葉室麟   角川文庫

絵師(芸術)と権力、時代との関係を絡めた短編5編。


表題作「乾山晩愁」
華やかな絵を描く尾形光琳に比べ、地味な存在の弟・乾山。
非情だけど美しい光琳の後姿を追っていた乾山にスポットをあて、なぜか?赤穂浪士との関係を絡めた一篇。

「永徳翔天」
新しい権力者が次々台頭する安土桃山時代、大和絵の土佐家を追い越し、後ろから迫りくる長谷川等伯に危機感を感じつつ、命を削って画作にうちこむ永徳。

「等伯慕影」
永徳にいどみ、「松林図」などの傑作を残した等伯は、佐渡から京に上るまでの足跡や経歴が残っていないため、自由に?創作・描写されている。
あれれ、安部龍太郎の『等伯』とも荻こう介の『松林図屏風』ともちがうぞ。後追いで別の筋立てを・・・と一瞬思ったが、ごめんなさい。葉室さんのほうが先に書いているね。

「雪信花匂」 
永徳歿後、江戸に移った狩野家一族は、三家に別れてそれぞれに御用絵師として活動していた。
探幽の高弟、久隅守景の長女・雪が、同門の弟子との恋を貫き、女流画家雪信となるまでの物語。
と簡単に書いたが、探幽が率いる鍜治橋狩野家はじめ、総領家である中橋狩野家・木挽町狩野家だの、それぞれの弟子だのと、登場人物がわんさか、しかも、本名と画号と通称と、それぞれの関係性・・・ああ、ややこしいったらありゃしない。

「一蝶幻景」
江戸中期、狩野派の画業、芭蕉派の俳人、そして吉原の幇間と、さまざまな顔をもち、たびたびお上のお咎めを受け、島流しにもあったという謎の多い人物らしい。
だからこそ自由に想像・創造できたのだな。
でも、乾山にしろ一蝶にしろ、赤穂浪士と絡めるって、なんかちょっと牽強付会な印象が・・・・

それぞれ作中に出てくる「絵」を画像検索しては、なるほど〜と楽しめた。