酔遊記

密かな楽しみ、味わい深い居酒屋をめぐる。

No.35 独りになりたいときには「イチローズモルト」

前回の更新が8月12日でしたから、ずいぶん間が開いてしまいました。
気分的には夏休みというところでしたが、いっぱい楽しいことをしてましたので、こちらを怠けてしまったということでしょうか。
どうもほかのことにかかり出すと、ブログに手がかかりにくくなる癖があります。

さて、「イチローズモルト」
どこかで聞いたことがありませんか。

この2,3年評判の高いウイスキーのブランド名です。
このウイスキーを製造しているのは、埼玉県秩父市の(株)ベンチャーウイスキーという会社です。
代表取締役は肥土(あくと)伊知郎(いちろう)氏、だから「イチローズモルト」。

私はイチローズモルトの『ダブルディスティラリーズ』を愛飲しでいます。
イチロウズモルト2

ウイスキーとしてはちょっと高いのですが、とにかく一度飲んだら忘れられない美味しさです。

ウイスキーというと、燻製のような匂いがして、強烈な苦さを思い浮かべる人が多いかもしれません。
でも、それは昔の話です。
今のウイスキーは値段さえ合えば、品のよい大人の味を楽しめるものが手に入ります。
イチローズモルト・ダブルディスティラリーズもそのひとつかもしれません。

アルコール度数は46%とちょっと高いのですが、グラスを傾けたときに鼻先に来る香りが甘いのです。ひと口含むと、やわらかな甘さがフワッと広がって舌と喉を潤します。ブランデーのような、ブランデーとは違う。
抽象的ですが、ほかのウイスキーにはない豊かな味わいです。
女性も十分楽しめます。

イチローズモルトは10種類くらいあったかと思いますが、私が飲んだことのあるのはこのほかに『モルト&グレーホワイトラベル』の2種類だけです。この上のクラスに「ワインウッドリザーブ、」「ミズナラウッドリザーブ」やプレミアムボトルなどがありますが、そこまで出さなくてもという値段になってしまいます。
最近は、ネット市場でも人気が高く、かなりのプレミアムが付いているそうです。

イチローズモルトが埼玉県の酒なのに、最初に教えてもらったのは東京の友人からでした。
その方から、「埼玉のウイスキーです」と『ダブルディスティラリーズ』を贈られたのが最初の出会いだったのです。
そのあと、あまり間を置かず、これもまた東京の知人から、同じものの200mlサイズのものをいただきました。
2回とも、偶然ですが、『ダブルディスティラリーズ』だったのです。
この美味しさを失うのが惜しくて、今も『ダブルディスティラリーズ』を飲んでいる次第です。

私が愛する理由のひとつには、イチローズモルトのオリジンがわが熊谷市の隣りの羽生市にあったということに親しみを覚えるからです。イチローズモルトはここで生まれました。
羽生には私の好きな日本酒、南陽酒蔵の『花陽浴』(「はなあび」と読みます)もあります。

肥土伊知郎氏の実家は酒蔵を営んでいましたが、2000年頃、経営不振から他のメーカーに売却することになったのです。売却先から、当時つくっていたウイスキーの原酒を廃棄するようにという条件が出されました。
家業を継ぐために戻っていた伊知郎氏は、これを捨てることができず、2004年にこのウイスキーを売り出すために(株)ベンチャーウイスキーを創立し、2007年には自前の蒸留所を秩父につくり、本格的な製造に乗り出しました。
それから10年、(株)ベンチャーウイスキーはあっという間に世界的ブランドになってしまったのです。

ダブルディスティラリーズは羽生で残されたシングルモルトの原酒と秩父でつくったモルト原酒をブレンドしてつくったピュアモルトで、2009年にWorld Whisky Award の Best Japaese Blended Molt に選ばれています。
簡単に紹介するとこのような次第です。

さて、余談ですが、ウイスキーをどんなときに飲むか、ですね。
一番多いのは、夕食が早く済み3-4時間立った頃、寝るにはまだ勿体ないなと、やや心の空間が開きかけたとき、きつい酒をグッと流し込んでみたくなります。

