お久しぶりです。ほしぞらです。
このエントリは、「ごちうさ Advent Calendar 2020」への寄稿記事となります。
最初に参加してからこれで3年連続となります。これからも出来るだけ参加していきたいですね。
さて、2期から5年の時を経て、今年は『ご注文はうさぎですか?BLOOM』がついに放送されるという記念すべき年ですが、原作サイドでも記念すべき出来事がありました。
「ご注文はうさぎですか?」画集 Café de Soleil/Café de Etoile の発売ですね。
第1弾"Café de Lapin"が発売されたのが2014年6月のことですから、実に約6年半ぶりの画集となりました。
この間、原作・アニメ・楽曲の各領域において、数えきれないくらいのイラストが生み出されてきました。
収録されたイラストの数はSoleil 116点、Etoile121点と、正確に数えられているのか不安になる程のイラストが収録されています。
ちなみに画集第1弾"Café de Lapin"のイラスト収録数は84点なので、時間に対する作品数の密度の高まりが感じられます。
そんな誰もが待ち望んでいた画集に収録されているイラストのうち、私が気に入っているもの、
Koi先生の技巧が光るものをピックアップして紹介したいと思います。
***余談***
なんでこんな文章を書きたくなったのかというと、最近になってこんな本を読んだからです。
実際の名画を例に挙げながら、絵画を「ちゃんと見る」とはどういうことなのか、この名画が何故名画と評されているのかを丁寧に解説されていて、オタク抜きに普通に教養として役に立つような1冊でした。
かれこれ1年くらい前に書店の店頭で見かけて購入していたのですが、忙しくて中々最後まで読めず、最近になってようやく読み直すことが出来ました。
技術だけでなく美術史についても随所に解説されているので、しっかり読んだ上で美術館とか行くとめっちゃ楽しいと思います。実際行きたくなりました。そのためにもう少しじっくり読みたいと思います。
とはいえ絵画とイラストは性質が全く異なるので、この本で読んだことがそのまま活かせるかと言えば正直NOだと思います。
「そういう要素」を意識して見るようにはなったと思いますし、その点においては有用に感じました。
********
〇半楕円の構図
おそらく最も採用されているのがこの構図。名前はさっき付けました。
以下の図のように、イラストの輪郭(実線)に対して、3点で内接する楕円を2つ(破線)を考えます。楕円の長い方の直径(なんて言うんですか?)は長方形の縦の辺の2倍の長さになっています。
イラストの中心エリアを強調している構図です。
とだけ言われても意味不明だと思うので、早速分かりやすいものを何点か見ていきましょう。
【注意】
この先、イラストをモノクロ化したり補助線を引いたりします。補助線は、認識に対して強い影響をもたらします。
ご自身の宗教上の理由でそういったものを受け付けない方や、認識に対する影響を懸念する方はこの先を閲覧しないことを推奨します。
・まんがタイムきららMAX 2017年4月号 扉絵 (Soleil p.62)
ほぼ対称の構図。非常に収まりが良いように見えます。
上に凸のライン(以下、上のライン)はココアとシャロの肘、手首あたりに沿っています。また、下のラインはフルール制服のベストとスカートの色の切り替わる点と、背景のリボン、額縁を結んでいます。
ここで注目なのは、上下のラインの交点です。
ココア側にはコーヒーカップ、シャロ側にはティーカップが描かれています。
このように、上下のラインの交点には対になるモチーフが置かれたりすることがあります。
このイラストでは、四隅を含むエリアは、ほぼ完全に左右対称になっています。
では次も見てみましょう。
・まんがタイムきららMAX 2017年6月号 扉絵 (Soleil p.65)
まるでカメラのフレームに収まりに行くかのように、千夜とシャロが中央のチノの方にギュッと寄っています。そして、チノの頭上には、身長を補うかのようにティッピーが乗っています。
下のラインは、ラビットハウス制服の模様に沿っており、角砂糖などの小物がこのラインに沿って配置されています。左側の交点にはコーヒーカップが置かれていますが、反対側は千夜の大きく広げた左手が描かれバランスを取っています。
