酔遊記

密かな楽しみ、味わい深い居酒屋をめぐる。

No.28 信州「真澄」の蔵元に偶然

私の好きな酒の銘柄に信州の「真澄」があります。
5月20日、思わぬことからこの醸造元を訪れることができました。

19日と20日、古い友人と2人で八ヶ岳と蓼科を周遊する車のツーリングに出かけました。
嬉しいことに、2日間とも完璧な晴天でした。

1日目は上信越自動車道から入り、野辺山の八ヶ岳高原ロッジ、清里の清泉寮、八ヶ岳高原ラインを通って御射鹿池を巡り、蓼科のホテルに宿泊。
東山魁夷の絵で有名な御射鹿池を、ホテルで一枚。

みしゃがいけ

筆を重ねすぎてしまいました。

2日目は朝から霧ヶ峰に出かけ、車山周辺から八島湿原に回り、グライダー練習場を散策しながら離着陸を見学。その後、ビーナスラインを霧ヶ峰から諏訪のほうに下りました。

諏訪の市街に入る道の突き当たりのところで信号停止をしていると、「宮坂醸造」の看板と「真澄」の旗が目に入りました。
道路の向こう側にはこの町に不似合いな、しゃれた構えの建物が見えます。左には杉玉飾りのあるやや古そうな建物もあります。

ここが「真澄の蔵元」かぁと、私は偶然の出会いに大いに感激ました。
しかし、予定が少し押していたので、寄ろうか迷いました。
すると、酒を飲まない友人が、「偶然とはいえ、せっかくだから寄ろうよ」と後を押してくれます。

車を駐車場に入れ、「セラ真澄」とあるモダンクラッシックな建物の中に入ると、しゃれたディスプレイのショップです。
右側が酒のコーナー、左側が陶器などの生活雑貨のコーナーになっています。

店内をいろいろ見て回っていると、宮坂醸造がどんなに歴史のある酒蔵かがわかってきました。
1662年の創業ということですから350年以上が経っているということです。苦しい時代もあったようです。


初めて真澄を知った時のことを覚えています。

もう15.6年、いやもっと前になるかもしれませんが、スノーシューを楽しむために戸隠に泊ったときのことです。
山から下りて宿に入った後、食事まで時間があるのでインストラクターと中社のあたりの土産物屋をひやかすことにしました。

ぶらぶら歩いていると、ある酒屋の店先に「あらばしりあります」と書かれた短冊の下に、無造作に新聞紙にくるまれて売られている酒を見つけました。
値段が書かれていません。
それにそもそもその頃の私は「あらばしり」という言葉も知りませんでした。

包みを取って驚きました。
あくまでその時の記憶ですが、銘柄も、醸造元も書かれてなく、手書きの数字のメモのような紙が貼られているだけでした。
明らかに商品として売られているものではなくて、サンプルかなにかのように見えました。
こうやって酒が売られているものなのだろうか、未醸造の酒なのだろうかと半信半疑で眺めていると、店の人は「これは出来上がった上等な酒だよ。春先に試験的に何本か回ってくるんだけれど、真澄のあらばしりさ」というような説明を聞かされました。

ラベルのついていない酒なんて見たことがなくおもしろそうだから、だまされたと思い1本求めました。
宿に戻って居合わせたグループの数人と囲炉裏のようなところで飲み始めたら、みんなが「これはうまい」と杯が進み,
あっという間に飲み干してしまいました。

翌日、私はこれを自分用に買い、荷物に入れました。
そんな思い出があり、信州に行くとよく飲む酒になりました。ワンカップもなかなかいけます。
その後、東京でもよく見かける銘柄になりました。


さて、店内には20種類近くが並んでいます。
私がよく買い求めるのは「純米吟醸辛口生一本」です。
しかし、今日偶然にここに来ることができた記念に「山花」を買うことにしました。

酒を選ぶことにばかり頭が行ってしまい、うっかりして店の写真を撮るのを忘れました。

その後は、清春芸術村により昼食を取り、中央高速で帰ってきました。

2日間の走行距離575km。半分近くルーフをオープンにして走っていたので、顔が日焼けでヒリヒリです。
さすがに疲れました。トシですねぇ。

No.27 北信州の春

先週、北信州を一人でドライブして来ました。

1日目は朝から雲一つない晴天。小布施でインターを下り、アップルラインという一般道を飯山方面へゆっくり進みました。

中野市に入ると、千曲川を挟んで(どこから信濃川になるかは知りませんが)対岸の遠くに上越方面の連山が、まだたくさんの雪をたたえて美しい姿を広げています。
もちろん、視界一面、桜と菜の花が、塗り込められたように景色を彩っています。
思わず、何度も車を降りて、その風景に見とれました。

昼食を飯山市の駅前の蕎麦屋で取ったのですが、女将さんに「近くの飯山城址の桜が見事だよ」といわれたので、寄ることに。
桜の咲き誇る石垣をたどりながら上へ登ります。3世代の家族が連れ立って花見に来ているのを目にすると、気持ちが休まります。

頂上から眺めた桜並木と菜の花と千曲川と雪の山々。
言葉は要りません。なんともいえない日本の原風景です。

菜の花公園

北信州2017


それから飯山市の菜の花公園に行きました。
城址公園の対岸の山腹になるので、今度は信越方面の黒姫山、斑尾山、妙高山といった山々が眺められます。菜の花はまだこれからです。


さらに山の奥へ進んで、飯山市瑞穂地区福島を訪れました。
山峡の小さな集落です。
今は、車のナビがあるので、こんな山道でも迷うことはありません。

大銀杏の木を見た後、2kmほど先で車を置き、山道を登りながら棚田を見て回りました。
ここの棚田は石組みで土留めされている珍しいものです。
かつては数百枚もあったそうですが、現在は地区の人たちが数十枚を文化的に保存しているのだそうです。

