2005年05月29日

2005年5月23〜26日まで連載された記事です。


■原発震災:
「想定外」への備え/1(その1) 国も地元も考慮ゼロ

 原発の耐震指針の見直しを進める原子力安全委員会の分科会。今年2月の審議で、主査代理を務める地震予知連絡会会長の大竹政和・東北大名誉教授(地震学)は「『残余のリスク』が存在することを、分科会として明確に確認すべきだ」と求めた。

 残余のリスクとは、想定外の地震で原発事故が発生する危険性を指す。大竹名誉教授は、現指針に「想定されるいかなる地震も大きな事故の誘因とならないよう十分な耐震性が必要」とあることを取り上げ、「『想定されるいかなる地震でも』であり、想定外の地震には全く言及がない。想定外の地震の概念そのものが欠落していると言ってもいい。想定外の地震の可能性を100%否定するのは極めて困難だ」と指摘した。

 議論の末、「残余のリスクは、これまでの議論で存在が確認されているということが共通の理解」とされた。想定外の地震で原発事故が発生する危険性があることが、公式に確認されたのだった。

   ■   ■

 地震によって原発事故が起きた場合の被害想定は全く実施されていない。毎日新聞が今年3月、原発が営業運転中の12道県を対象に、地震の被害想定に原発事故を含むか▽地震によって原発で大事故が発生した場合の防災計画を定めているか−−を尋ねたところ、地震によって原発事故が発生した場合の被害を想定している自治体は一つもなかった。被害想定は防災対策の大前提となる。国も東海地震などの被害想定では、原発事故は考慮していない。

 「事業者が想定される最大の地震を考慮して設計し、国の審査で信頼性が確保されている」(愛媛県)のように、地震で事故が起きるとは考えていないことが理由だった。

  ×  ×  ×

 スマトラ沖大地震や福岡沖玄界地震など想定外の地震が相次ぎ、「原発震災」に対する不安の声も出る中、原発の耐震性や防災体制を検証する。<2面につづく>(次回から2面に掲載)
毎日新聞 2005年5月23日 東京朝刊

■原発震災:
「想定外」への備え/1(その2止) その時「被害は100倍」

 <1面からつづく>

 ◇あいまいな防災計画

 「大地震によって原発事故が起きて大量の放射性物質がまき散らされると、地震災害と放射能災害が相互に増幅しあって破局的な災害になる」

 「原発震災」という言葉を97年に最初に使った石橋克彦・神戸大教授(地震学)は、その恐ろしさを訴える。「原発が地震で被害を受けることによって、震災の状況が根底から変わってしまうことを知ってほしい。1プラス1の被害が2ではなく、20にも100にもなってしまうだろう」

 しかし、国、自治体とも地震で原発事故が起きるケースを前提とした防災計画は用意していない。

 防災計画には、地震が対象の震災対策編や、通常の原発事故に対応する原子力災害対策編などがある。原発が営業運転中の12道県への毎日新聞の調査では、8道県が「ない」と回答し、他の4県は「ある」などと答えた。しかし、いずれも「原子力災害対策編で対応する」などと説明し、内容は変わらない。

 東海地震の切迫性が指摘される静岡県は地域防災計画で、東海地震の警戒宣言が出た場合は「浜岡原発は、電力の需給状況を勘案しながら運転を停止する」と定める。しかし、東海地震が予知できるとは限らない。

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 自治体の防災計画は、国の防災基本計画が基になっている。同計画でも地震による原発事故への対応は定めておらず、内閣府も「原子力災害対策編で対応する」と説明する。

 防災基本計画の原子力災害対策編によれば、大規模な事故が発生した場合、自治体は住民に屋内退避や避難の指示などをする。一定の基準を超える放射性ヨウ素が放出されたり、その恐れがある時には、放射性物質の甲状腺への蓄積を防ぐため、住民へのヨウ素剤配布や服用指示をする。

 住民への情報提供については、「ニーズを十分に把握し、原子力災害の状況、安否情報、医療機関などの情報、農林畜水産物の安全性の確認の状況など、周辺住民に役立つ正確かつきめ細かな情報を適切に提供する」と規定、広報車やインターネットを活用し、報道機関の協力も得る。必要に応じ、電話相談窓口も設置するという。

