酔遊記

密かな楽しみ、味わい深い居酒屋をめぐる。

No.34 ホルモン焼き「秩父屋」

私はホルモン焼きというのをよくは食しません。
嫌いではありませんが、特に美味いとも思っていません。

熊谷という地には、ホルモン焼き屋が昔からたくさんあり、私が初めて食べたのは大学生の時でした。
先輩に連れられて行ったのでしたが、当時のホルモン焼きはとにかくまずかったのです。
それ以来、六十歳近くになるまで滅多なことでは食べることがありませんでした。

ホルモンは『放るもん』といったくらい価値の低い臓物を、もったいないといって食べるようになったと聞いたことがありますが、正しいことは知りません。
ただ、ホルモン焼きという呼び方には疑問があります。
ホルモンというのは腸の部分だと思うのですが、一般に私たちがホルモン焼きといって食べているのは、腸以外の胃・子宮・精巣などほとんどすべての内蔵を含んでいます。それなのになぜホルモン焼きと呼ぶようになったのでしょうか。もしかしたら、最初は腸だけを提供していたが、段々と出すものが広がっていって呼び方が残ったとか?
また、もうひとつ、ホルモン焼きという場合、ほとんど豚肉の臓物であって、牛・馬・羊といった肉を含まないし、ホルモンは豚に限られていると思いますが、なぜでしょうか。

それはさておき、ホルモン焼きではなく、ホルモンというものが初めてなかなかいけるじゃないかと感じたのは、博多に出張したときでした。
すでにホルモン鍋というのが若い世代の間ではやっていました。一緒にいた女子達が「博多に来たのだからホルモン鍋を食べたい」というので、私は気が進まなかったのですが、つき合うことになりました。

若者向けの店構えのところでホルモン鍋を摘まむことになったのですが、はじめてこのときホルモンのプリンとした舌触りと油が口の中で破れて融けるような味わいに驚きました。
ホルモンというものに対する先入観が破られたのはそのときです。

かといって、その後どんどん食べるようになったのかというとそんなことはありません。
その後は、友人と行くのにも抵抗が少なくなり、経験を重ねました。
生ホルモンと茹でたホルモンがあることも知りました。
焼き肉屋とは違う名称の肉がいろいろあることも知りました。


さて、最近、平日も熊谷にいるようになって、実は、夕方から一人で出かけるホルモン焼き屋ができてしまったのです。
「秩父屋」に行くようになったきっかけは、友人・知人から「ホルモン焼きの秩父屋は美味しい」という噂を何度も耳にしたからです。
ホルモン焼きは好きではないけれど、これだけ何度も聞くと、私としては、好き嫌いではなく行かねばならないという義務感にかられました。

夏の夕方、妻には内緒で、ひとりフラフラと自転車に乗って向かいます。
まだ午後5時前で、陽は高く、ジリジリと照りつけています。
本当に、こんな早い時間から、暑い中、自転車をこいで駆けつけるのには訳があります。
1週間ほど前、6時過ぎに行ってみたところ、満員で断られたからです。

そのとき店の人から「5時頃に来ていただけたら確実なんですがね」と言われたからです。
予約もできるそうなのですが、一人だからそれもなと思う次第で、えっちらおっちらと漕ぎ着けました。
外観はこんな感じです。
秩父屋外観秩父屋看板2

のれんの奥へ入ると正面にばかでかい看板があります。
表の看板より大きいのは確実です。
テーブル席はまだ半分もいませんが、わずか6席のカウンターは私が座って満員です。

デコラの壁とコンクリートの床、合板のテーブルと丸椅子、小上がり・・・中の風景はいたってありきたりで、さっぱりしています。
実に掃除が行き届いていて清潔です。
カウンターの前はシミ・汚れの一つもありません。
ただ、夏といえどもクーラーはなく、窓を開け放って換気扇を回すという昔のスタイルを守っています。
どうせクーラーなんて、この炭の熱では無益です。
むしろ、ここに集う人たちはこの雰囲気を楽しんでいるようにさえ思えます。
焼き物居酒屋に特有な油っぽい匂いも、煙っぽい感じもありません。

品書きは以下の通り。
秩父屋メニュー
こういうところでは、ビールよりも最初からホッピーです。

ウム、焼酎の量が普通の倍近く入っているのではないでしょうか。

細い中年の店主とおぼしき人が、赤々とした炭の入った七輪を机の上に置いていきました。
七輪からすぐに猛烈な熱が伝わってきます。
テーブル席では、中央に掘りごたつのように穴が設けられていて、そこに七輪をはめ込むようになっています。

