2009年01月08日

ソマリア沖海賊問題と自衛隊派遣に関する解説

1.はじめに
 08年12月26日、麻生太郎総理大臣は浜田靖一防衛大臣に対して、ソマリア沖の海賊問題に関連し、「自衛隊が海賊対策に早急に対応できるよう検討作業を加速するように」と指示しました。
 報道によると、日本政府は1月中に海上自衛隊の派遣を決定し、2月中には海上自衛隊による日本船舶の護衛活動を開始する方針とのことです。
 またソマリア沖派遣の法的根拠は当面、「自衛隊法・第82条・海上における警備行動」で対応し、今国会中にソマリア海賊対策の特措法、または海賊対策の恒久法を制定するとしています。

2.ソマリア沖とは
 ソマリアはアフリカ大陸東岸の国で、国土の北東部がアデン湾に面しています。アデン湾は紅海とスエズ運河に続いているため、スエズ運河を経由してインド洋と地中海を行き来する船舶は、この海域を通らなければなりません。現在、ソマリア沖を通過する船舶は、年間約1万8000隻です(うち日本船舶は約2000隻)。
 海運の要衝であるソマリア沖では近年、船舶が海賊に襲われる被害が増加しています。国際海事局(IMB)の調査によると、この地域の海賊発生件数は03年・21件、04年・10件、05年・45件、06年・20件、07年・44件、08年(9月末まで)・63件です。世界全体の海賊発生件数は03年の445件から08年(9月末まで)の199件に減少しており、ソマリア沖での海賊が極端に増えていることが分かります。

3.国際社会の対応
 ソマリア沖の海賊を取り締まるために、国際連合・安全保障理事会はいくつかの決議をあげています。「安保理決議1816」(08年6月2日)では関係国に対して海賊対処を呼びかけ、「同1838」(08年10月7日)では軍隊を動員して海賊との闘いに参加することを要請し、関係国軍隊がソマリア領海に進入することを許可しました。さらに「同1851」(08年12月16日)では、海賊の地上拠点を制圧するために関係国軍隊がソマリア領土内へ進入することを認めています。
 北大西洋条約機構(NATO)軍の艦船は08年10月24日から、ソマリアに支援物資を運ぶ世界食糧計画(WFP)の貨物船の警護を始めました。12月8日からは欧州連合(EU)艦隊がNATOの活動を引き継いでいます。EU艦隊にはドイツ・イギリス・フランス・イタリア・スペイン・ベルギー・オランダが参加し、艦船6隻と航空機3機を運用しています。
 中国も自国民が乗船する船舶が海賊にたびたび襲撃されていることから、12月26日に駆逐艦3隻をソマリア沖に派遣しました。

4.ソマリア国内はどうなっているのか?
 通例、ある国の領海内ならびに周辺海域での海賊には、その国の沿岸警備隊(日本の場合は海上保安庁)が対処します。ではソマリア政府はなぜ、自国の沿岸警備隊で海賊に対処しないのでしょうか。
 ソマリアはかつて、北部をイギリスに、南部をイタリアに植民地支配されていました。1960年に南北がそれぞれ独立し、統合してソマリア共和国を建国しました。しかしその後もクーデターや、隣国エチオピアとの戦争、内戦が絶えませんでした。近年は「暫定会議派」と「イスラム法廷会議派」が国土を二分する争いをしていましたが、「暫定会議派」を支援するエチオピアや米国が軍事介入し、混乱に拍車をかけています。そうした情勢の中で、ソマリアは1990年代初頭より中央政府が存在しない状態が続いています。ソマリア自身では、海賊に対処することができないのです。
 そのため現在、ソマリア沖で海賊対策を担っているのは、対岸のイエメンとオマーン両国の沿岸警備隊です。しかし両国ともに沿岸警備隊の規模が小さく、海域全体を警備するには無理があるようです。

5.ソマリアの海賊とは?
 ところでソマリアの海賊とは、どのような勢力なのでしょうか。朝日新聞08年11月15日朝刊に、『ソマリア海賊 みんな魚師だった』という記事が掲載されています。この記事の中で海賊の広報担当者が朝日新聞の電話取材に答えて、次のように語っています。

 「みんな魚師だった。政府が機能しなくなり、外国漁船が魚を取り尽くした。ごみも捨てる。我々も仕事を失ったので、昨年から海軍の代りをはじめた。海賊ではない。アフリカ一豊かなソマリアの海を守り、問題のある船を逮捕して罰金を取っている。ソマリア有志海兵隊(SVM)という名前もある」

