March 12, 2006
高砂やこの浦船で死出の旅
遂に執心人は目覚める。
こう こう こう
二上山上、一途な思いを古代の月は照らし出す。
我が折口信夫への憧憬やみがたく、川本喜八郎のオマージュ、エキプ・ド・シネマ148回ロードショー『死者の書』を岩波ホールにて見る。
ルネ・クレールやアンドレイ・タルコフスキー、ルイス・ブニュエルに狂喜した若き日の感傷が、甘く胸を焦がす。
人形アニメーションとしての完成度の如何は知らない。パンフレットの赤川次郎の言を借りれば、
これは決して「分かりやすい」映画ではない。あえて分かりやすくしなかったところにこそ、作者のこだわりがある、と言うのが正しいだろう。
折口の原作は、つとに傑作の名を恣にするが、現代人には最も読み通しにくい作品の一つだろう。
実作による万葉人の現前。
十年前、熊野に旅して、光り充つ真昼の海に突き出た大王ヶ崎の突端に立つた時、遥かな波路の果に、我が魂のふるさとのある様な気がしてならなかつた。<中略>此は是、曾ては祖々の胸を煽り立てた懐郷心の間歇遺伝として、現れたものではなからうか。
あまりに有名な、この実感が共有できる者こそ、近代知を乗り越え、救済されるに違いない。あとがきに代えた『山越しの阿弥陀像の画因』はそう読むことが出来そうだ。
した した した
神楽坂下、念願の牛込中町蕎麦の膳たかさごをふらり訪問。
主張し過ぎぬ佇まい(写真左)は、御主人宮澤佳穂さんのお人柄とお見受けする。
昼下がりの店内はゆるるかに時が流れ、奇を衒わぬ生粉打ち蕎麦の、きりりと角の立った粋な艶やかさときたらどうだ。
甘やかで、優しいかえしは、甘汁に滋味をもたらし、鴨せいろう(1365円・写真右)にふくよかさをもたらす。
おかげで恐らく、今日の映画が消化不良になることもなかろう。
いっそNHK文化センターで宮澤氏に師事するか!?