伊藤潤二先生の漫画「怪奇カンヅメ」を読み返す。

  • author: su_da_chi
  • 2006年04月12日

怪奇カンヅメ


「怪奇カンヅメ」伊藤潤二・著 朝日ソノラマ・刊を読み返してみた。
一部で結構盛り上がっている、某○んか社の雑誌「ホラー○」の新人さんがパクって新人賞を受賞した疑惑のある(リンク先は「痛いニュース(ノ∀`)」さん「【マンガ】伊藤潤二の丸パクリで新人賞受賞」)パクられた作品「なめくじ少女」が収録されている漫画である。(ちなみに○んか社はパクりを完全否定したという話ではある。要するに編集者の勉強不足か?)
実際のパクッった疑惑のある作品は立ち読みで目を通したものの、何というか、新人さんで技量がないと感じるのは仕方ないものの、逆に伊藤先生の優れた部分を際立たせているように感じた。

なので、この漫画では「なめくじ少女」は2番目に収録されているものの、こっちの感想からまずとりあげてみる。
この作品を当時読んだ時は、絵柄のインパクトと生理的な気持ち悪さが先行して、伊藤先生の奇抜な発想の物語が好きだった私は、それほど好きな作品ではなかったのだが、こうやって改めて、劣化コピーを読んだ後に読んでみると味わい深いものがある。
まず語り部の存在が大きい。
当事者である夕子はもちろん父親母親ともに巻き込まれている中、淡々と客観的に語るナレーションは、この夕子に起こった現象の原因も、結果も対応も、すべてが当事者でない分、その後の語られない部分への想像力を掻き立て、よく伊藤先生について語られるように「得体の知れない不気味な不可思議さ。不安」が伝わってくる。
絵もまがまがしく不気味で全体に暗いじめっとした感じが出ていて良いね。生理的に気持ち悪くて嫌いだった私の当時の感覚は、今もしっかり再現されている。
このへんまではさすがに新人のコピーでは表現できないな、と当然のことながら思った。

その他この本への収録作品の簡単な感想をば。
「仲間の家」...これは幽霊屋敷と狂信的なかつての学生運動家達の幽霊、そして女子高生三人組の友情の話。幽霊が怖いというのは大前提ではあるものの、実際ここで描かれているのは、女子高生の脆い友情と、狂信的になってしまうまでの情熱、おそろしい人間の執念が描かれている。これも終わり方、引っ張り方がうまいなぁ〜...
「隣の窓」...これ、この本買った当時から大好き 。このモンスターじみたお隣さんが淵さんを思い出すせいかもしらんけれど(笑)
人間の執念が物理的な物にまで影響してしまう、おそろしいまでのインパクトのある話。これオススメ。
「漂着物」...これも好きだなぁ〜。途中の偶然であった二人が、海に対して感じる違和感というか不思議な感覚もどこか何だか自分にもあるような感覚で心地よく思っていると、大きく伊藤先生の作り出した仕掛けに落とされる、このラスト。これもオススメ。
「ご先祖様」...これは微妙...いや、好きかも?(笑)このインパクトと、この発想はどこから来るんだろう???とド肝を抜かされる作品(^^;これは一歩間違うと笑っちゃうような世界観なんだけれど、怖い。そりゃ理沙ちゃんも記憶亡くしますわな...
「異常接近〜ニアミス〜」...これは「本当にあった〜」風の話。なのであまりインパクトがあるわけではないのだが、伊藤先生の描く影のあるうつろな顔は本当に不気味です...
「怪奇ひきずり兄弟 次女の恋人」「怪奇ひきずり兄弟 降霊会」...私自身は伊藤先生のような正統派ホラーが好きだったものの、この当時は「モンドホラー系」(って言ってたよね?)のちょっと笑えるホラーギャグ漫画が隆盛を誇っており、それに伊藤先生も乗っかって描かれたのかな?というような...まぁホラーテイストのギャグ系の話です。伊藤先生はお好きでなかったのか、はたまた掲載されてた「ハロウィン」が休刊になって機会を失われたのか、この2作しかひきずり兄弟シリーズはない。
わりと好きだと言う人もいるので、もしももう少し描いていらっしゃったら、双一君シリーズの対抗馬になってたかもしれません(私はやはり淵派ですが...)

しばらく本棚で読み返してなかった伊藤先生の名作群ですが、まぁあまり嬉しい事件ではないですがこれをきっかけにでもまた少しずつ読み返して行きたいものです。
伊藤潤二恐怖マンガCollection (7)

伊藤潤二恐怖博物館 (8) (ソノラマコミック文庫)

「なめくじ少女」は上記書籍でも読めるらしい
(「恐怖博物館」はざっと調べたので違ってたらごめんよ)

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