上のラインの外側はシンプルなパターンで装飾されていますが、あくまでラインの周辺を縁取るように配置されているのみで、スペースを全て埋めようとはしていません。
では次も見てみましょう。みんな大好きあのイラストです。
・まんがタイムきららMAX 2017年7月号 扉絵 (Soleil p.66)
これまた対称の構図で、ラインを見なくともバランスの取れた配置であることは一目で分かります。
リゼとココア以外の5人が、中央のチノの手が指すラインに沿って並んでいます。
逆にリゼとココアは、手を取り合うなど他の5人とは少しだけ独立しており、わずかに強調されています。私見ですが、ココアとリゼが残りの制服を完成させたという物語上の意味に由来するものなのではないかと思います。
ここまで、対称な構図となっているイラストを見てきましたが、この半楕円の構図は、非対称な場合にも使用されています。
次からはその例を見てみます。
・まんがタイムきららMAX 2019年9月号 扉絵 (Etoile p.44)
上下のラインのうち、左上と右下の隅を囲うラインを無視し、画面を大きく使ってイラストの主役である千夜を大きく描いています。こうした方が、そのまま縦に配置するよりも画面を広く使えます。
一方、右上、左下のエリアについては、背景として花が描かれており、フレームのような役割をしています。
このように、フレームのガイドラインとして半楕円の構図が使用されることがあります。
・まんがタイムきららMAX 2019年6月号 扉絵 (Etoile p.40)
一見すると半楕円とは無縁そうな構図ですが、上下のラインに挟まれた中央エリアにココアがぴったり収まっています。
左側の交点には、指を丸めたココアの手が配置されており、いつも手のひらを大きく広げている印象のあるココアの、アンニュイな一面が強調されているように思えます。
そうすると、反対側の右交点にも何か配置されていそうですが…………………大人の魅力が表現されていました。四隅については、これまで見てきたように情報量を抑えてあります。
逆に、四隅についても情報を入れている例もあります。
・まんがタイムきららMAX 2019年2月号 扉絵 (Etoile p.36)
最近は少し珍しくなったフレーム付きの扉絵ですが、おかげでかなり情報量が増えたように感じられます。
上側の隅には、ラビットハウスと甘兎庵のロゴマークが、キャラの頭部とほぼ同等の大きさで入っており、空白を埋めています。上下のラインの交点は、それぞれチノと千夜のお盆を持つ手に集まっており、このイラストのバランスを保つ要として機能しているように思えます。
このイラストの面白い点は、中央エリアのバランスが成り立っているのかいないのか、絶妙な位置関係にある点だと思います。身長差はあるし、チノの左手は千夜の前にはみ出しているし、身体は傾いてるし……。これできちんとバランスしているのかハラハラしてしまいますが、大きい2つのロゴマークと交点に配置されたお盆を持つ手が左右からギュッと画面を引き締めることによって、この絶妙なバランスを成立させているように思います。
ここまで半楕円の構図を持つイラストを何枚か紹介してきましたが、どうしてこのような構図が多くなるのでしょうか。個人的には、「扉絵」というものの持つ性質がそうさせるのではないかと思っています。すなわち、①縦横比は固定で横長であるという点と、②タイトルロゴと作者名を入れる必要があるという点です。
勝手な想像ですが、2つ目の要因の方が半楕円の構図が多いということに対して割と強く影響しているのではないかと思っています。基本的に四隅のいずれか2つに振り分けるような形になっているほか、タイトルロゴが中央エリアにせり出してくる場合でも、その位置については相当慎重に検討されており、ロゴの色にグラデーションをつけるなどによって半楕円のラインの邪魔をしないようにしている場合もあります。
半楕円の構図のまとめとして、この構図の中で私が最も気に入っているイラストを紹介したいと思います。
・まんがタイムきららMAX 2019年11月号 扉絵 (Etoile p.57)
下のラインの外側には色とりどりの風船が散りばめられており、フレームの役割を果たしています。
交点付近には風船に結ばれた手紙と、風船で作られたうさぎでバランスを取っています。
また、ココアとチノの2人を角度をつけて描いていますが、傾けることによってチノを少し高い位置に描くことを可能にしており、頭の高さが水平に揃えられています。
