2009年10月14日
つい先日、おばQ様から『環境方針に関するケーススタディを作ったから下の句を作れ』とお題を頂戴いたしました。
と、いうわけで今回は、その下の句パート1です。
ちなみに、上の句である、ケーススタディはこれです。
http://www.mars.dti.ne.jp/~saitota/top1.htmの、ケーススタディ 環境方針です。
「・・・平目さん、あの環境方針なんですが、社長が『こんなものにはサインできない』というですよ」
山田は平目に報告をした。
「おいおい・・・そんなことじゃぁ困るじゃないか。それで山田君は『はい、そうですか』と引き下がって来たというのかい?冗談じゃないよ。ISOの定期審査までもうそんなに日数がないんだ。サインを貰って、カードを印刷して配付する時間を考えたら悠長なことを言ってられないんだぞ」
平目は困惑したように言う。
「新社長も新社長だよなぁ・・・自分の考えなんかで認証は取れないというのに・・」
平目のつぶやきに、山田は少し間を置いてから唐突に切り出した。
「・・平目さん。そもそもISOって何ですか?」
「へ・・・・?」
平目はキョトンとしている。
「何・・・・ってキミ、ISOはISOだよ。まぁ強いて言うならISO14001は『環境マネジメントに関する国際規格』ってところかな?」
「なるほど。それでその『環境マネジメントに関する国際規格』をすると何かいいことがあるんですか?」
山田が尋ねる。
「変なことを言うなぁ・・・会社が決めたことに良いも悪いも無いだろう。確かにISO14001の取得は先代の社長が決めたことだけど、今更『代替わりするから止めます』という訳にもいかんだろう?一応我が社も『環境に優しい鷽八百機械工業』を謳っているからね」
やれやれ、と平目がため息をつく。コイツは42歳にもなって、何を今頃になって青臭いことを言い出すのやら・・・
「それともうひとつ、大事なことがある。わが社は東証一部に上場しているから、毎年日本経済新聞から『環境経営度ランキング』という調査があるんだ。アンケート形式になっていて、それに対する回答結果から全国順位が毎年、紙面で発表される。・・・わが社は今年10位上がって、156位だったけどね」
平目は少し胸を張った。
「その『環境経営度ランキング』の調査項目にはISO14001の認証取得、という項目もあるんだよ。本社が遅ればせながらISOを取得したのは、その順位を上げるためなんだ。『環境配慮』を掲げる鷽八百機械工業としては、『環境経営度が低い』と見られるわけにもいかないんだ。だからISOの認証は継続する必要があるし、そのためには審査で適合判定をもらわにゃぁならん。そして、それには規格に適合したと審査員から認めて貰える環境方針が必要なんだよ。わかるかい?」
「・・・・お話はわかりました」
山田は軽く頭を下げた。
「そうかい。じゃ、それを社長に説得してみてくれ。なに、私もね、最初に社長のサインを貰うには中々と苦労をしたものだよ。けど、『それでは認証が取れませんから』と粘って交渉した末に何とかサインを勝ち取ったんだ。キミもまだ若いんだから、そういう苦労をしてみるといいよ」
平目はそういうと、ニッコリ笑って山田の肩をポンと叩いた。
次の日、山田は休日を利用して『環境方針』でWEBサイトを検索してみたり、書店でISO14001に関する解説本を探してみた。
WEBサイトで見た、いくつかの『環境方針』は、どれを見てもほぼ同じで、平目が作ったとされる鷽八百機械工業のものと大差はなかった。また、買ってきた幾つかの解説本も読んではみたのだが『環境方針には継続的改善に対するコミットメントが必要です』とか『汚染の予防という言葉が規格によって要求されています』と書かれているだけで、山田の疑念に充分に応えるものには無かった。
だが。と、山田は考えた。
自分の常識で考えれば何かが変だと思う。
例えば自分が営業に居たときには、社長から『今年は営業利益○%UPだ』と方針が示され、『そのためには、この分野を伸ばそう』とか『この分野は斜陽だから投資は控える』といった方向性が示されていた。それでもって営業部長から『次回の展示会では、この分野の技術力をアピールしていきたい』などと指示があり、課長からは展示会での段取りやパンフレットの作成指示が出て、自分達はそれを持って顧客を訪問しながら『是非、今度の展示会に来てください』とお願いに廻ったものだ。
少なくとも、自分達は20年間そういう仕事をしてきたし、それが仕事の流れだと思っている。
しかし、平目のいう『ISOに適合した』環境方針はそれとは違う。『規格に適合した』文章を事務局が作成し、上手く言いくるめて社長にサインさせ、審査でOKを貰う・・めでたし、めでたし・・・・・いのか?
