【人界観望楼】日本は70年前の負の遺産から逃れられない MITシニアフェロー・岡本行夫
2015.7.27 09:10産経新聞
1週間前、ロサンゼルスで、ある日本企業が米国の元戦争捕虜たちに謝罪し、和解した。戦争中に900人の捕虜を劣悪な環境で強制労働させたことへの謝罪だった。私もその企業の社外役員としてその場にいた。感動的であった。

95歳になる捕虜団体の代表者が頭を下げた。「私が日本人に頭を下げるのは2度目だ。最初は70年前。頭を下げなければひどく殴られたからだ。きょう頭を下げるのは、謝罪にきてくれた日本人の勇気に敬意を表するためだ」と。(中略)

日本は「強制労働」について中国と韓国から裁判を起こされている。韓国が主張する「徴用工」問題は戦争捕虜問題とはだいぶ性質が異なるが、日本に連れてこられた中国人労働者のケースは、法的整理は異なるが、戦争捕虜と類似している。

謝罪だけを求めた米国戦争捕虜と異なり、中国人労働者の遺族たちからは金銭的要求が出されているので、そのぶん解決は容易ではないが、既に裁判となっており、不誠実な対応はできない。

「価値の外交」を標榜してきた日本である。安倍首相の米議会演説は見事であった。戦争捕虜問題を含めて、日本は70年前の負の遺産から逃れられない。国家は、モラルを失えば漂流する。
http://www.sankei.com/column/news/150727/clm1507270007-n3.html

岡本行夫氏は三菱マテリアルの社外取締役でもあります。氏は、安倍首相の70年談話の有識者委員でもあります。

三菱マテリアルは19日、前身である三菱鉱業が第二次大戦中に旧日本軍の捕虜になった米国人に強制労働をさせたとして、米ロサンゼルスで元捕虜と遺族らに謝罪しました。(「
三菱マテリアル:強制労働の元米国人捕虜に謝罪 大企業初」毎日新聞2015/7/20)
岡本行夫
この時、中韓への謝罪を問われた木村常務は、「係争中の案件のコメントは控えたい」と述べるにとどめた、と報道されています。

ところが、社外取締役の岡本氏が、22日東京で海外メディアに対して以下のような発言をしたと中国メディアが報道していました。(ソ-スは米AP通信とある)

三菱、元中国人労働者に謝罪の意向
2015年07月24日13:54 人民網日本語版 
三菱マテリアルの岡本行夫・社外取締役は22日、第二次世界大戦中に強制労働をさせた側として、元中国人労働者の生存者と遺族に対して謝罪の意を示したいと述べた。同社高層部の数人は19日、同じように第二次大戦中に強制労働をさせたとして、元米兵捕虜に謝罪した。

三菱マテリアルは、終戦から70年が経過し、日本の大企業で初めて、この戦争で犯した罪を認めて陳謝したことになる。新華網が報じた。


AP通信の報道によると、三菱マテリアルの岡本行夫・社外取締役は、東京で22日、「弊社は、第二次大戦中に強制労働をさせた外国人元労働者に対して陳謝する意向を持っている。機会があれば、我々は彼らに直接お詫びの言葉を伝えたい」と述べた。

元中国人労働者について、岡本氏は、「個人的には、強制労働をさせられた中国の人々に、深い同情の気持ちを抱いている。使用者として、我々は陳謝しなければならない。彼らは、損害賠償を求めて訴えを起こしており、裁判が進んでいる」とし、賠償金を支払う方針を明らかにした。(中略)

岡本氏は、戦時中に日本の企業が外国人労働者に過酷な労働を強いて、奴隷のように酷使した罪を認めている。「我々は、捕虜や一般民衆に最も酷い仕打ちをした企業のひとつだ。したがって、彼らに陳謝するのは当然のことだ」と、同氏は見解を述べた。
http://j.people.com.cn//n/2015/0724/c94475-8925839.html


三菱マテリアル、強制労働で米国人に謝罪も「朝鮮半島出身者は別」・・韓国ネットで怒りの声「無視された」「日本人の頑固さはギネス級」―中国メディア
フォーカス・アジア 2015年7月24日 17時36分 (2015年7月25日 00時00分 更新)
米AP通信が22日・・・強制労働させた中国人作業員との間でも友好的な解決方法を求めたい」と述べたと報じた。

ただ、朝鮮半島からの労働者については「話は別」とし、謝罪の対象としない考えを示したことから、韓国人の間に怒りが広がっているという。中国・新浪新聞が23日伝えた。

報道によると、岡本氏は戦時中の朝鮮半島からの労働者徴用について、「日本の統治下にあり、日本人と同様、国家総動員法に基づいて労働に従事したものだ」として、中国人労働者とは「話は別だ」との考えを示した
http://www.excite.co.jp/News/chn_soc/20150724/Xinhua_24450.html

常務が「係争中の案件であるためノ-コメント」と言っているのに、その後、社外取締役の岡本氏が上記のような発言をするのはいかがなものか、と思っていたのですが、22日の東京での岡本氏の発言を報道している日本のメディアは見当たらず、正確にどのような文言を用いたのかわかりませんでした。

しかし、今日の産経の記事からすると、中国メディアの報道は、氏の発言主旨から大きく外れたものではなさそうです。果たして、社外取締役とは、このような発言をする権限をもつものなのかどうか・・・?

