2012年08月

2012年08月26日

イリス・モンフォート  ―その6―

そのスペイン代表の10番はマリアの目前でボールを軽くドラッグ。エリア内とあってマリアはシュートを遮ろうと脚を出すが、シュートは放たれず―テクニシャンの10番はマリアの動きを見切って真横へパスを流した。


(来た!)


マリアは内心でほくそ笑み、出した脚をそのまま軸にして反対側の脚先を伸ばすスライディング。元々テクニックの高い選手が多いスペインは、例えエリア内といえどもすぐにシュートを打たず、可能な限りボールを廻す傾向がある。マリアはここまで7失点を許す中でそれを思い知らされていた。
ここでもシュートコースを切る動きをすればパスを出す―そう判断したマリアは罠を張り、それに相手が掛った、ということだ。もっとも、試合の大勢に影響はほぼなかったが。


ボールはマリアの脚に当たって軽く跳ね、マリアがスライディングした方向へと転がる。素早く身を起こしたマリアはボールをキープ、二歩走って前を見る。


驚愕を顔に貼り付けたイリス・モンフォートはすぐゴールの方を向き、ダッシュの体勢に入っている。


オフサイドのタイミングはあっちで見ているはず。
マリアはそう信じて足元のボールを大きく、大きく蹴り上げた。



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steve600 at 21:56|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 欧州女子サッカー選手列伝 

2012年08月19日

セシリー・キャンベル  ―その1―  または  エール開幕に間に合わせたかったんだがな(笑)

千紗都とフライクが見守る中、第二キーパーの守るゴールマウスに向けて鋭いシュートを何本も放ち続けている赤毛の女性は、ふうと息をついて額の汗を拭った。フライクはその様子を満足げに見下ろして頷き、両手を叩いて彼女を呼ぶ。


「セシリー!セシリー・キャンベル!!ちょっと来て!」


セシリーと呼ばれたその女性はフライクの方に振り返り、ショートカットの赤毛を揺らしながら二人の方へ駆け寄ってくる。


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steve600 at 21:24|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 欧州女子サッカー選手列伝 

2012年08月05日

イリス・モンフォート  ―その5―

(ちぇ)


アンドラ代表DF、マリア・アルバレスは内心で舌打ちした。スペイン代表との親善試合は後半20分を経過して既に6−0、最早勝敗を云々する段階ではなくなっている。実際、仲間達の表情にも疲労の色は濃い。


いや、実際の疲労より試合展開から来る絶望感こそが神経を蝕んでいるのだ―それは痛いほどに分かる。


ただ、それでもマリアが緊張感を高く保ち続けていられたのはこの試合に勝敗以外の目標を見出していたからでもある。


(1点取る)


ついと目を挙げると、スペイン代表の10番を背負う選手がボールを足元に置いたまま自分の前まで迫っていた。いかにもスペインらしくパスセンスがあり精度も高く、自分で切り込めるドリブルもありシュートもまずまず、の好選手。やや特徴がなさ過ぎるきらいはあるが、そう遠くない未来のスペイン代表主軸であろう―という評判は妥当なものだ。計1時間ほどのマッチアップでそれは痛感している。
考えてみればフル代表同士の親善試合、とは言いながら人材不足も手伝ってアンドラ側はマリアやイリス・モンフォートといった10代半ばの選手が名を連ねている現状である。


スペインの10番は一瞬マリアの目を見ると、無造作にエリア内に切り込んできた。



  
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steve600 at 21:18|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 欧州女子サッカー選手列伝 
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