それって本当に会社の『環境に関する方針』なのか?それに審査云々と言われるが、会社の方針・方向性について全くの他人から是や非をとやかく言われるものなのか?
大先輩である平目の仕事を否定するつもりは毛頭ないが、自分が『それ』を担当するのであれば、少なくとも自分の納得のいくようにしたいものだ。
けども、と山田は考える。
それでもし、審査で『いや、これでは不適合ですね』と言われれば、平目が気にしていた日経の環境経営度ランキングもオジャンになる。それはどうなんだろうか?
次の日、山田は意を決して社長にメールを送ってみることにした。
『社長、先日は大変に失礼を申し上げました。深くお詫び申し上げます。
さて、懸案であります環境方針の件について、社長のご見解を伺いたく思います。
私自身はこの職務に就いて日が浅く、経験も充分でありません。しかしながら、社長の仰るとおり、あの環境方針とする文章はおかしいと思います。私が思いますに、会社方針書というものは会社を代表する社長から、お考えを拝聴し、それを取りまとめて成り立つものであります。しかしながら前任者の平目さんからは、それでは認証が出ない、と言われております。
そこで、試しに社長のお考えを伺いながら「本来はこうあるべき」と思う環境方針書を策定し、それを審査機関に投げ掛けてみたらどうか、と思います。ただ、その場合「これでは不適合だ」と言われることも充分考えられます。そうした時に、社長は如何お考えでありましょうか?
A:「それなら審査員の言う通りにして、元に戻せ」
と思われるでしょうか?それとも
B:「それなら別の認証機関を探すか、それでダメならISOは返上しよう」
と思われるでしょうか?ただ、その場合においては日経の環境経営度ランキングは、現在の順位を維持できなくなります。
本来ならば、内容を充分に吟味し、事前にご相談を申し上げてから、お伺いすべき筋でありました。今になってこのような相談をいたしますこと、まことに申し訳ございません。
何卒、社長のお考えを頂戴したく、よろしくお願い申し上げます。』
次の日、返事は意外なほど早く帰ってきた。
『認証は必要だ。だが、会社の方針は私が考えて責任を持つものだ。 山田君の手腕に期待している。 それと、認証機関と意見交換するのはおおいに結構だが、喧嘩にならないように 以上』
山田は平目に、ことの次第とメールでのやりとりを見せた。
「ふう・・・ん。なるほど・・頑固だなぁ新社長も。こういう事は事務局に一任してくれればいいんだけどなぁ・・・」
平目は、何処だってそうしているんだし、とため息をついた。
「ともかく」
山田は平目に切り出した。
「一度、時間をとって社長のお考えを聞いてみたいと思います。それで、それを一度文章に直して、社長の了解が得られたら認証機関の方に話をしてみたいと思うのですが」
「ま、私の任期もあと3ヶ月だし、自由にやってみたらいいよ。あぁそうだ、JISQ14001の対訳本は持っているね?予め良く読んでおくといいよ」
山田の背中を軽く叩いて、平目が席に戻っていった。
一週間後、山田は社長から色々と聞いた話を元に文章を作りあげ、社長のOKを貰ってから認証機関先に電話をいれてみた。
「もしもし、J○×さんですか?鷽八百機械工業の山田と申します。ISO14001規格適合の関係でご相談したいことがあるのですが」
電話口に出てくれたのは、『上級審査員』という肩書きをもつ田井という人物だった。
「・・・お話は承りました。とりあえず、その素案をFAXかメールで頂けませんか?私が一度確認してみたいと思いますが」
丁寧な対応に山田は少し肩透かしを食らった気もしたが、すぐにその場でメールを送信した。平目の話で聴く審査員とは、自分ルールを理不尽に振り回す、怖い怖い鬼教官のようなイメージだったのだが。
「あー・・・来ました、来ました・・・どれどれ・・拝見いたします・・・」
電話口の向こうで田井がブツブツ・・と言いながら山田の文章を読んでいる。
そして、ややあってから、
「そうですね、これで特に問題はありませんよ。いい環境方針だと思います」
