酔遊記

密かな楽しみ、味わい深い居酒屋をめぐる。

No.26 カザル・ガルシア/ヴィーニョヴェルデを知っていますか

「カザル・ガルシア/ヴィーニョヴェルデ」

このお酒の名前を知っているとしたら、あなたはなかなかのワイン通で、好みがシブいのではないでしょうか。

残念ながら、ワインに余り興味のない私は2年ほど前に友人から贈られるまでその存在を知りませんでした。
でも最近は、このワインを愛飲するようになっています。

「カザル・ガルシア/ヴィーニョヴェルデ」はポルトガル産で、白とロゼがあり、ともにアルコール度数は9.5%alc./vol.で、ワインにしては軽いものです。
値段も手頃で、ネットでまとめて買うと、1本あたり1,200ー1,500円で手に入ります。

何と、世界で一番飲まれているワインなのだそうです。

カザルガルシア

最初は、いただいたにもかかわらず、スクリューキャップで、水のように透き通って見えるので、率直に言ってすぐには手が出ませんでした。
きっとそのまま1年以上、我が家の酒置き場の隅に置かれていたと思います。
でも、何となく簡素でおしゃれなデザインのラベルが気になっていました。シンプルで、涼しそうな容姿です。

去年の春先、夕方の庭に下りて、何か飲みたいと思って、ストレージを覗くと、写真にあるような白とロゼが目に入ったのでした。
贈ってくれた人の「このワイン、なかなかいけますよ」というひとことが思い出され、半信半疑で青いラベルの白を呑んでみることにしました。

キャップを捻ると、シュワーッと言う音がして軽く泡が上りました。
飲んでみると、炭酸ガスは開けた時だけで続かず、舌触りがスパークリングワインとは違います。
最初の一口飲んだときの印象は、「水っぽい、うすい、青臭い」といったものでした。

これは普通のワインとは違うなと思い、ラベルを見て、「カザル・ガルシア/ヴィーニョヴェルデ」とあるのを初めて認識した次第です。

白に書いてある能書をそのまま引用します。
「北ポルトガルの広範囲なミーニョ地方で獲れる最高の品質の葡萄のみで醸造されフルーティでデリケートなワインが生まれました。僅かに炭酸ガスを含み、若々しいフレッシュな味わいが特徴です。食前酒として、又は軽めの食事と共にお楽しみください。冷蔵庫で良く冷やしてからお飲み頂くことをお薦めいたします。」

だいたいにおいてワインの説明というのは翻訳そのママであることが多く、書いてあることがそのまま伝わってこない場合が多いのです。
もっとも、翻訳でなくても、説明してみろといわれると、抽象的な言葉を並べるしかなく、むずかしいのですが。
まろやかという味わいからはほど遠く、ドライで、フルーティで、すっきりとした飲み口・・・・さわやかさがあります。

「ヴィーニョヴェルデ」というのは、“若い(緑の)ワイン”という意味で、「カザル・ガルシア」というのは、商品名で、「獺祭」とか「八海山」というのと同じです。
どうやら、完熟しない若い葡萄を使うらしく、そのせいで青臭く、軽い感じになっているのでしょう。

飲みやすいので、スイスイと入ってしまいました。
飲み慣れてくると、この未熟な感じ、未完成な味わいが、格式張らず、くつろいだ気分にさせてくれるのです。

ミモレットやピンチョスがいかにも合いそうです。
成熟した上等なヘヴィーさはないので、フランス料理で飲むには物足りません。

さわやかな、夏向きのワインとしてお薦めします。
どうぞ一度お試しください。
きっとやみつきになりますよ。

No.25 テラスでのくつろぎ

4月になって、昼間の気温が20度を超える日が多くなってきました。

我が家には小さな庭があり、狭いテラスがついています。

今頃から、虫が多く日差しが強くなる6月初旬頃までの2か月あまり、ここに座ってのんびりと庭の風景を楽しむことができます。
これがリビングから眺めた庭です。

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上の写真は庭の右半分で、右端に椅子とテーブルがあるわけです。
左半分は下のような風景です。

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この庭に関しては妻がすべてを管理しており、私はただひたすら眺めて楽しむだけであります。