注文は、まずお新香とモツ煮、それに焼きはカシラ・レバー・生ホルモンの3つ。
カウンターの向こう側が厨房になっていて丸見えです。男が2人、女が4人、肉・野菜・飲み物と分担が決まっていて、手際よく次々と注文をさばいています。

私の注文の品は割と早めに揃いました。

最初に出てきたぬか漬けのお新香に感動。
キュウリ・ニンジン・ダイコンのどれもがシャキシャキしていて、漬かり具合・堅さ・それに量もちょうど良い加減です。
大好物なのです。

モツ煮は、ほかの店と味付けにさほど変わりはないけれど、350円にしては大盛りで、モツがいっぱい入っています。

焼き物3種が来ます。
見るからに新鮮そうです。しかも、どれも一切れが大きい。
七輪は小ぶりなので、4,5枚広げるといっぱいの感じです。

レバーが先に焼けました。
辛口のタレです。
しっかりした歯ごたえで、美味い。

生ホルモンは、タレを付けずに、そのまま食べてみます。
臭みもなく、これも歯ごたえというか、噛み応えがあり、噛むほどに味が変わってきます。

そこへ四十代のサラリーマンが3人で入ってきましたが、「今日は予約でいっぱいです」と断られていました。
テーブル席はまだ半分くらいしか埋まっていないのに、残りは全部が予約の人なんですね。

カシラは肉が厚い。したがって、火が通っているのかどうかわかりにくかったので、焦げ目が見えるまで良く焼きました。
焼き上がった肉は見かけよりもズッと軟らかくジューシーでした。

そうやって、ひとり炭の熱に焼かれ、汗を拭き拭き、小一時間ホルモン焼きを楽しんだ次第です。
【秩父屋』に何が客を引きつけるか、一言で言えば、とにかくすべての肉が新鮮で上等、これにつきます。

その間に焼酎のナカをお替わりしました。

お勘定はチョウ安かった。
ついでながら、店主の愛想の良さにも参った。
「またおいでください」
「また来ます」

食べログの熊谷のホルモン焼きランキングにも出てきません。
食べログってあてにならないですね。こんな名店が落ちているなんて。

まだ外は明るいし、ちょっとフラフラしてみますか。
いけねぇ、いけねぇ、自転車は転がして帰らなきゃいけないですね。

それでは、失敗作ではありますが、ついでに近作を1枚失礼いたします。
八木原牧場2


No.33 フラッと入ったらいい店だった。「プラットスタンド酛」

地方に出かけたときなど、フラッと入ったら思いがけずにいい店に出会ったという経験はどなたもお持ちでしょう。それが旅のいいところで、そんな経験を繰り返し得たいというのも旅の動機のひとつになっているのかもしれません。

今日は出張や旅行ではないのですが、東京でも似たような経験をするという話です。


先日、都立小金井公園の中にある「江戸東京たてもの園」に前川圀男邸を観に行きました。

少しだけその話をさせてください。

公園の中は夏の植物の息が立ちこめて噎せ返るような空気でしたが、青空をバックにした枝葉が作り出す模様がすがすがしく映り、心和ませます。

小金井公園にて

園内には、江戸期から昭和の戦前までのおよそ30ほどの建築物が散在しています。

ル・コルビジェの弟子で、東京文化会館を設計した前川圀男の自宅もそのひとつです。

昭和17年の建築ですが、とてもモダンです。左が正面玄関口、右が裏の庭側。

前川圀男邸正面前川圀男邸庭

猛暑の中を10軒ほどテクテクと見て回りました。どれも見る価値のある建築ばかりです。

しかし、とても今日だけで全部は見られない、もう一度出直すことにしました。

武蔵小金井から中央線に乗ったのですが、途中で、フラッと吉祥寺で降りてみたくなりました。

たまに中野とか、荻窪まで呑みに行くことがあり、吉祥寺にも「いせや総本店」とか「,ハモニカ横丁」など行ったことのあるところがあります。

駅に降りて一旦は、立ち呑みの「いせや」のほうに足が向きました。実にたくさんの飲食店が軒を連ねています。

でも、せっかく来たのだからほかの店はないかと思い直し、ネットで『立ち呑み』を探します。

何軒かがリストアップされましたが、一番上に出てきた『ブラットスタンド 酛』という店名が気に入りました。ハモニカ横丁に極めて近い距離です。

スマホの地図を頼りに近づいたのに、場所が分からない。グルッとハモニカ横丁を2周してしまいました。もうなくなってしまったのかと思いつつ店舗情報を見ると、自分が立っている前のビルの地下だということが判明して、ガックリ。