と、田井が電話口の向こうから返答してきた。
「・・・あのう・・不適合、ということは・・・」
おそるおそる山田が聞き返す。
「不適合?いえ、大丈夫ですよ。」
田井の笑い声に山田は少しホッとした。
「ありがとうございます。実はこの内容で先輩へ事前に確認をして貰ったのですが・・・こんなのでは全然ダメだといわれまして」
「ダメ?そうですか?何処がですか?」
田井が聞き返す。
「例えば、『継続的改善をします』という言葉がない、とかです。先輩によると、過去の審査では、この言葉がないと不適合だと言われたとかで・・・」
山田の話しに、電話口の向こうで田井の苦笑いが聞こえる。
「はは・・まぁ、確かに『昔は』そういう審査をしていたこともありましたけどね。でも本来、環境方針とは会社方針ですから『言葉が無い』とかそういう物じゃないです。逆にいくら『規格に適合』と判定されたとしても、その組織トップのオリジナリティある決意がなければ、方針として何の役にも立ちませんよね?」
田井は続けて言った。
「山田さん、継続的改善とは『企業の成長』そのものを指すものだと私は思います。だって継続的に改善をするから、企業は成長するんでしょう?現状維持なんてしていたら、あっと言う間に市場から置き去りにされてしまうじゃありませんか?御社の環境方針には、組織トップの環境に対する改善の決意がちゃんと見てとれます。ですから、充分に適合であると、私は確信しますよ」
ありがとうございます、と山田は田井に礼を言って電話を切った。
認証機関の電話対応に、平目は腕組みをしながら複雑な顔をしていた。
「ふ〜ん・・そういうものかなぁ。ISO14001を工場で初めて取得したときには、規格の文言、そのものが書いて無いとダメだったんだけどなぁ・・・時代が変わったのかなぁ」
ともかく、方針文書に関しての適合問題はクリアになった。山田は秘書室に社長のアポをとるための電話を入れた。サインをもらうためだ。
なんだか、頭の使い過ぎかオーバーヒートし掛けてきたので、方針周知の話はまた後日に・・・
と、いうわけで今回は、その下の句パート1です。
ちなみに、上の句である、ケーススタディはこれです。
http://www.mars.dti.ne.jp/~saitota/top1.htmの、ケーススタディ 環境方針です。
「・・・平目さん、あの環境方針なんですが、社長が『こんなものにはサインできない』というですよ」
山田は平目に報告をした。
「おいおい・・・そんなことじゃぁ困るじゃないか。それで山田君は『はい、そうですか』と引き下がって来たというのかい?冗談じゃないよ。ISOの定期審査までもうそんなに日数がないんだ。サインを貰って、カードを印刷して配付する時間を考えたら悠長なことを言ってられないんだぞ」
平目は困惑したように言う。
「新社長も新社長だよなぁ・・・自分の考えなんかで認証は取れないというのに・・」
平目のつぶやきに、山田は少し間を置いてから唐突に切り出した。
「・・平目さん。そもそもISOって何ですか?」
「へ・・・・?」
平目はキョトンとしている。
「何・・・・ってキミ、ISOはISOだよ。まぁ強いて言うならISO14001は『環境マネジメントに関する国際規格』ってところかな?」
「なるほど。それでその『環境マネジメントに関する国際規格』をすると何かいいことがあるんですか?」
山田が尋ねる。
「変なことを言うなぁ・・・会社が決めたことに良いも悪いも無いだろう。確かにISO14001の取得は先代の社長が決めたことだけど、今更『代替わりするから止めます』という訳にもいかんだろう?一応我が社も『環境に優しい鷽八百機械工業』を謳っているからね」
やれやれ、と平目がため息をつく。コイツは42歳にもなって、何を今頃になって青臭いことを言い出すのやら・・・
「それともうひとつ、大事なことがある。わが社は東証一部に上場しているから、毎年日本経済新聞から『環境経営度ランキング』という調査があるんだ。アンケート形式になっていて、それに対する回答結果から全国順位が毎年、紙面で発表される。・・・わが社は今年10位上がって、156位だったけどね」