そして、このイラストにおいて何よりも言及したいのは、交点を始点とした視線の誘導です。
右サイド、風船うさぎからココアの腕を辿っていった先、そして左サイド、手紙から風船の糸、チノの小指と辿っていった先に描かれた、ぎゅっと結ばれた手と手。ここがこのイラストの一番の見所だと感じました。
実はこの繋がれた手、画面の対角線の交点、すなわちちょうど図形的な中心点に位置しています。
非水平でありながら、中央に強力な注目点を持ってくることで、抜群の安定感を実現しています。
あと個人的に気に入っているポイントとしては、さりげなく立てられているチノの小指です。
視線誘導として機能していることを踏まえると、この小指とチノの表情から、まるで「見てくださいよこの手と手を」と言わんばかりのポーズに見えてきます。愛おしいですね。
さて、まとめたところですが、もう少しだけ見ていきましょう。
そろそろ「こいつコレばっかりだな...」と思われてそうですが、もう少しだけお付き合いください。
半楕円の構図の収まりの良さを逆に利用してそこに意味を持たせている例です。
・まんがタイムきららMAX 2016年2月号 扉絵 (Soleil p.15)
・まんがタイムきららMAX 2017年12月号 扉絵 (Etoile p.26)
さて、ここまで読んで下さった方であればもはや敢えて補助線を引かずともそのラインが見えていることと存じますが、この2枚のイラストの共通点は一体何でしょうか。
ココアとチノのみのイラストであることを除く!と言いたいところですが、それも少し関係してはいます。
この2枚の共通点は、「チノの頭の上にティッピーがおらず、半楕円の構図の上のラインに対してそのまま空白となっている」という点です。
こうすることで、身長差が強調され、より「姉妹感」が出るのではないでしょうか。
ティッピーによって身長を補って半楕円の中にフィットさせるという例はありましたが、上記の2枚はそれを敢えて行わないことで、ココアとチノの姉妹感を出す演出に利用しています。特に2枚目なんかはその気になれば頭の水平位置を揃えることも出来たでしょうから、一層それを意図的に行っているのではないかという気になってしまいます。
それを踏まえて次のイラストを見てみると、また違った印象を受けるかも知れません。
・まんがタイムきららMAX 2020年12月号 扉絵 (未収録)
長くなりましたが半楕円の構図はこのくらいにして、次に行きたいと思います。
〇三角形の構図
半楕円の構図は横長の長方形という扉絵特有の縛りがある中で多用されている構図でした。
では、その物理的な縛りが無い場合にはどのような構図が出現するのでしょうか。
というわけで次のイラストをご紹介したいと思います。
・まんがタイムきららMAX 2014年9月号 表紙 (Soleil p.14)
画質がアレなのと、カラーの元画像を載せていないのは、このイラストの初出が表紙絵で、ロゴ無しで足まで入っているものがなかなか見つけられなかったからです。最終的にはCOMIC ZINの芳文社フェアの特典ポストカードの画像から拾ってきました。画質がアレなので、適宜お手元の画集を見てください。
元の表紙絵で見るとあまりそのイメージはないのですが、こうして全体を見ると、逆三角形を反復させたような構図になっていることに気がつくと思います。
三角形の構図によくあるのですが、三角形は反復することが多いのではないかと思います。
小さい三角形と、それと相似形となるような三角形が繰り返し登場します。
実際次のイラストはそれが分かり易いのではないかと思います。
・キャラクターソングアルバム『chimame march』描き下ろしジャケット (Etoile p.73)
(こちらも全体入っているものがなかなか無かったので画質が終了しています。)
こちらは元々CDジャケットというほぼ正方形の媒体に描かれたもので、ジャケットでは、帽子が作る逆三角形、3人の顔が作る逆三角形、マヤメグの膝を結ぶ線を底辺とする三角形が主に描かれていました。
全身絵verになると、ここにあんことワイルドギースの持つフラッグが作る三角形が加わります。
チノの膝を加えて、CDジャケットとして見ていた時よりもより大きな逆三角形が出現します。
そして、これらの三角形に上下から挟まれて強調されている最も小さな逆三角形が......
