本田圭のラツィオへの移籍が破談になった。経緯はいろいろ言われているが、高額な移籍金がネックになったことは間違いない。CSKAが要求した金額は1600万ユーロ。これに対し、ラツィオが用意可能な金額は1200万〜1400万ユーロ。報道ではそう言われていた。つまり破談になった理由は、CSKAが要求した金額が高すぎたことにある。本田がVVVフェンロからCSCAに移籍した際に発生した移籍金(違約金)は、推定900万ユーロ。

700万ユーロの差額分を、儲けようと企んだCSKA。これに対し、それは少し高いんじゃないか。もう少しまけて下さいよと迫ったラツィオ。

そのラツィオのUEFAチームランキングは、現在67位。対するCSKAは15位。少なくともラツィオは過去5年の欧州内における成績で、CSKAに大きなリードを許している。また、イタリアのリーグランキングは現在第4位(1位イングランド、2位スペイン、3位ドイツ)。今季の成績次第では、5位フランスに抜かれそうな勢いだ。ちなみにロシアは、ポルトガルに次いで7位なのだけれど、国としての元気度ではイタリアを大きく上回っている。すなわち、CSKAからラツィオへの移籍は、必ずしも「栄転」とは言えないのだ。

チャンピオンズリーグ出場の可能性を、絶えず秘めているCSKAから飛躍を遂げようとすれば、15位以内のチーム——1位バルサ、2位マンU、3位チェルシー、4位バイエルン、5位アーセナル、6位R・マドリー、7位インテル、8位ポルト、9位リヨン、10位リバプール、11位ミラン、12位シャフタール、13位ベンフィカ、14位マルセイユ——を目指すのが本来の姿だ。

破談になってむしろよかった。そうした見方も確実にできる。ちなみに、16位以下には、アトレティコ・マドリー、ビジャレアル、バレンシア、ゼニト、ブレーメン、PSV、シャルケ、ハンブルク、スポルティング、ローマ、セビージャ、トッテナム、と続くが、許容範囲は、これに近年急速にランクを上げているマンCぐらい。それ以外だったらいまのCSKAの方が明らかに強い。

欧州の勢力図は、毎年微妙に変わっている。イタリア勢がランキングの上位を占めていたのは過去の話。1990年代に遡る。2000年にその座をスペインに奪われると、ずるずると後退していった。変わって台頭してきたのがイングランド。その2000年のランクは5位だったが、2008年にはスペインを捉え首位の座に就いた。以降、現在に至るまでその座を維持しているわけだが、そのイングランドにも最近、怪しい陰が忍び寄っている。

イングランドがスペインを捉えた原因は、チャンピオンズリーグに出場するチームすべてが、上位に食い込んだことにある。マンU、チェルシー、アーセナル、リバプール。この4強すべてに、優勝あるいは準優勝の経験がある。

スペインも、イタリアを逆転し首位に立った頃は、バルサ、マドリーに次ぐ、3番手、4番手のチーム、すなわちバレンシア、デポルティーボが、チャンピオンズリーグで活躍した。それが、気がつけば、バルサとマドリーだけになった。マドリーもトーナメントの1回戦で消えることがほとんどだった。つまり欧州サッカーは、バルサとイングランドの4強によって、ここ数年支配されていたわけだ。
 
だが、イングランドは今、4強の体を成していない。まずリヴァプールが脱落。今季は決勝トーナメントに、アーセナルとチェルシーしか進むことができなかった。マドリーが元気そうなスペインに、追い上げられている状態だ。

欧州サッカーの真髄は、この混沌とした状況にある。盟主の座を10年維持することは難しい。国別対抗の図式では、常に戦国時代にあるといってもいい。

一方、クラブ対抗ではバルサが揺るぎないポジションを固めている。まさに独走状態にある。バルサのサッカーはこれまで、欧州サッカーにプラス効果を与えていた。サッカー人気を高める原因になっていたが、あまり勝ちすぎると、世の中は停滞する。面白いものには見えなくなる。活力の源は混沌にある。

バルサ1本被りのこの世の中は、サッカーにとって、けっしてハッピーな時代とは言えないのだ。

とはいえ、日本人選手は現在、歴史を動かしそうな場所で誰1人としてプレイしていない。より良いクラブへ移籍を決めることができた選手もいない。それどころか、あえなく帰国する選手が目立つ。

これまで昇りの階段を順調にステップアップした選手はどれほどいるだろうか。中田英、小野、中村俊、稲本……。振り返ってみると、その数はごく僅かだ。現在も長友と本田の2人だけ。活躍中の香川も、勝負はこれから。次の移籍先しだいだ。長谷部、内田には、残念ながら昇りの階段が用意されているようには見えない。

W杯本大会で、前回以上の成績を収めようと思えば、欧州のトップ16のクラブで最低でも5人はプレイしている必要がある。イングランド、スペイン両リーグで10人ぐらいはプレイしている必要がある。

現在は、どう考えても停滞気味。だが、その点を指摘する人は少ない。楽観的にも「個の力はアップした」と、相変わらず多くの人がお題目のように唱えている。

すなわち、欧州のサッカー界の全体図を、広い視野で捉えることができずにいる。アップしたことは間違いないが、あくまでも少々。欧州内で日本人パワーが炸裂しているわけでは全くない。

逆に、都落ちするように、欧州から日本に帰ってくる選手が多いことを、我々はもっと嘆くべきだと思う。

一度行ったら帰ってくるな。欧州戦線の中に骨を埋めろ。落ち武者になって帰ってくるな。いまこそ叱咤激励が必要な時期だと僕は思う。