2009年11月01日

難聴者にとって「音声入力」は役に立つのか? (NO.122)

インタビュー  今まで聞こえていた音が突然聞こえなくなる、聞こえにくくなる、これが難聴の症状です。難聴者は、身近な人々との会話で、相手の話が聞こえなくなってしまうのですから、それは深刻な話です。決定的に不便な生活を余儀なくされます。

 「音声入力」を長いことやっている私のところに、最近、難聴者の方々からのお問い合わせが増えてきております。この難聴者に接して、彼らが「音声入力」に何を求めているのか?どういう使い方をすれば「音声入力」が難聴者によって有効なのか?今回のブログではこの問題を中心に「音声入力」が難聴者の福音になるのか、この問題について考えてみようと思います。



 (1)難聴者が「音声入力」に求めるものは過大すぎます。

 多くの難聴者の人たちが「音声入力」に期待することは、他人の会話、スピーチ、講演などの音声をレコーダー(例えばDPM9620)に録音し、それを音声認識ソフトにかければその音声が自動的に文章化され、それを読めば録音した音声が理解できる、そういう使い方ができないものだろうか?というものです。このような問い合わせが大部分を占めます。

 難聴者の、他人の音声を少しでも理解できるようになりたい願望はとてもよくわかります。しかし残念ながら、ここに寄せられた問い合わせの用途に「音声入力」は無力であることを白状せざるを得ません。その返事を聞くと、多くの難聴者は、もう「音声入力」に関する興味を失ってしまうのか、それ以上の追求もなく、「音声入力」を断念してしまう人がほとんどです。ですから、多くの問い合わせを受けても、「音声入力」のいろいろな使い方を試み、役に立つ成果をあげたというケースは私の実績としては数少ないのが正直な現実です。

 実は、このブログでも何回かとりあげてきましたが、難聴者の願望する「音声入力」の使い方は、健常者と言われる私たち一般の人の中にも根強いものがあります。その典型的な事例は、「テープ起こし」と言われる作業を、今までの人間の力を借りて行うのではなしに、コンピューターの力で自動的にできないだろうか、それをあなたの説明する「音声入力」法ではできないか?という内容のものです。この場合の録音する内容物は、会議、講演、講義、座談会などの記録です。残念ながら、これらは、今の「音声入力」法では不可能と言っても過言ではありません。

 この点は、ViaVoiceにせよ、ドラゴンスピーチにせよ、その音声認識ソフトのメーカーは、そのマニアルにおいてそのような使い方はできません、とハッキリ説明しております。その理由は、今のソフトは、あくまでも特定話者の音声しか文字化できないという単純な理由からです。この種のソフトでは、使用前に、そのソフトを活用する人の音声をパソコンに登録する必要があります。この音声登録をしていない人の音声認識率は極端に低いという結果からも、その理由は納得できます。

 難聴者の方々の願望する使い方も、「テープ起こし」の自動文章化にしても、そこで扱う音声ファイルは、特定話者ではなく、不特定話者のものです。どんな人が、何を、どんな調子でしゃべるのか、それは事前には全くわからない性質の音声なのです。これをコンピューターが見事に識別できるまでのソフトにまでは、まだ開発ができていないことが、ユーザーの願望をかなえられない理由なのです。

 いずれ、不特定話者の音声でも平気で識別できる性能のよいソフトが誕生することを期待して、今は、まだ、特定話者の音声しか実用化できていない、という理解が必要です。しかし、難聴者の人々は、それを絶望的な返事のように受け取ってしまったのかもしれません。

  難聴者の方々に、あえてお願いを申しあげれば、「音声入力」の可能性については難聴者ももう少し学習して欲しい、という気持ちです。以下説明する方法を読めば、難聴者が少なくとも日常生活において役にたち、日常生活のコミュニケーションが潤滑に進む可能性が「音声入力」にはあり得ることをいろいろと発見できるだろう、と思うからです。

(2)難聴者は「難聴ヘルパー」(仮称・IT技術を使って、難聴者のコミュニケーションの手助けをする専門職)の力を全面的に借りることです。

 私は、難聴者の相談を受けるたびに感じることがあります。相談を直接の面談で受けたり、Eメールで受ける場合、その相手となる方々のほとんどが難聴者ご本人なのです。難聴者は他人の力を借りずに、自分の力だけで何とか「音声入力」を習得し、音声が聞こえないハンディキャップを克服しようと考えるのでしょうか。