 一方、国は必要に応じて緊急被ばく医療派遣チームを現地に派遣。都道府県も医療班や救護班を編成し、医療活動にあたる。消防庁は、被ばく患者の搬送手段を優先的に確保する。自治体や電力会社も広域応援協定などに基づいて応援体制をとることにしている。

   ■   ■

 「これでは、地震で発生する原発事故への対応としては不十分」。廣井脩・東京大大学院教授(災害情報学)は、国や自治体の対応の致命的な欠陥を指摘する。

 原発が壊れるような大地震の場合、交通・通信は寸断し、多数の建物が倒壊しているのは確実。廣井教授は「今の計画は、支障が生じているのは原発だけで、道路もライフラインも通信も生きているという前提で作られている。地震で周囲がすべて破壊された中で、計画通りに実行できるとは限らない。原子力災害対策編の中に、地震時の対応を入れる必要がある。これまでは『原発は地震がきても大丈夫』という建前があったが、たまたま被害が出ていないだけと考えた方がいい」と提言する。【鯨岡秀紀、中村牧生】=つづく
毎日新聞 2005年5月23日 東京朝刊


■原発震災:
「想定外」への備え/3 浜岡、突然の耐震補強

 ◇「真下で」ぬぐえぬ不安

 「真下にアスペリティーがある場合を検討しなくていいのでしょうか」

 今年2月、東京都内で開かれた土木学会と日本建築学会の共催による巨大地震対策のシンポジウム。中部電力土木建築部の担当者が、東海地震の想定震源域の真上にある浜岡原発(静岡県御前崎市)で予想される揺れに関して発表すると、若い研究者が質問した。

 東海地震は、陸のプレート(岩板)とその下に潜り込むフィリピン海プレートの境界で発生するが、特に強く密着している部分をアスペリティーと呼ぶ。強い揺れを引き起こし、その位置は被害想定にも影響する。国の中央防災会議の専門調査会が東海地震の想定に使った震源モデルでは、浜名湖付近など6カ所に置いたが、浜岡原発直下には想定していない。

 シンポの発表は、このモデルから新手法で予測した結果、浜岡原発での揺れの加速度は、同原発の耐震設計に用いた600ガルを下回るとの内容だった。研究者ら約100人が見守る中、発表した担当者は質問に「(アスペリティーの位置については)専門調査会の議論で根拠は示されている」と言葉少なに答えた。

 国の想定では、浜岡付近の揺れは395ガルだが、アスペリティー直上の地域は1000ガル近くに達するとの結果が出ている。中部電力はアスペリティーの位置について、「国の想定した場所以外にはないだろうと考えている」と説明する。

 しかし、専門調査会の委員を務めた入倉孝次郎・京都大副学長は「これしかないとは思っていない。中部電力にも、アスペリティーをより近くに置いてみるなど、浜岡原発に影響が大きい置き方を検討する必要があると申し上げている。想定は特定の地点の防災を考えたものではなく、中部電力が自ら計算すべきだ」と指摘している。

   ■   ■

 中部電力は今年1月、突然、浜岡原発を1000ガルまで耐えられるよう耐震補強すると発表した。屋内機器基礎部の改造などで、同社は「安心感を高めるために補強実施を決めた」と説明する。

 だが、1000ガル以上の地震が発生しない保証はない。社民党の福島瑞穂党首の質問主意書を受け、政府が03年11月に出した答弁書によると、03年5月に宮城県沖で発生したM7・1の地震では、同県牡鹿町(現石巻市)で1112ガルを記録。同社も「(1000ガルを超える地震が起きないかどうかは)分からない」という。

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 浜岡原発の耐震性への不安の声は、広がりをみせている。村田光平・元スイス大使らが中心となり、12の市民グループなどが参加した「原発震災を防ぐ全国署名連絡会」(庄司静男会長)。稲盛和夫・京セラ名誉会長や梅原猛・国際日本文化研究センター顧問など、多くの著名人が賛同人に名を連ね、先月には即時停止を求める約55万人分の署名を小泉純一郎首相などに提出した。

