ワインの時期になった。この時期になると秋晴れのリスボンで父親の船が戻ってくるのを待ったころを思い出す。航海に出た父は必ずお土産にワインを買ってきたものだ。
それを家族や航海の仲間を集めての食事のときなどに飲んでいるのをよく見た。私はその紅い飲み物を美味しそうに飲む大人を見て羨ましく思ったものだ。
子供ゆえワインを飲むことは許されない。仕方ないので仲間と集まり、こっそり飲んだがバレてしまい、父親に担がれてリスボン沖に放り出されたものだ。「助けて〜」と何度も叫んだが無駄だった。もちろん私だけでなく、私の仲間も一緒に放り出された。
おかげで秋の海は恐ろしく冷たいというのを身をもって知ることができた。よい経験だ。次の年も同じくワインをこっそり飲んだのがバレてしまい、リスボンの広場の木にロープでつるされた。リスボンではおなじみのあの広場だ。もちろん仲間もだ。リスボンの広場の木からの眺めはとても良い、つるされているときでも良い、ということを実感できた貴重な経験だった。
毎年そんな感じでこっそりとワインを飲み、ばれたりばれなかったり。晴れて成人して堂々と飲めるようになったというわけだ。そういう私が「ワイン祭り」と聞いてじっとしているはずは無い。マルセイユに行くことにする。この提案は船員も大賛成だ。ひさしぶりに意見が一致だ。急遽マルセイユへ向かうことに決定。
リスボンから直ちに出航。途中食料や水を補給するためバルセロナに寄航。そこで偶然EXILLION氏に出会う。氏は腕利きの造船職人で、私が乗っている小型キャラベルの製作者だ。リスボンで私に船をプレゼントしてくれた方だ。交易所で買い物をした。さて、そろそろマルセイユに向かうか、と思っていると氏を発見。ワインが導いてくれたといってもいいだろう。挨拶を交わした後、船の名前を決定したことを知らせることにした。「船の名前が決まりました。」「なんていう名前ですか?」「禿げン・ダッツです」・・・果たしてこの名前で喜んでくれるか心配だ。「船長!きっと喜んでもらってますぜ!」その後、氏の航海の無事を祈り、私はバルセロナから出航した。
それから数日、地中海の静かな海の波の音を聞きつつ航海。無事にマルセイユに到着。港に着くとすぐにワイン職人がいた。駆けつけ3杯。沖に上がったばかりだが、早速ワインをいただくことにする。
「ワインを一杯いただきたいのだが。」
「ワイングラスを持ってきな。好きなだけワインを飲まさせてやるよ」
「なんだってー!」
驚いた。グラスがいるのか。そんな手続きを踏まなければいけないのか。すぐには飲めないのか。私が勝手にすぐ飲めると思っていただけなのだが、なぜかだまされた気分だ。どこにグラスがうられているか。わからない。困った。困ったら酒場だ。酒場へ行く。酒場のマスターに食事を注文。マスターは普段は無口だが、食事や酒の注文をすると打ち解けて話をしてくれる。
なにかいい情報をくれるはず。私が酒と食事をつまんでいると、彼は言った。
「イレーヌはあんたのことを別になんともおもっていないようだな。」
「イレーヌ?誰ですか?」
「うちの看板娘ですよ。そこにいるでしょ。」
横を見ると確かにイレーヌを発見。なるほど。なんとも思っていないのか。しかしそんなこと教えてもらっても困る。その話題はさらっと流した。グラスの情報を教えてくれれば良いのだが。一杯酒飲んだだけじゃ教えてくれないのか。ケチ。私は「もう一杯」と注文した。マスターはまた話をしてくれた
「船の砲は弾薬をつんでなくちゃ何の役にも立たないぜ。」
それは分かっている。過去に失敗してるから。しかし困った。もう一杯頼んだが、
「これ以上飲む必要ないだろ」
といわれたのでがっくりして酒場からでる。情報は集めようが無い。どうしようもない。リスボンに帰ろう。手ぶらで帰るのもさびしいからで道化でもながめてその後帰ろう。道化はマルセイユの名物らしい。たくさんの観客が彼を取り囲むように見ている。子供たちなどは目を輝かせている。彼はピエロの格好で軽快にタンバリンを叩いていた。
ちょうどそのとき近くを通ったEXCLLION氏と再会。グラスを買う場所を教えてもらった。酒場のすぐ近くだ。タダでグラスをくれると思ったら、「5000Dで売りますぜ。」「ううむ。仕方ない。」その後、近くにいた娘に話しかけた。「いよいよ秋到来ね。今年は葡萄が豊作。各地で収穫祭が開かれて、出来立てのワインが振るまれているの。でね、あなたにお願いがあるの。実は私のお父さんは大のワインの愛好家なの。ヨーロッパ各地のワインを集めて、ワインを届けて欲しいの。ここマルセイユのほか、5つの町で売られてるわ。それを集めてもどってきてね」なんだ?クエストか?グラスは手に入れた。リスボンに戻る必要はない。ならばここマルセイユからスタートして、ワイン紀行をするか。明日からワインを求める航海だ。