しかし、光を浴び、風を感じ、植物の成長を観察し、鳥の声を聴く時間は格別です。

毎年、季候が良くなってくると、ここで朝晩の食事をするのが習慣になっています。
夜は植木の下2カ所からライトアップします。それがまた食事の時に絶好の風景を作り出します。

私がそれにも増して好きなのは、ライトを着けるまでのひととき、陽の陰った庭でひとり、チーズをつまみに、ワインやウイスキーグラスを傾けている時です。
何ともくつろいだ気分になります。

去年までは休日ですらあまりこんなことはできませんでしたから、ようやく与えられた、人生の黄昏時でなければ味わえない、今までとは違った充実を味わっています。

気取っているわけではないのですが、ここに心を落ち着けていると、わざわざ巷へ飲みに出かけていく気分になれないのは当たり前かもしれません。

No.24 埼玉屋の串焼きショー

無職になっても何かと用事があって、週に1、2度は都心に出かけます。
先週も4日に御茶の水まで行ったのですが、ひとうtの用事は午前中に済み、その後はきままな一人での桜名所巡りとなりました。

桜のことは詳しく述べませんが、まずは千鳥ヶ淵へ。
ほぼ毎年訪れていますが、相変わらずの人混み。
年々ガイドブック片手の外国人が増えています。

陶器の「花田」を眺めた後、私の好きな街、神保町に下って、かつて通うようにして来た中華の「咸興酒店」でランチ。2品の料理が20種類くらいのメニューから選べて1,000円です。
近くの有名店「新世界菜館」の姉妹店ですが、こちらの方が安くて、美味しくて、楽しめます。
どちらも昼時は行列ができます。

ビールと一緒に食べ放題の大根の酢漬けで料理を待ちます。
この日は、中華丼と鳥ソバ。

いい気分になって、日本橋へ。
高島屋で2つめの用事を済ませ、東京駅までのさくら通りを楽しんで、上野へ。
公園口の改札口は、どこから集まってきたのかと思うほどの人の流れです。

混雑を避けて線路沿いに輪王寺のところへ出て、桜を見ながら東京国立博物館(「茶の湯」展)の前を通って黒田記念館の角を右に折れ、寛永寺の前から谷中霊園を抜けてさくら通りへ。
ここの桜は上野公園に比べると五分くらいで、咲き遅れている印象。

ここまででかなりな距離の散歩になったので、朝倉彫塑館に入ってしばし足を休めました。
屋上庭園から谷中の街を見下ろすと、ポッ、ポッと桜の咲いている場所がよくわかります。

4時半になっていました。
そろそろ心も休めなければならない時間になりました。

上野あたりに戻ろうか、根岸の「鍵屋」なら歩いて行けるけれどなと思案していたところに、ふと浮かんだ名前がありました。
日暮里からはまだ更に埼玉のほうへ下らなければならないけれど、東十条に名物焼きトン「埼玉屋」というのがあったのを思い出しました。実は5年以上も前になりますが、「食べログ 3.82」というのに惹かれて一度来たことがあるのです。
しかし、その時は7時半頃だったと思いますが、「もうネタが切れてしまうから終了」と断られたのでした。

まだ幾駅か乗らないといけませんが、時間はまだ早いし、せっかくここまで来ているのだからとあっさり決断し電車に。


さてさて、前置きが長くなってしまいましたが、埼玉屋の話へ。

東十条の南口に出て、スロープをゆるゆると下り通りに出ると右へ、50メートルも行かないところに店はありました。

扉を開けると、コの字型のカウンターに、バラバラと8人ほどが座っているのと、テーブル席に女性3人組がいるだけで、案外簡単に席を確保できました。

案内されるままにカウンターの右列真ん中あたりに座ります。
初めてなので勝手がわからず落ち着きません。

カウンターの中には、私と同年配と推測される恰幅の良い店主らしき人と、顔も体格もそっくりな四十代の息子さんとその奥さんと思われる3人が、お互いの動線を気にしながら動き回っています。
すぐに3人が家族であることが伝わってきました。