夕食の時にウイスキーを飲むということは、若い頃にはありましたが、今はほとんどないですね。ハイボールは、外飲みのときにはよくありますが、自宅ではつくりません。
夕食では、まずビールを一杯、それから日本酒を90-100ml くらいが普通です。
気が向けば、これに芋焼酎のロックをグラスで1杯というところでしょうか。

二番目に多いのは、夕方、突然にすべてのことから解放されて、食事までにはまだちょっとあるが、少しゆっくりしたい気分のときに、ここはコーヒーよりも軽くウイスキーかなという具合に一杯。
まずはショットグラスで一杯、物足りないと感じたら、次はロックです。

三番目に多いのは、食事の後テレビをダラダラと観続けてしまっているときです。
こんな時は軽いつまみがほしくなります。ナッツとか、チーズとか、チョコレートとか。

ウイスキーを日常的に飲むという習慣はありません。
なぜか毎日が忙しく終わってしまい、ゆっくり飲んでいる時間というのもほとんどありません。

忙しさの中でほっとしたとき、気が向いたときに飲めるお酒を一本置いておくというのはわるくありません。
こうして考えてみると、わたしはウイスキーに心の安らぎを求めているのでしょう。
イチローズモルト を飲むときはいつも独り、静かな時間です。

かぼちゃ

No.34 ホルモン焼き「秩父屋」

私はホルモン焼きというのをよくは食しません。
嫌いではありませんが、特に美味いとも思っていません。

熊谷という地には、ホルモン焼き屋が昔からたくさんあり、私が初めて食べたのは大学生の時でした。
先輩に連れられて行ったのでしたが、当時のホルモン焼きはとにかくまずかったのです。
それ以来、六十歳近くになるまで滅多なことでは食べることがありませんでした。

ホルモンは『放るもん』といったくらい価値の低い臓物を、もったいないといって食べるようになったと聞いたことがありますが、正しいことは知りません。
ただ、ホルモン焼きという呼び方には疑問があります。
ホルモンというのは腸の部分だと思うのですが、一般に私たちがホルモン焼きといって食べているのは、腸以外の胃・子宮・精巣などほとんどすべての内蔵を含んでいます。それなのになぜホルモン焼きと呼ぶようになったのでしょうか。もしかしたら、最初は腸だけを提供していたが、段々と出すものが広がっていって呼び方が残ったとか?
また、もうひとつ、ホルモン焼きという場合、ほとんど豚肉の臓物であって、牛・馬・羊といった肉を含まないし、ホルモンは豚に限られていると思いますが、なぜでしょうか。

それはさておき、ホルモン焼きではなく、ホルモンというものが初めてなかなかいけるじゃないかと感じたのは、博多に出張したときでした。
すでにホルモン鍋というのが若い世代の間ではやっていました。一緒にいた女子達が「博多に来たのだからホルモン鍋を食べたい」というので、私は気が進まなかったのですが、つき合うことになりました。

若者向けの店構えのところでホルモン鍋を摘まむことになったのですが、はじめてこのときホルモンのプリンとした舌触りと油が口の中で破れて融けるような味わいに驚きました。
ホルモンというものに対する先入観が破られたのはそのときです。

かといって、その後どんどん食べるようになったのかというとそんなことはありません。
その後は、友人と行くのにも抵抗が少なくなり、経験を重ねました。
生ホルモンと茹でたホルモンがあることも知りました。
焼き肉屋とは違う名称の肉がいろいろあることも知りました。


さて、最近、平日も熊谷にいるようになって、実は、夕方から一人で出かけるホルモン焼き屋ができてしまったのです。
「秩父屋」に行くようになったきっかけは、友人・知人から「ホルモン焼きの秩父屋は美味しい」という噂を何度も耳にしたからです。
ホルモン焼きは好きではないけれど、これだけ何度も聞くと、私としては、好き嫌いではなく行かねばならないという義務感にかられました。

夏の夕方、妻には内緒で、ひとりフラフラと自転車に乗って向かいます。
まだ午後5時前で、陽は高く、ジリジリと照りつけています。
本当に、こんな早い時間から、暑い中、自転車をこいで駆けつけるのには訳があります。
1週間ほど前、6時過ぎに行ってみたところ、満員で断られたからです。

そのとき店の人から「5時頃に来ていただけたら確実なんですがね」と言われたからです。
予約もできるそうなのですが、一人だからそれもなと思う次第で、えっちらおっちらと漕ぎ着けました。
外観はこんな感じです。
秩父屋外観秩父屋看板2