棚田を上り詰めたあたりに、小さな「阿弥陀堂」があります。
映画「阿弥陀堂だより」を撮影するためにつくられたお堂なのですが、これも地域の人たちが保存しています。

   雪解水 避(よ)けて到れり 阿弥陀堂

そこからは信越方面の山々が、棚田をずうと下って平野の先に立ち上がるようにして眺められます。
今夜宿泊する斑尾山が正面に見えます。

スケッチをする人が2人いました。
実は、「阿弥陀堂だより」を観たときに、ここの風景に魅せられ、いつかここを訪れたいと思っていたのです。

1時間ほどの散策になりましたが、車に戻ってホテルまでドライブです。

あの花と桜のトンネルをいくつも貫いて飯山に下ります。
前田夕暮の歌にこんなのがありました。

自然が ずんずん体のなかを通過する ――山、山、山

斑尾高原の手前から残雪が見え始め、やがて2m以上もある壁になっていきます。
車の運転をマニュアルモードに切り替えてヘアピンカーブをこなします。
下りでギアを低回転にしたときの振るえるエンジン音が車体から体感として伝わってきます。
これがたまりません。

30分ほど堪能してスキー場のある温泉に到着。


2日目。今日も文句のつけようのない快晴。

昨夜のうちに、どうしてももう一度、瑞穂区福島の集落周辺を訪れたいと思い、9時に出発、逆光でない棚田からの風景をスケッチに収めました。

飯山のスケッチ

その後は「故郷(ふるさと)」や「朧月夜」で知られる中野市の高野辰之記念館、谷厳寺の千本桜を巡り、2時頃小布施に出て、遅い昼食を取りました。


一人旅は、連れのことを気にせず好きなときに好きなところに好きなだけいられて、いいものです。
たまには一人で旅に出かけてみませんか。

今回は、お酒に関する話題はありませんでしたが、夜の食事に合わせて飲んだ飯山の地酒「水尾」と信濃町の「松尾」は、ともに心に残る酒でした。
土産には「水尾」の大吟醸を奮発しました。

No.26 カザル・ガルシア/ヴィーニョヴェルデを知っていますか

「カザル・ガルシア/ヴィーニョヴェルデ」

このお酒の名前を知っているとしたら、あなたはなかなかのワイン通で、好みがシブいのではないでしょうか。

残念ながら、ワインに余り興味のない私は、2年ほど前に友人から贈られるまでその存在を知りませんでした。
でも最近は、このワインを愛飲するようになっています。

「カザル・ガルシア/ヴィーニョヴェルデ」はポルトガル産で、白とロゼがあり、ともにアルコール度数は9.5%alc./vol.で、ワインにしては軽いものです。
値段も手頃で、ネットでまとめて買うと、1本あたり1,200ー1,500円で手に入ります。

何と、世界で一番飲まれているワインなのだそうです。

カザルガルシア

最初は、いただいたにもかかわらず、スクリューキャップで、水のように透き通って見えるので、率直に言ってすぐには手が出ませんでした。
きっとそのまま1年以上、我が家の酒置き場の隅に置かれていたと思います。
でも、何となく簡素でおしゃれなデザインのラベルが気になっていました。全体にシンプルで、涼しそうな容姿です。

去年の春先、夕方の庭に下りて、何か飲みたいと思って、ストレージを覗くと、写真にあるような白とロゼが目に入ったのでした。
贈ってくれた人の「このワイン、なかなかいけますよ」というひとことが思い出され、半信半疑で青いラベルの白を呑んでみることにしました。

キャップを捻ると、シュワーッと言う音がして軽く泡が上りました。
飲んでみると、炭酸ガスは開けた時だけで続かず、舌触りがスパークリングワインとは違います。
最初の一口飲んだときの印象は、「うすい、青臭い」といったものでした。

これは普通のワインとは違うなと思い、ラベルを見て、「カザル・ガルシア/ヴィーニョヴェルデ」とあるのを初めて知った次第です。

白に書いてある能書をそのまま引用します。
「北ポルトガルの広範囲なミーニョ地方で獲れる最高の品質の葡萄のみで醸造されフルーティでデリケートなワインが生まれました。僅かに炭酸ガスを含み、若々しいフレッシュな味わいが特徴です。食前酒として、又は軽めの食事と共にお楽しみください。冷蔵庫で良く冷やしてからお飲み頂くことをお薦めいたします。」

だいたいにおいて、ワインの説明というのは翻訳そのママであることが多く、書いてあることがストレートに伝わってこない場合が多いのです。
もっとも、翻訳でなくても、説明してみろといわれると、抽象的な言葉を並べるしかなく、むずかしいのですが。

飲み進むうちに、この「うすい、青臭い」ワインが、妙になじんできます。
まろやかな味わいにはほど遠いけれど、ドライで、フルーティで、すっきりとした飲み口・・・・瑞々しい若葉のような味わいに魅了されました。

成熟した上等なヘヴィーさはないので、フランス料理で飲むには物足りません。
しかし、この未熟な感じ、未完成な味わいが、格式張らず、くつろいだ気分にさせてくれるでしょう。

「ヴィーニョヴェルデ」というのは、“若い(緑の)ワイン”という意味で、「カザル・ガルシア」というのは、商品名で、「獺祭」とか「八海山」というのと同じです。
どうやら、完熟しない若い葡萄を使うらしく、そのせいで青臭く、軽い仕上がりになっているのでしょう。

ミモレットやピンチョスがいかにも合いそうです。

さわやかな、夏向きのワインとしてお薦めします。
どうぞ一度お試しください。
きっとやみつきになりますよ。