私はホルモン焼きというのをよくは食しません。
嫌いではありませんが、特に美味いとも思っていません。

熊谷という地には、ホルモン焼き屋が昔からたくさんあり、私が初めて食べたのは大学生の時でした。
先輩に連れられて行ったのでしたが、当時のホルモン焼きはとにかくまずかったのです。
それ以来、六十歳近くになるまで滅多なことでは食べることがありませんでした。

ホルモンは『放るもん』といったくらい価値の低い臓物を、もったいないといって食べるようになったと聞いたことがありますが、正しいことは知りません。
ただ、ホルモン焼きという呼び方には疑問があります。
ホルモンというのは腸の部分だと思うのですが、一般に私たちがホルモン焼きといって食べているのは、腸以外の胃・子宮・精巣などほとんどすべての内蔵を含んでいます。それなのになぜホルモン焼きと呼ぶようになったのでしょうか。もしかしたら、最初は腸だけを提供していたが、段々と出すものが広がっていって呼び方が残ったとか?
また、もうひとつ、ホルモン焼きという場合、ほとんど豚肉の臓物であって、牛・馬・羊といった肉を含まないし、ホルモンは豚に限られていると思いますが、なぜでしょうか。

それはさておき、ホルモン焼きではなく、ホルモンというものが初めてなかなかいけるじゃないかと感じたのは、博多に出張したときでした。
すでにホルモン鍋というのが若い世代の間ではやっていました。一緒にいた女子達が「博多に来たのだからホルモン鍋を食べたい」というので、私は気が進まなかったのですが、つき合うことになりました。

若者向けの店構えのところでホルモン鍋を摘まむことになったのですが、はじめてこのときホルモンのプリンとした舌触りと油が口の中で破れて融けるような味わいに驚きました。
ホルモンというものに対する先入観が破られたのはそのときです。

かといって、その後どんどん食べるようになったのかというとそんなことはありません。
その後は、友人と行くのにも抵抗が少なくなり、経験を重ねました。
生ホルモンと茹でたホルモンがあることも知りました。
焼き肉屋とは違う名称の肉がいろいろあることも知りました。


さて、最近、平日も熊谷にいるようになって、実は、夕方から一人で出かけるホルモン焼き屋ができてしまったのです。
「秩父屋」に行くようになったきっかけは、友人・知人から「ホルモン焼きの秩父屋は美味しい」という噂を何度も耳にしたからです。
ホルモン焼きは好きではないけれど、これだけ何度も聞くと、私としては、好き嫌いではなく行かねばならないという義務感にかられました。

夏の夕方、妻には内緒で、ひとりフラフラと自転車に乗って向かいます。
まだ午後5時前で、陽は高く、ジリジリと照りつけています。
本当に、こんな早い時間から、暑い中、自転車をこいで駆けつけるのには訳があります。
1週間ほど前、6時過ぎに行ってみたところ、満員で断られたからです。

そのとき店の人から「5時頃に来ていただけたら確実なんですがね」と言われたからです。
予約もできるそうなのですが、一人だからそれもなと思う次第で、えっちらおっちらと漕ぎ着けました。
外観はこんな感じです。
秩父屋外観秩父屋看板2

のれんの奥へ入ると正面にばかでかい看板があります。
表の看板より大きいのは確実です。
テーブル席はまだ半分もいませんが、わずか6席のカウンターは私が座って満員です。

デコラの壁とコンクリートの床、合板のテーブルと丸椅子、小上がり・・・中の風景はいたってありきたりで、さっぱりしています。
実に掃除が行き届いていて清潔です。
カウンターの前はシミ・汚れの一つもありません。
ただ、夏といえどもクーラーはなく、窓を開け放って換気扇を回すという昔のスタイルを守っています。
どうせクーラーなんて、この炭の熱では無益です。
むしろ、ここに集う人たちはこの雰囲気を楽しんでいるようにさえ思えます。
焼き物居酒屋に特有な油っぽい匂いも、煙っぽい感じもありません。

品書きは以下の通り。
秩父屋メニュー
こういうところでは、ビールよりも最初からホッピーです。

ウム、焼酎の量が普通の倍近く入っているのではないでしょうか。

細い中年の店主とおぼしき人が、赤々とした炭の入った七輪を机の上に置いていきました。
七輪からすぐに猛烈な熱が伝わってきます。
テーブル席では、中央に掘りごたつのように穴が設けられていて、そこに七輪をはめ込むようになっています。

注文は、まずお新香とモツ煮、それに焼きはカシラ・レバー・生ホルモンの3つ。
カウンターの向こう側が厨房になっていて丸見えです。男が2人、女が4人、肉・野菜・飲み物と分担が決まっていて、手際よく次々と注文をさばいています。

私の注文の品は割と早めに揃いました。

最初に出てきたぬか漬けのお新香に感動。
キュウリ・ニンジン・ダイコンのどれもがシャキシャキしていて、漬かり具合・堅さ・それに量もちょうど良い加減です。
大好物なのです。

モツ煮は、ほかの店と味付けにさほど変わりはないけれど、350円にしては大盛りで、モツがいっぱい入っています。

焼き物3種が来ます。
見るからに新鮮そうです。しかも、どれも一切れが大きい。
七輪は小ぶりなので、4,5枚広げるといっぱいの感じです。

レバーが先に焼けました。
辛口のタレです。
しっかりした歯ごたえで、美味い。

生ホルモンは、タレを付けずに、そのまま食べてみます。
臭みもなく、これも歯ごたえというか、噛み応えがあり、噛むほどに味が変わってきます。

そこへ四十代のサラリーマンが3人で入ってきましたが、「今日は予約でいっぱいです」と断られていました。
テーブル席はまだ半分くらいしか埋まっていないのに、残りは全部が予約の人なんですね。

カシラは肉が厚い。したがって、火が通っているのかどうかわかりにくかったので、焦げ目が見えるまで良く焼きました。
焼き上がった肉は見かけよりもズッと軟らかくジューシーでした。

そうやって、ひとり炭の熱に焼かれ、汗を拭き拭き、小一時間ホルモン焼きを楽しんだ次第です。
【秩父屋』に何が客を引きつけるか、一言で言えば、とにかくすべての肉が新鮮で上等、これにつきます。

その間に焼酎のナカをお替わりしました。

お勘定はチョウ安かった。
ついでながら、店主の愛想の良さにも参った。
「またおいでください」
「また来ます」

食べログの熊谷のホルモン焼きランキングにも出てきません。
食べログってあてにならないですね。こんな名店が落ちているなんて。

まだ外は明るいし、ちょっとフラフラしてみますか。
いけねぇ、いけねぇ、自転車は転がして帰らなきゃいけないですね。

それでは、失敗作ではありますが、ついでに近作を1枚失礼いたします。
八木原牧場2