2020年03月16日

死闘の幕が開くと言ったな、あれは嘘だ(笑)

秋穂「そもそも、あんたってさ?」
藤田「ハイ」
秋穂「羽奈みたいに誰も想像つかない、なんてプレーが出来るわけじゃない」
つ「あのー、ポジション違う選手を比較対象にするのは如何なものか、と」
秋穂「(無視して)あすみ程コンタクト強くもないし、かなえみたいな上背もないし」
つ「いや、そういうフィジカル面は本人の努力でどうこうは」
秋穂「るっさい」
翠川「…ダメ出しが止まらないねえ」
神谷「やめなよ秋穂ちゃん、そーゆー席じゃないよー?」
秋穂「私と藤田の話です。気に食わないなら聞かなければいいと思いますが」
小早川「(両掌を上向けて肩をすくめ、「処置無し」のポーズ) 
翠川「すまないね菜由ち、こーなるとどうにもならんわ、この御仁」 
菜由「いやまあ聞いて知ってるけどさ…、実際目の当たりにするのは初めてかなって」 
藤田「平気です、不当な事を言われているとは思ってません」
秋穂「よねえ?洋子のスピードと突破力に麗華の守備力と判断にも及ばない」
藤田「…」
秋穂「何度でも聞くよ。あんたの、藤田みのりの売りって一体なんなの?」
藤田「…私は、」
秋穂「あんたは何者なの…?」


     

「あいつ、緊張感なさすぎじゃねえの?」


秋穂は背後から声を聞き、振り返る。


不機嫌を満面に貼り付けた管野直枝がそこに立っていた。


    

ここまでのスプリングサンズの描写で、何となく管野がこの時期のエースなのでは?という向きもあるようだが、期待の若手ではあっても未だエース、と言えるほど多くのゴールを挙げていない。
ただ、挙げたゴールは多くないながらも印象的なゴールが多いのも事実で、それを汲んで監督のクロエはスーパーサブに固定したきらいはある。
ではこの時点での春日のエースは?といえばそれは鶴姫(つるき)しずか、三年前にFC甲斐の国から移籍してきたストライカーである。その時点で鶴姫プロ三年目、甲斐の国でも頭角を現し始めた頃ではあったが、カテゴリー二つ下のクラブからの移籍というのは話題にもなった。
ただトップリーグで通用するのかどうか?という疑問はこのニュースを知った誰もが抱いた感想だろう。
鶴姫はその年、開幕戦でスタメンに起用されるとその試合で初ゴール。また前線からの守備を厭わないスタイルも春日向きであると周知され

「春日に鶴姫あり」

を印象付けるシーズンとなった。
そしてそのちょうど同じ年、管野はルーキーとして入団したのだが、鶴姫のブレイクでほぼ出番がない状態。自分より4つほど年上でもあり、管野も鶴姫を評価はしているのだが、やはり内心面白くはない(笑)


その鶴姫は今日もスタメン、 ちょうどピースサインを出した藤田の隣で苦笑、自身もシュート練習に移っている。秋穂はその光景を見送って管野に向き直った。


「緊張感ないって?」
「あのチビだよ」


管野はどこか無愛想にそう言い、走り出した藤田の後ろ姿を睨みつけている。



「あんなチビでもキャプテンなんだ、キチッとやってくんないと困るぜ」
「あんたはさあ、」



秋穂は苦笑して管野の額をデコピン。


「ってえ!姉御、フィジカルコンタクトやめろよな!!」
「他人のことより自分こそしっかりやってよ?大事な試合なんだから」
「そもそも、オレの出番がなくて済むような展開で進めりゃいーだろ」
「あんたはそこそこ出来るFWなんだから」


もう一度秋穂はデコピン。


「こんなんでイジケてどーすんのよ」
「だったら、スタメンで使うように監督に言ってやってくれよ」


管野は盛大にぶんむくれているのだが、秋穂には監督たるクロエの思考もよくわかる。 鶴姫は安定感のあるいいストライカーではあるのだが、どうもここ一番、というところであまりゴールを挙げていない。
それは偶然なのかもしれないが、調子にムラはあるものの爆発力のある管野をスーパーサブに、というのはあり得る流れだろう。というより、スタメンを任せられるほどの安定感が管野にはまだない、という評価の裏返しでもあるのだが。 



「ポジションは自分で勝ち取るもんでしょ。今なら、まだしずかの方が上ね」
「たあく、どいつもこいつもよぉ」



不意に管野は黙り込み、思い切ったように口を開いた。



「なあ姉御」
「…その『アネゴ』っての、なんとかならないの?」
「しゃあねえや、姉御は姉御だ」


ちなみに管野、入団して直後の挨拶にてー


(オレ様が管野直枝!背番号からもわかるように一番が大好きでずっと一番でなきゃ気が済まねえタチだ!テメエらもこのオレ様に相応しい一番のチームにー)


そこまで言った途端、秋穂のミドルキックが腿裏を直撃(笑)管野にしてみれば、舐められてはいけないから第一印象から強気を印象付けようとしたーのを秋穂にあっさり挫かれてしまい、それ以来秋穂を苦手、というか精神的風下に立つようになってしまっている(笑)


