僕はもうタバコを吸わなくなって15年くらい経つが、吸っていた頃は例によって100円ライターを使っていた。買うこともあるし何かの景品でもらうこともある。使い捨てとはいえ実際にはかなり長く使えるので、特にライターに拘りがあるわけではない愛煙家には重宝な道具だ。ところが、この9月からレバーを重くするか、二段階の操作をしないと点火できなくする『チャイルドレジスタンス(CR)機能』の実装が義務づけられたらしい。
これというのも100円ライターを使った子供の火遊びで火事が発生するなどの事故が多発し、子供が簡単に火をつけることができるような道具がその辺に転がっているのがよくないといういつもの議論になったからだ。火をコントロールすることは人類が身につけた最も基本的で重要な技術のひとつであり、自在に着火できる道具はその最先端であるはずなのだが、どうも簡単に火がつくというのは今ではあまりいいことではないらしいのだ。
長い歴史の中で我々人類がせっかく獲得した英知を自ら捨て、不便を耐え忍ばねばならないほど我々は愚かなのか。たぶんそうなのだろう。眼前の危機に対して理性や知性で対応することができず、物理的に「火をつけにくくする」という、進歩とは逆の方向で即物的に対応するしかないということは、我々の文明が衰退し始めていることを意味する。確かに100円ライターすら管理できない人類に原子力を制御するのはムリなのかもしれない。
便利な道具に弊害があるからといって、道具の方を不便にしてしまえという発想には毎度感心するしかない。子供の手の届くところに無造作にマッチやらライターやらを放置しておく親や、火遊びの危険性をきちんと子供に説明して禁止することのできない親のおかげで、僕たちがタバコやキャンプ・ファイアに点火するのに毎回毎回余計な手間をかけさせられるのはうんざり。だいたいライターがなくたってマッチがあれば簡単に火はつく。