平目は少し胸を張った。
「その『環境経営度ランキング』の調査項目にはISO14001の認証取得、という項目もあるんだよ。本社が遅ればせながらISOを取得したのは、その順位を上げるためなんだ。『環境配慮』を掲げる鷽八百機械工業としては、『環境経営度が低い』と見られるわけにもいかないんだ。だからISOの認証は継続する必要があるし、そのためには審査で適合判定をもらわにゃぁならん。そして、それには規格に適合したと審査員から認めて貰える環境方針が必要なんだよ。わかるかい?」
「・・・・お話はわかりました」
山田は軽く頭を下げた。
「そうかい。じゃ、それを社長に説得してみてくれ。なに、私もね、最初に社長のサインを貰うには中々と苦労をしたものだよ。けど、『それでは認証が取れませんから』と粘って交渉した末に何とかサインを勝ち取ったんだ。キミもまだ若いんだから、そういう苦労をしてみるといいよ」
平目はそういうと、ニッコリ笑って山田の肩をポンと叩いた。
次の日、山田は休日を利用して『環境方針』でWEBサイトを検索してみたり、書店でISO14001に関する解説本を探してみた。
WEBサイトで見た、いくつかの『環境方針』は、どれを見てもほぼ同じで、平目が作ったとされる鷽八百機械工業のものと大差はなかった。また、買ってきた幾つかの解説本も読んではみたのだが『環境方針には継続的改善に対するコミットメントが必要です』とか『汚染の予防という言葉が規格によって要求されています』と書かれているだけで、山田の疑念に充分に応えるものには無かった。
だが。と、山田は考えた。
自分の常識で考えれば何かが変だと思う。
例えば自分が営業に居たときには、社長から『今年は営業利益○%UPだ』と方針が示され、『そのためには、この分野を伸ばそう』とか『この分野は斜陽だから投資は控える』といった方向性が示されていた。それでもって営業部長から『次回の展示会では、この分野の技術力をアピールしていきたい』などと指示があり、課長からは展示会での段取りやパンフレットの作成指示が出て、自分達はそれを持って顧客を訪問しながら『是非、今度の展示会に来てください』とお願いに廻ったものだ。
少なくとも、自分達は20年間そういう仕事をしてきたし、それが仕事の流れだと思っている。
しかし、平目のいう『ISOに適合した』環境方針はそれとは違う。『規格に適合した』文章を事務局が作成し、上手く言いくるめて社長にサインさせ、審査でOKを貰う・・めでたし、めでたし・・・・・いのか?
それって本当に会社の『環境に関する方針』なのか?それに審査云々と言われるが、会社の方針・方向性について全くの他人から是や非をとやかく言われるものなのか?
大先輩である平目の仕事を否定するつもりは毛頭ないが、自分が『それ』を担当するのであれば、少なくとも自分の納得のいくようにしたいものだ。
けども、と山田は考える。
それでもし、審査で『いや、これでは不適合ですね』と言われれば、平目が気にしていた日経の環境経営度ランキングもオジャンになる。それはどうなんだろうか?
次の日、山田は意を決して社長にメールを送ってみることにした。
『社長、先日は大変に失礼を申し上げました。深くお詫び申し上げます。
さて、懸案であります環境方針の件について、社長のご見解を伺いたく思います。
私自身はこの職務に就いて日が浅く、経験も充分でありません。しかしながら、社長の仰るとおり、あの環境方針とする文章はおかしいと思います。私が思いますに、会社方針書というものは会社を代表する社長から、お考えを拝聴し、それを取りまとめて成り立つものであります。しかしながら前任者の平目さんからは、それでは認証が出ない、と言われております。
そこで、試しに社長のお考えを伺いながら「本来はこうあるべき」と思う環境方針書を策定し、それを審査機関に投げ掛けてみたらどうか、と思います。ただ、その場合「これでは不適合だ」と言われることも充分考えられます。そうした時に、社長は如何お考えでありましょうか?
