2011年04月21日

心配性のおじいちゃん

 ものすごくご無沙汰です。杉浦です。多少太りましたが、元気にやってます。最近お気に入りのお笑いは佐久間一行の井戸ネタです。 井戸の中からじゃなくて〜、井戸自体のおばけですぅ〜♪ってやつ。

 今日、外来に80台の男性の患者さんが、“一か月くらい前からのどに何かひっかかる。 今朝起きたらのどに激痛があって、声が出なくなってしまった。”という訴えで初診されました。詳しくお話を伺うと、最初の症状の様子を見ていたがちっとも良くならないので、近隣の大学病院を受診され、耳鼻咽喉科、消化器内科で詳しく検査をしていただいたとのこと。内視鏡(喉と食道、胃、十二指腸くらいまで)検査をうけて結果は“異常ありません”と。

 さて、ハードルが上がりましたねぇ。おいらのようなボンクラ医者が、一診療所のレベルで何をしてあげたらいいんでしょう。患者さん的には“異常がないのに、なんで痛いんだ、なんで声が出ないんだ”ってなもんでしょう。

 一通り鼻から喉から、おいらの診れる範囲を注意深く診察しましたが、確かに然したる異常は見当たりません。う〜ん・・・ 
おいら“今も痛いですか?”
おじいちゃん“今は痛くないねぇ・・・ でも先生、朝はほんとに痛かったんだよ、びっくりしたよ。声も出なくなっちゃうし・・・”
おいら“あれ? でも今は話せますよね。どのくらいの時間、声が出なかったんです?”
おじいちゃん“ん〜、いつの間にかしゃべれるようになってたんだよねぇ それに痛みもとれたみたいだ”

 嘘のような話ですが、実はこういう病態は存在します。本当は異常が無いのに症状が出ちゃって、連日続くこの症状にすっかり不安になってしまう病気。“咽喉頭異常感症”っていいます。

 “異常はありませんね、心配ないです”って言っちゃったら前の病院と同じ。何が足りないのか、おじいちゃんは何を必要としているのか・・・ 確実なことは患者さん自身は、本当に心配する必要のない状況であるということ。それをいかに納得してもらうか。

 実はこの後20分くらいかけて、“口の中や喉の粘膜が渇くと張り付きやすくなって、物を飲み込むという動作をしたときに異物感が出やすくなること、朝声が出なかったのは声帯が乾燥した時によく出る症状で、時間が経って元通りに声が出るのは心配しなくていいこと、若い方よりご年配の方の方が体に貯めてる水分が少なくて粘膜が渇きやすいこと、咽喉は元来敏感な臓器なので一度気になる症状が出るとご自身で症状を探してしまうこと”などなどをあーだこーだと説明して、“だから心配ないんです。水分をよくとって、うがいをするようにしてみましょう。”って言ってみました。おいらなりに“何か症状を説明できるロジック(論理)があれば、おじいちゃんは納得するんじゃないか”と思って。すると・・・

 “先生っ!ありがとうっ!安心したよ。水分ってのはなんでもいいのかね?”

 この前向き発言が出ればもう大丈夫。おじいちゃんはにこにこして外来を後にされました。昔、おいらを教えてくれた先生に“患者さんが何を求めているのか見抜く力がなければ、医者はやっていけない。それさえ身についてしまえば、医者の仕事は9割方片付いてるんだよ”って言われたのを思い出しました。医者を始めて15年が経ちますが、未だに本や論文よりも患者さん達から教わることが沢山。小さなお子さんから、今日のようなご年配の方々まで、いろんな発見があって勉強させてもらってます。

近隣のみなさん、これからもよろしく。おいら、あんまり優秀な医者ではありませんが(あっはっはっは  いや、笑いごとじゃないか)、一生懸命やらせていただきます。

sugiura_ent_clinic at 13:14│Comments(0)TrackBack(0)

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