そして、24日、三菱マテリアルが戦時中の「中国人強制連行」訴訟で和解に動いているという報道がありました。支援団体「中国民間対日賠償請求連合会」が24日、北京で中国メディアを対象に記者会見を開き、明らかにしたものと報道されています。

一方、三菱マテ側は、現時点において決定した事項は一切ないと否定。(
本日の一部報道について」三菱マテリアル2015年7月24日)。

疑問を感じるのは、三菱マテ側が原告団に示したとされる謝罪文の内容です。日経によると、
河北省と山東省で裁判を起こした原告団で構成する「日本に強制連行された中国労働者連絡会」に示した謝罪文だそうです。
(日本語の謝罪文」ということなので、どこかに全文掲載されていないかと探してみましたが発見できませんでした)

戦時中の中国人強制連行 三菱マテリアルが「賠償金」 8月にも和解か
2015/7/24 23:19 日本経済新聞
三菱マテリアルが戦時中に中国人を日本に強制連行し、元労働者らが謝罪と損害賠償を求めて中国で訴訟を起こしている問題で、元労働者側の支援団体は24日、同社と8月にも和解するとの見通しを明らかにした。同社が示したとする「謝罪文」を公開し、被害者1人当たり10万元(約200万円)の賠償金支払いで基本合意したと説明している。

支援団体「中国民間対日賠償請求連合会」が同日、北京で中国メディアを対象に記者会見を開き、謝罪文を公開した。中国の通信社、中国新聞社(電子版)が伝えた。河北省と山東省で裁判を起こした原告団で構成する「日本に強制連行された中国労働者連絡会」に示した謝罪文だという。

謝罪文は日本語で、三菱マテリアルの前身の企業が「3765人の中国人労働者に劣悪な条件下で労働を強いた。722人が亡くなった。労働者と遺族に謝罪の意を表する」と表明。賠償のための基金設立や記念碑建立に同意したとしている。

同連合会の童増会長によると、三菱マテリアルは1人当たり10万元の賠償金支払いに応じる考え。両者は2014年6月に和解交渉を始め、謝罪や賠償などの条件で基本合意に達したという。

三菱マテリアル広報・IR部の話 係争中の案件につきコメントは差し控える。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG24HBZ_U5A720C1CR8000/

強制連行訴訟:三菱側が和解案 中国原告に1人200万円

毎日新聞 2015年07月25日 22時32分
・・・中国国営新華社通信は24日、和解について「成立すれば、日本企業が第二次世界大戦中の中国人被害者に謝罪する初の事例になる」と伝えている。

中国側の訴訟関係者によると、和解案で三菱マテリアルは「第二次世界大戦中に約3万9000人の中国人労働者が日本に強制連行され、弊社の前身の三菱鉱業やその下請け会社がその一部の3765人の労働者を事業所に受け入れ、劣悪な条件下で労働を強いた」とし「この間に722人という多くの中国人が亡くなった」と書面で説明。
当時の使用者としての歴史的責任を認め、中国人労働者及びその遺族の皆様に深甚なる謝罪の意を表する」とした。・・・


◇「請求権問題は解決済み」日本政府維持

日本政府は1972年の日中共同声明で「請求権問題は解決済み」との立場を維持する方針だ。外務省幹部は三菱マテリアルの判断について「各方面と相談したと聞いている。企業の判断を尊重する」と話す一方で「(他の企業から)相談があれば、政府の立場はきちんと説明する。姿勢は一貫している」と述べた。

政府が懸念するのは、同様の訴訟が広がることだ。政府筋は「中国当局はこれまでは労働者側に極力提起させないなど比較的抑制的に対応してきたが、今後も同様の対応を続けるのか慎重に見ていく」と語った。
http://mainichi.jp/select/news/20150726k0000m030103000c.html

中国人強制連行和解へ 三菱マテリアル、3700人に謝罪金
2015年7月24日(北京、東京・共同)
・・・関係者によると、和解合意案で三菱側は第二次大戦中、日本政府の閣議決定に基づき日本に強制連行された中国人労働者約三万九千人のうち三千七百六十五人を三菱マテリアルの前身企業とその下請け会社の事業所に受け入れ、労働を強いたことで「人権が侵害された歴史的事実」を認めた

その上で、被害者と遺族に「痛切な反省」と「深甚なる謝罪」を表明。謝罪金のほか、記念碑建立費一億円、行方不明の被害者らの調査費二億円を支払うとした・・・
http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2015072402000075.html

果たして、三菱マテリアルという一企業が、「日本国が戦時中3万6千人の中国人労働者を強制連行した」と認めることは可能でしょうか?

