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2025年01月11日発行
柳画廊

『アートの力』

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       今の美術業界を考える(その1066)

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アートの力              2025年1月11日
美的実在論 マルクス・ガブリエル著 大地惣太郎 訳
                        堀之内出版

尊敬する経営者の先輩と新年にお食事をさせていただいた時に、
「最近、哲学にはまっていて、マルクス・ガブリエルの本が面白
いよ。」と勧められたので、日本橋図書館に伺い、マルクス・
ガブリエルで検索すると、なんと「アートの力」というタイトル
の本がありましたので、拝読させていただきました。

その方は、まだアートに対しては少し距離を置いていらっしゃる
ようですが、哲学に興味があるとのことですので、きっと近い時期
にアートに興味を持たれていると思っています。

さて、このマルクス・ガブリエル氏は1980年生まれのドイツの
哲学者で29歳でボン大学の正教授に就任された秀才です。現在、
44歳の働き盛りで、20歳の時にユーロの統合を経験されており
ますから、時代の影響を大きく受けていらっしゃると思います。
ヨーロッパの中でも特に、特にドイツにおけるアートの位置づけは
非常に重要なものであり、それはマルクス・ガブリエル氏の言葉
からもひしひしと伝わります。

特に、この著書の中で「アートと権力」という章がありますが、そ
こで、彼は次のように述べています。
「アートは無道徳的であり、無法的であり、無政治的である。した
がってアートの力は絶対権力なのだ。」
日本では、影響力のある立場の方がこのような発言をされるのを拝見
したことがありません。非常に驚きました。

さらに、彼にとってアートは哲学であり、人間を人間たらしめるもの
が哲学であり、アートであると語っています。私もそこの部分には
大いに賛同しています。私の認識からすると、現代のように科学技術
が進んだ時代において、ギリシャ時代から哲学という概念があり、
その中に芸術も含まれており、哲学から科学や数学、物理など
が独立して巣立っていき、アートというものは私の理解では美的な
ものを内包して巣立ったのだと思っています。今の時代における
現代アートの中で、とくにコンセプチュアルアートと呼ばれるもの
は、かなり哲学と近い存在だと感じています。

私にとってアート、ならびに芸術というものはもっと五感で感じる
ことの出来るもので、頭ではなく身体と心で感じるものだと思って
います。

改めて、この本を拝読することでヨーロッパにおけるインテリジェ
ンスの方々が、この考え方に大きく影響を受けていることを理解する
ことができ、とても勉強になりました。
 
              
                       文責  野呂洋子
                       銀座柳画廊
                       http://www.yanagi.com
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