のれんの奥へ入ると正面にばかでかい看板があります。
表の看板より大きいのは確実です。
テーブル席はまだ半分もいませんが、わずか6席のカウンターは私が座って満員です。

デコラの壁とコンクリートの床、合板のテーブルと丸椅子、小上がり・・・中の風景はいたってありきたりで、さっぱりしています。
実に掃除が行き届いていて清潔です。
カウンターの前はシミ・汚れの一つもありません。
ただ、夏といえどもクーラーはなく、窓を開け放って換気扇を回すという昔のスタイルを守っています。
どうせクーラーなんて、この炭の熱では無益です。
むしろ、ここに集う人たちはこの雰囲気を楽しんでいるようにさえ思えます。
焼き物居酒屋に特有な油っぽい匂いも、煙っぽい感じもありません。

品書きは以下の通り。
秩父屋メニュー
こういうところでは、ビールよりも最初からホッピーです。

ウム、焼酎の量が普通の倍近く入っているのではないでしょうか。

細い中年の店主とおぼしき人が、赤々とした炭の入った七輪を机の上に置いていきました。
七輪からすぐに猛烈な熱が伝わってきます。
テーブル席では、中央に掘りごたつのように穴が設けられていて、そこに七輪をはめ込むようになっています。

注文は、まずお新香とモツ煮、それに焼きはカシラ・レバー・生ホルモンの3つ。
カウンターの向こう側が厨房になっていて丸見えです。男が2人、女が4人、肉・野菜・飲み物と分担が決まっていて、手際よく次々と注文をさばいています。

私の注文の品は割と早めに揃いました。

最初に出てきたぬか漬けのお新香に感動。
キュウリ・ニンジン・ダイコンのどれもがシャキシャキしていて、漬かり具合・堅さ・それに量もちょうど良い加減です。
大好物なのです。

モツ煮は、ほかの店と味付けにさほど変わりはないけれど、350円にしては大盛りで、モツがいっぱい入っています。

焼き物3種が来ます。
見るからに新鮮そうです。しかも、どれも一切れが大きい。
七輪は小ぶりなので、4,5枚広げるといっぱいの感じです。

レバーが先に焼けました。
辛口のタレです。
しっかりした歯ごたえで、美味い。

生ホルモンは、タレを付けずに、そのまま食べてみます。
臭みもなく、これも歯ごたえというか、噛み応えがあり、噛むほどに味が変わってきます。

そこへ四十代のサラリーマンが3人で入ってきましたが、「今日は予約でいっぱいです」と断られていました。
テーブル席はまだ半分くらいしか埋まっていないのに、残りは全部が予約の人なんですね。

カシラは肉が厚い。したがって、火が通っているのかどうかわかりにくかったので、焦げ目が見えるまで良く焼きました。
焼き上がった肉は見かけよりもズッと軟らかくジューシーでした。

そうやって、ひとり炭の熱に焼かれ、汗を拭き拭き、小一時間ホルモン焼きを楽しんだ次第です。
【秩父屋』に何が客を引きつけるか、一言で言えば、とにかくすべての肉が新鮮で上等、これにつきます。

その間に焼酎のナカをお替わりしました。

お勘定はチョウ安かった。
ついでながら、店主の愛想の良さにも参った。
「またおいでください」
「また来ます」

食べログの熊谷のホルモン焼きランキングにも出てきません。
食べログってあてにならないですね。こんな名店が落ちているなんて。

まだ外は明るいし、ちょっとフラフラしてみますか。
いけねぇ、いけねぇ、自転車は転がして帰らなきゃいけないですね。

それでは、失敗作ではありますが、ついでに近作を1枚失礼いたします。
八木原牧場2


No.33 フラッと入ったらいい店だった。「プラットスタンド酛」

地方に出かけたときなど、フラッと入ったら思いがけずにいい店に出会ったという経験はどなたもお持ちでしょう。それが旅のいいところで、そんな経験を繰り返し得たいというのも旅の動機のひとつになっているのかもしれません。