A:「それなら審査員の言う通りにして、元に戻せ」
と思われるでしょうか?それとも
B:「それなら別の認証機関を探すか、それでダメならISOは返上しよう」
と思われるでしょうか?ただ、その場合においては日経の環境経営度ランキングは、現在の順位を維持できなくなります。
本来ならば、内容を充分に吟味し、事前にご相談を申し上げてから、お伺いすべき筋でありました。今になってこのような相談をいたしますこと、まことに申し訳ございません。
何卒、社長のお考えを頂戴したく、よろしくお願い申し上げます。』
次の日、返事は意外なほど早く帰ってきた。
『認証は必要だ。だが、会社の方針は私が考えて責任を持つものだ。 山田君の手腕に期待している。 それと、認証機関と意見交換するのはおおいに結構だが、喧嘩にならないように 以上』
山田は平目に、ことの次第とメールでのやりとりを見せた。
「ふう・・・ん。なるほど・・頑固だなぁ新社長も。こういう事は事務局に一任してくれればいいんだけどなぁ・・・」
平目は、何処だってそうしているんだし、とため息をついた。
「ともかく」
山田は平目に切り出した。
「一度、時間をとって社長のお考えを聞いてみたいと思います。それで、それを一度文章に直して、社長の了解が得られたら認証機関の方に話をしてみたいと思うのですが」
「ま、私の任期もあと3ヶ月だし、自由にやってみたらいいよ。あぁそうだ、JISQ14001の対訳本は持っているね?予め良く読んでおくといいよ」
山田の背中を軽く叩いて、平目が席に戻っていった。
一週間後、山田は社長から色々と聞いた話を元に文章を作りあげ、社長のOKを貰ってから認証機関先に電話をいれてみた。
「もしもし、J○×さんですか?鷽八百機械工業の山田と申します。ISO14001規格適合の関係でご相談したいことがあるのですが」
電話口に出てくれたのは、『上級審査員』という肩書きをもつ田井という人物だった。
「・・・お話は承りました。とりあえず、その素案をFAXかメールで頂けませんか?私が一度確認してみたいと思いますが」
丁寧な対応に山田は少し肩透かしを食らった気もしたが、すぐにその場でメールを送信した。平目の話で聴く審査員とは、自分ルールを理不尽に振り回す、怖い怖い鬼教官のようなイメージだったのだが。
「あー・・・来ました、来ました・・・どれどれ・・拝見いたします・・・」
電話口の向こうで田井がブツブツ・・と言いながら山田の文章を読んでいる。
そして、ややあってから、
「そうですね、これで特に問題はありませんよ。いい環境方針だと思います」
と、田井が電話口の向こうから返答してきた。
「・・・あのう・・不適合、ということは・・・」
おそるおそる山田が聞き返す。
「不適合?いえ、大丈夫ですよ。」
田井の笑い声に山田は少しホッとした。
「ありがとうございます。実はこの内容で先輩へ事前に確認をして貰ったのですが・・・こんなのでは全然ダメだといわれまして」
「ダメ?そうですか?何処がですか?」
田井が聞き返す。
「例えば、『継続的改善をします』という言葉がない、とかです。先輩によると、過去の審査では、この言葉がないと不適合だと言われたとかで・・・」
山田の話しに、電話口の向こうで田井の苦笑いが聞こえる。
「はは・・まぁ、確かに『昔は』そういう審査をしていたこともありましたけどね。でも本来、環境方針とは会社方針ですから『言葉が無い』とかそういう物じゃないです。逆にいくら『規格に適合』と判定されたとしても、その組織トップのオリジナリティある決意がなければ、方針として何の役にも立ちませんよね?」
田井は続けて言った。
「山田さん、継続的改善とは『企業の成長』そのものを指すものだと私は思います。だって継続的に改善をするから、企業は成長するんでしょう?現状維持なんてしていたら、あっと言う間に市場から置き去りにされてしまうじゃありませんか?御社の環境方針には、組織トップの環境に対する改善の決意がちゃんと見てとれます。ですから、充分に適合であると、私は確信しますよ」
ありがとうございます、と山田は田井に礼を言って電話を切った。
認証機関の電話対応に、平目は腕組みをしながら複雑な顔をしていた。
「ふ〜ん・・そういうものかなぁ。ISO14001を工場で初めて取得したときには、規格の文言、そのものが書いて無いとダメだったんだけどなぁ・・・時代が変わったのかなぁ」
ともかく、方針文書に関しての適合問題はクリアになった。山田は秘書室に社長のアポをとるための電話を入れた。サインをもらうためだ。
なんだか、頭の使い過ぎかオーバーヒートし掛けてきたので、方針周知の話はまた後日に・・・
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この記事へのコメント
1. Posted by おばQ 2009年10月14日 21:40
名古屋鶏様
まず1
あっしのウェブに転載許可願います
その2
一か所山田と平目の名前の間違いがあります
その3
真っ向勝負で力作だけど、先輩諸氏のオチャラケもいいなあ
まず1
あっしのウェブに転載許可願います
その2
一か所山田と平目の名前の間違いがあります
その3
真っ向勝負で力作だけど、先輩諸氏のオチャラケもいいなあ
2. Posted by ぶらっくたいがぁ 2009年10月14日 21:44
はい、先生、質問。
田井さんは、法令順守のコミットメントが書かれていない
環境方針に対しては何とおっしゃるでしょうか?
