僕に文才等あるわけ無い。

けれど、かなりのっぴきならない夫婦喧嘩の末、妻は「さきちゃんは文才があるんだから…」と、かなり強く言った。

ならば、書いて見ようと思う。

あなたの知覚の扉が開く事を期待して。



ある夏の暑い日の、仕事の昼休み。

僕は唾をぺっと吐き、言った。

「この唾のあぶくの中にも、宇宙があるんだ。ミクロと、マクロ…。」

その場に居た誰もが、気の毒そうな笑みを以て応えてくれた。

その職場は体力勝負で、若者が集った。

中には可笑しな粘土細工など皆に見せて、「凡人には判らないだろうな」等と言う、芸術家気取りも居た。

「お前こそが、凡人だろう」、その言葉は言えない。

自分に鋭い矢となって、跳ね返るから。

同棲していた女と喧嘩した。

荷物を車に詰め込んで、すぐにアパートを出た。

その時、コレクションしていたロックミュージックのCDを、彼女に割られた。

仕方ない、そう思った。

そう思った時には、後戻りは出来ない。

その時、そう悟った。

僕は、しばらく車で暮らす事にした。

会社の駐車場に、居候した。

しかし、すぐに会社の休憩所に布団を持ち込み、パイプ椅子でベッドをこしらえ、ねぐらを作った。

同僚たちは、毎晩集った。

水パイプと酒に、MTV。

記憶がなくなり、翌朝フォークリフトの音で目を覚まし早退。

僕には、直ぐに仕上げたいメロディーがあった。

不意の報せだった。

僕は、珍しく競馬で大きな馬券を当てた。

そこに、女から電話。

曰く「会ってじゃないと、話せない話がある」

だいたい見当は付き、その通りだった。

金を、渡す。

「あなたと一緒にやれるか、試してみたい」

答えは、見えていた。

斯くしてその通り。

「あなたは、甘んじようとしている」

その通りだ、と、思った。

「声まで、かっこいい。付き合ってください」 

その頃の僕は、精神的に参っていた。

素晴しい女性だった。

僕は、カラオケの合間に、如何に自分がどう仕様もないかを、これでもか、と伝えた。

「連絡先を、削除してください」

唯一の彼女からのメール。

居酒屋で。

「あんたに、いくら使ったと思ってるの?」

この娘に似合わぬ怒号だ。

僕は、その頃、初めての妻となる女性と知り合っていた。

その頃は、判ってたんだ。

はい、はい、と、聞いていれば、良い。

しかし、扉は開く。

「お金が…」 

としか、言われなくなって久しい。

けれど、僕はあなたには特別な感情を持っている。

子供たち。

家族。

それより、君。

こんな、ひとは、初めて出会った。

その扉を、開ける。

すると、広がる景色は砂利と草の荒涼。

pebbles + weeds。

君は覚えてないだろうけど、僕がこの店の屋号にしたかった言葉。

何も、ない。

それこそが、余地、としての資源。

また扉が見える。

僕は、高校生の、落書きだらけの机によだれを垂らして居眠りする、あの時の僕だ。

若林ティーチャーに、立たされて責められる。

デジャヴュ。

知ってるよ。

先生が、もっと女について教えてくれたら良かったのに。

意思を持たない男として。

次の扉の向こうには、中学校の卒業文集か見える。

10年後の自分

公園で、中学生に角材で殴られて死んでる。

そうはならずに、50を迎えそうだ。

予言は外れた。

僕には、何の意思もありません。

ただ、周りの人たちの為、と思い、うまくいったり、いかなかったり。

いや、だいたいうまくいかない。

それじゃ、だめ、なんだろうか?

絶対に、うまくいかないんだろうか?

扉は、固く閉じたまま。



創作なんで、すべてフィクションですが、そこに作者との距離感を匂わせられていれば、まあまあ成功かな、と思います。

僕は気が進まないんで、これ読んだ方の不評を心待ちに致しております。




あくまで、フィクションです。

奥さんに「何かの懸賞とか…」と言われて、書け、と言われたので、習作です。

腰を据えれば、かもしれませんが、僕には自信がありません。