「自然科学の知見を取り入れて、モノ、技術を創りだす、という方向から、創り出したモノ、技術を自然科学的手法で評価する、という、一種のパラダイムシフト」は大変興味深いもので、これがあるからこそ、工学研究者は新しい真理を自ら見つけつつ、技術を進歩させていくのかもしれません。


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理工系、理学と工学の間をさまよい、揺れ動く


「理工系、と一口で言うけれど、理学と工学では、研究に対する考え方、姿勢、ビジョン、哲学が随分異なる。

真理を探究する理学と、その探求した真理を社会に適用する工学。

宝探しをする理学と、見つけた宝を社会に役立つように磨く工学。

理学、工学に特化した研究者もいる一方、両者の間を彷徨い、揺れ動く研究者も多い」

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文系と理系、目的論とメカニズム、融合ではなく、両方必要?


工学部、理学部では、自然現象、あるいは、それらを模した実験を観察します。

そして、その観察から導き出されるファクト、メカニズムを得ようとします。

理学では、自然の真理を探究することが主目的ですが、工学では、その導き出されたファクト、メカニズム、を活用して、よりよい社会つくりをしていくことになります。



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「鉄道、船、飛行機、建築物をつくる、工、技術」において材料力学が基本となる訳ですが、材料としては軟鋼を主体に、材料力学は記述され、学ばれていました。

鉄道、船、飛行機、建築物の材料の基本は、軟鋼であり、それをベースに、弾塑性解析、応力、ひずみの計測、解析が行われていました。

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ところが、燃料コスト削減などの社会的要請から、飛行機、自動車などの軽量化が進み、これらの材料が軟鋼から、高強度の軽量鋼、高強度プラスチック、グラファイト、チタンなどの複合材料に代わってきました。

軟鋼は「軟らかく」て、変位を大きく取って、荷重を吸収してきましたが、高強度の軽量鋼では、小さな変位しか許容できません。

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軟鋼と高強度の軽量鋼、高強度プラスチックでは、弾塑性解析の基本となる、応力とひずみの特性などが大きく異なります。

年配のエンジニアが昔の教科書を取り出してきても、時代遅れだったりします。


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材料の強度についての学問が材料力学ですが、材料にき裂が入った場合には、材料力学の中の専門分野の破壊力学が使われます。

材料力学では、断面に荷重が均等に負荷されるのが原則ですが、き裂が入った材料では、負荷は均等ではなく、き裂先端に応力が集中し、き裂が進展していきます。

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こういった現象を説明するのに、応力拡大係数Kという係数が導入されましたが、(応力)×(長さ)1/2という、説明しづらい次元です。

破壊力学はアメリカ海軍研究試験所のIrwinがタンカー、スケネクタディー号の事故より1950年代に導入した学問体系ですが、

上記のように、(応力)×(長さ)1/2という、説明しづらい次元がある、経験則に基づくところもあり、材料が軟鋼が主体の時には、有効性を発揮しましたが、1980年代後半に、軟鋼以外の材料が、船舶以外に海洋構造物など、それまでと異なる環境で使用されると、必ずしも成立しない事例が見られるようになります。

これが線形破壊力学の破たんです。

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学問体系の破たんは珍しいことではなく、

一般相対性理論は、量子力学の世界では、成り立ちませんでしたが、朝永振一郎先生の繰り込み理論により、成立するようになりました。

また、梶田先生のニュートリノ振動、ニュートリノにも、わずかながら質量がある、という発見は、素粒子標準理論の破たんを示すものです。

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そもそも材料力学はマクロの学問であり、結晶、分子構造のミクロ構造から導かれる力学とは、整合しないことが指摘されていました。

破たんしたので、おしまい、ではなく、ミクロとマクロの融合が試みられ、材料力学、破壊力学は新たな進化を遂げていきます。

一般に学問の進化が技術を進化させる、と考えられますが、このように、技術の進歩が学問の進化をもたらし、共に進化していく事例もたくさんあります。

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人工知能、ロボットなどの最先端工学だけでなく、材料力学のような基本工学も、決して不変ではなく、従来の学問体系では対応できず、技術に進歩に応じて進化していることを感じました。

また粟飯原周二先生のように、企業の最前線と学問体系を併せ持つと本当に強いことも感じました。








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