  しかし、残念ながら、このやり方では「音声入力」法の活用はむずかしいだろうと思います。この際、この方法を潔くあきらめ、難聴者は「音声入力」の具体的な操作には一切タッチせず、自分とは別の第三者にその仕事を完全にゆだねる方法を思い切って採用することです。

  難聴者の耳の代りになるものは、難聴者自身が「音声入力」の技術を習得することではなく、その技術を習得した第三者の方の能力をフルに活用することです。この視点を間違えますと、「音声入力」の優れた能力の恩恵を難聴者はいつまでたってもエンジョイすることができません。

  私が難聴者と接して感じたことは、耳が聞こえないということがいかに悲惨な、不便な生活を招くものか、という現実です。それは極めて深刻な問題です。特に高齢者になって発症する難聴は、高齢者のコミュニケーション能力を奪うことですから、その不便さに高齢者が耐えねばならないことは大変なことです。

 これはご本人にとっての苦しみであり、辛い経験だと思いますが、それと同じくらい、親しい家族の方々も同じ思いに駆られているはずです。耳が聞こえないというハンディキャップを克服し、少しでも周囲の方々の話が理解できるようになるためには、もはや難聴者本人だけの問題ではなく、周囲の方々の協力態勢、手助けが必要です。難聴の問題は、難聴者個人で解決できるような簡単なものではない、と理解することがご本人はもとより、ご家族のみなさんにとっても必要な考え方です。

 それでは、今までどういう方法で難聴者およびその家族はコミュニケーションの手段を講じているのか、その点を考えてみましょう。

  圧倒的に多く、一般的に活用されている方法は、健常者が難聴者に伝えたいことをメモ書きして、本人にそのメッセージの趣旨を伝える方法です。単純な、一方的な伝言とか、簡単なメッセージならばそれで十分役に立ちます。またそのお手伝いをするご家族の人たちにも大きな負担を感じませんから、その程度の仕事なら無難に処理できます。

 問題は、伝える話が長くなる、複雑になる、そういう内容のメッセージをどのようにして難聴者に伝えるかなのです。これはもはや、手書き方式で、メモを手渡すやり方では通用できません。一時的にこの仕事をボランティアで協力してくれる人が出るかもしれませんが、いつもそのような人が手伝ってくれるはずがありません。

  ここでは、他人の話とかスピーチの要点をまとめ、素早く難聴者の方に伝える技術を習得した専門職の方が活躍すべきなのです。ご家族の方のどなたかがその技術を習得し、いつでも難聴者の身近なところにいて、難聴者の耳の代りを果たす、そういうサービス提供ができることが理想的です。ご家族でそのような専門職の方ができない場合には、現在の老人・障害者介護サービスのひとつとして、そのような専門職の仕事を制度化し、そのスタッフを育成したらよいと思います。

 その方法の要点を以下まとめます。
この特殊技術の原型は、昔からあるサマリータイピング(要点筆記)です。今から半世紀も前のこと、まだ日本語ワープロが普及していなかった時代、ひらがなタイプライターが一時的ではありますが、活躍した時代がありました。会議とか講演、講義、などを要約筆記し、テープ録音をとるまでもなく、その話の要点をその場でタイピングしてしまう方法です。

  これは、ひらがなタイプライターのように簡単にタイピングできるタイプライターがあれば、その表記は漢字なしの文章ですが、かなり素早くその話を文章にまとめることができます。今の日本語ワープロでは、漢字変換キーを使うところで多大の時間をつかいますので、漢字使用を手に入れた半面、ひらがなタイプライターの持つスピードライティングの活用が終わってしまいました。日本語ワープロの普及により、必然的に、サマリータイピングの活用も下火になってしまったのです。

 私は、難聴者が日常の生活におい十分に聞こえないハンディキャップを克服し、今よりずっと快適に、いろいろな人の話が理解できるように、その具体策問題を考えているつもりです。

  そこから生まれた活用法は、難聴者自身がレコーダーとかパソコンを操作して、問題を解決するのではなく、難聴者は自分では「音声入力」に関しては何もできないと達観し、その業務一切を「難聴ヘルパー」に任せてしまう方法です。いかにしたら、そのような「難聴ヘルパー」を身近で活用できるのか、そういう形での問題解決方法を受け入れることです。難聴者になった以上は、腹をくくって、自分の耳の代りを勤めてくれる特殊技術を持つヘルパーを存分に活用することです。