 また記事は、「漁業会社がそのまま漁船を使って『海賊会社』に衣替えしたケースがほとんどで、複数の武装集団に全体で300人ほどが属しているという」。「海賊の狙いは人質にとった船員の身代金で、実際に人質に危害を加えたと報じられた事例はほとんどない」、とも伝えています。
 これが事実であれば、海賊問題の解決には、ソマリア国内の政治的・社会的混乱を収拾することが必要です。

6.自衛隊派遣と国際法
 「海洋法に関する国際連合条約・第100条」は、「すべての国は、最大限に可能な範囲で、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所における海賊行為の抑止に協力する」と定めています。「同条約・第110条」では、公海上で軍艦が海賊船を臨検する権利を認めています。ソマリア沖の公海上で、日本の海上自衛隊が海賊船を取り締まることに、国際法上の問題点はありません。またソマリア領海内であっても、国連安保理は前述の通り、関係国の軍艦が海賊を取り締まることができる決議を採択しています。

7.海上自衛隊派遣と国内法
 それでは海上自衛隊のソマリア沖派遣は、国内法的には許されるでしょうか。
憲法とのギャップの中で誕生した自衛隊は、海外派遣を想定していませんでした。
 「自衛隊法」も、自衛隊の活動が日本の領土・領海・領空であることを前提にしています。そのため日本政府は、米国政府の要請で自衛隊を海外に派遣するために、「PKO法」・「旧・新テロ特措法」・「イラク特措法」など個別法を制定して対処しなければならなかったのです。
 「自衛隊法・第82条・海上における警備行動」には、「防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる」と書かれています。法文上は、活動を日本の領海や周辺海域に限定する文言はありませんが、条文が本来は日本の領海や周辺海域を想定していることは明らかです。
 実は麻生内閣も、「海上における警備活動」を根拠法とするには問題が多いと認識しています。「海上における警備活動」では、海上自衛隊が行使できる権限が警察権に限られるからです。そのため、\掬防衛の場合しか武器を使用できない、∋藩僂垢詆雋錣發韻鷭討箴銃などに限定される、F本籍の艦船しか警護できない、ぢ捷餝し海箸力携に支障をきたす――など多くの制限を受けてしまうのです。
 そこで麻生内閣は、海上自衛隊が警察ではなく軍隊として海賊対策を行えるように、新法を制定しようとしています。新法が、ソマリアに限定した特措法になるのか、海賊一般に対処する法律になるのかは、今のところ明らかにはされていません。

8.海上自衛隊派遣の問題点 
 「海上における警備活動」で対処するにしろ、新法を制定するにしろ、海上自衛隊をソマリア沖に派遣することには様々な問題があります。
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 ソマリア沖で活動する海賊とは何者なのでしょうか? 先にあげた朝日新聞の記事は、海賊を武装した元魚師としています。一方で、海賊とソマリアの反政府勢力とがつながっているとの見方も出ています。日本政府は、海外での自衛隊の武器使用に関して、「国ないし国に準じる組織に対するものは武力の行使になる」としてきました。海外での武力の行使は、憲法によって禁じられています。ソマリア沖で海上自衛隊が交戦した場合に、海賊と思った相手が反政府勢力など「国や国に準じる組織」であれば憲法違反になるのです。

軍事力と警察力
 海上自衛隊は戦時に、敵国の艦船・潜水艦・航空機・ミサイルなどの攻撃から日本を守り、敵を撃退することを目的に活動し訓練しています。一方で海賊対処では、海賊行為を防止し海賊を逮捕することが求められます。戦争は軍隊の役割ですが、海賊対処は警察や沿岸警備隊の役割です。戦争と海賊の取締りでは、目的も方法も異なるのです。海賊対策のノウハウや経験の無い自衛隊を派遣することは、有効な措置ではありません。

