酔遊記

密かな楽しみ、味わい深い居酒屋をめぐる。

No.18 1年ぶりに竜馬へ

1年ぶりくらいで新橋の立ち飲み、『竜馬』に行ってきました。
『竜馬』は私の中の五つ☆のひとつです。

午後7時近く、相変わらず入り口あたりから満員状態。相棒と一緒に、壁に掛けられた坂本龍馬の写真を見ながら、立錐の地を求めて奥へ奥へ。どん詰まりまで行くと、店の人が調理場の前のカウンターあたりに声をかけて場所をつくってくれました。

コートを掛けて両脇の人に挨拶をしてから我々のスペースに立たせていただきます。臨戦態勢がようやく整いました。
キャッシュオンデリバリーシステムですので、とりあえず3,000円を籠の中へ置き、ビールを注文。
メニューは魚の刺身から乾き物、サッポロ一番塩・味噌ラーメンまで何でも揃っています。ちなみに、値段の一番高いものが鮪の脳天刺身・鮪とアボガドの山葵和えの500円で、一番安いのが塩もみキャベツの100円です。すべてが500円以内と頑張っています。
酒だってワイン、カクテル、ティオペペまで何でも揃っています。焼酎などは麦・芋・米・その他というふうに一覧表ができています。

ビールが来たので、相棒と乾杯。
矢継ぎ早にどんどん注文してしまいます。
今日は残念ながら、お目当ての鮪脳天刺しが切れています。代わりに鮪の中落ちを。それからポテトサラダ・コンビーフ乗せ、焼き鳥、厚焼き、牡蠣の唐揚げ・・・・。 

この混み具合が何ともいえません。一人の人は少なく、二人連れか、グループの人が目立ち、あっちでもこっちでも、ワイワイガヤガヤ。
また人が入ってきました。常連さんなのでしょう、顔見知りのところに寄って行き、上手に分け入って壁にもたれるようにして立ちました。

こんなに混んでいるのに注文の品の出てくるのが早い。
前が調理台なのですべてが見えます。揚げ物、焼き物、サラダの盛り付けと、2人の調理人が、いっぺんに3つか4つの作業を進めています。頭の中は料理に集中しているというよりも、自然に無駄なく体が動いてしまっているといったほうがよいでしょう。

ポテトサラダ・コンビーフ乗せは『竜馬』でなくては食べられません。コンビーフがたっぷり乗っています。うまい。自分の家でも作れるでしょうが、それよりなんといってもこの組み合わせをよく考え着いたなと思う次第です。

中落ちも来ました。これで500円?二人で食べて十分です。
白子ポン酢も全部一人で食べてしまったらコレステロールの取りすぎが心配になる量です。
焼き鳥ももう食べられない。

食べるのに夢中で、飲むのを忘れていた。
カウンターの向こう側には、焼酎のボトルが並んでいますが、50、60種類はありそうです。それでは、籠に金を足して「佐藤の黒」をロックで頼みましょうか。

立ち飲みで長居は無用というのが私の信条ですが、相棒がいたせいか、もうかれこれ1時間半を超えました。

何を食べても美味くて、安くて、店もいい、客もいい。
帰り際、カウンタの上で懐手して立っている竜馬像と目が合いました。『竜馬』は、新橋の居酒屋の隅から日本を変えようとしていると感じました。『竜馬』は、その名にふさわしい酒場です。

アァ、やっぱり『竜馬』はいいなぁ。

 

No.17 立ち飲み礼賛

東京では近頃、立ち飲み屋が急増しています。チョッと古いデータで恐縮ですが、おなじみ吉田類の著書「東京立ち飲み案内」(2009)によりますと、2008年末までの都内の立ち飲み屋の数は600軒余りと推定されたそうです。
でも、この3-4年の間に立ち飲み事情は急変していますので、今では優に1,000軒を超えているのではないかと思います。この本郷界隈で思いつくだけでも4-5軒新しい店ができましたし、地価の高い銀座や新橋、東京駅周辺ですら増えたなぁという印象です。
立ち飲み事情の急変とは、美味い酒肴を提供する店が増えていることと、女性客が増えたという、この2つの現象です。今や立ち飲みは文化です。

立ち飲みとは、文字通り、立ったまま飲酒をすることで、それを常態とする居酒屋のことですが、ずっと昔は、立ち飲みといえば酒屋の奥にテーブルを置くか、隣の倉庫のようなところで酒の木箱をひっくり返し台にして、酒好きの常連たちが集まって、店で定価で買ったビールや清酒を、乾き物や缶詰を肴に夕方一杯やるというのが古典的スタイルでした。イギリスのパブのような気張らない人たちの社交場だったのでしょう。こういう酒の提供の仕方は歴史を遡ると19世紀の江戸時代後期にはあったようです。今でも名残を残す店を見かけないわけではないですが、少なくなりました。