上は賑やかなスーパーみたいな店舗だというのに、階段はどことなく寂しく、トボトボと地下へ降りますと、そこもまたうらぶれた感じの飲食街になっていました。

少し進んだところに通路に面した側を上から長いビニールで囲った店があります。

ここかなとビニール越しに中を覗くと、立ち飲みではなくて、コの字カウンタを囲む椅子席だけです。どこか静かな雰囲気です。

小さな看板には『ブラットスタンド 酛』と確かにあります。

とにかく入ることにしました。

日本酒の店らしいのですが、奇妙なことに数人の客は女性ばかりです。しかもまだ夕方6時を少し回ったばかりだというのに。

「お店の名前の『酛』という漢字は何と読むんですか」と尋ねると、「モトです。生本造りの生酛(きもと)です」と答が返ってきました。

カウンターの後ろにはずらりと日本酒の瓶が並んでいます。それもただ並んでいるのではなくて、上からのライトに照らされて日本酒が光るディスプレイになっているのです。気が利いています。

とりあえずビールを頼みましたが、酒の種類はすごい。

禁煙なのがいい。私もタバコを吸わなくなってから20年くらい経っていまして、最近は禁煙を歓迎するようになってしまいました。

酒場にたばこの煙は必須だと思っていたのに、変れるものですね。

コの字のカウンターはやや高めで、立ち飲み時代のママなのかもしれません。

和風酒場というわけでもないし、でも一升瓶がディスプレイとしてしゃれて並べられているところは和風を少し超えてるし、酒肴も刺身をはじめ和風といえばそうだけれど、洋風料理の酒肴もあるし、カウンターと椅子の組合せはショットバーのようでもあるし・・・・・・・。

広く客を受け入れようとする趣向なのか、わざとこういうつくりを指向したのか、曖昧といってしまえばそれまでで、でも、雰囲気は悪くないのです。

こういう演出が女性に人気がある理由なのでしょうか。

まずはマグロの刺身を注文して、ついでポテサラ、ジャガイモの甘辛煮、柚白菜。追加で珍しいメニューの納豆麻婆豆腐、締めは鯛茶漬け。

ずいぶん食べてしまいました。

納豆麻婆豆腐はちょっとという感じがしたけれど、ほかはどれも美味しかった。

居酒屋料理ではなく、メシ屋の手作りおかずといった趣でした。

女性に人気がある理由は、料理がいけてるからだと確信しました。

店構えにしては安くはなかったですが、フラッと入った店にしてはアタリでした。

ついでに今日の一枚を披露させていただきます。

20170707

No.32 信州の小さなワイナリー

近年、信州にはワイナリーが次々誕生しています。
これから生まれようとしているところもかなりあるようです。

また信州ワインはこの数年で格段に味が良くなったという噂です。
やがて山梨を超えた本格的ワイン産地になっていく予感がします。

先日信州に旅行した際に、立ち寄った小さなワイナリーの話を書きます。

東御市(とうみし)は小諸市と上田市との間にあり、湯の丸高原や菅平への入り口としても知られています。
東御市には5つのワイナリーがあるそうです。
そのひとつが有名な玉村豊男氏の「ヴィラデスト・ガアーデンファーム・アンド・ワイナリー」ですが、そこからさほど遠くないところに、今回訪れたワイナリー「リュードヴァン(Rue de Vin」があります。

なぜここに行くことになったのか、さしたる理由はありません。
ネットでお昼を食べるところを探していたところ、千曲川ワインバレーなる記事を見かけ、見ているうちに「リュードヴァン」が手軽なランチをやっていることがわかり、行ってみるかということになった次第です。
土日以外は要予約ということで前日に電話しました。

東部湯の丸インターチェンジを降りて、北側の山を10分くらい登ったところの中腹にありました。
そこは葡萄畑になっていて、広く開けています。
そこにこんな感じのショップ兼レストランと、その後にワイン工場がかわいく立っていました。