 このやり方は、日本人には馴染みのない考え方です。日本人は知的生産の技術(考える、書く、話す、聞く)を他人の力を借りて完成させる知恵も経験もありません。経験とか思索を表現する場合、すべて自分の五感を駆使して行うものと考えてきました。ですから、欧米諸国で普及しているディクテーションシステムのような、文章作成を分業化して作成するというノウハウも全く普及しておりません。

  いつまでたっても大半の日本人は、文章作成の際は、最初から最後まで自分ひとりで作りあげるものだと理解しています。ここでは、他人の力を借用して文章作成をするという知恵が全く動いておりません。文章作成を分業化作業で行うという技術システムが、日本人の持つ知的生産技術からは、発生できなかったのです。

 これは、文章作成だけではありません。耳が聞こえなくなる、話すことができなくなったという障害が発生すると、障害を起こした器官を治療する、何か特殊器械でそれを補完する方法以外に、全く別な方法があることになかなか想像力がわきません。

  自分の器官はだめであっても、奥さんの器官を活用すれば、そこそこの用を足せる、そういう知恵が、今の高齢の難聴者には特に必要だと感じます。この知恵を身につけるまでには、その準備が必要なのですが、そのことには多少は先見の明がある人たちの意見を聞くべきだろうと思います。

  私が難聴者に「音声入力」の技術習得を断念させるのには、もう一つ決定的な理由があります。

  それは、難聴者に「音声入力」の技術を一通り理解させるのには、健常者の方に指導するより、10倍以上の労力と時間がかかることです。耳が聞こえない人を相手にするには、こちらがよほど根気よく、損得を無視した関係で臨まない限り、その指導は「労多くして効少なし」に終わること明らかです。この現実を、難聴者の方々は十分に理解しておく覚悟が必要です。

  次に実際の使用例を説明いたします。
最初は、簡単なメッセージから始めます。「難聴ヘルパー」(例えば難聴者の奥さん)にレコーダー・マイク(DPM9620)を使用してもらい、(この場合、奥さんの音声ファイルを用意し、そこに奥さんの声を登録しておく必要があります)音声原稿をその人の声でしゃべってもらいます。

  例えば「今日の予定を教えてください?」とか「昼間は外出してお世話できません。夜の食事は何を食べたいですか?」こういう、従来ですと紙にメモ書きしていた内容のものを、音声ファイルとして作成し、難聴者の活用しているパソコンに文章として表記いたします。今までの、メモ書きから音声でしゃべる方法に切り替わるだけです。

  この作業になれましたら、徐々にその内容を広げていきます。来客の話とか、テレビで聞きたい人の話とか、さらには会議の内容、難聴者にかかってきた電話とか、それらのスピーチの要点筆記を「難聴ヘルパー」がマイクないしは携帯用レコーダーにしゃべることによって、その音声が素早くパソコンの画面に表記されるのです。

 この手法が有効だとわかれば、「難聴ヘルパー」の輪を広げていき、その難聴者の「難聴ヘルパー」としてお手伝いしてもよいという人を、できるだけ数多く難聴者の周りに用意するようにしていく、これがこの技術がユーザーにとって極めて便利な方法と感じるかどうかの、分岐点になります。

  まことに幸いなことに、私がここで紹介する方法では、一台のパソコンに「難聴ヘルパー」を何人も登録することが可能です。奥さん以外にも、お嬢さんとか、老人ホームの管理者の方とか、日頃お世話になっているお医者さんなどにも、「難聴ヘルパー」として難聴者のパソコンにその人たちの音声を登録してもらうことです。

  もしそれらの人たちが、その難聴者に必要なメッセージを発したいときは、その人が該当するユーザーファイルを呼び出して、そのファイル上に必要なメッセージをしゃべってもらえばよろしいのです。そういうヘルパーの態勢ができ上がれば、「難聴ヘルパー」にお願いするサマリータイピングの内容も、それぞれの専門分野の方に特定されてくるわけです。

  もちろん、運用上のいろいろな問題がありますから、楽観は許しませんが、このやり方を上手に運用すれば、その難聴者はかなり広範囲の、有効な音声情報を入手できるはずです。