私が立ち飲みを愛好している理由を挙げてみます。
まず第一に、一人でも気軽に入って飲める。
第二に、一般的には安い。
第三に、注文した物が早く出てくる。
第四に、連れがあっても近い距離感で気楽に話せる。
第五に、長居にはならない。
第六に、立ち飲み屋独特の熱い雰囲気と喧騒がたまらない。
こんなところでしょうか。

一言で言えば安くて、気軽に入れて、好きなときに帰れるということです。一人のときの私の滞在時間は早ければ一杯引っ掛けて15分、普通で30分というところでしょうか。連れがいたって1時間か、せいぜい1時間半。なにせ腰を落ち着ける椅子がないのですから、宴会をやったり、ダラダラと飲むのは立ち飲みのマナーに適っていません。
狭い空間で客の回転がいいのですから、安いのは当たり前。

ただ、美味い酒を飲もうというのには立ち飲みは向いていません。燗酒を飲む人は少なく、ビールは普通にしても、ホッピーとかハイボール(下町では焼酎ハイボール)とかサワー類が中心で、不思議とそういう酒類が空気に合っているのです。

狭い空間に肩を寄せ合って立つのですが、それがちっとも煩わしく感じないのです。自然に場所を譲り合ったり、話をしなくても隣の人たちとの間に親近感が生まれたり、時には常連さんの話しに入れてもらったりするのが嬉しいのです。
今は夏ですので、混雑していると相当蒸し暑く感じます。クーラーなしで窓を開け放っている中でも汗を拭き吹きジョッキを傾けるのが立ち飲み流なのです。

最近は、バルとか洋酒バーとかいうのがはやっていて、けっこう美味しい料理を出します。酒を飲むというより、料理と雰囲気を楽しむ女性客が目立ちます。外国人のたまり場になっている店もあります。

立ち飲み屋の会計は、先払いというところが増えています。これをキャッシュオンデリバリーというのだそうです。篭や皿にお金を入れておくと、店員がオーダーが一品届くたびにそこから勘定分だけ取っていくシステムで、極めて明朗会計です。

最後に、私の好きな都内の立ち飲み屋を幾つか紹介しておきましょう。
新橋『竜馬』、『魚金ゆりかもめ店』、田町『竹ちゃん』、渋谷『富士屋本店』、勝どき『かねます』、北千住『徳多和良』、四谷『鈴傳』、神楽坂『カド』、水道橋『うけもち』、門前仲町『立ち飲み太陽』、茅場町『ニューカヤバ』、吉祥寺『伊勢屋総本店』、銀座『マルギン』、丸の内『日本再生酒場』、それに本郷の『魚伊之』など。
立ち飲み屋もそれなりに個性があります。店主の考えが色濃く出るのは椅子席酒場と同じです。

No.16 私の居酒屋五つ☆

しばらくご無沙汰しました。
仕事に熱中していまして、〔酔遊記〕が気になっていたのですが、居酒屋巡りもままならない状況が続いていました。
でも、そうこうするうちに私家版 居酒屋データベースが2012年1月末に300軒を突破しました。居酒屋めぐりを思い立ったのが2009年の7月でしたから、2年半で到達したことになります。知らない土地では頑張って1晩に3軒をハシゴしたりしたこともありますが、それでも我ながらすごいなぁと感心してしまいます。
300軒を30ヵ月で割ると、月に10軒です。このペースで新しい店を巡り歩くというのは、なかなかの努力でした。意志を強く持たなければできなかったでしょう(このエネルギーと意志力を仕事に振り向ければもっと何とかなるはずですが)。
大変だったのは、時間だけではありません。金も結構使いましたし、γ-GTPの値も跳ね上がりました。どうやら少し休養が必要のようです。