コの字の正面にかなり広い、炭の焼き台があり、店主がひとりで担当しているようです。
息子さんが酒の仕切りを、奥さんが料理を担当しているようです。

壁のメニューを見ていると、「はじめて?」と、店主に聞かれました。
「うちは、焼きトンのスタートは9本をお任せでお願いしています」
「ビールを置いてないわけじゃないけれど、大概の人がホッピーかレモンハイね。日本酒もあるけれど、立派なのは置いてない」と言われました。

ということは、ここにいる人たちは、酒は二の次で、焼きトンの美味しさに惹かれて集っているということになり、店もそれを誇りにしているということなのでしょうか。

カウンターには、1組を除いて、一人で飲みに来ている人ばかりのようです。
確かに、女性客を除いてビールを飲んでいる人はいません。レモンハイの人とホッピーの人が半々くらいです。
ここはまずホッピーでいくことにしました

客と話す息子さんの口調と、言葉遣いは、親父さんにそっくりです。

通しはクレソンと大根のサラダ。焼きトン屋にしてはしゃれた物を出します。

メニューから、耳慣れない「ポルコ」という品を見つけたので、どんなものかと思いとりあえずそれを注文します。
すると「そう焦らなくても、これから串がどんどん行くからね。最初は牛リブロースから。これ見てよ、いい肉だろう」と、私の目の前に串を差し出してみせます。

肉の品質などわかるわけじゃないので、「いい色していて、美味しそうですね」とお愛想を言ったつもりだったのに、「わかる?だろう。焼きトン屋でこんな上等なのを出すところなんかないよ」と自慢します。

これから焼く肉をみせるのは、私だけでなく、カウンターに座っている人テーブルに座っている人全員にみせて回るのです。
よほど味に自信があるのでしょう。

程なくして焼き上がり、串を皿に乗せてくれます。
割と小ぶりな肉塊です。
一つ口に入れてみます。軟らかい。
うむ、美味いと、主人の顔を見ると、したり顔で、
「どうだい、口の中でとろけるようだろう。焼き加減も大事なんだ」といいました。

さて、この調子が、実は、9本目まで続いたのでした。
しかも、焼く前と焼き上がってからと、全部の客に一様に語りかけるのです。
残りの8本は、シロ、レバー、ハツ、チレ、ネギマ、タン、シャモ、カシラでした。
その間にも話題を切らすことがありません。

「最近は、ネットでうちの評判を見てくる外国人やガイドブックを片手に尋ねてくる外国人がどんどん増えていて、こっちも英語を勉強しなくちゃならないんだよ」と言って、英語で会話の応答をおどけてやってみせてくれます。
そのひょうきんさに、客も一緒になってどっと笑います。

もう一人舞台です。

すると、ちょうどそこに、携帯片手に日本人のような若い男女の3人組が入ってきました。
しかし、流ちょうな英語で主人に語り掛けます。香港から来たのだそうです。

あまりのタイミングに主人は大きくうろたえましたが、そこはなれたもの、落ち着きを取り戻し、自分流の説明で、あっというまに会話の流れを引き寄せます。

私のときと同じように、「埼玉屋のきまり」を片言の英語でつなぎ合わせて説明すると、3人はいたく喜んで、レモンハイを頼みました。

全部がハイレベルというわけではありませんでしたが、でもナミの焼きトン屋の水準を凌駕していたのは確かです。

焼き串が進行しながらも、豚耳をオリーブオイルで和えたポルコ、後から注文した生海苔、ガツの醤油漬けも食べましたが、どれも納得の味でした。

追加の飲み物は、香港の3人が美味しいと絶賛したレモンハイを飲んでみました。
これまた、今まで呑んだうちで一番美味しいと思わせるレモンハイでした。

いつの間にか満席状態になっています。
1時間ちょっとで、一通り楽しみましたので、勘定を頼むと、また主人が「今日は良く来てくれたね。美味しかっただろ」といって握手を求めてきました。

親父さんは、埼玉県鴻巣市の出身で、私と同じ昭和21年生まれだそうです。
私よりはズッと元気に活動しています。
客を巻き込んでひっきりなしに喋ってくれるサービス精神にも驚嘆しました。
客とのコミュニケーションが仕事と人生のリズムになっているのでしょう。

でもねぇ、最後には疲れました。