さて、次にいきましょう。
〇視線の誘導
・単行本第8巻 キャラ紹介ページ (Etoile p.28~29)
8巻のキャラ紹介絵です。
赤い点線で示しているように、各キャラクターは大きく3列に並んでいると捉えることが出来ます。地味にノワールも列に加わっているのが面白いですね。
そして、その3列の間を行き来しやすいように、青く示した平行線が画面を横切っています。
右下の線は、ロイヤルキャッツの鍵、ノワールの尻尾、メグの左手を結んでいます。中央の線は、シャロの肩、ココアとチノの手、チノの目線、マヤの肩、写真のフレームとを結んでいます。そして左上の線は千夜のカバンの紐、ココアの右腕とを結んでいます。
描かれたものの角度が疑似的に補助線の役割を果たすことによって、イラストをブロックに分けながら、その間を行き来しやすくしています。
・まんがタイムきららMAX 2018年10月号 扉絵 (Etoile p.32~33)
今回発売された2冊の画集で唯一「見開きで掲載された扉絵」です。
このイラストの特徴はなんといっても、キャラのサイズの幅が極端に大きく描かれていることです。
各キャラの大きさが異なる中で、特に大きく描かれているのがココアとチノです。
このココアとチノを入口として、画面全体を巡ることが出来るような工夫が凝らしてあります。(矢印参照)
誘導にのって画面の中を周回することで、小さく描かれたキャラもちゃんと見つけることが出来ます。
また、これも扉絵としては珍しいのですが、マヤの位置がかなり特殊です。
これまで見てきたように、四隅のエリアにキャラが配置されることは稀なのですが、今回はマヤがそのポジションに陣取っています。
視線の誘導を行っている例をもう1つ見てみましょう。
・劇場版アニメ ~Dear My Sister~ キービジュアル第2弾 (Etoile p.62)
DMSのキービジュアル第2弾です。(また文字無し画像が見つからなかった...)
左上に大きく描かれたモカからスタートして、">"の形に流れていくというのは比較的分かり易いかと思います。
面白いのは、イラストを追う視線の流れと、イラスト内の時間の流れが一致しているという点です。
また、ココアの故郷から木組みの街へと帰ってくる、本編の展開も踏まえたものとなっています。
そして、マヤの腕から再び画面の中央に戻ってきた時に、キーアイテムである魔法少女チノのステッキと、マジシャンココアのワイルドギースが中央に並んでいる、という構成が見えてくるという流れになっています。構図の中に意味を持たせていく技巧が光っている1枚だと思います。
映画の60分という長尺を一枚のイラストに凝縮している印象的なイラストです。
モカの視線の先や上下のブロックのつなぎ目で、ココアの故郷の明るい海景や木組みの街の綺麗なは花火といった美しい背景が自然に目に入ってくる点も工夫が凝らされています。
最後に、構図に意味を持たせているイラストの例として、次の2枚を挙げてみます。
・(左)TVアニメ2期 キービジュアル (Soleil p.86)
・(右)TVアニメ3期 キービジュアル (未収録)
イラストは、ご存知の通り、TVアニメ2期(左)と3期 "BLOOM" (右)のキービジュアルです。
BLOOMキービジュアルは今回の画集の収録対象範囲外だったようですが、この2枚は明らかに対比を意識しているなと思ったので並べて置いています。
2期キービジュアルは、ココアとチノ以外の全員の体が中央に向いていますが、BLOOMキービジュアルでは全員の体が外向きとなっています。
こうして見比べてみると、2期イラストが中央にぎゅっと寄り集まっている印象を受けるのに対し、3期イラストはまるで花が開くように、外に向かって広がっていくような動的な印象があります。
また、3期キービジュアルは、全員が体を外に向けているので、イラストの奥で背を向けているサキさんを含めて全体が円形となっています。
キービジュアルという自由であるように見えて縛りの多い中で、より意味を持たせようと工夫を凝らしているのが伝わってきます。
毎度のことながら、節目となる場面で過去イラストとの対比を打ち出してくるのはファン心にぶっ刺さってしまいますね。
ちなみに、両イラストとも、チノの身長をティッピーで補ってバランスを取る手法が使われています。
2期のほうは結構あからさまですが、3期のそれは非常にさりげなく行われています。集合イラストではおじいちゃん大活躍ですね...!
