2008年05月24日
書籍「論理は右手に」読了。

論理は右手に
- フレッド・ヴァルガス、藤田 真利子
- 東京創元社
- 861円
書評/ミステリ・サスペンス

書籍「論理は右手に」フレッド・ヴァルガス・著 藤田真利子・訳 東京創元社・刊を読了。
これも本が好き!プロジェクトからの献本です。
この小説はフランス産ミステリということで、先に読んだ方々が翻訳が独特で読み辛いとか、登場人物の名前が馴染み辛いとか、あれこれ言われていたので覚悟してたんですが、私はそんなでもなかったですよ?
名前に関しては翻訳物すべてで私がつまずくので、これに限ったことではない、というのはあるかもしれませんが(^^;
むしろケルヴェレールとかヴァンドレスールとか奇妙な響きが心地よかったりします。(ちなみに私、「寿限無」言えます。)
ただ、確かに、登場人物達それぞれが、あれこれウジウジグダグダと考え事をしていたりするので、そのへんが時々うざったいと思わないでもなかったですが、個人的にはそれがあって面白い面が多かったです。
特にマルクが、強制されもしないのに自ら動き出すくだりはこのウジウジグダグダがたまらなく魅力的に感じました。
こういう損な役回りの人って案外いるもので、大概こういう風にグダグダ考えすぎてこんがらがってスッキリするために不本意ながら動いちゃったりするもんです。こういうのが非常に説得力がある。
話自体は、推理物、ミステリというよりは、何となくハードボイルド物っぽいのかな?という雰囲気。
一応三聖人シリーズ第二弾ということなんですが、主役は三聖人(貧乏下宿の三人組。第一弾は未読です☆)ではなくて、内務省をクビになった<ドイツ人>ことルイ・ケルヴェレールで、三聖人のうちマルク(愛称・聖マルコ)が彼の下でアルバイトしていたせいで事件に巻き込まれ、さらにマティアス(愛称・聖マタイ)が協力する、という形。今回はもう一人のリュシアン(愛称・聖ルカ)は、ケルヴェレールに妙な興味を持ちそうなので外されている。
この「シリーズ」ではケルヴェレールが中心でないせいか、「この話」では、いきなりケルヴェレールの得体の知れなさが際立っている。内務省の役人でなくなっても、あらゆる情報を収集し続けていたり、名前はルイなのにルドヴィックと呼ばれても、ドイツ人と言われても、気にせず(しないふりをし)先祖の話をされても常にはぐらかしている。
このへんが、単にハードボイルドっぽくしてるのかな?と思っていると、実は後半で明らかにされる。彼が情報を収集し続けた理由、彼の出生の秘密などなど...これが驚くべきタイミングで明らかにされる。
唐突に感じられた展開ではあるけれど、隠された謎、怪しい人物の隠しているものが必ずしも今探している一つではないという事実が面白い。
ケルヴェレールの恐るべき根気の良さと粘り強さ、運の良さが光ります。
この物語は、犬の糞から人骨が出てきたという事実から、誰も気にせず埋れてしまったであろう事件を掘り起こし、そしてあれよあれよと複雑に絡み合った事件の真相、さらには副産物を掘り出していく。
それはたった一人の元内務省職員の正義感(ここは議論の余地はある)と、中世の歴史学者の純粋な探究心。
彼らが動かなければ消えていた事実がこれほど複雑であったという仕掛けも実に見事。読み終えて振り返ると、かなり複雑な内容。
現在のマリーの死の真相と、それの大元になった過去の事件の真相、そしてケルヴェレールの出生にまつわる事件、フランスとドイツの間にある過去。
フランス人とドイツ人のハーフであるケルヴェレールの出生の影には歴史の悲劇が存在する。彼のライフワークに手を貸すのが歴史学者で、三聖人のうちの2人(専門は古代と中世)というのも面白い趣向かも。
ケルヴェレールは救いを求めているわけでもなく、ただ事実を確認し、敵を骨抜きにするのだけを目的とする。そこには、学術的な魅力や見方は一切不要、自分に連なる過去の事実を見つめる冷徹さのみを携える。埋れた歴史を掘り起こしながらも、それを公にせず、埋れたままにしておく。
これが歴史家ではなく、元内務省調査員としてのケルヴェレールの、決定的な三聖人との違いだろう。
この事件は彼の問題なのだ、ということが強く出ている。
舞台は排他的な田舎町、登場人物も、タイプライターの収集家や無気力な妻、用心深い村長、村長の座を狙う男、ケルヴェレールがかつて愛した女性、金満家のその夫などなど一癖も二癖もある人達。彼らとマリーを巡る複雑に絡みあった関係。
ちょっと込み入った物語ではあるけれど、そこに張り付くように動くケルヴェレールと、渋々それに協力するマルクの対比が実にコミカルで暗くなりがちな描写を明るく引っ張ってくれる。
あとは、あまり役に立ってなさげなヒキガエルのビュフォと、さらに不思議な託宣の機械などが独特のアクセントになっていて気に入った。
話自体も複雑で読み応えがあって良いのだが、こういうさりげない息抜きの要素が散りばめられているので肩の力を抜いて読み進められた。
本来はケルヴェレールがこんなに活躍するシリーズではないようですが、こういう雰囲気と魅力を持つ作品群であるなら、また第一弾から読んでみようかなと思います。
- 共通テーマ:
- 翻訳もの テーマに参加中!