 国の「原子炉立地審査指針」は冒頭で、設置場所の条件として「大きな事故の誘因となるような事象が過去になかったことはもちろん、将来も考えられないこと」と明記する。大地震も当然「事象」の一つだ。

 東海地域では過去、巨大地震が繰り返し起き、国は次の発生も切迫しているとして、優先的に地震対策を進めてきた。それでも国は「浜岡は指針に抵触する場所ではない」と説明する。【鯨岡秀紀、中村牧生】=つづく
毎日新聞 2005年5月25日 東京朝刊


■原発震災:
「想定外」への備え/4止 指針見直し、議論暗礁

 ◇検証ないまま53基運転

 阪神大震災直後の95年2月、新聞各紙に旧通産省資源エネルギー庁の広告が載った。「活断層の上には作らない」「最大の地震を考慮した設計」など、原発の安全性を強調する説明が並ぶ。構造物への震災の影響がまだ解明途上の中、いち早い「安全宣言」だった。

 想定外の被害が相次いだ同震災。鉄道や道路などの耐震基準は次々と見直されたが、原発の耐震指針は違った。原子力安全委員会の検討会は同年9月、存在が知られていた活断層が震源だったことなどから、“想定内の地震”と位置づけ、「指針の妥当性が損なわれるものではない」との報告書をまとめた。

 指針は原発ごとに、(1)周辺で想定される最大の地震(2)未発見の活断層による地震に備え、原発から10キロの地点で起きるマグニチュード(M)6・5の地震−−の大きい方に耐える設計を求める。阪神大震災は(1)に含まれるとの判断だった。

 しかし、00年10月、活断層が未確認の地域で、阪神大震災と同じM7・3の鳥取県西部地震が起きた。今度は“想定内”とはできず、同委員会は01年7月、ようやく耐震指針検討分科会で指針見直しに入った。

   ■   ■

 それから間もなく4年。焦点の想定外の地震への対応として、確率論的な耐震性評価法の導入が検討されているが、議論がまとまる見通しは立っていない。

 確率論的な方法は、想定を超える地震まで含めた地震の発生確率と、原発が地震で壊れる確率から、「地震で事故が起きる確率は年100万分の1」のように耐震性を評価する。事故の危険性が十分に低いことを証明して安全性を確認する。

 今年2月の分科会では委員の亀田弘行・京都大名誉教授(耐震工学)が「国民に対する説明力と情報の透明性が非常に重要だ。ブラックボックスになっていて、安全だよといくら言っても説得力を持たない」と指摘し、数字で具体的に安全性を説明できる確率論的な方法の導入を求めた。

 しかし、この会合で同委員会事務局が示した「中間とりまとめ案」は、第1段階では確率論的な方法を指針に盛り込まずに参考情報とし、第2段階で本格的に導入して重大事故の発生確率が基準を上回った場合は運転を許可しないとした。事務局は「確率論的な方法は技術的に未確立」との立場だからだ。

 これでは当面、事故の確率が高い原発も運転を継続できる。「第2段階に至るスケジュールは」と問われると、事務局は「見通しは申し上げられない」と回答。委員からは「問題の先送りに終わるのではないか」との批判が続出し、議論は再び暗礁に乗り上げた。

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 原発の安全評価を巡っては、国際的には確率論的な方法の導入が主流となっている。分科会でも以前は、導入を前提とした審議が続いてきた。

 しかし、昨年11月、独立行政法人原子力安全基盤機構の国内3原発をモデルにした試算で、最も高い浜岡原発では地震による事故の発生確率が40年間で約2%との結果が明らかになると、事務局は導入に消極的な姿勢を示すようになった。ある幹部は「電力会社は点数をつけられるのを嫌がる。どの原発が危ないか分かってしまうから」と漏らす。

 想定外の地震に対する安全性を検証する指針もないまま、営業運転を続ける53基もの原発。原子力安全委員会の上原哲事務局長は「何か起きた時に責任を取れない。9月までには指針案をまとめたい」と話している。【鯨岡秀紀、中村牧生】=おわり
毎日新聞 2005年5月26日 東京朝刊


(14:32)

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