2015年10月22日

強度のある建築のかたちについて

建築ツアー初日の最後は「境港マリーナホテル」であり、この日の宿泊場所でもある。恥ずかしながらこの建築のことはツイッターでの友人から教えて貰って初めて知った。その勢いのある出で立ちから菊竹清訓氏の若かりし頃の作品かと思いきや、実は結構後期のものであることを帰ってきてから知った。建築はシリンダー状の宿泊部分に、空中のピロティによって持ち上げられた正方形ボリュームが乗る、というもの。お世辞にもプロポーションが良いとは思えないのだけれど、内藤廣氏が「菊竹清訓巡礼」の帯でコメントしていた「太古の記憶と超近代。魂を揺さぶる形の秘密」という言葉を思い出した。プロポーションの良し悪しというような評価ではない建築、古代の神を祀る神殿のような、あるいは未来都市をイメージしたような、時間を超えた建築の姿だ、というのが一番最初の印象。

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階はエントランスロビー。かつてはこのようなホテル機能が求められたのだろうな、と思い起こさせる時代の痕跡があちらこちらにある。決して高いわけでない天井に、不釣り合いなほど大きなシャンデリアがあったり、待ち合わせや打合せに使ったのであろうソファやテーブルセット。お土産物や名産なんかを販売していたであろう売店など、現代のホテルではあまり見られないような設え。しかし何と言ってもこの建築の特徴は、円形の平面形状の中心の階段とEVを設置し、周囲をぐるっと客室が巡る平面計画だろう。EVを下りて目的地へ向かおうとすると、右回りか左回りか。仮に間違えたとしてもいつかは辿り着く平面。しかも廊下は完全は円弧ではなく直線の組み合わせでできていて、あるところは狭く、あるところは広がったりして単調さは全くない。僕の部屋は街側の部屋だったけど、東側だと海が見えてさぞかし良い眺めだっただろう。各室からいろいろなビューが楽しめるのも円形平面の特徴だろう。

ロビー・客室は
4階まで。5階は空中のピロティ部分でこちらはレストランフロア。あいにく僕は食事をこのホテルでできなかったからどのような空間は体験できなかったんだけど、高い階高で360度開けた空間は、客室フロアとは全く違ったものだったろう。そして6階は宴会や会議・集会のスペース。こちらが正方形平面の部分。そして実はこの建築、分かりづらいけれど7階や8階もあって、そこは結婚式場やその控室・写場になっている。このようにありとあらゆる機能を持ちながら、すごくコンパクトに、そして力強い形態にまとめられている。

最初に書いたように、この建築には一般的な建築のプロポーション的な意味の形態の美しさ、というものはない。しかし様々な機能をひとつの形としてまとめあげる腕力もすさまじい。最近よく思うことがある。形の珍しさや端正さというのはインパクトはあるけれど、美しさの耐久性というのもは薄いのかもしれない。端正さや洗練された形態も究極的なところまでいけば充分時間を超える強度を持ちえるのだろうけど、中途半端なものはあっという間に消費されてしまう。しかしその中でもこの建築をはじめとして、菊竹氏の建築には消費されない建築の力強さがあるように思う。この違いは何なのだろう。



sttts
posted at 23:59

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