すっぽり収まっているティッピーの表情が何とも言えない味を醸し出しています。
どこにどう引いてもバランスが取れているように見えるためスゴい。
さて、ここまで多くのイラストを見てきましたが、当然ながら画集にはもっともっと多くのイラストが収録されており、ここで語っていないものについても気に入っているものが沢山あります(というか全てがお気に入りですが...)。
イラストを構造的に見ることについて、そういった理屈っぽいこと・「考察」めいたことをを考えながら見ることに意味はあるのかみたいな問いをたまに見かけます。最終的には個々人の考えだとは思いますが、自分は「イラストを見た時の感想がひとつ増えたらいいな」「考えた末に生み出されたものならば、その考えも少しでも汲み取れたらいいな」くらいの気持ちで見ています。
ここに書いたものについても(断定的口調で書いてしまっている部分もあったかも知れませんが、)わたし個人の感想に過ぎないわけなので、どうか気楽に捉えて貰えたらと思います。
それでは。
このエントリは、「ごちうさ Advent Calendar 2020」への寄稿記事となります。
最初に参加してからこれで3年連続となります。これからも出来るだけ参加していきたいですね。
さて、2期から5年の時を経て、今年は『ご注文はうさぎですか?BLOOM』がついに放送されるという記念すべき年ですが、原作サイドでも記念すべき出来事がありました。
「ご注文はうさぎですか?」画集 Café de Soleil/Café de Etoile の発売ですね。
第1弾"Café de Lapin"が発売されたのが2014年6月のことですから、実に約6年半ぶりの画集となりました。
この間、原作・アニメ・楽曲の各領域において、数えきれないくらいのイラストが生み出されてきました。
収録されたイラストの数はSoleil 116点、Etoile121点と、正確に数えられているのか不安になる程のイラストが収録されています。
ちなみに画集第1弾"Café de Lapin"のイラスト収録数は84点なので、時間に対する作品数の密度の高まりが感じられます。
そんな誰もが待ち望んでいた画集に収録されているイラストのうち、私が気に入っているもの、
Koi先生の技巧が光るものをピックアップして紹介したいと思います。
***余談***
なんでこんな文章を書きたくなったのかというと、最近になってこんな本を読んだからです。
実際の名画を例に挙げながら、絵画を「ちゃんと見る」とはどういうことなのか、この名画が何故名画と評されているのかを丁寧に解説されていて、オタク抜きに普通に教養として役に立つような1冊でした。
かれこれ1年くらい前に書店の店頭で見かけて購入していたのですが、忙しくて中々最後まで読めず、最近になってようやく読み直すことが出来ました。
技術だけでなく美術史についても随所に解説されているので、しっかり読んだ上で美術館とか行くとめっちゃ楽しいと思います。実際行きたくなりました。そのためにもう少しじっくり読みたいと思います。
とはいえ絵画とイラストは性質が全く異なるので、この本で読んだことがそのまま活かせるかと言えば正直NOだと思います。
「そういう要素」を意識して見るようにはなったと思いますし、その点においては有用に感じました。
********
〇半楕円の構図
おそらく最も採用されているのがこの構図。名前はさっき付けました。
以下の図のように、イラストの輪郭(実線)に対して、3点で内接する楕円を2つ(破線)を考えます。楕円の長い方の直径(なんて言うんですか?)は長方形の縦の辺の2倍の長さになっています。
イラストの中心エリアを強調している構図です。
とだけ言われても意味不明だと思うので、早速分かりやすいものを何点か見ていきましょう。
【注意】
この先、イラストをモノクロ化したり補助線を引いたりします。補助線は、認識に対して強い影響をもたらします。
ご自身の宗教上の理由でそういったものを受け付けない方や、認識に対する影響を懸念する方はこの先を閲覧しないことを推奨します。
・まんがタイムきららMAX 2017年4月号 扉絵 (Soleil p.62)
ほぼ対称の構図。非常に収まりが良いように見えます。
上に凸のライン(以下、上のライン)はココアとシャロの肘、手首あたりに沿っています。また、下のラインはフルール制服のベストとスカートの色の切り替わる点と、背景のリボン、額縁を結んでいます。
ここで注目なのは、上下のラインの交点です。
ココア側にはコーヒーカップ、シャロ側にはティーカップが描かれています。
このように、上下のラインの交点には対になるモチーフが置かれたりすることがあります。
このイラストでは、四隅を含むエリアは、ほぼ完全に左右対称になっています。