せっかくですから、ここで300軒達成記念として「私の居酒屋五つ☆」を発表しておくことにします。
ひとつひとつ解説したいところですが、一行コメントで失礼します。


■東京編
<東京周辺>
 ふくべ(東京駅八重洲口):看板には通人の酒席とあるが、確かにすごい酒揃え。煤けた店内は雰囲気満点。
 やまだや(築地):築地にあってモダンな店構え。しっかりした料理がワインにも合う。
 佃喜知(銀座):銀座のこんなところにこんな店があったのかと思うだろう。ここは酒より料理を楽しんだほうがよい。
 やす幸(銀座):おでん鍋から立ち上がる湯気を前にして座ると、銀座の良さが伝わってくる。安くはないか。
 よし田(銀座):蕎麦屋にしてそのまま居酒屋。銀座の休憩室のような雰囲気。
<品川周辺>
 牧野(京急新馬場):めずらしいのは穴子の刺身と穴子の踊り焼。魚介類が新鮮。
 よし鳥(五反田):こだわりの青森シャモロック。焼くタイミングが良いのでつい酒が。
<渋谷周辺>
 和(なごみ=恵比寿):大人の酒処。お通しから上等。お薦めはいろいろあるが、まずは刺身8種盛りを。
 金田(自由が丘):名店だが品数の多さには目を見張る。せっかくなら1階のカウンターで。
 穂のか(武蔵小山):狭いけれど日本酒が揃っている。是非酒盗の焼味噌をご賞味あれ。
<新宿周辺>
 笹吟(代々木上原):メニューが豊富で、特に野菜料理の多いのが他とは違うところ。日本酒が揃っている。老若男女の万人向き。
 やきとん秋元屋(野方):焼トン店は数々あれど、味、値段、雰囲気はピカイチ。
 伊勢藤(神楽坂):木造の二階家は外も中も文化財的価値がある。やや堅苦しいが、たまにはこういう空気の締まっているところも悪くない。
 蕎楽亭(神楽坂):入りやすい。てんぷら、穴子白焼、出し巻き卵をとって、最後は自慢のざる蕎麦で締め。
 萬屋おかげさん(四谷):予約が取れたらしめたもの。刺身の出し方が凝っている。
<池袋周辺>
 ふじ(池袋):夫婦で営む静かで落ち着いた隠れ家的存在。気さくで酒好きな常連が多い。
 江戸一(大塚):店のシブさがきれいにカッコよく飲みたくさせる。燗酒に合う定番酒肴がどれも安くて美味しい。
 こなから(大塚):〔酔遊記〕No.8をご覧ください。
 齊藤酒場(十条):近くまで行ったら無理しても寄りたいところ。酒場という呼び方がまさにふさわしい。
<上野周辺>
 八幡屋(御徒町):私の中での一押し居酒屋。品数は多くないが、どれも逸品。冬はふぐと白子豆腐。酒は岡山の酒一筋。
 シンスケ(湯島):いわずと知れた老舗居酒屋。一人カウンターに座り鮪のぬたと鰯の岩石揚げを頼む。酒は両関のみ。
 赤津加(秋葉原):ビルの谷間の昭和の居酒屋。店員さんと客の息がぴったり合っている。
 鷹番(小川町):日本酒の店だが、白ビールがめずらしい。料理は何でもOK。馬刺し、クエ鍋がgood。
 鍵屋(鶯谷):古い民家で、中も超レトロなところがいい。燗付器のぬる燗を注文すべし。うなぎのくりから焼き、鶏皮煮が好き。
 志婦"や(浅草):何といっても下町のよさに溢れている。酒の種類は多くないが、新鮮な魚介類が豊富。
 大はし(北千住):都心からはチョッとあるが、並んで待つとしても行ってみる価値がある。煮込みが美味い。大衆性抜群。
 山利喜(森下):下町の名店。新装したが煮込みの味は変わらない。酒肴は和洋折衷型。
 ほそ川(両国):蕎麦屋としてその名を知られているが、酒も肴も凝っている。要予約。

■東京以外の地方は、まだ時間も情報も不十分ですが、これからも出張を活用して励みたいと思っています。
 <旭川>独酌三四郎:煤けた店内と燗をつけるかまど、店構えだけでなく肴も味わいがある。
 <弘前>しまや:津軽の家庭料理ということで訪れたが、女将の話し上手が一番の肴になった。
 <秋田>酒盃:シブい装飾、こだわりの酒と料理。店主のフィロソフィーが伝わってくる。味噌貝焼がお薦め。
 <一関>こまつ:土蔵作りの店内は明るく柔らかな空気。牡蠣・葱料理、てんぷら、そして最後は鴨汁蕎麦。
<仙台>一心:酒は宮城の地酒中心。店も料理も上等だが、高くない。ほや料理が今も忘れられない。
<横浜>武蔵屋:〔酔遊記〕No.7をご覧ください。
<藤沢>久昇:カウンターで一人杯を傾けていると、酒を飲む喜びが湧いてくる。店の人も客も丸く穏やか。
 <岐阜>八十八商店:地元の人に安くて美味しいと教えられて行ったが、その通りだった。最後は鯛めしで。
 <名古屋>大甚本店:名古屋に大甚あり。創業105年の老舗ながら、とても庶民的。ここに居酒屋の原点がある。
 <京都>赤垣屋:酒、味、雰囲気、客、値段、清潔感すべて文句なし。赤ネオンの看板がいい。
<大阪>明治屋:看板、神棚、品書き、酒樽、燗付け器、椅子とテーブル......絵に描いたような居酒屋。
         上かんや:心斎橋筋にあるこざっぱりとした店。燗酒で凝った料理をゆっくりと味わいたい。
     ながほり:居酒屋とはいいがたいハイレベルな店。日本酒が揃っていて、野菜の創作料理がいい。
<長崎>朱欒(ざぼん):〔酔遊記〕No.12をご覧ください。
        安楽子(あらこ):〔酔遊記〕No.13をご覧ください。
    
ここでは立ち飲みを除きました。しかし、立ち飲みにもかねます(勝どき)、大島や(月島)、徳多和良(北千住)、竜馬(新橋)、カド(神楽坂)、富士屋本店ワインバー(渋谷)、角うちいしまる(大宮)といった私の五つ☆があります。いつか別に書いてみたいと思っています。