今日は出張や旅行ではないのですが、東京でも似たような経験をするという話です。


先日、都立小金井公園の中にある「江戸東京たてもの園」に前川圀男邸を観に行きました。

少しだけその話をさせてください。

公園の中は夏の植物の息が立ちこめて噎せ返るような空気でしたが、青空をバックにした枝葉が作り出す模様がすがすがしく映り、心和ませます。

小金井公園にて

園内には、江戸期から昭和の戦前までのおよそ30ほどの建築物が散在しています。

ル・コルビジェの弟子で、東京文化会館を設計した前川圀男の自宅もそのひとつです。

昭和17年の建築ですが、とてもモダンです。左が正面玄関口、右が裏の庭側。

前川圀男邸正面前川圀男邸庭

猛暑の中を10軒ほどテクテクと見て回りました。どれも見る価値のある建築ばかりです。

しかし、とても今日だけで全部は見られない、もう一度出直すことにしました。

武蔵小金井から中央線に乗ったのですが、途中で、フラッと吉祥寺で降りてみたくなりました。

たまに中野とか、荻窪まで呑みに行くことがあり、吉祥寺にも「いせや総本店」とか「,ハモニカ横丁」など行ったことのあるところがあります。

駅に降りて一旦は、立ち呑みの「いせや」のほうに足が向きました。実にたくさんの飲食店が軒を連ねています。

でも、せっかく来たのだからほかの店はないかと思い直し、ネットで『立ち呑み』を探します。

何軒かがリストアップされましたが、一番上に出てきた『ブラットスタンド 酛』という店名が気に入りました。ハモニカ横丁に極めて近い距離です。

スマホの地図を頼りに近づいたのに、場所が分からない。グルッとハモニカ横丁を2周してしまいました。もうなくなってしまったのかと思いつつ店舗情報を見ると、自分が立っている前のビルの地下だということが判明して、ガックリ。

上は賑やかなスーパーみたいな店舗だというのに、階段はどことなく寂しく、トボトボと地下へ降りますと、そこもまたうらぶれた感じの飲食街になっていました。

少し進んだところに通路に面した側を上から長いビニールで囲った店があります。

ここかなとビニール越しに中を覗くと、立ち飲みではなくて、コの字カウンタを囲む椅子席だけです。どこか静かな雰囲気です。

小さな看板には『ブラットスタンド 酛』と確かにあります。

とにかく入ることにしました。

日本酒の店らしいのですが、奇妙なことに数人の客は女性ばかりです。しかもまだ夕方6時を少し回ったばかりだというのに。

「お店の名前の『酛』という漢字は何と読むんですか」と尋ねると、「モトです。生本造りの生酛(きもと)です」と答が返ってきました。

カウンターの後ろにはずらりと日本酒の瓶が並んでいます。それもただ並んでいるのではなくて、上からのライトに照らされて日本酒が光るディスプレイになっているのです。気が利いています。

とりあえずビールを頼みましたが、酒の種類はすごい。

禁煙なのがいい。私もタバコを吸わなくなってから20年くらい経っていまして、最近は禁煙を歓迎するようになってしまいました。

酒場にたばこの煙は必須だと思っていたのに、変れるものですね。

コの字のカウンターはやや高めで、立ち飲み時代のママなのかもしれません。

和風酒場というわけでもないし、でも一升瓶がディスプレイとしてしゃれて並べられているところは和風を少し超えてるし、酒肴も刺身をはじめ和風といえばそうだけれど、洋風料理の酒肴もあるし、カウンターと椅子の組合せはショットバーのようでもあるし・・・・・・・。

広く客を受け入れようとする趣向なのか、わざとこういうつくりを指向したのか、曖昧といってしまえばそれまでで、でも、雰囲気は悪くないのです。

こういう演出が女性に人気がある理由なのでしょうか。

まずはマグロの刺身を注文して、ついでポテサラ、ジャガイモの甘辛煮、柚白菜。追加で珍しいメニューの納豆麻婆豆腐、締めは鯛茶漬け。

ずいぶん食べてしまいました。

納豆麻婆豆腐はちょっとという感じがしたけれど、ほかはどれも美味しかった。

居酒屋料理ではなく、メシ屋の手作りおかずといった趣でした。

女性に人気がある理由は、料理がいけてるからだと確信しました。

店構えにしては安くはなかったですが、フラッと入った店にしてはアタリでした。

ついでに今日の一枚を披露させていただきます。

20170707