田井さんは、法令順守のコミットメントが書かれていない
環境方針に対しては何とおっしゃるでしょうか?
3. Posted by 名古屋鶏 2009年10月14日 21:47
おばQさま
その1 転載の件、了解です。よろしくお願いします。
その2 修正しました、どうもすいません。
その3 少々笑いが足りませんでしたね、恐れ入ります。m(_ _)m
その1 転載の件、了解です。よろしくお願いします。
その2 修正しました、どうもすいません。
その3 少々笑いが足りませんでしたね、恐れ入ります。m(_ _)m
4. Posted by 名古屋鶏 2009年10月14日 21:57
ぶらっくたいがぁ様 毎度です。それにしても、レスが早かったですね・・・
びっくりしました。
一応、今回の修正版:環境方針には『社会的規範に対して誠実に云々』という言葉があるものとして考えてあります。
ただ、この田井なる人物が実在して、そうした言葉が全く書かれていない方針を見たとしたら、どうでしょうか。恐らくは全体の文調から、「法律の順守を含めて汚染の防止に対して決意が伺える」と判断できるなら、適合と考えるでしょうね。要はケース・バイ・ケースだと思いますです。はい。
びっくりしました。
一応、今回の修正版:環境方針には『社会的規範に対して誠実に云々』という言葉があるものとして考えてあります。
ただ、この田井なる人物が実在して、そうした言葉が全く書かれていない方針を見たとしたら、どうでしょうか。恐らくは全体の文調から、「法律の順守を含めて汚染の防止に対して決意が伺える」と判断できるなら、適合と考えるでしょうね。要はケース・バイ・ケースだと思いますです。はい。
5. Posted by おばQ 2009年10月14日 22:02
名古屋鶏様
現実には田井さんは存在しないようにおもいます。
平目事務局員ならぬ、平目審査員なら大勢存じ上げておりますが・・・
まあ、神は試練を与えてくれますね
現実には田井さんは存在しないようにおもいます。
平目事務局員ならぬ、平目審査員なら大勢存じ上げておりますが・・・
まあ、神は試練を与えてくれますね
6. Posted by 名古屋鶏 2009年10月15日 07:45
おばQ様
実際はそうでしょうね。というか実在すればアホな不適合判定に判定委員会でダメだしが出るはずで、それがなくて規格不適合でも何でもない問題に対して判定委員会が『是正処置が再発防止対策として不十分である』等と意味不明のコメントが返ってくるのが関の山、というのが現状でして。
田井は環境マネジメントシステムの「素人」であるはずの山田君のスキルが、不自然に高くならないように意図されたキャラですので・・・
神様ってヤツは試練はくれるんですが、中々とご褒美は戴けないようです。
実際はそうでしょうね。というか実在すればアホな不適合判定に判定委員会でダメだしが出るはずで、それがなくて規格不適合でも何でもない問題に対して判定委員会が『是正処置が再発防止対策として不十分である』等と意味不明のコメントが返ってくるのが関の山、というのが現状でして。
田井は環境マネジメントシステムの「素人」であるはずの山田君のスキルが、不自然に高くならないように意図されたキャラですので・・・
神様ってヤツは試練はくれるんですが、中々とご褒美は戴けないようです。