では次も見てみましょう。
・まんがタイムきららMAX 2017年6月号 扉絵 (Soleil p.65)
まるでカメラのフレームに収まりに行くかのように、千夜とシャロが中央のチノの方にギュッと寄っています。そして、チノの頭上には、身長を補うかのようにティッピーが乗っています。
下のラインは、ラビットハウス制服の模様に沿っており、角砂糖などの小物がこのラインに沿って配置されています。左側の交点にはコーヒーカップが置かれていますが、反対側は千夜の大きく広げた左手が描かれバランスを取っています。
上のラインの外側はシンプルなパターンで装飾されていますが、あくまでラインの周辺を縁取るように配置されているのみで、スペースを全て埋めようとはしていません。
では次も見てみましょう。みんな大好きあのイラストです。
・まんがタイムきららMAX 2017年7月号 扉絵 (Soleil p.66)
これまた対称の構図で、ラインを見なくともバランスの取れた配置であることは一目で分かります。
リゼとココア以外の5人が、中央のチノの手が指すラインに沿って並んでいます。
逆にリゼとココアは、手を取り合うなど他の5人とは少しだけ独立しており、わずかに強調されています。私見ですが、ココアとリゼが残りの制服を完成させたという物語上の意味に由来するものなのではないかと思います。
ここまで、対称な構図となっているイラストを見てきましたが、この半楕円の構図は、非対称な場合にも使用されています。
次からはその例を見てみます。
・まんがタイムきららMAX 2019年9月号 扉絵 (Etoile p.44)
上下のラインのうち、左上と右下の隅を囲うラインを無視し、画面を大きく使ってイラストの主役である千夜を大きく描いています。こうした方が、そのまま縦に配置するよりも画面を広く使えます。
一方、右上、左下のエリアについては、背景として花が描かれており、フレームのような役割をしています。
このように、フレームのガイドラインとして半楕円の構図が使用されることがあります。
・まんがタイムきららMAX 2019年6月号 扉絵 (Etoile p.40)
一見すると半楕円とは無縁そうな構図ですが、上下のラインに挟まれた中央エリアにココアがぴったり収まっています。
左側の交点には、指を丸めたココアの手が配置されており、いつも手のひらを大きく広げている印象のあるココアの、アンニュイな一面が強調されているように思えます。
そうすると、反対側の右交点にも何か配置されていそうですが…………………大人の魅力が表現されていました。四隅については、これまで見てきたように情報量を抑えてあります。
逆に、四隅についても情報を入れている例もあります。
・まんがタイムきららMAX 2019年2月号 扉絵 (Etoile p.36)
最近は少し珍しくなったフレーム付きの扉絵ですが、おかげでかなり情報量が増えたように感じられます。
上側の隅には、ラビットハウスと甘兎庵のロゴマークが、キャラの頭部とほぼ同等の大きさで入っており、空白を埋めています。上下のラインの交点は、それぞれチノと千夜のお盆を持つ手に集まっており、このイラストのバランスを保つ要として機能しているように思えます。
このイラストの面白い点は、中央エリアのバランスが成り立っているのかいないのか、絶妙な位置関係にある点だと思います。身長差はあるし、チノの左手は千夜の前にはみ出しているし、身体は傾いてるし……。これできちんとバランスしているのかハラハラしてしまいますが、大きい2つのロゴマークと交点に配置されたお盆を持つ手が左右からギュッと画面を引き締めることによって、この絶妙なバランスを成立させているように思います。
ここまで半楕円の構図を持つイラストを何枚か紹介してきましたが、どうしてこのような構図が多くなるのでしょうか。個人的には、「扉絵」というものの持つ性質がそうさせるのではないかと思っています。すなわち、①縦横比は固定で横長であるという点と、②タイトルロゴと作者名を入れる必要があるという点です。
勝手な想像ですが、2つ目の要因の方が半楕円の構図が多いということに対して割と強く影響しているのではないかと思っています。基本的に四隅のいずれか2つに振り分けるような形になっているほか、タイトルロゴが中央エリアにせり出してくる場合でも、その位置については相当慎重に検討されており、ロゴの色にグラデーションをつけるなどによって半楕円のラインの邪魔をしないようにしている場合もあります。
半楕円の構図のまとめとして、この構図の中で私が最も気に入っているイラストを紹介したいと思います。
・まんがタイムきららMAX 2019年11月号 扉絵 (Etoile p.57)
