北欧発――警察ミステリーの

金字塔小説を読む!




2015年9月7日(月)


世界中の警察小説のモデルやお手本であり、なおかつ警察小説の金字塔としても知られる、北欧の警察小説・刑事マルティン・ベッグシリーズ(全10冊)から最後に刊行された『テロリスト』を読み終えた。僕にとってはシリーズ作品4冊目となる。

マルティンベッグ



もっとも、ぼくはこの刑事マルティン・ベッグシリーズのことをつい最近まで知らなかった。だから今でこそ警察小説で当たり前になった、刑事たちの群像劇というか、個人個人の刑事の姿を、たとえば007のような一人のスーパーマン的なヒーローとしてではなく、刑事ではあれども普通の一人の生活人としての姿や、登場する刑事個々に人間味ある陰影を与えて描いた最初の小説だなんぞということはまるで知らなかった。


ちなみに個人的には警察小説で「これはすごい!」「これまでのものと全く違う!」と唸ったのが、高村薫『マークスの山』だった。が、今にして思えば、高村作品にしても、この刑事マルティン・ベッグシリーズがあっての事と思い知るが、そうであっても、高村作品の素晴らしさにはいささかの遜色もない。


それでこのマルティン・ベッグシリーズだが、この小説を若い人はどのように受け取るかしらないけれど、シリーズで全10冊あり、1965年から毎年1冊ずつ夫婦(本当はカップル)で10年間にわたって刊行され続けた作品だ。
そのなかから僕は、旧訳で2冊、新訳で2冊の都合4冊を読んだ。原作はスウェ−デン語で、旧訳は英語版からの重訳だ。


新訳はスエーデン語からの直訳で、一昨年『笑う警官』、昨年『ロセアンナ』と2冊刊行されており、その2冊を読み、それで旧訳の方にも手を出し読んでみたのだ。個人的には、10冊目として最後に刊行されたこの『テロリスト』が一番読み応えあった。


ユニークなのは、10年間一貫して、一つの作品を全30章に分けた構成で物語が綴られることだ。ハリウッド映画に「三幕形式」といわれる物語構成術があるけど、同じ30章の構成だから、中には事件捜査の進展がまるでないことなどが延々綴られる作品もあり、それはそれでまた味わい深いし、同じ構成だからこそ他のシリーズ作品と比べて、この物語の話の展開はどういう流れなのかなどと構成を比べつつ作品解剖も愉しめるなど、いろいろと興味深い作品。


1960年代半ばからだから、最初の作品が出てから優に半世紀、ぼくが読み終えた最後の作品『テロリスト』でさえ刊行されてからもう40年経つ。それでも古さは感じない。一連の作品には時代を反映してベトナム戦争の大きな反対デモが出てきたり、先進的な北欧の性意識が物語のなかに当たり前に描かれていたりして、そういえば、そういう性意識は当時の日本では実に刺激的だったなどと、今にして思い出しつつ、往事の時代状況を楽しみながら読むこともできる。