鹿島が浦和を1−0で寄り切り、J1優勝に大きく前進した。大岩監督は苦笑いを浮かべながら発した一言は「堅い!」だった。この渋い勝ち方は、鹿島の定番ではあるが、代表はもとより、日本サッカー界に足りない要素でもあることも確かだ。新鮮に見える。

 今回の欧州遠征メンバーに選ばれた日本代表選手は、植田直通が落選したので昌子源ただ一人。対する浦和は5人(西川周作、遠藤航、槙野智章、興梠慎三、長澤和輝)。常連の槙野、元常連の西川、準常連の遠藤、久々の興梠、初招集の長澤と内訳は多彩だが、前回より数は3人も増えている。

 その浦和が、鹿島のプレッシングに悪いボールの奪われ方を繰り返す姿はどうも釈然としない。ハリルホジッチの基準では、好選手の数で勝るのは浦和だ。しかし、好チーム度で勝るのは鹿島。高い位置からのプレッシングは最後まで効果的に決まっていた。堅いサッカーの源泉である。

 浦和の代表組の中で、最も頼りにならないプレーをしていたのは長澤。プレスに手を焼き、存在感を失っていた。この試合をハリルホジッチが見ていたら、彼を代表に選んでいなかったはず。

 浦和の次戦はACL決勝、対アルヒラル戦(@リヤド・18日)。代表組の5人にはハードスケジュールだ。14日夜(欧州時間)に行われるベルギー戦後、移動込みの中3日弱でこの試合を迎える。槙野プラス遠藤ならまだ分かる。よりによって今回、さらに3人も選ぶとは。鹿島戦で、まだ選ぶのは少し早いのではないかと言いたくなるプレーを見せた長澤まで含まれていようとは。

 日本代表がブラジル、ベルギーと親善試合を行うことと、Jリーグのクラブが、ACL決勝を戦うことと、どちらが重い出来事か。答えは分かりきっている。

 ハリルホジッチの選手選択は、かねてから「間が悪い」ことで知られていたが、今回はその最たる例だろう。「急に選ぶな。もっと前から選んでおけ!」。僕が浦和の関係者なら、ハリルホジッチにそう毒づいているだろう。

 海外ならば、そうした声は直ぐに沸き起こる。地元メディアが、「冗談は辞めてくれ」と、真っ先に反応する。それがお約束というか、常識だ。非日本的な日本な文化とはこのことだ。むしろ、日本代表に5人も選ばれたことを、大喜びしてしまう風土が日本にはある。

 ファンの本音はそうではない。メディアも本音はそうではないはずだと思うが、公の場で、声を大にそう叫ぶだけの勇気がない。日本代表中心主義の前に、怒りの矛先を収めざるを得なくなる。

 これで、ろくに試合に出してもらえず、紅白戦要員に終わったなら、それこそ大騒ぎしなければいけないのだが、それでも日本代表という錦の御旗に巻かれるように沈黙する可能性は高い。

 Jリーグに話を戻せば、鹿島と川崎との勝ち点差は、これで7に広がった。18日に行われる川崎対柏の一戦で川崎が敗れれば、その瞬間、鹿島の優勝が決まる。勝ち点3差まで縮まった時は、川崎が逆転する可能性が高いと思われた。

 そこで川崎は、柏に引き分けてしまった。先週の日曜日。台風22号が接近する中、強行された一戦である。まともなサッカーができそうもない最悪のコンディションの中、前半、パスを繋ごうとした川崎。前線に大きく蹴って、身体能力の高い外国人選手を走らせる作戦に出た柏が、試合を優勢に進めたのは当然の帰結だった。川崎は後半、キック&ラッシュに転じ、挽回を図ったが、引き分けるのがやっと。川崎は台風に泣き、鹿島は台風に救われた。本来なら中止にすべき試合を強行した理由は、Jリーグ、ルヴァンカップ、天皇杯、ACL、代表戦など、日程が立て込んでいたからだという。

 ならば川崎は、ルヴァンカップだけは取りたかったはずだが、こちらも決勝で、セレッソ大阪にまさかの敗戦。開始50数秒で、いきなり失点を許し、調子を狂わせた不本意な敗戦だ。

 終了間際、駄目の押しゴールを食らい、優勝が100%絶望になれば、外国のサポーターなら、その瞬間、サッとスタンドを後にするものだ。しかし川崎のサポーターは8割方、表彰式までキチンと立ち会っていた。最後までみんなで一緒に応援する日本文化を見た気がした。

 この試合のマンオブザマッチ(MOM)には、先制点を挙げた杉本健勇が選ばれた。だが、これも日本的な風習に思えて仕方がなかった。川崎がノーゴールに終わった原因が、守備的MFのソウザの頑張りと密接な関係があることは、誰の目にも明らかだったはず。得点者が安易にMOMに輝くこの習慣。そろそろ、改める時を迎えている。

 一方、ソウザの傍らで構えるC大阪の10番、山口蛍は全く目立たなかった。日本代表ではスタメンに近いポジションにいる山口だが、中心選手に相応しい気質を拝んだ試しがない。全体的にそつなくこなすが、チームをグイグイ引っ張るタイプではない。鹿島の守備的MF三竿健斗の方が、僕の目にはよく見える。

 山口以上に希薄な存在に映ったのは、元日本代表の清武弘嗣だ。日本代表のメンバーから今回、香川真司が落選したことは大きなニュースとして伝えられた。さらに代役候補に名乗りを挙げたかに見えた小林祐希も落選。となれば、森岡亮太、長澤和輝の前に清武の名前が来るのが自然だ。しかし、この日のプレーを見ていると、そうならない理由が理解できる。ここ1年で急降下した選手。セビージャで、それなりのプレーをしていた去年の今ごろが、すでに懐かしい記憶になっている。

 柿谷曜一郎の場合は、さらにその上を行く。2014年ブラジルW杯に2試合出場した実力者だが、それから3年と数か月経過したいま、彼を代表にという声を聞くことはない。

 鹿島の優勝で幕を閉じそうなJリーグ。だが、公の場で語りにくい話題は多くある。日本代表が絡むと、その傾向は増す。話の中身は綺麗事になる。特に外国と比較して目立つのが、地方のメディアのパワー不足だ。ハリルホジッチは鹿島の選手をなぜ1人しか選ばないのか。なぜ浦和の選手を今回、急に5人も選んだのか。突っ込みどころ満載なはずのに、放置されてる現状を憂わずにいられない。