下のラインの外側には色とりどりの風船が散りばめられており、フレームの役割を果たしています。
交点付近には風船に結ばれた手紙と、風船で作られたうさぎでバランスを取っています。
また、ココアとチノの2人を角度をつけて描いていますが、傾けることによってチノを少し高い位置に描くことを可能にしており、頭の高さが水平に揃えられています。
そして、このイラストにおいて何よりも言及したいのは、交点を始点とした視線の誘導です。
右サイド、風船うさぎからココアの腕を辿っていった先、そして左サイド、手紙から風船の糸、チノの小指と辿っていった先に描かれた、ぎゅっと結ばれた手と手。ここがこのイラストの一番の見所だと感じました。
実はこの繋がれた手、画面の対角線の交点、すなわちちょうど図形的な中心点に位置しています。
非水平でありながら、中央に強力な注目点を持ってくることで、抜群の安定感を実現しています。
あと個人的に気に入っているポイントとしては、さりげなく立てられているチノの小指です。
視線誘導として機能していることを踏まえると、この小指とチノの表情から、まるで「見てくださいよこの手と手を」と言わんばかりのポーズに見えてきます。愛おしいですね。
さて、まとめたところですが、もう少しだけ見ていきましょう。
そろそろ「こいつコレばっかりだな...」と思われてそうですが、もう少しだけお付き合いください。
半楕円の構図の収まりの良さを逆に利用してそこに意味を持たせている例です。
・まんがタイムきららMAX 2016年2月号 扉絵 (Soleil p.15)
・まんがタイムきららMAX 2017年12月号 扉絵 (Etoile p.26)
さて、ここまで読んで下さった方であればもはや敢えて補助線を引かずともそのラインが見えていることと存じますが、この2枚のイラストの共通点は一体何でしょうか。
ココアとチノのみのイラストであることを除く!と言いたいところですが、それも少し関係してはいます。
この2枚の共通点は、「チノの頭の上にティッピーがおらず、半楕円の構図の上のラインに対してそのまま空白となっている」という点です。
こうすることで、身長差が強調され、より「姉妹感」が出るのではないでしょうか。
ティッピーによって身長を補って半楕円の中にフィットさせるという例はありましたが、上記の2枚はそれを敢えて行わないことで、ココアとチノの姉妹感を出す演出に利用しています。特に2枚目なんかはその気になれば頭の水平位置を揃えることも出来たでしょうから、一層それを意図的に行っているのではないかという気になってしまいます。
それを踏まえて次のイラストを見てみると、また違った印象を受けるかも知れません。
・まんがタイムきららMAX 2020年12月号 扉絵 (未収録)
長くなりましたが半楕円の構図はこのくらいにして、次に行きたいと思います。
〇三角形の構図
半楕円の構図は横長の長方形という扉絵特有の縛りがある中で多用されている構図でした。
では、その物理的な縛りが無い場合にはどのような構図が出現するのでしょうか。
というわけで次のイラストをご紹介したいと思います。
・まんがタイムきららMAX 2014年9月号 表紙 (Soleil p.14)
画質がアレなのと、カラーの元画像を載せていないのは、このイラストの初出が表紙絵で、ロゴ無しで足まで入っているものがなかなか見つけられなかったからです。最終的にはCOMIC ZINの芳文社フェアの特典ポストカードの画像から拾ってきました。画質がアレなので、適宜お手元の画集を見てください。
元の表紙絵で見るとあまりそのイメージはないのですが、こうして全体を見ると、逆三角形を反復させたような構図になっていることに気がつくと思います。
三角形の構図によくあるのですが、三角形は反復することが多いのではないかと思います。
小さい三角形と、それと相似形となるような三角形が繰り返し登場します。
実際次のイラストはそれが分かり易いのではないかと思います。
・キャラクターソングアルバム『chimame march』描き下ろしジャケット (Etoile p.73)
(こちらも全体入っているものがなかなか無かったので画質が終了しています。)
こちらは元々CDジャケットというほぼ正方形の媒体に描かれたもので、ジャケットでは、帽子が作る逆三角形、3人の顔が作る逆三角形、マヤメグの膝を結ぶ線を底辺とする三角形が主に描かれていました。
全身絵verになると、ここにあんことワイルドギースの持つフラッグが作る三角形が加わります。
チノの膝を加えて、CDジャケットとして見ていた時よりもより大きな逆三角形が出現します。
そして、これらの三角形に上下から挟まれて強調されている最も小さな逆三角形が......
