2010年05月
2010年05月31日
ドイツカップ決勝 ボルシア・ドルトムントvsアルミニア・ビーレフェルト ―その9― または 周到に張り巡らされた、
エイラ・ユーティライネンは並走しながら肩をぶつけに来るブリジット・シュタークに辟易する。ユーティライネンは上手くその勢いを受け流してはいたが、それでもシュタークはパワーのあるプレーヤーだったから、遠からずタッチライン外に追いやられてしまうだろう。
(さすがに、そいつはマズイ)
ちら、とユーティライネンはシュタークの横顔を覗き見る。真剣に押し出そうとしているようだ。
(たぁク、力押しとかさァ!!)
憮然としてユーティライネンは次のプレーを選択した―
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2010年05月30日
ドイツカップ決勝 ボルシア・ドルトムントvsアルミニア・ビーレフェルト ―その8― または 観戦者たち・その2
スタンドでマルセイユは渋い顔を作り、ペットゲンも思い返して苦笑する。不思議そうに自分たちを見るアメリー・プランシャールの視線に気づいてマルセイユは渋面をさらに深め、ぼそぼそと切り出す。
「いやな、あのユーティライネンは…バイエルン戦となると何故かパフォーマンスがよくてな」
「私たちはいつも煮え湯を飲まされてきたわけです」
ペットゲンはくすくす笑い、はあ、とプランシャールはどこか腑抜けた声を出した。
「でもユーティライネン選手って、右はさっぱりでしょう?」
「それはわかっているんだ、しかしな」
もう一度マルセイユは首を傾げる。
「…相性というのか」
「バイエルンキラーかも」
ペットゲンがどこか他人事のようにまたも笑い、マルセイユは機嫌を損ねて黙り込む。
「しかし、バイエルンキラーとなれば」
帽子を目深に被ったセルベリア・ブレスが口を開く―
「…またぞろバイエルンは獲りに動くんじゃないのか?」
「よしてくれ」
マルセイユは顔の前で手を振る。
「あんな調子に波のある選手は願い下げだ」
「そんな選手はハンナ・マルセイユだけで十分か」
「…セルベリア・ブレス。お前は嫌な奴だな」
マルセイユが殺しかねない目をして呟いたが、ブレスは動じず
「今気付いたのか?遅いな」
と、だけ言った―
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ドイツカップ決勝 ボルシア・ドルトムントvsアルミニア・ビーレフェルト ―その7― または ミラクルレフティ、オリンピアに立つ
「私も興味があります」
どこかにやにやと薄ら笑いを浮かべながらスーパーサブのヘルマ・レンナルツが宮藤の後ろ姿を見ながら坂本の背後で囁く。
「何にだ」
「宮藤の言ったのと同じことです」
「…あれだけ烈火の如く怒って、追い出すだろうと思ってたのに宮藤を連れて帰って来た。どんな心境の変化が?」
「忘れた、そう言っただろう」
うんざりとした気色を坂本は浮かべている。
「お前もアップしろ、レンナルツ」
「仰せのままに」
坂本はふんと鼻を鳴らし、その横をどこか悠然とレンナルツは通り過ぎて行った。
「…言えるわけがない」
苦笑しながら虚空に向けて坂本は呟いた―
コイントスでボールを選んだビーレフェルトのキックオフで試合は始まる。
開始10分ほどまではお互い手探りの様相、ややボルシア・ドルトムントが押し気味に試合を進めていた。
2010年05月23日
ドイツカップ決勝 ボルシア・ドルトムントvsアルミニア・ビーレフェルト ―その6― または 坂本美緒 ―その8―
試合前の練習のためピッチへ出ようとしていた宮藤はふと足を留める。
監督の坂本美緒が腕組みをしてピッチを見詰める姿が映じた。いつもなら眼光も語調も鋭い坂本だったが、今宮藤の見る坂本はどこか穏やかで柔らかく―、
宮藤はそんな坂本を初めて見た様な気がしていた。
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2010年05月20日
ドイツカップ決勝 ボルシア・ドルトムントvsアルミニア・ビーレフェルト ―その5― または 観戦者たち・その1
「ほら、ティナ、試合始まりますって!」
「そう急かすなよライーサ」
オリンピア・シュタディオンのメインスタンドへ通じる通路の一角―
その場で地団駄を踏みかねない勢いのライーサ・ペットゲンと、それとは対照的にゆっくり歩を進めるハンナ・J・マルセイユの姿がある。
二人はバイエルン・ミュンヘンに所属するMFで、シーズンが終わってオフということもあり、この決勝の観戦に訪れていた。
2010年05月18日
ドイツカップ決勝 ボルシア・ドルトムントvsアルミニア・ビーレフェルト ―その3―
「ビーレフェルトの脅威はどこにあるのかといえば―中盤だね」
ドイツカップ決勝戦前、オリンピア・シュタディオンのボルシア・ドルトムント控室―
ボルシア・ドルトムント監督代行ウェルキン・ギュンターはイレブンを前にこう切り出した。
ドイツカップ決勝 ボルシア・ドルトムントvsアルミニア・ビーレフェルト ―その2―
試合開始前、ビーレフェルト控室―
仲の良いリネット・ビショップと宮藤芳佳が話をしている。
「でもヨシカ、毎日毎日遅くまで練習してて大丈夫?」
「うん、平気だよ」
「全体練習が終わった後は私とフリーキックの練習して、その後はペリーヌさんとロングパス…」
「そんな感じかな」
「あれはもうやってないんだ。ほら、トランポリンにボール一個分の穴開けてて―」
「ああ、穴を通せなかったら跳ね返ってくるあれだよね。やってるよ?」
「え、でも青痣とか生傷とかないみたいだけど…」
「ふふん、馬鹿にしちゃいけないよリーネ。結構長いことやってるとね、避け方が身についてくるの!」
「あ、そうなんだ…」
「へっへー、今の私のフットワークはちょっとスゴイかもー」
「避け方を覚える前に正確なキックを身につけろ!この馬鹿者が!!」
坂本から宮藤に大きな雷が落ちたのはその直後のことである(笑)
ルイズ・ラヴァリエール ―その15― または 其は夜毎に襲い来たりて
ボールは自分の頭上を越えてクロスバーに直撃。
目の前にはゴールネットと、そこに絡まるゴールキーパー。
足元に向けて二度、三度跳ねて転がってくるボール。
ただ蹴るだけで―いや、触れるだけでいい―約束されたゴール。
完璧にハマったゲームプランの中、強豪相手の先取点。
その後は残り15分ほどを守り切れば大金星、GIANT KILLINGの完成。
(今度は絶対決めるんだ)
今度?
今自分が見ているこの光景は―
過去に見た光景だったのか
そして差し出した脚の甲にボールは当たり、ゴールマウスを大きく超えて、
その場に膝から崩折れる。
浴びせられる罵声、罵詈雑言、その他。
耳を塞いでも心を閉ざしても直接脳裏に響いてくるようにそれらは漏れ聞こえてくる。
ずっと―
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