自衛隊暴走の可能性
 海上自衛隊は「旧・新テロ特措法」に基づき、01年から現在までインド洋上で、米同盟軍の艦船に燃料補給活動を行っています。この活動の中で、イラク攻撃を準備中の米海軍空母に燃料補給を行っていたこと、その記録書類が改ざんされていたこと、任務期間中の航海日誌などが不法に破棄されていたことなど、様々な問題を起しています。インド洋での活動は秘密にされ、国会にすら十分に報告されていません。本当は自衛隊が何をしていたのか、私たちは知ることができないのです。
 「イラク特措法」に基づいて派遣されていた陸上自衛隊は、自衛隊が駐留している地域で同盟国軍隊と占領抵抗勢力の交戦が起きた場合に、情報収集の名目で現場に駆けつけ、あえて戦闘に巻き込まれ、正当防衛で発砲する「駆けつけ警護」を計画していたことが明らかになっています。幸い実行には移されませんでしたが、実行されていれば文民統制を逸脱し、重大な憲法違反行為です。
 また昨年末には、田母神俊雄・前航空幕僚長が、現職中から憲法改正や集団的自衛権の行使、海外での軍事活動を求めていたことが明らかになりました。
 これらの事項を勘案すれば、海外に派遣された自衛隊が、国会のコントロールを離れて暴走する危険性は十分に考えられます。

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 前述の通り、「自衛隊法・第82条・海上における警備行動」には、適用範囲を日本の領海に限定する文言はありません。しかし、人命・財産の保護や治安維持のために、海上自衛隊を公海や他国領域に派遣することは、邦人の保護を名目にして海外侵略を行った戦前の日本軍と同じ過ちを犯すことにもなりかねません。また同法を根拠とした場合、国会承認の必要がなく、内閣の判断のみで海上自衛隊を派遣できることも重大な問題です。

コぞ綣衛隊の現状
 そもそも現在の海上自衛隊に、「新テロ特措法」でのインド洋派遣に加えて、ソマリア沖派遣を実施する余裕があるのでしょうか。
 東京新聞08年12月9日朝刊に『揺らぐ文民統制(2)政治不信 増える任務「余力なし」』という記事が掲載されています。記事には「海自の三分の一にあたる約一万五千人が艦艇職種、いわゆる船乗りだ。うち一割近い隊員が主に精神面の問題から、地上勤務に就いているというのだ」「今年二月、イージス護衛艦『あたご』と漁船の衝突事故直後、海自は全国から指揮官を集め、緊急会合を開いた。そこで寄せられたのは『任務と兵員のバランスがとれていない』『余力がまったくない』という切実な訴えだった」と書かれています。「海賊対策は海上保安庁の仕事では? これ以上、新しい任務は無理。護衛艦を貸すから自由に使ってほしい」という海上自衛隊幹部の言葉も紹介されています。

9.何をすればいいのか
 「海洋法に関する国際連合条約」は全ての国に「海賊行為の抑止に協力する」ことを定め、国連安保理決議は関係国の海賊対策への参加を求めています。またソマリア沖は多くの日本の船舶が通航しており、船舶で働く労働者にとっては、海賊対処は生命に関わる重大問題です。
それでは海上自衛隊の派遣以外に、日本には何ができるのでしょうか。イエメン沿岸警備隊のアルマフディ作戦局長は、朝日新聞の取材に応じて、海上自衛隊の派遣は「高い効果は期待できず、必要ない。むしろ我々の警備活動強化に支援をしてほしい」と述べています。日本がすぐにでもできる支援は、イエメンやオマーンの沿岸警備隊への援助です。報道によれば日本政府は、イエメンへの巡視艇や巡視船の供与を検討しているとのことです。
 また日本政府は「アジア海賊対策協力協定(ReCAAP)」を推進し、海上保安庁が東南アジア諸国の沿岸警備隊と協力して海賊対策を実施した実績があります。ソマリア沖周辺国が同じような協力体制を整える場合に、提供できるノウハウを持っています。
 何よりも重要なことは、海賊対策という短期的な対応で協力を終わらせるのではなく、ソマリア内戦の終結と貧困問題の解決、そのための財政的・政治的な支援を長期的に続けることではないでしょうか。外務省が08年12月に発表した『アフリカ地域における海賊問題の現状と我が国の取組』は、事件発生の背景を次のように述べています。
 「アフリカ地域での海賊事案多発の原因は、貧困問題や治安機関の取締能力不足等が挙げられる。特に、ソマリアには中央政府が存在せず、法執行・司法機関が機能していないことが事件多発の大きな要因と思われる。」
 海賊問題の根幹が、貧困と政治混乱にあることを、日本政府は承知しているのです。

■この問題に関係する資料を、以下のサイトにUPしました。
http://www.peace-forum.com/mnforce/0901somariahahei/00TOP.htm


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