本当にこのような和解案で合意しようとしているとしたら、ゆゆしきことだと思います。

日本国民の諒解もなく、このような文言を謝罪文に入れることに対して、「企業の判断を尊重する」という「外務省幹部」だとか、”「中国当局はこれまでは労働者側に極力提起させないなど比較的抑制的に対応してきたが、今後も同様の対応を続けるのか慎重に見ていく」と語った” 「政府筋」、(=今頃、中国側の変化に気づいて「慎重に見ていく」と発言する「政府筋」)とか、危機感なさすぎじゃないでしょうか。

そもそも「強制連行」などという言葉は真っ当な言葉ではありません。三菱で中国人が労働するにあたっては、契約も斡旋業者も存在しました。確かに労働は過酷だったかもしれませんが、給料を払っていないわけでもありません。
岡本氏は朝鮮人徴用工は戦争捕虜とは異なるとして区別されていますが、この和解案が韓国北朝鮮にも影響を及ぼさないはずがありません。

本当に、三菱マテリアルが、「日本国が戦時中3万6千人の中国人労働者を強制連行した」こと明記した謝罪文や、「賠償」という名目の金銭を払うことで和解を模索しているとすれば、看過できることではありません。これはその他の企業や、日本国民全体に影響を及ぼすことなのですから。

岡本氏は、「日本は70年前の負の遺産から逃れられない」と、あたかも日本が戦後70年間まるで何もしてこなかったかのごとき言い方をされていますが、それは事実でしょうか。

1972年、中国は対日戦争賠償請求を放棄しました。

日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明
中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。


千九百七十二年九月二十九日に北京で
 
 日本国内閣総理大臣  田中角栄(署名)
 日本国外務大臣  大平正芳(署名)
 中華人民共和国国務院総理  周恩来(署名)
 中華人民共和国 外交部長  姫鵬飛(署名)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html


なぜ、中国は、賠償を放棄したのか―。
青木直人氏がとてもわかりやすくツイ-トされていました。

ニューズレター・チャイナ (7月7日 )

●中国が抗日戦争70周年を契機に本格的な歴史の改ざん中。

日本側も歴史的事実の整理が必要。

賠償問題は72年の日中国交樹立・共同声明に明記。

「中国側は一切の賠償請求権を放棄する」。

署名したのは周恩来、ゴーサインを出したのが毛沢東。これで賠償請求権は官民ともに消滅。これが事実のすべて


●日本の外務省は「賠償をしていないのだから、援助をすべき」と言い始め、朝日毎日などがこれに乗りかかる。大手新聞の論説委員が私に抗議。「青木さん、日本は中国に賠償金を払っていないんですよ」。

「共同声明にいらないと周恩来が署名しています。知らないのですか?」。

なぜ毛沢東は請求権を放棄したのか

①抗日戦争の当時者は当時の中華民国蒋介石政権であり、こちらとの戦後処理はすでに終わっていたこと
②毛らの最大の敵はソ連であり、69年ソ連は北京に対する核攻撃も計画していた。

●日本側の誤解は中国が日本とだけの和解を求めていたと思っていること。

日中和解は、
①米国、日本との関係改善で対ソ国際統一戦線の形成
②日本と台湾を切り離し、米国との米華防衛条約を無効化させる、これが狙い。

毛は田中角栄に「日本にはソ連、米国、欧州、中国という4つの敵がありますと告げた。

●だから最大の対立点たる「賠償金請求」を放棄したのである

だが最初から法的には請求権はなかった。

中国は対ソ防衛という安全保障を優先し、賠償金という相対的には副次的な矛盾を捨てた。

その理由は徹頭徹尾中国の国益からの判断であり、内的理由である。贖罪派も勉強してほしい。

●この事実は私の「田中角栄と毛沢東」(講談社・絶版)に詳しい。

日中関係は尖閣問題もそうなのだが、日本と中国の2か国間関係に止まるものではない。米国、ロシアなど含む大国間のパワーゲームとして理解すべき。プーチン来日もこの文脈。

毛外交を清算した中国はそれゆえ、靖国、賠償金を言い始めた。
                                       https://twitter.com/NLChina2009


そして、中国は賠償を放棄しましたが、日本はその代わりとして、中国に最大の援助を行いました。援助は形を変えて今でも脈々と続いています。また、日本は謝罪を繰り返しています。
そういったことを一切語ることなく、日本にのみ「負の遺産」を押し付けることを私は容認できません。

三菱マテリアルが中国と、報道にあるような和解を成せば、それは一企業の「誠意ある対応」では済まないでしょう。現在の日本どころか子々孫々、未来永劫、日本は収奪され続ける道を開くといっても過言ではないのではないでしょうか。

岡本氏は、その「歴史的責任」を引き受ける覚悟があるのでしょうか。