さて、次にいきましょう。
〇視線の誘導
・単行本第8巻 キャラ紹介ページ (Etoile p.28~29)
8巻のキャラ紹介絵です。
赤い点線で示しているように、各キャラクターは大きく3列に並んでいると捉えることが出来ます。地味にノワールも列に加わっているのが面白いですね。
そして、その3列の間を行き来しやすいように、青く示した平行線が画面を横切っています。
右下の線は、ロイヤルキャッツの鍵、ノワールの尻尾、メグの左手を結んでいます。中央の線は、シャロの肩、ココアとチノの手、チノの目線、マヤの肩、写真のフレームとを結んでいます。そして左上の線は千夜のカバンの紐、ココアの右腕とを結んでいます。
描かれたものの角度が疑似的に補助線の役割を果たすことによって、イラストをブロックに分けながら、その間を行き来しやすくしています。
・まんがタイムきららMAX 2018年10月号 扉絵 (Etoile p.32~33)
今回発売された2冊の画集で唯一「見開きで掲載された扉絵」です。
このイラストの特徴はなんといっても、キャラのサイズの幅が極端に大きく描かれていることです。
各キャラの大きさが異なる中で、特に大きく描かれているのがココアとチノです。
このココアとチノを入口として、画面全体を巡ることが出来るような工夫が凝らしてあります。(矢印参照)
誘導にのって画面の中を周回することで、小さく描かれたキャラもちゃんと見つけることが出来ます。
また、これも扉絵としては珍しいのですが、マヤの位置がかなり特殊です。
これまで見てきたように、四隅のエリアにキャラが配置されることは稀なのですが、今回はマヤがそのポジションに陣取っています。
視線の誘導を行っている例をもう1つ見てみましょう。
・劇場版アニメ ~Dear My Sister~ キービジュアル第2弾 (Etoile p.62)
DMSのキービジュアル第2弾です。(また文字無し画像が見つからなかった...)
左上に大きく描かれたモカからスタートして、">"の形に流れていくというのは比較的分かり易いかと思います。
面白いのは、イラストを追う視線の流れと、イラスト内の時間の流れが一致しているという点です。
また、ココアの故郷から木組みの街へと帰ってくる、本編の展開も踏まえたものとなっています。
そして、マヤの腕から再び画面の中央に戻ってきた時に、キーアイテムである魔法少女チノのステッキと、マジシャンココアのワイルドギースが中央に並んでいる、という構成が見えてくるという流れになっています。構図の中に意味を持たせていく技巧が光っている1枚だと思います。
映画の60分という長尺を一枚のイラストに凝縮している印象的なイラストです。
モカの視線の先や上下のブロックのつなぎ目で、ココアの故郷の明るい海景や木組みの街の綺麗なは花火といった美しい背景が自然に目に入ってくる点も工夫が凝らされています。
最後に、構図に意味を持たせているイラストの例として、次の2枚を挙げてみます。
・(左)TVアニメ2期 キービジュアル (Soleil p.86)
・(右)TVアニメ3期 キービジュアル (未収録)
イラストは、ご存知の通り、TVアニメ2期(左)と3期 "BLOOM" (右)のキービジュアルです。
BLOOMキービジュアルは今回の画集の収録対象範囲外だったようですが、この2枚は明らかに対比を意識しているなと思ったので並べて置いています。
2期キービジュアルは、ココアとチノ以外の全員の体が中央に向いていますが、BLOOMキービジュアルでは全員の体が外向きとなっています。
こうして見比べてみると、2期イラストが中央にぎゅっと寄り集まっている印象を受けるのに対し、3期イラストはまるで花が開くように、外に向かって広がっていくような動的な印象があります。
また、3期キービジュアルは、全員が体を外に向けているので、イラストの奥で背を向けているサキさんを含めて全体が円形となっています。
キービジュアルという自由であるように見えて縛りの多い中で、より意味を持たせようと工夫を凝らしているのが伝わってきます。
毎度のことながら、節目となる場面で過去イラストとの対比を打ち出してくるのはファン心にぶっ刺さってしまいますね。
ちなみに、両イラストとも、チノの身長をティッピーで補ってバランスを取る手法が使われています。
2期のほうは結構あからさまですが、3期のそれは非常にさりげなく行われています。集合イラストではおじいちゃん大活躍ですね...!
すっぽり収まっているティッピーの表情が何とも言えない味を醸し出しています。
どこにどう引いてもバランスが取れているように見えるためスゴい。
さて、ここまで多くのイラストを見てきましたが、当然ながら画集にはもっともっと多くのイラストが収録されており、ここで語っていないものについても気に入っているものが沢山あります(というか全てがお気に入りですが...)。
イラストを構造的に見ることについて、そういった理屈っぽいこと・「考察」めいたことをを考えながら見ることに意味はあるのかみたいな問いをたまに見かけます。最終的には個々人の考えだとは思いますが、自分は「イラストを見た時の感想がひとつ増えたらいいな」「考えた末に生み出されたものならば、その考えも少しでも汲み取れたらいいな」くらいの気持ちで見ています。
ここに書いたものについても(断定的口調で書いてしまっている部分もあったかも知れませんが、)わたし個人の感想に過ぎないわけなので、どうか気楽に捉えて貰えたらと思います。
それでは。
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