「この頃、フジミとベッタリじゃんか。なんか、イロイロ伝授してるみたいに見える」
「?フジミってなによ」
「藤田みのり、だからフジミじゃねーか」


さも当然のように、お前は何を言っているんだ、と言い出しかねない管野の態度に、秋穂は軽い目眩を覚える(笑)

「そりゃ先輩としては、後進の指導は必要だしね」
「ポジションは自分で勝ち取れ、って言ってたじゃねえか。さっき」


先ほど自身が言ったことを持ち出されてしまい、秋穂は精神的に二、三歩後ずさる。



「…辞めよう、ってんじゃないよな」



今度こそ秋穂は黙り込んでしまう。















管野直枝が一部選手の緊張感の無さを嘆いていたその時、ハーフラインを挟んだ対象位置でも同一の事態が進行していた。いわきの練習では馬場このみと徳川まつりがボールを回している(余談だがこういう時アイマスは選手のネタ元としてとてもありがたいw)。馬場このみは身長143センチと小柄で童顔でもあり、よくユース生と間違われるが自動車の運転も飲酒も選挙も可能な24歳、小柄な事もあってフィジカルの不利は否めないものの突破力とスピードが売りの攻撃的な選手で右サイドを主戦場とする。
徳川まつりはその苗字から将軍家の末裔だか遠縁だかの噂があり、本人もその噂を肯定も否定もせず、また一人称が「姫」であることからなんとなくその噂が事実である、とも囁かれていたが真偽は定かではない。穏やかな物腰からは想像がつかないがフィジカルが強く、どの位置でもこなせる器用さも持ち合わせていたが、今日は前線でキープして2列目の飛び出しを促す、という役割を求められそうだ。


「今までいろいろありましたけど、今日で全部決まっちゃうんですねえ」
「あんたはどこか他人事よねえ」
「ほ?」


まつりの呟きにすかさずこのみが突っ込んだが、まつりは聞いていなかったのかマイペースなのか、反応が薄い。このみは額に手を当てる。

「だあから!降格したら大事よ!?分かってる!?」
「んー…、どの辺が大事なのか、姫は今ひとつ分からないのです」


まつりは軽く首をかしげる。


「降格したからといって、明日から死ね!というわけではないでしょう?」
「いやだからねえ」
「サッカーが出来なくなるわけでもありませんし」


なるほどそうか、と納得しかけてこのみは慌てて首を横に振る。


「い、いや!いやいやいや!!違うって!!」


その光景を遠巻きに見ながら山本るりかは大きくため息をつく。










「おらおらてめえらー、なあにくっちゃべってるぎゃ?余裕だなも?」
「あ、はあい…山本さん、まつりに言ってやって下さいよ!?」


このみは狼狽してるりかにまつりの件を丸投げ(笑)、るりかも黙ってはいられなかったから口を挟む。


「まつり、サッカーは出来る…そう思ってるか?」
「ほ?違うのですか?」


ちなみにこの徳川まつり、愛知出身でるりかとは同郷でもあり、年齢は離れていたが入団当初から面識はある。


「まあ違わねえが…、今までと同じように、は出来なくなる」
「ほ?」


意味がわからない、と問いたげにまつりはわずかに眉をひそめて聞き返し、るりかはゆっくり息を吐く。


「…昔、降格した事がある」


このみは昨季までトップリーグの他クラブに在籍、まつりは今季から入団、と2人とも未だチャレンジリーグを体験していない。経験者のるりかが切り出したその言葉に、二人は言い知れない重さを感じて身を強張らせた。


「…降格してもな?そりゃサッカーは出来る。が、環境は大きく変わる」
「どの辺が…」
「まず金がねえ」


二人は軽く噴き出す。だがるりかは真面目な顔だ。



「笑うのもわかる。実際、そう思ってたしな…でも、金がねえと」
「ないと?」
「いろんなものを節約しなきゃいけなくなる」


単純に露出が減る関係でスポンサーが大幅に減り、インカムが減るならアウトプットも削るしかない理屈だ。補強に使える人件費が減るのは勿論、さらに例えばー練習場の確保。スタッフの人件費。選手では気付けない色々な箇所に金銭は掛かっていて、それを埋めるために様々な不都合を強いられる。いや、るりか自身が強いられた経験をしてきた。
それまで当たり前のように練習着を投げ捨て、スパイクを脱ぎ捨てーという事さえ出来なくなったのだから。


「え?どういうことなのです?」
「いねえんだがや。ホペイロが。雇えねえから」
「じゃあ一体ー」
「自分で洗うしかねえ」


まつりはぽかんとした顔になり、一瞬後その表情を引き締める。


「なるほど大事なのです!」
「あんたはそこなの!?」
「だって、姫は洗濯など出来ないのです」


なんなんだこいつ、とるりかは内心毒付いたがエンジンが掛かったならそれもよしか、と思い直すことにする。
この日決するどちらかのチームの行く先を暗示するかのように、晩秋の空は重く、暗く淀んでいる。
予報は曇時々雨、降水確率30%。試合中に降り出す可能性は十分以上にあったー




      
 

steve600 at 18:52│Comments(0) 秋穂 | SSSユースの人たち

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