RuedeVin

駐車場の脇にはお花畑があり、左側の斜面には葡萄畑が広がっています。
右の奥には八ヶ岳連峰があります。

中に入ると、10ー15坪くらいでしょうか、けして広くはない、レストランともショップともいいがたい空間がありました。
イメージしていたのとは少々違っていたので、戸惑いました。
ショップにしては、商品も余り飾ってありませんし、レストランといっても、ただテーブルがいくつか置いてある程度で、こじゃれた雰囲気でもありません。

しかし、女性が笑顔で迎えてくれました。
店にはその方しかいませんからシェフなのでしょうが、ソムリエバッジをつけています。

右側の八ヶ岳のほうの窓に向けて私たちのテーブルがきちんとしたレストランのようにセットされていました。

ランチは1種類なので、選ぶ必要はなかったのですが、水を運んできた彼女がこのワイナリーとここでつくっているワインについて熱く説明してくれます。

それを聞いていたら、ワインを注文しなければならないような気分になってしまいました。
一応、相棒に運転の交替を頼んで飲むことに決定しましたが、どれにしようか迷っていると、「赤ワインは在庫が切れていてお出しできません。申し訳ないのですが、白の中からお選びください。」と言うのです。

更に迷っていると、
「ソーヴィニヨン・ブランとシャルドネの2種類を半分ずつお出ししましょうか。」
(下の写真の右から3番目と一番左のボトルです)
「いいですねぇ、それでお願いします。」という具合に決まりました。

リュードヴァン

後で聞いた話ですが、赤ワインは今の生産量では1,000本くらいしかできないのだそうです。
生産量に対して固定費がかかるので、どうしても値段が5,500円と高くなってしまうのですが、それでも毎年すぐに売れ切れてしまうそうです。

さて、白ワインのお味はどうかというと、どちらも辛口で、葡萄の味が残り、やはり日本のワイン独特の味がします。私にはいまひとつかと思えますが、正直、ワインの味はよくわかりません。
シャルドネのほうが飲みやすかったかな。


ランチは美味しくいただきました。
特に高原野菜のサラダは新鮮で、野菜の種類も豊富でした。
   *(この種の野菜は、最近、軽井沢の『発地市庭』というところで手軽にまとまって手に入ります。)

この日、客は私たちの一組しかいませんでした。
食事を運んできたときも、料理の準備の合間にも、食事の後にも、彼女からいろいろ興味深い話を楽しく聞かせていただきました。

ワイナリーといっても葡萄を育てるところから醸造・販売まですべての工程を手がけているところは少なく、「リュードヴァン」のこだわりはそこにあると言います。

長野県には、「原産地呼称管理制度」といって農産物の品質を保証する制度があります。
外国から葡萄を買ったり、ワインを買ってラベルだけ貼って売り出す業者とは区別して、葡萄の生育から手がけ、醸造まで一貫して管理し、品評会での評価を得てオーソライズされた商品ということです。
ワインのほかシードル、日本酒なども含まれています。
長野県はワイン葡萄の生産量では日本一だそうです。

玉村豊男氏が代表を務める地域の共同出資会社「アルカンヴィーニュ」では、『千曲ワインアカデミー』という“栽培醸造経営講座”が開かれていて、全国から若い人が集まってきているそうです。
ここで教育を受けた人たちが、葡萄の栽培や醸造の仕事に就いたり、将来ワイナリーの経営を志望して付近の市町村に住み着いているみたいです。

起業までには資金や土地の確保などいろいろ苦労も伴うようですが、なんだか、東御市が豊かな住みやすい土地に思えてきました。

「リュードヴァン」の社長さんにはお目にかかれませんでしたが、この地域をワインで観光開発していく夢をお持ちだそうです。
店舗の正面の小さな山を新しく借りることができたそうで、そこに畑を広げ、参入者を募り、ワイン工場や、レストラン、ショップ、宿泊施設などを展開し、ワインヴァレーとして発展させる構想です。

そういえば、社名はフランス語で「ワイン通り」という意味でしたね。
夢を社名に乗せて頑張っているということですね。
いつか、ここが人で賑わう通りになることを願っています。

彼女が一人でシェフ、ウェートレス、ソムリエ、販売員、加えて時間のあるときにはラベル貼りと活躍する姿は、とっても生き生きとして映りました。
そして、信州の片隅で夢を追いかけて一生懸命に奮闘している小さなワイナリーを応援したくなりました。

今回もまた長くなってしまい申し訳ありませんでした。