 難聴者が、耳が聞こえないハンディを克服して日常生活を有効に活用する上では、身近な家族の方々にまずは「難聴ヘルパー」として協力してもらい、その輪をだんだんと広げていく、これこそ難聴者が「音声入力」を上手に活用できるノウハウではないか、と私は確信しております。

 (3)音声を簡単に文章にする方法―これが「音声入力」の最大の武器です。

 今までこのブログで「音声入力」の優れたパワーの一つとして、自分の考えを素早く文章にまとめてしまう能力に、音声を活用することをあげてきました。この能力をフルに活用すれば、今現在、難聴者を介護している人たちが難聴者の耳の代りになろうと努力している具体的な手段として、「音声入力」は極めて有効な方法になり得ます。

 ドラゴンスピーチを使う音声認識ソフトを活用すると、「難聴ヘルパー」の役割を果たす人は、奥さんだけに限定されるものではありません。パソコンの中に、ユーザーアカウントというファイルがあって「難聴ヘルパー」のお手伝いをその難聴者のためにやってあげようという人が、自分のアカウントを登録し、自分の音声をそのパソコンに登録さえすれば、そこに登録した人すべてがこのソフトを使って「音声入力」で難聴者とコミュニケーションができる仕組みです。

  これは大変に便利な機能で、「難聴ヘルパー」が、従来の奥さん以外に、娘さん、病院の主治医、老人ホームの管理者などを登録しておくと、「難聴ヘルパー」は手軽に必要な音声情報を活用して、その難聴者に必要なメッセージをマイクに向かってしゃべるだけで、難聴者はその音声情報を画面上で確認することが可能です。
  音声情報が聞こえなくて不便であるというハンディキャップを、だんだんと意識しないで済むようになるかもしれません。

 家族の中で、誰かが難聴者になると、とたんに今まで想像もつかない不便がその家族を襲います。そのときに、家族の人たちおよびその難聴者を支える人々が、簡単に、素早く音声情報を文章化できる技術を持っていたら、それは難聴者にとって大きな福音です。難聴者の耳の困難を解決する手段として、まずは難聴者に協力してくれる「難聴ヘルパー」の人たちが、大きな負担なしに、手軽に協力できる技術を身につけることが、この問題の解決の糸口です。

 今まで、難聴者を援助する方法としては、音声を手書きで文章にまとめ、それを難聴者に手渡してコミュニケーションをはかる原始的な方法でした。もうこのような初歩的な方法は止めにして、もっと根本的に解決できる技術を用意して、この難聴者問題にとりかかる必要があります。手書き方法のような姑息的な手段では、難聴者の期待を満たし得ません。

  抜本的な対策としては、IT技術を操作して、簡単に、気軽に音声情報を文章化できる技術を作りあげることです。そして、この技術を習得した「難聴ヘルパー」を育成し、その人たちが社会で活躍できる、そういう時代がやってくれば、難聴者が今味わっている苦しみから解放されるチャンスは十分にありそうです。




この記事へのコメント
あなたの不倫度をチェックしてみませんか?深層心理が赤裸々に暴かれる!?あなたは果たして純粋に一人だけに愛を捧げることができるのか!
Posted by 不倫 at 2011年06月27日 14:59
5
Stone06 さん

私の叔母も近年難聴がひどく電話の会話がほとんど出来ません。最近iPhone4S のSiri が話題になっていますが、携帯電話を利用して話相手の会話内容を携帯電話の画面に出るように出来れば叔母も随分助かるのではないかと思いますが。

こういった技術は同時通訳にも応用できるので利用価値があると思うのですが。どなたか早く開発してほしいですね。

BronxJin
Posted by BronxJin at 2012年01月23日 02:53
4
私は過労から、メニエルに罹り、かなり重度の私は、難聴者です。
約、5年前から、ラインを使い、友人や親族との会話など、電話代わりに
こなして居ます。カンペ等手書きも、使っては居ますが。

音声文字化のソフトも、色々試しては居ます。
実際に使って見ると、中々思い通りは翻訳してくれません。
単なる熟語の並べ替えなのか?。
動画の文字化も、かなり頻繁に見たり。外国人との対話ソフトや、
簡便な翻訳機の導入を検討したりです。

当方85歳の男難聴者です。参考に成りましたら。
Posted by 熊谷 澄太郎 at 2021年05月13日 01:19