ボール支配率の高いサッカーに否定的な言葉を吐き、そして日本代表を縦に速いサッカー、最終ラインの裏を突くサッカーに導こうとするハリルホジッチ。

 いずれのサッカーにも長所はある。短所も同様。どちらを選択するかは、指導者の哲学や趣味趣向に委ねられている。

 サッカーに絶対はない。正解もない。あるとしてもひとつではない。

 ハリルホジッチのよくない所は、他方を否定することで、自らを正当化させようとすることだ。自らのサッカーこそがモダンサッカーだと言いきる姿に、余裕のなさ、度量の狭さを感じる。

 自軍の深い位置から相手のバックラインの裏をめがけて早めにボールを送り込めば、相手に奪われる確率は自ずと上がる。ボール支配率は低下する。一方で、何度かに1度、成功することもある。高い位置でボールが収まれば、チャンス到来。相手を慌てさせることができる。

 だが、相手に早々とボールを奪われれば、その瞬間、自軍のバックラインは深いままだ。中盤はスカスカ。プレスは掛からず、相手に広大なスペースを与えることになる。技術的に高くない相手にまで試合を支配されてしまう。それが昨年末に行われたE1東アジア選手権でのハリルジャパンの姿だった。

 苦戦の原因は、相手に中盤を支配されたことであり、それは、前線へラフなロングボールを数多く蹴り込んだ産物だった。つまり、日本は典型的なカウンターサッカーに陥り、自滅した。

 カウンターサッカーには一発がある。相手を驚かす力がある。これは認めるが、カウンターサッカーが、時代を制したことはない。90年代、欧州の盟主の座に就いたイタリアも、武器はプレッシングだった。後方に下がって守るカテナチオの台頭とともに、その座を明け渡す運命を辿った。

 カウンターサッカーは決して王道を行くスタイルではない。適性があるのは、一発逆転が狙えるカップ戦、あるいは短期のトーナメントになるが、一発は狙えても、二発は狙えない。あくまでも奇襲戦法だ。少なくとも実力が反映されやすい長丁場のリーグ戦には向いていない。

 昨季のJリーグにもそれは反映されていた。上位を占めたチームのサッカーは概して、アンチ・ハリルホジッチ的サッカーだった。

 まず、ボールを奪った場所と成績の関係だ。プレッシングと成績はどんな関係にあるか。ハーフウェイラインより高い位置(相手陣内)でボールを奪った回数が最も高いチームは、寸前で優勝を逃した鹿島だった。

 昨季初め、時の監督、石井正忠氏(現大宮監督)に話を聞けば、「目指すサッカーは、高い位置からボールを奪う攻撃的なサッカーだ」と述べた。「後ろで守らず、高い位置でボールを奪い合う試合が増えれば、Jリーグのレベルは自ずと上がる」と、日本サッカーがそうした方向に進むことを彼は願っていた。ハリルホジッチとは真反対の方法論になる。

 鹿島は2016年末のクラブW杯で、その本領を発揮した。アフリカ代表、南米代表を下し決勝に進出。レアル・マドリーと延長に及ぶ接戦を演じたことは記憶に新しい。ボール支配率も39対61と大健闘。押されっぱなしだったわけではない。日本代表のあるべき姿をそこに見たとは、僕だけの感想ではなかったはずだ。

 攻撃的サッカーを構成する要素としてプレッシングとともに欠かせないのは、ボール支配率だ。プレッシングが決まればボール支配率は上がる仕組みだが、それにマイボールを維持する力が加われば、数値はさらに上昇する。

 昨季のJリーグでボール支配率1位だったチームは7位の浦和だ。しかし、ボールをどの位置で保持した時間が長いかというデータに目を凝らせば、その位置が低いことが判明する。バックラインでボールを回している時間が長いのだ。

 それに比べると2位の川崎は支配する位置が高い。平均的位置が、ハーフウェイラインの少し手前まで上昇する。おおよそその位置でプレーする大島僚太を軸に、パスワークが展開されていることがよく分かる。ただし、ボールを奪う位置は決して高くない。相手陣内でボールを奪う頻度は、例えば鹿島に比べ2割ほど少ない。川崎は奪う力ではなく、パスを繋ぐ力でマイボールの時間を生み出している。

 また、ボールを支配する場所に注目すれば、川崎はサイドでも高い数値を維持していることが判明する。エウシーニョ(右)、車屋紳太郎(左)の攻撃参加が光るのだ。「現代サッカーではサイドバックが活躍した方が、試合を優位に進めることができる」とは、欧州でよく語られているサッカーの常識だが、これに従えば、川崎の優勝には必然性を感じる。

 一方、鹿島は右と左で大きな差がある。右は川崎にも勝る高い数値を示すが、左は低い位置に止まる。右SB西大伍を軸とする、右サイドからの攻撃は円滑だが、左は高い位置まで進出できずにいる。

 川崎の左サイドバックが、左利きの車屋であるのに対し、鹿島の左サイドバックは右利きの山本脩人。両左SBの利き足の差は大きい。さらに、鹿島は山本の前で構える左サイドハーフ、レアンドロが中央でプレーする機会が目立つ。つまり鹿島の左前方には、誰も選手がいない状態が多いのだ。

 川崎と鹿島。優勝を分けた差はわずかに1ポイントだが、それと両サイドのバランスは密接な関係にある。左サイドをどう強化するか。鹿島の問題はここに尽きる。だが今季、目玉として加わった選手は、右サイドバックの内田篤人。欲しいのは左サイドができる左利きだとデータは語っているのだが。

 それはともかく、もし鹿島と川崎が合体すれば、それはとてもよいチームになるだろう。高い位置でプレスが掛かり、パスがよく回り、そしてサイド攻撃も充実したサッカー。攻撃的サッカーの要素を完璧に満たした好チームだと言える。

 この考え方をベースに日本代表を作った方が遙かに期待が持てるチームになる。この日本サッカーを否定的な目で見るハリルホジッチが監督を務める日本代表より。そう考えるのは僕だけではないはずだ。日本代表の現状が残念で仕方がない。